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創業1880年。老舗チョコレート専門店Sawadeフラッグシップストアの店づくり

世界一、二位を争う、ドイツのチョコレート消費量

ドイツ人はチョコレートが大好きです。どれほど好きかというと、一人当たりの年間消費量が2014年で11.5kgと、世界第一位の座に輝いたほど(資料:国際菓子協会/欧州製菓協会)。日本でもおなじみのRitter SportやRauschはドイツの人気チョコレートメーカーです。スーパーマーケットに行けば、数メートルに渡って多種多様なチョコレートが棚にずらりと並ぶ光景に、ドイツ人が持つチョコレートへの愛着を感じていただけるかもしれません。

平均的な板チョコレートの価格は、1枚1ユーロ程度(2017年10月現在約134円)と非常にお手頃です。おやつや、ちょっとお腹が空いたときに食べるものとして、チョコレートは日常の食生活に欠かせないものです。ちょっとしたプレゼントにも、チョコレートの出番です。その場合はスーパーの板チョコレートではなく、高級な一粒チョコレートが好まれます。専門店で好みのものを一粒ずつ買えるほか、箱詰め商品も需要があります。

写真:Sawadeの箱入りギフト用パッケージ(紙製の箱)(写真提供:Sawade)

蘇った老舗チョコレートショップSawade

ベルリンのSawadeは、1880年創業の老舗高級チョコレート専門店。宮廷御用達菓子店として、その名をドイツに轟かせました。ところが創業から130年以上が経った2013年に、経営悪化から倒産してしまいます。しかし一組の夫婦がSawadeを受け継ぎ、再び蘇らせました。その際に伝統の品質は守りながらも、パッケージデザインを一新。老舗らしい、クラシックでエレガントなデザインになり、ギフトやお土産にふさわしい商品となりました。このマーケティングが功を奏してか、新経営陣に交代後の初年度売上は上昇したそうです。

写真:Sawadeの美しいパッケージ(写真提供:Sawade)

そしてベルリンの人気観光スポットであるHackesche Höfeの一角に、2016年にフラッグシップストアをオープンしました。Hackesche Höfeは8つの中庭を取り囲んだ建物が連なった構造で、映画館や劇場、レストラン、ショップと一般住宅が共存する複合施設。多くの観光客や地元市民が訪れる場所です。

写真:外壁のモザイクタイルが美しいHackesche Höfe

写真:建物が中庭を囲む構造

写真:フラッグシップストア入り口(写真提供:Sawade)

高級感がありながらも、商品を手に取りやすいディスプレイ

フラッグシップストアの入り口を入ると、奥に長く空間が続いています。入り口を背にして左側はレジと、一粒チョコレートが陳列されたショーケース、右側には壁に沿って箱入り商品や、一粒ずつキャンディのように包まれた気軽な商品が並びます。チョコレートの種類は約400もあるそうですが、入り口から奥に向かって進めば、一通りの商品が見られます。

写真:グレーを基調とした内観と店内ディスプレイ(写真提供:Sawade)

特に印象的なのが、右側の箱入り商品が並ぶディスプレイ。なぜなら什器として、いくつもの小ぶりなアンティーク調テーブルや本物のアンティークのトレイ、アフタヌーンティーに登場するような三段トレイが多用されているからです。

写真:テーブルや三段トレイを利用したディスプレイ(写真提供:Sawade)

一部のトレイはアンティークを活用するプロモーションを展開(写真提供:Sawade)

写真:カードスタンドも印象的な店内

高低をつけたディスプレイはどの商品も見やすく、アンティーク特有の重厚さがあるために、生鮮食品に見られるようなボリューム陳列でありながら高級感が漂います。

什器のデザインや大きさはまちまちですが、素材が真鍮や木材で統一されていることで全体としてまとまりがあります。壁に造られた窪みの表面は金色に光っていますが、これは真鍮仕上げとか。逆側のショーケースの一部にも真鍮が使われています。控えめな金色の輝きなので、主役の高級チョコレートを邪魔することはありません。

