何が環境にとって優しいのだろう? LCA(Life Cycle Assessment)という言葉は知っているものの現実に消費者はLCAの複雑で難解な計算方法も、元になるデータの知識を持ちあわせていません。
商品の環境に対する影響度合いをもっと簡単に知ることができたら、それなりに自分も環境保護に協力できるのだけれど…そんな消費者の期待に応える施策が拡がりそうです。
いち早く普及したNutri-Score
欧州では2017年に栄養評価スコア、「Nutri-Score」が導入されています。健康的で栄養価の高い商品を最高ランクの緑で表し、以下黄緑、黄色、オレンジ、そして最低ランクの商品は赤で表現します。EUとしてはまだその表示については任意扱いですが、ベルギー、スペイン、ドイツ、オランダ、スイスなどにも普及しています。
その要因は欧州の人々の半分が肥満であることや、新型コロナの入院患者の基礎疾患のうち最も多いのが高血圧と肥満であることから、健康リスクへの対応策として受け入れられてきています。また食品・飲料企業の大手、ネスレ社とダノン社が、導入を強く勧めたこともきっかけになっています。ただ、あまりにも単純化されていることから、イタリアなどでは異論も出ているようです。
フランスでは2020年に、食品メーカー500社が「Nutri-Score」を導入しており、食品全体の50%以上を占めています。「Neutri-Score」は、消費者をより健康的な選択肢に導くとともに、メーカーにとっても食品を改良するインセンティブになるので、食生活全体の底上げにつながっています。「Neutri-Score」に加えて、商品の加工度についてはNOVAコード、添加物についても手軽に調べられるようになっています。
「Neutri-Score」は導入から3年後にヨーロッパで広く採用されました。2021年1月、ドイツのスーパーREWEグループは、自社ブランド製品のすべてのパッケージに「Nutri-Score」を導入すると発表しました。
環境への影響を知らせるEco Score
「Eco Scale」は商品のフットプリント(一般的に製品が販売されるまでの温室効果ガス排出量)を一目で確認できるようにAからEまでのアルファベットと、緑から赤の色でランク付けし表現しています。環境への影響が低い商品は緑色のA、環境にさまざまな影響を与えるものは赤色のEで表します。
「Eco Scale」は栄養価や添加物の情報を提供するユカ(Yuka)や、食品のオンライン・クラウドソーシング・データベースのオープン・フード・ファクツ(Open Food Facts)、月間アクセス数が約2,000万回のレシピ紹介サイトのマルミトン(Marmiton)、有機食品のオンライン販売を行うラ・フルシュ(La Fourche)などが共同で立ち上げました。
スコアは、環境移行庁(ADEME)のデータベース「ライフサイクル分析(ACV)」を基に作成されていますが、ACVの仕組みでは有機農業よりも生産期間の短い集約的な農業の環境負荷が低くなるなどの欠点が指摘されたこともあり、ACVの欠陥を補うため各種認証ラベルの有無、生産・製造地、生産国の環境政策、生物多様性の順守、包装のリサイクルの可能性の有無の5つの追加基準が加えられています。
データは参加型インターネットポータル「Open Food Facts」から提供されており、 全世界のボランティアの投稿によって運営され、世界中の新製品の写真や製品データが毎日データベースに入力され、2022年8月時点では世界の250万の製品がデータベース化されています。
フランスなどでは「Neutri-Score」と似たような表現の「Eco Scale」が登場することで混乱するのではという意見もありましたが、商品を選択する上で多様な指標が提供されることには前向きの意見が多く好意的です。
フランスの大手スーパーマーケットCarrefour社は自社ECサイトにおいて「Eco Scale」の表示を行うことを発表しました。消費者からのフィードバックなどを分析することでスコアの計算方法改善の可能性も探っています。また世界中に約8000店舗を展開しフランスにも多くの店舗を持つディスカウントスーパーマーケットLidl社も同様に、ベルギーの店舗で「Eco Scale」のテストを開始すると発表しています。
食品の環境スコアリングが欧州で加速
民間主導のエコスコアとは別にフランスでは政府による環境ラベルの計画もあります。食品大手のネスレとタイソンフーズはスーパーマーケットや専門家とともに新しい非営利団体「Foundation Earth」を結成。欧州全土で消費者の持続可能な食品選択を可能にすることを目的に、パイロットプログラムを開始します。
また、WWFも環境影響に加えてアニマルウェルフェア(動物福祉)も視野に入れた「Planet Score」を検討しています。英国でもCo-op, Morrisons, Sainsburys, Tescoの4つの主要なスーパーが新しいラベルを仮想環境に試験的に導入し、早ければ来年により幅広い業界展開を計画しています。
FOPLを推奨
欧州では、2011 年に公布された食品の消費者向け情報提供規制(EU 規則 1169/2011)に従 って、容器包装に記載されるべき食品情報が定義されています。容器包装 の背面に記載される義務的な栄養表示に加えて、その栄養素を容器包装前面表示(FOPL : Front-Of-Pack Labelling)としてラベル貼付することが推奨されています。パッケージデザインの観点からは非常に大きな要素が加わることになります。
欧州委員会は近年、欧域内に複数存在する FOPL を一つに絞り、これを義務的表示制度として全域内で利用することを検討しています。EU の 食品業界全体の環境フットプリントを削減し食品安全を確保することを目的として打ち出された欧州グリーンディールの中核である「Farm to Fork 戦略」においても、EU 共通 FOPL の義務的導入の意向が確認されています。
栄養価を示すスコアの計算方法や表示形態が異なる FOPL が共存する状況は消費者の混乱 を招き近隣諸国への輸出を行う食品メーカーにとってもコスト高になるという点も、 FOPL 統一の動機となっています。
フランスではエコスコアに積極的だったマクロン大統領が2022年4月の大統領選挙で再選したことで制度の導入がほぼ決定されたものと考えられますが、2023年初めの導入においては統一的なラベルが導入され、スコア算出用データベースの改定、スコア算出ツールの導入、スコア算出方法の確定、消費者にわかりやすいロゴの作成などが進められています。
エコラベルへの日本の対応
日本ではまだEUのような本格的なエコラベルは普及していません。良く知られているのは環境保全に役立つことが認定された商品につけられる環境ラベル、エコマークですが、グレード表示のない、一般論としてのマークでしかありません。
日本の農林水産物・食品輸出額は日本政府の輸出拡大の取り組み効果もあり、2021年で1兆2,382億円と前年比25.6%の成長を示しています。EU向けはそのうちの5.4%と割合は大きくはありませんが、EUがエコラベル導入を決定すれば日本やアジア各国も輸出面では対応せざるをえません。
食品メーカーにとっては値段、味、栄養価などに加えて環境への貢献度が新たな競争の場になり、消費者の環境意識が高まる中、製造過程や供給網も含めた商品の見直しが企業側に求められてきます。日本やアジアの商品は輸送に環境負荷がかかることからEUではスコアが不利に働く可能性もあり、グローバル化が進む中で、その運用などを注視する必要があります。
日本では内閣府を中心にエコラベルに対する専門家の養成「エコラベルコンシェルジュ養成事業」や、「エコラベルゲーム開発といった」普及啓発レベルの企画は推進されているものの、企業のマーケティングレベルではまだ、本格的な導入が進んでいません。サステナビリティー経営が叫ばれている中、対応の遅れが拭い去れません。
今後の消費行動の選択肢の中に、エコラベルが重要なポジションに入ってくることを想定するならば、商品開発やパッケージデザインにおいても体制を整える必要があります。エコラベルを対岸の火事にせず、商品開発スキームに取り込む必要があります。