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ダンキン、ブルースター、クリスピークリーム…なぜ海外で人気のドーナツ店は、日本で苦戦するのか

はじめに

日本では、アメリカや、最近では台湾から進出してきたスイーツ店やカフェが、話題性のある流行としてたちまち行列の人気店となることが良くあります。そのアメリカでは今、ポートランド発の「ブードゥー・ドーナツ」が大成長しているというレポートが東リカライターから届いています。

結婚式ができるドーナツショップ?!自由な発想で大成長…ポートランドの「ブードゥー・ドーナツ」創業者のお話

また、以前にも当欄でイギリスのドーナツ店「Crosstown doughnuts」が躍進しているというレポート(伊藤文子ライター)に基づいて、新しい外食小売り店舗運営のスタイルということが取り上げました。

ロンドンで躍進する「Crosstown doughnuts」の選ばれるビジネス戦略

こうしたお店もまた日本にやって来るのでしょうか。

海外では、ドーナツ店は有望市場であると見えます。これまでに日本には、いくつかアメリカのドーナツブランドが進出してきました。しかし、そのほとんどが撤退や縮小を余儀なくされているという結果になっています。唯一「ミスタードーナツ」だけが規模感を持って生き残っているのですが、それも国内チェーン全店売上高が11年連続で減少傾向にあり、2019年3月期で見ると2008年のピーク時から4割減っている状況です。

とはいえ日本のドーナツ市場規模は、ほぼイコール「ミスタードーナツ」の売上高と言えるくらいですので、別格ではあります。また2015年にはコンビニ各社がレジ横でドーナツに参入し話題になりましたが、今はその面影がありません。

どうして日本では進出してきた海外の人気ドーナツブランドをはじめドーナツ店が上手くいかなくなっているのでしょうか。その理由を少し考えてみたいと思います。

日本で苦戦するドーナツ店

上記「ブードゥー・ドーナツ」が発祥したのがポートランドであれば、同じくポートランド発で2015年に日本に進出してきた「カムデンズブルー☆スタードーナツ(CAMDEN'S BLUE☆STAR DONUTS)」の記憶が新しいです。東京でスタートし、話題の行列人気店となり大阪含めて7店舗展開するも、2017年に早くも2年で撤退となりました。

Photo:ブルースター・ドーナツ公式サイト:https://www.bluestardonuts.com より

その前にアメリカの人気ドーナツ店、日本に初上陸として話題を持って2006年に登場した「クリスピー・クリーム・ドーナツ」も、上手くいかなかった一つです。国内で64店舗まで拡大しましたが、しばらく大幅な赤字に陥り2016年には大量閉店し、その後経営刷新を進めて現在はホームページを見る限り48店舗になっています。世界28ヵ国でグローバル展開するアメリカの老舗ドーナツチェーンであるにもかかわらず、日本では苦戦を強いられている訳です。

Photo:クリスピー・クリーム・ドーナツ公式サイト:https://krispykreme.jp/ より

さらにその昔、1970年にやって来たアメリカの雄「ダンキンドーナツ」は、翌年に同じく参入した「ミスタードーナツ」と競合し、結果として1998年に敗退する格好となりました。この「ダンキン」と「ミスド」については日本の経営会社の戦略の差が出たと言われていますが、要は日本人の嗜好、習性を研究した商品政策、販促政策を取ったか否かということであり、この点が本題のポイントとなってきます。

Photo:ダンキン・ドーナツ公式サイト:https://www.dunkindonuts.com より

日本人の嗜好の変化とドーナツ

日本でドーナツ店市場が振るわなくなった理由に、いくつかの仮説があります。「ミスタードーナツ」が成長をしていた時代は甘いお菓子を求めていた時代であり、“スイーツ”自体の選択肢がまだ少なく、アメリカの代表的菓子のドーナツは大いに受けました。同時にファストフード店の拡大基調に乗り、駅前のお店で過ごすという習慣も普及してきました。

