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おしゃれなパッケージの海外版DIYキット。

グリーン都市、ロンドン

成熟した都市において、良い素材を使って丁寧に作る食品が好まれるのは、健康・安全面、環境面、味のことを考えても、もはや当たり前のことになってきました。その流れの中に、前回の記事でお伝えしたようなロンドンのクラフト食品熱があり、イタリアでのスローフード・ムーブメントや、世界的な農業や林業など一次産業への関心の高まりなどがあるのだと思います。

ロンドンは世界でも有数のグリーン都市であり、市内にある公共のグリーン・スペースの数はおよそ3000。現ロンドン市長は2050年までにロンドンを世界初の「ナショナル・パーク・シティ」にする計画を進めていて、屋上ガーデンやウォール・ガーデンも含めてもっともっと緑を増やしていこうと努力しています。街を歩いていると、この喜ばしいプロジェクトが着実に進行中であることを、すでに実感します!

写真:中心街コベント・ガーデンの様子。ウォール・ガーデンが左側に見えます。夏だからということをのぞいても、最近は街を歩いていて街路や店舗に緑や花を取り入れている場所が以前にも増して目立ってきました。

 

ロンドンではどんなに中心部の住宅でも、たいてい建物の背後に住人だけが楽しめる秘密のガーデンがあり、工夫を凝らした植栽でイギリス人のガーデニング好きを証明しています。またアロットメントと呼ばれる市民農園も大人気。中心部寄りの住宅地でもちょっとした土地を利用したアロットメントがあるので、ラッキーにも行政から区画を安価で借り受けることができた住民は、畑仕事をし、作物を育て、収穫の喜びを知ることできます。

さらにロンドンでは養蜂が密かなブームです! 養蜂を営んでいる家の数の割合は、イギリスの他の地域のどこよりも高く、ビルの屋上や庭で採れたロンドン産のハチミツを食べる機会は意外と多いものです。現にロンドン在住の私の友人でさえ養蜂を営んでいる家族が2組もいて、手作りのハチミツを分けていただいたこともあります。大小含めて公園の数が多く、一般家庭の庭も含めると、ロンドンほどミツバチにとって暮らしやすいイギリスの街はないと分析する専門家もいるほど。確かに農薬を撒くことがほとんどないロンドンの緑地は、ミツバチにとっても天国なのかもしれません。

このようにロンドナーたちの近年の食への志向を分析すると、健康で安全なもの、つまり「ルーツが分かる食」へと傾きつつあることが分かります。となると、生い立ちの分かる原材料を使って自分で作る食品は、クラフト食品と並んで信頼できる食べ物の最たるもの。そして歴史的にイギリス人を見てみると、自分たちで発明をしたり、製造したり、組み立てたりすることが大好きな国民です。つまり無類のDIY好き。そう考えると、とても腑に落ちる展開ではあるのです。

 

小さなスペースで野菜を作ろう

 

以上のような背景もあってか、最近「Grown your own」「Making kit」と銘打った、マンション・タイプの家でもベランダや自宅キッチンで育てたり作ったりできる野菜や食品のキットを見かけるようになりました。最初に「おや」と思ったのは、西ロンドンにある大型デザイン・ショップのコンラン・ショップで、ハーブを育てるライト付きの(!)キットを見かけたとき。太陽の光がなくても育てることができる究極のキットは衝撃的でしたが、クラフト食品を数多く扱っている店でチーズ作りのキットを見たときも同様の刺激を受けました。チーズ=熟成させるものというイメージがありましたが、フレッシュ・タイプのチーズなら、豆腐と同じように自宅でも作れるのですよね。それからちょっとウェブサーチをしてみたら、いろいろありました! アーバン・ライフを活き活きしたものにするための手作りアイデアが。
ハーブや小さな野菜を育てる栽培キットは比較的たくさんの会社が出していますが、こちらの西ロンドンを拠点にしているSeed Pantryは、まさに都市生活者のために商品開発をしている都市生活者によるブランド。「どんな小さなスペースでも育てられる植物を」と、コンパクトにまとめたパッケージにはもちろんリサイクル紙を使用、企業理念であるオーガニック、サステナブル、エコを反映し、シンプルで親しみやすく、わかりやすいデザインになっています。また毎月、お好みの季節の野菜や花をボックスに入れて届ける「Grow Club」もあり、都市生活者のグリーン・ライフを、きめ細やかに応援している注目のブランドです。

