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結婚式ができるドーナツショップ?!自由な発想で大成長…ポートランドの「ブードゥー・ドーナツ」創業者のお話

ポートランド観光の目的地と言われるドーナツショップ「ブードゥー・ドーナツ」

「パケトラ」読者のみなさま、こんにちは。ポートランド在住の東リカです。

今回は、アメリカ・オレゴン州のポートランドに来たら必ず立ち寄れと言われるカルト的人気のドーナツショップ「ブードゥー・ドーナツ(Voodoo Doughnut)」のオールドタウン店を訪問し、共同創業者のトレスさん(Tres Shannon)とキャット・ダディ(Kenneth “Cat Daddy” Pogson)さんにお話を伺いました。

Photo:左から、ブードゥー・ドーナツ共同創業者のトレスさんとキャット・ダディさん

ポートランドの風変わりさを体現したドーナツ・ショップ

Photo:オールドタウン地区にあるブードゥー・ドーナツ1号店

「ブードゥー・ドーナツ」は、2003年12月にポートランドのオールドタウン地区で、元々友人だった二人が「何か面白いビジネスを興したい」とオープンしたドーナツショップ。

ブードゥー魔術を思わせる奇抜な形とトッピングを施したドーナツはもちろん、独特のパッケージにインテリア、それに夜の10時から朝の10時までというドーナツショップらしからぬ営業時間もあり、開店数年で国内外のメディアに「風変わりなポートランドを象徴するお店」「ポートランド観光の目的地」と取り上げられるようになりました。

現在は、ポートランドの2店舗はもちろん、ユニバーサルパーク内のライセンス契約店やコロラド、テキサスなど全米に8店鋪を構え、まだまだ勢いは止まりません。そしてオールドタウンの一号店は、24時間365日営業していますが、未だに毎日、観光客の長い行列ができています。

Photo:代表作の詰め合わせ。右上からVoodoo Doll、Marshall Mathers、Bacon Maple Bar、Guava Colada、Voodoo Bubble、Old Dirty Bastard、Portland Cream

このビジネスを始めるに当たって、一度もドーナツを作ったことがなかったという二人は、自由な発想でこれまでになかったドーナツを生み出しました。

例えば、ラズベリージャムの「血」が詰め込まれ、プレッツェルの「針」が突き刺さった「ブードゥー・ドール」や、ベーコンブームを生んだと言われるメープルシロップ味のアイシングにベーコンを乗せた「メープル・ベーコンバー」、ポートランド市の公式ドーナッツに認定された目玉付きの「ポートランド・クリーム」などは、現在もブードゥー・ドーナツの代表作として知られています。

他にも、FDA(アメリカ食品医薬品局)に禁止された風邪薬や胃薬をのトッピングしたものから、オレオ&ピーナッツバターをトッピングした「ダーティー・オールド・バスタード」、3つのドーナッツを組み合わせた「コックNボールズ」など口にするのが憚られるネーミングのものに加え、バブルガム、マーブルチョコ、ジュースパウダー、シリアル他をこれでもか!と盛ったものなど、他では見かけないユニークなドーナツが勢揃い。社員や友人も新ドーナツの発明に貢献し、一時期は100種類以上あったそうです。

現在は、さすがにこれだけあるとお客さんを迷わせすぎると取捨選択が行われ、それでもなんと約55種類が毎日メニューに並んでいます。また、新たなものも近々登場予定だとか。

ブードゥー・マジックの実践

Photo:ブードゥー人形ドーナツを描いたネオンサイン

ブードゥー・ドーナツでは、ブードゥー人形型のドーナッツ以外にも、あちこちに怪しげな魔術的モチーフを見かけます。

例えば小さなオールドタウンの店内には、椅子やテーブル、一般的なディスプレイケースなどの代わりに、ドーナツが回転するチューブ状のケース、共同創業者が描かれたステンドグラス、棺桶、ピンクのパンツ、ブラックベルベットペインティングを始めとする額装されたいくつもの絵画や写真、巨大ドーナッツ、人形など…独特の雰囲気です。

Photo:ブランドカラーのピンクを背景にサムディ男爵が大きく描かれた2号店

ショップのロゴは、ドーナツから顔をだすブードゥー教の死神、サムディ男爵(Baron Samedi)。キャットダディによると、死後、最初に会うのがサムディ男爵で、彼が天国か地獄か、死後の行き先を指差すんだとか。もし生きているうちに男爵に会ったら甘いもので歓待しておくと、いざ死んだ時に男爵がその恩を覚えていて、行き先に天国を選んでくれるそうです。

「それが、ドーナツとのコネクションだよ」とのこと。

Photo:共同創業者やシグニチャードーナツが描かれたステンドグラス

また他にも「せっかくだから、ブードゥー繋がりで楽しいセレモニーをやろう!」と、創業直後からショップ内で「ブードゥー流」結婚式も行なっています。実は、創業者の二人は共に公式に結婚を認定する資格を持っていて、これまで何百人ものカップルを結婚させてきたんだとか。