Photo:ミスタードーナツのショーケース

ところが、その好みやライフスタイルが時代と共に徐々に変わってきた状況に、ついに対応しきれなくなった結果と言えるのではないでしょうか。今の日本人は健康志向層が多くなり、糖質制限や甘さ離れが進みました。

日本のドーナツ店市場をほぼ寡占する「ミスタードーナツ」の売上は約740億円(2019年3月期・ダスキン)で1,200店ほどの規模ですが、それに対するアメリカNo.1 の「ダンキン」は全米で約9,000店展開しているというドーナツ王国です。アメリカではドーナツは朝食や食事扱いで、米国テレビドラマでも“差し入れはドーナツ”みたいな何かとドーナツが出てくるという場面は皆さんもよく見かけると思います。

日本人にとってはあくまでお菓子であるので、スイーツを主とした外食店にはおよそ限界があると言えます(以前より食事系メニューもトライしてきてはいますが)。近頃は元気になったマクドナルドやケンタッキー(KFC)とは違うところです。そこに糖質制限の風潮が来ているわけです。コンビニの力を持ってしてもコーヒーのようにはいかず失敗したことも、市場が小さかったという結果です。ドーナツ商品自体はこうしたアゲインストの中にあるのですが、海外から来たドーナツ店にはさらに抱える問題点が見えると思います。

Photo:セブンイレブン公式サイト:https://www.sej.co.jp/ より

ドーナツ店の何が課題なのでしょうか

日本における海外から来たドーナツ店の多くが苦戦する中、上手く展開しつつある外資系外食店も存在することに注目したいと思います。「スターバックスコーヒー」「ブルーボトルコーヒー」「エッグスンシングス」「ゴンチャ(貢茶)」はどうでしょう。もちろんスイーツが主体ではないということはありますが、これらの店の戦略との違いから課題のポイントを見ていきましょう。

筆者は、以下の5つの要素が、今どきの成功店では実践されているのだろうと思います。

 

1) 日本の食生活、嗜好を捉える

こちらの点では、健康志向を考慮しヘルシー路線のメニュー化を図りたいです。現在「クリスピークリーム」も甘さを抑えた看板商品に方針転換しています。アメリカから進出のハンバーガー店「シェイクシャック」は食材の安全・安心をうたい、健康に配慮して人気があります。また、「ダンキン」と「ミスド」の戦略の違いとして語られているのは、日本人の好みに合わせた商品、タレントCM、景品キャンペーンの積極的なマーケティングを行った「ミスド」に勝機があったということですね。

Photo:シェイクシャック公式サイト:https://www.shakeshack.jp より

2) 一過性の流行り消費の体質をわきまえた対応

人々はトレンド、ブームへの関心が強く「話題性のある流行スイーツ」という認識を持つため、店舗を急拡大すると希少性価値が低下し、飽きを招きやすいのです。「ブルースター」では認知が追いつく間もない急な店舗拡大が、採算性を悪化させたともいわれています。ブームが沈静化した後に、本来の価値を訴求しじっくり育成することが求められます。

3) 商品価値(モノ)と体験価値(コト)の提供

商品価値においては美味しさ品質の差があれば良いのですが、なかなか難しいものです。ここはキラー商品を押し出し「ものづくり物語」「ブランドストーリー」を伝え確たる差別化を図りたいです。「スタバ」のラテ、「エッグスンシングス」のパンケーキ、「ゴンチャ」のタピオカミルクティーといった看板メニュー。「ゴンチャ」では何種類ものカスタマイズが人気となっています。

Photo:エッグスン・シングス公式サイト:https://www.eggsnthingsjapan.com より

Photo:ゴンチャ ジャパン|貢茶公式サイト:https://www.gongcha.co.jp より

上記の「シェイクシャック」では日本の有名飲食店とのコラボメニューを展開したり、地域密着の各店独自メニューで差別化を図っています。体験価値としては、「スタバ」の「サードプレイス(第3の場所)」と位置付けられたオシャレな空間で、素敵な時間を提供するというエクスペリエンス価値が代表的。今は仕事スペース、勉強テーブルと化している感もありますが、顧客の心理ニーズに合わせた空間時間の提供が求められます。