写真:ハーブを育てるためのスタート・キット(£26)。バジル、コリアンダー、チャイブ、パセリを育てるために必要な全てのもの一式(種まき用の用具、生分解ポット、ミニ培養土、レーベル、説明書)が入っています。シンプルでわかりやすいことをモットーとしたパッケージ・デザインが好印象。

写真:子ども用の「The Me Seeds Starter Kit」! (£12.50)すぐに芽が出るものから、手間ひまかけて育てるものまで、子どもたちが年間を通して刺激を受けながら栽培を楽しめるよう注意深く選ばれたセレクション。パッケージのシールに描かれたイラストで、どんな植物が育つのかわかるようになっている。楽しそう!

チーズも自宅キッチンで作る!

チーズ作りを楽しめるキット商品を販売している英国ブランドは、さほど多くはありません。こちらでご紹介するThe Big Cheese Making Kit は、スコットランドのエジンバラ近郊に住むチーズ好きの女性が、好奇心の赴くままに作り始めた趣味のフレッシュ・チーズ作りがビジネスへと発展し、なんと食産業への貢献が高く評価され、2014年に女王陛下から MBE勲章を贈られたという、とびきりのサクセス・ストーリーを持つブランドです。
キットになっているのは、モッツァレラ、リコッタ、マスカルポーネ、フェタ、フレッシュ・ゴート、ハロウミ、スコティッシュ・クロウディー、ケソ・ブランコ、ラブナー、パニーアといったフレッシュ・タイプのチーズ。牛乳や山羊乳などのミルク以外、チーズ作りに必要なアイテムが全て揃っていて、ミルクを加えると約1時間で食卓に出せる状態になるという優れものです。キットの中にはチーズの型やフード温度計、必要なスパイスやハーブ類も含まれています。

写真:ハロウミ・チーズ、フェタ・チーズといった地中海地方でよく食べられるチーズの手作りキット。約12個を作ることができ、オーガニックと植物性にもこだわった素材はベジタリアンでもOK。最近は完全菜食主義者ビーガンの人々に向けた、植物性ミルクで作るキットも開発しています。

写真:こちらは究極のチーズ・キット! なんと同ブランドが手がける全10種のフレッシュ・チーズが、一箱で約40個分作れます。チーズ好きの家族や友達へのプレゼントにぴったり。ロンドン市内のクラフト食品ショップやデパートなどでの取り扱いがありますが、商品棚の上で、このカラフルなパッケージの楽しさは際立っていました。

 

パッケージという視点から面白いと思ったのは、ユニークで遊び心にあふれ、ちょっぴりクセのあるギフトばかりを扱っているオンラインショップ、Fireboxが扱うギフト商品「Make Your Own Halloumi Kit」(£22.99)。8個分を作れるこちらはパッケージのインパクトという視点ではギフトとして最強。面白いと思ってくれるチーズ好きの友人がいれば、ぜひプレゼントにしたいところです。

写真:受け狙いのおもしろパッケージが得意なFireboxの「Make Your Own Halloumi Kit」。レビューを見るとお味もいいみたいですよ。

またイングランド南東部に拠点をおくブランドCheese Makers Choiceが提供する同じような商品もクラフト食品ショップで買うことができますが、こちらは子ども用のバター作りセット! チーズ作りのキットも同様に、乳牛のイラストをあしらったグラフィックに、牧歌的なフリルの縁取りが可愛らしいパッケージです。

写真:6つのフレーバーのバターを手作りしよう! 手彫りのバター型まで入った本格的なキットは£24.99。夏休みのお楽しみにぴったり。

 

 

さて、手作りチーズはお味の方も気になりますよね。私はまだ試していないのですが、イギリスの高級紙、ガーディアンのオンライン版による「つくレポ」を見つけました!

https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2012/nov/14/home-cheese-making-tried-tested

 