写真:上品な輝きで商品をプロモーション展開する

テーブルを使用したディスプレイは、商品に合わせて簡単に配置換えができるのもメリットでしょう。こうしたアンティーク調のディスプレイは、高級チョコレートという商品の特徴にふさわしいのはもちろんですが、創業130年以上というSawadeの歴史も感じさせてくれます。

パステルカラーのパッケージ

Sawadeの箱入り商品は、イエロー、ライトグリーン、ブルー、ピンク、コーラルピンクなどパステルカラーが中心に使われています。店内のグレーの壁面は、明るい色のパッケージをより引き立たせています。環境に関心が高いと言われているドイツ人は、普通の商品の場合は華美な包装を望みません。

例えばケーキ店でケーキを買ったとしても、通常は日本のように紙箱に入れることはなく、紙皿の上にケーキを並べ、全体を包装紙でふわりとくるむだけ。箱代にお金をかけるのはもったいないと思うのです。しかし一粒チョコレートは、ギフトやおみやげとして買われるもの。美しいパッケージも商品の重要な要素です。

ネット通販も行っているので、箱入りタイプは主力商品です。最小は2粒から、大きいものになると70粒以上が美しい箱(貼り箱)に収まっています。紙箱(貼り箱)のフォルムは円形と長方形の2種類。人気の10粒入りは、フタの裏側がマーブル模様になっており、紙箱を開けた際の喜びもひとしおでしょう。

アソートのチョコレートの種類は、マジパン、ガナッシュ入り、ミックスなどのバリエーションから選べます。ベルリンで創業されたチョコレート店らしく、ベルリンのモチーフが紙箱にプリントされたパッケージもあります。絵柄はベルリン大聖堂やブランデンブルク門など数パターンで、いずれも抑えた色にモノクロの絵がプリントされています。クラシックなデザインは、ベルリンの歴史とSawadeの歴史の両方を感じさせます。

写真:ベルリンモチーフのパッケージ

ショーケースの中から好みのチョコレートを一粒ずつ選ぶ場合は、透明フィルムの袋に詰めてくれます。また、アソート商品の中には、紙箱でなく透明フィルム入りタイプもあります。ドイツの老舗店では「歴史」「伝統」をとても大切にします。よく目にするのが「創業当時からのレシピを受け継ぐ」といった言葉。Sawadeのホームページでも、「次世代に伝える古き良き伝統に則った商品」を謳っています。

Sawadeのパッケージデザインはそうした嗜好を取り入れ、上手に今の時代に合わせています。ベルリンモチーフの商品は、観光客のおみやげとしても最適です。最も小さいサイズは、円形のボックスに4粒のチョコレートが入って6.95ユーロ(約930円)。決して安くはありませんが、ベルリンらしく、ちょっと気の利いたおみやげとしては、ちょうどいいのではないでしょうか。パッケージや店内空間から感じる高級感・エレガントさ、歴史は、Sawadeそのものを体現していると思います。

編集部コメント

Sawadeのパッケージ陳列をみると欧州のcarbon-free society (脱炭素社会)への取り組みを垣間見ることが出来ます。もう気付かれた読者もいらっしゃると思いますが、日本でよく見られるPETやPP(ポリプロピレン)で出来た透明ケースに入ったチョコレートパッケージの陳列がありません。バレンタインの季節に輸入チョコレートをわざわざ透明ケースに入れて販売する日本とは対象的です。

写真で見る限り2次包装の箱には貼り箱が使われているようです。箱を展開した形にカットした硬い芯ボールにニカワを塗った薄紙を貼り付けます。出来上がりはしっかりしていて大変高級感があります。非常に手間のかかる工程で貼った紙に皺が寄らないような熟練性も要しますが、最近は全自動の貼り箱製造機も存在しドイツ製、イタリア製の機械が多く見られます。

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