4) 商圏顧客分析による各店作り

商圏顧客については、店舗立地の顧客が高感度F1層(20~34歳女性)、サラリーマン、主婦、学生、リッチ層など各々違う客層である場合、個別に合わせた店舗設計が求められます。例として、「ブルーボトルコーヒー」が1店1店にこだわりの空間設計をしていると表明していますね。先の「クリスピークリーム」も立地、顧客に合わせ店舗コンセプトを変えていくと言います。

Photo:ブルーボトルコーヒー公式サイト:https://bluebottlecoffee.jp より

5) ブランドニュースの継続発信

こちらについては、店舗業態にかかわらず全てのブランディング活動に必要なことでありますが、新メニュー、パッケージ、キャンペーン、イベント、企業コラボなどの新情報を一つずつ定期的に消費者に発信することです。常にブランドを想起させることで、プレファランス(Preferenceブランドに対する相対的好意度)を高める活動です。

今の「マクドナルド」を見ればいつも新情報が発信されていることがわかると思います。かつて成長期の「ミスド」も連続して行われたスタンプカードの景品キャンペーンでは一世を風靡していました。

筆者の認識不足があるかもしれませんが、不振に陥ったドーナツ店ではこうしたマーケティング活動が行われていたのかどうかです。冒頭に挙げた「ブードゥー・ドーナツ」「クロスタウン・ドーナツ」のレポートを見れば、現地でこれらの諸策を実施して成功していることが伺えます。

ドーナツ店のこれから

2019年の9月には台湾茶専門店「カムバイティー(COMEBUYTEA)」、アメリカのタマゴ料理専門店「エッグスラット(eggslut)」などが登場しました。ライセンス契約を結んだTSUTAYAが運営する「カムバイティー」は、生活提案として場の価値を高める店舗づくりを行っています。コーヒー専門店のような茶葉ラインナップとマシンで、抽出からブレンドシェイクまでを見せていますね。メニューに300種類以上のカスタマイズを加えられるのが人気といいます。

Photo:カムバイティー公式サイト:https://comebuytea.jp より

「エッグスラット」は現在ブームのグルメバーガーの次を狙う“タマゴ料理をはさんだバーガー”を売りにするタマゴ料理専門店であります。日本人のタマゴ好きを受けて、日本限定の看板メニューとして展開しています。それぞれ、日本人の嗜好を考えた「商品価値」や「店に行く楽しさの体験価値」を用意しての参入です。行列の後、どれほどの店が成功するのでしょうか。見ていきたいと思います。

Photo:エッグスラット公式サイト:http://www.eggslut.com/ より

アメリカでも健康志向が進み、メニューに変化が起きているようです。「ダンキンドーナツ」も店名から「ドーナツ」を外すことになったということです。日本進出のドーナツ店のこれからは、やはり食事ユースとなる健康志向の看板ドーナツを提案し、出店地域の顧客ニーズに合わせた空間時間の体験価値を提供する店づくりに一つの可能性があるのではないでしょうか。

[参考]
セブンイレブン:https://www.sej.co.jp/
クリスピー・クリーム・ドーナツ:https://krispykreme.jp/
ダンキン・ドーナツ:https://www.dunkindonuts.com
ブルースター・ドーナツ:https://www.bluestardonuts.com
シェイクシャック:https://www.shakeshack.jp
ブルーボトルコーヒー:https://bluebottlecoffee.jp
エッグスン・シングス:https://www.eggsnthingsjapan.com
ゴンチャ ジャパン|貢茶:https://www.gongcha.co.jp
カムバイティー:https://comebuytea.jp
エッグスラット:http://www.eggslut.com/

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