The Big Cheese Making Kitと、もう一社のキットを使ってモッツァレラ・チーズを作って比較してみたようです。これによると、他ブランドの方はあまりにも時間がかかり、「もっと本格的にチーズを作りたい人のためのキットで、僕は途中で諦めた」とあります。次に約1時間でできるというThe Big Cheese Making Kitを試して見たら、一応形にはなったので、社内の人に試食してもらったら・・・味の方は市販のものに比べて劣るかもしれないけれど、有名フード・ライター氏は「ちょっと塩辛いけれど、フレッシュさとクリーミーさは感じることができるね」とコメントしています。そのままピザにのせて食べると、溶けすぎないという特徴はあるけど、なかなかいけるとのことです。

 

自家醸造の歓び

チーズが手作りできるのなら、アルコールはもっと簡単かもしれません。私たちは果物を使って伝統的にホームメイド・リキュールをよく作っていますから。でも、ビールやワインとなると、どうでしょう?
じつはイギリスでは自家醸造のビールを作る人はたまにいて、それほど珍しいことではありません。私も昔、同じ家に住んでいたハウスメイトが趣味としてビール醸造を楽しんでいたことを思い出します。それは大きなプラスチックの樽を用意し、材料を別途に集めてプラスチック樽の中で発酵させ・・・という手間暇かかるものだったと記憶しています。ビール醸造について少しばかりの知識と興味がある男性の趣味という印象ですが、分かりやすい説明書付きで、もっともっと簡単に作れるキットがあるとしたら? そんな簡易キットを作っている人気醸造ブランドがあります。

写真:Brewdogは現在、イギリスを中心に世界各地に46店舗を展開する元気のいいブランド。こちらはクラーケンウェル店。今年のような暑い夏はクラフト・ビールが最高!

 

スコットランドで2007年に産声をあげて以来、イギリス人のビールへの情熱をそのままクラフト醸造へと昇華させ、パンクでロックンロールなマーケティングと美味しいクラフト・ビールで若い世代の支持を得て勢いよく成長してきたビール醸造所「Brewdog」が、ブルックリンにある醸造キットのエキスパート、Brooklyn Brew Shopとタッグを組んで開発した自社シグニチャーのIPA手作り醸造キットです。

写真:「Punk IPA」は、Brewdogが最初に作ったクラフト・ビール、言わば記念すべき最初の第一歩だからこそキットにしたのでしょう。クールなパッケージも魅力です!

 

Brewdogはビール缶やボトルのデザインでも業界に一石を投じた新世代のクラフト・ビール・ブランド。イギリスらしいポップで男性的なイメージが受けて今や大人気です。東京にも支店があるみたいなので、ぜひデザインとともに味わってみてくださいね。

え? ビールのおつまみはないのかって? でしたらぜひ、ビーフ・ジャーキーを手作りしてみてください!   ロンドン・ベースのおもしろいギフト商品オンラインショップのFireboxでは、ギフトにも最適のビーフ・ジャーキー・キットを扱ってます!

写真:4〜6時間で完成するというFireboxのビーフジャーキー(£16.99)のフレーバーは2種類。レトロでシンプルなデザインのパッケージにも味があります。ちなみにFireboxはジンの自家蒸留キットも扱っています。

 

さて今回、手作りキット商品をいろいろ見ていて感じたことがあります。それは、販売に結びつけるために必要なのは「自分にも簡単にできそう」と思わせることが重要だということ。つまりパッケージの力が大きいということです。
ここで紹介したブランド以外にも、ビールやチーズ、その他の食品の手作りキットを作っている会社はあるのですが、「本格的すぎて複雑そう」という印象を与えてしまったり、必要なもの全部がキットに入っていなかったりと、簡便性に欠ける場合があるようです。しかし上記のブランドはギフトとしても喜ばれ、自分でも作ってみたくなるシンプルさと楽しさが、パッケージからも感じ取ることができます。それに自宅でチーズやビールを作ってしまえるなんて、まるでカントリーライフを満喫しているようではないですか? そうです、ロンドナーの多くは田舎生活への憧れが非常に強いので、ベランダでハーブや野菜を育て、チーズやビールまで手作りしてしまえば、あたかも田舎の生活をエンジョイしているかのような錯覚に陥るかもしれませんよね・・・。誰もが「体験」を求める現代、セルフ・メイキング・キットはロンドンでもっともっと需要が伸びていくと感じています。

 

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