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「おいしさ」と「ヘルシーさ」は両立できるのか?せめぎ合う日本の食品パッケージデザイン

おいしさは二の次?売り場&パッケージから見るオランダのヘルシー食材アプローチ(後編)

こちらの記事を「プロの目線」で深掘りしたプレミアムレポートです!

はじめに

長きにわたり商品開発部やパッケージデザイナーを悩ませてきた問題。ヘルシー健康を訴求する食品のパッケージデザインはどうすれば良いか。オランダからの<水迫尚子レポート>の報告には現地では「おいしい」以上に「健康によい」「安心安全素材」「オーガニック」などの訴求が重視され、パッケージデザインにもこちら日本とは少し違うアプローチが見られるということです。

「おいしさと健康」といえば、江崎グリコさんのコーポレートメッセージが浮かびますが、企業CMの話の中で製菓会社だから美味しさは伝えやすいが、健康を訴求するのは難しいというような談話をどこかで見かけました。「ヘルシー」と「おいしい」の伝え方。食品会社のパッケージデザインにおいては今後一層考えなければならない課題と言えます。

糖質オフなど、日本でもヘルシー食品は伸びています

写真:糖質コントロールからだシフトシリーズの売場

欧米諸国に比べ、日本人は元来自国の食品メーカー商品には食の安全性への信頼感を高く持っているように思われますが、生産地や安心な生産法に関する表現は今や不可欠になってきています。また一方で、近年は特保や保険機能食品にもヒット商品が生まれるなど、健康成分を主人公にしたヘルシー商品が加わってきています。

さらに欧米ではグルテンフリーの食品が拡大していますが、日本では糖質カットが目につくようになっています。糖質ゼロ/オフの食品の市場は、2017年では290億円(流通ニュース)と見られ、2018年の消費者調査では「糖質量を意識した食生活」について被験者の42%が経験あると答え、その内7割が糖質を「減らすこと」を意識するという結果が報告されている(マクロミルHoNote/糖質に関する意識調査)ことから、さらなる拡大も見込まれます。 

「ヘルシー」と「おいしい」はどうデザインされているか

ヘルシー食品が伸びる中、日本で「ヘルシー」と「おいしい」はどうデザインされてきたか、特徴的なところから見ていきましょう。

古くから言えば、ワインやチョコレートのポリフェノール、「黒豆ココア」(ハウス食品)、「はちみつ黒酢ダイエット」(タマノイ酢)など五黒と言われる素材使用、亜麻仁油など健康油、「はるさめスープ」(エースコック)、「乳酸菌ショコラ」(ロッテ)など成分をひとつのキャラクターとして訴求したものに人気が高い傾向があります。

塩分カット、カロリーカットはブランドエクステンション(主ブランドの展開品)として多く見られましたが、今は糖質カットが注目され、ビール系飲料などによくある主ブランドに基づく系列品としてのデザインが多数あります。気になるところでは、「淡麗グリーンラベル」が「淡麗(生)」のブランド系列品でスタートしたのですが、今年になって淡麗のロゴを大きく後退させ「GREENLABEL」を中心に据えたデザインにリニューアルされたことは、ヘルシーブランドとして確立されたと見ることができるのではないでしょうか。

写真:健康食用油の売場

写真:ヘルシービール系の売場

カテゴリーによっても違う「ヘルシー」と「おいしい」の優先度

「おいしい」と言えばシズル感(おいしいと感じる表現)のあるデザイン、「ヘルシー」と言えば白プラスのグリーン、ブルーの配色と文字による説明というのが相場です。本来美味しいものである一般食品カテゴリーでは「ヘルシー」が出すぎると売れないとの経験があり、皆その妥協ラインを探ってきた歴史があります。

その点、「カロリーメイト」や「ウイダーイン」、「R1ヨーグルト」などは文字だけのデザインで「ヘルシー」機能食品の市場を作ったというように、カテゴリーによって消費者の受け止め方に差もあります。

健康食用油のカテゴリーはどうでしょう。成分機能が文字表現中心にデザインされています。食用油は直接口で味わうことが少なく調味料の一部としての用途で、味、美味しさはそれほど変わらないのではないかとの認識があるのだろうと推察します。健康お茶飲料も各社美味しさ感は追及しつつも機能性を文字で打ち出し、シズル感に優先させています。こうしたカテゴリーによっては消費者も味に一定水準があれば機能性を取るということでしょうか。