ブードゥー・ドーナツ店内で公式に結婚したい人は、必要書類を揃えて申し込むと、300ドルほどで主役が描かれた2体のドーナッツ、センターピースドーナツ、コーヒーが提供されるセレモニーを、希望店の「精霊」が描かれたブラック・ベルベット・ペインティングの下で開くことができます。ちなみにオールドタウン店の「精霊」は、ミュージシャン、アイザック・ヘイズです。すでに結婚している人たちも、非公式にもう一度結婚を誓いたければ、50ドルほどで同様のパーティーを開くことができるそうです。

▼Voodoo Doughnut公式サイト、ウェディングページ

Weddings

メディアを動かす話題作り

Photo:創業当時、ドーナツを販売していたポップアップ小窓

ブードゥー・ドーナツの成長のきっかけは、「全米で住みたい街ナンバーワン」と世界がポートランドに注目をし始めたタイミングに重なったという幸運な部分もありましたが、それ以上にオールドタウンをよく知る彼らならではの巧みな話題作りにもあったようです。

今も毎週月曜に斜向かいのライブハウスで演奏するというトレスさんと、近所のオフィスビルで働いていたキャット・ダディさんは、近隣に集う人たちが何を求めているか、よく分かっていたと言います。

ナイトクラブやバーなどの多いこのエリアで、深夜だけ小窓から夜遊びや水商売勤め帰りの人たちに奇抜なドーナツを販売するのはもちろん、バスルーム内でバンド演奏をしたり、大食いコンテストを開催したりと地元メディアに絶えず「ネタ」を提供することで、全国メディアにも登場するきっかけを掴みました。

そしてインターネットが重要なマーケティングツールとなった現在は、SNS映えをしっかり考慮しています。例えば、バブルガムが乗ったピンクのドーナツや、白いココナッツの上に小さな傘が刺さったドーナツなど、ビジュアル重視で発明されたものは狙い通りインスタの常連です。

また、ライブのバックステージに差し入れに行く時には、写真にちゃんとトレードマークのピンクの箱が映りプロモーションになるよう、箱を裏返しに折ることから生まれた専用の箱「スーツケース・ボックス」を使用しています。現在はその呼び名を反映して、ピンク地にハンドルや旅先のスティッカーも描かれています。

Photo:トレスさんとスーツケース・ボックス

「ティーンエイジャーを見守る親のように」

このように絶妙なマーケティングセンスと思い付きをすぐ実行に移す姿勢で、勢いよく成長してきたブードゥー・ドーナツは、2年前に投資家が参入し、従業員も220人ほどにまで増えました。今では、物事はマーケティングデータの活用やいくつもの会議を経て決定され、企業セキュリティの確保や運用プロトコールの整備も進み、創業当時とは随分と様子が変わってきたそうです。

ゼロから始めたビジネスが自分の手を離れていくことを寂しく思わないか、ブードゥーらしさが失われる心配はしていないか、と聞いたところ、トレスさんは「自分たちのルーツはポートランドのオールドタウンで、この界隈のことはよく分かるし大好きだけど、例えばヒューストンのことなんて、州の規制や税のことはもちろん、地域のこともよく分からない。このご時世、特に全国、世界に出るなら、プロに任せたほうがうまくいくに決まってる」と以外にクール。

高校生のお嬢さんと一緒だったキャット・ダディさんは「店は子供みたいなものだよ。今年、16年目だからね。手が離れてしまうのはちょっと寂しくて、口出ししたい気もするけれど、むやみに干渉しないほうが成功する時期に来たと思うんだ」と言い添えます。

それにしても仲のいい二人です。ゼロから有名ブランドを築き、既に「ポートランドのビジネスレジェンド」と呼ばれることさえある彼らですが、二人が話す様子は、あくまで軽妙で、仲良しの悪ガキ同士のよう。

Photo:とても仲良しな創業者のふたり

「恋人や友達同士でビジネスを始めたら、関係が壊れるから辞めとけって言うじゃない?でも俺たちは一緒にビジネスを興した。この16年の間にキャットダディは家族が出来て、俺は相変わらず独身でロックやってて落ち着かないけど、前と変わらない、むしろ強い友情で結ばれて反対側から出てきたんだ。ビジネスは手を離れて変わっていくかもしれないけれど、俺たちは変わらないから」とトレスさん。まるで巣立つ子どもを見送る夫婦のようじゃないですか!

きっと創業者の二人が仕事一辺倒ではなく、自分や仲間たちの楽しみも大切にしてきたからこそ、ブランドは確立し、この先も成長を続けていけるのかもしれません。

そしてこの姿勢こそが、みんなの憧れるポートランドらしさのような気がします。

Voodoo Doughnut
https://www.voodoodoughnut.com/

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