写真:健康茶飲料の売場

「ヘルシー」と「おいしい」の両立した成功例

ここで「ヘルシー」と「おいしい」の両立デザインでひとつの方向性が示される成功事例をいくつか挙げてみます。

写真:江崎グリコのビスコ・シンバイオティクス おなかにWアプローチ

ひとつはグリコの「ビスコ シンバイオティクス」です。乳酸菌+食物繊維の成分表記を軸にしていますが、いつものカートンではなくパウチを採用し、大人のターゲットと食シーンを新たに設定したことで売り上げも成功を収めています。新ターゲットにビスコのロゴマークが強い効果を発揮していることがおわかりになると思います。

写真:森永の大粒ラムネ ぶどう糖スッキリ!90%配合

次に「森永 大粒ラムネ」も大人に受けて大ヒットしているようです。あの青いブロー成型ボトルの「森永ラムネ」のブランドを使うも「ぶどう糖でスッキリ!90%配合」のヘルシー感覚コピーを訴求軸とし、同じくパウチ仕様で大人ターゲットの食シーンを狙っています。

つまるところ「ビスコ」「森永ラムネ」のロングセラーブランドで「おいしい」信頼がある程度満たされているのだと思われます。ブランドを巧く活用し単なる系列ライン商品ではないポジショニングを持たせていることで成功しています。「伊右衛門 特茶」も特保で高価格のポジションでこうした流れと理解できます。

その味への信頼のもとヘルシー健康成分を摂れるというところが、日本的なヘルシーのひとつの落ち着きどころではないかと筆者は考えます。どのブランドでも減塩やヘルシーライトと言った系列ライン商品は出されていて一定の支持は得ているものと思われますが、多くは上に挙げたブランド商品ほどの存在感はないのではないでしょうか。

写真:シャトレーゼの糖質83%カットピザ

糖質オフの商品で見ると、シャトレーゼの糖質オフのピザが人気だそうです。糖質カット商品は2009年の発売以来、売り上げは年々増加し、現在の伸び率は前年度に比べ、3割増という。中でも2015年発売のピザが人気を伸ばしているため、さらに糖質をカットしたリニューアル新製品として4月に投入されました。この例は商品ブランドとしての恩恵は薄い部類であり、それだけに興味深いのはリニューアル前のパッケージデザインとリニューアル新製品のデザインを比べてみると、明らかにリニューアル新製品のシズル感が強化されていることです。(日経クロストレンド2019/5/16記事参照)。

写真:アサヒグループ食品のおどろき麺0(ゼロ)

アサヒグループ食品が2017年に発売した糖質ゼロ麺を使ったカップスープ麺「おどろき麺0(ゼロ)」シリーズも、2018年は前年比260%と順調に売り上げを伸ばしているといいます。こちらも頼る既存ブランドがない新商品でありますが、主役となる0(ゼロ)ロゴの作りと忘れていないシズル写真のコンビネーションが店頭で差別化された存在感を放っています。「おいしい」が必要なカテゴリーの在り方を示していると思います。

あくまで筆者の私見ですが、このように日本ではなかなかオランダの域にはならず、「ヘルシー」「おいしい」の両立が続くだろうと思われます。ただ、オランダのレポートに見過ごせないヒントもあります。ヘルシー素材商品で見栄えもよくない商材を、パッケージデザインのアートワークで美味しさとは別視点で見せて、情緒的価値を上げるという手法が紹介されています。日本ではあまり見られなかったデザインアプローチで新しい切り口だと思います。さあ日本でもそうしたパッケージデザインにお目にかかれるでしょうか。

 

[参考]

流通ニュース/糖質ゼロ・オフ食品/2017年度290億円市場
https://www.ryutsuu.biz/topix/k030616.html

マクロミルHoNote/糖質は「適正量」よりも「減らすこと」を意識する人が多数!糖質に関する意識調査2018年
https://honote.macromill.com/report/20180313/

日経XTREND/シャトレーゼが糖質カットピザ新製品を発売 海外展開も視野に
https://trend.nikkeibp.co.jp/atcl/contents/watch/00013/00399/

 

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