最近、ソーバーキュリアスやモクテルというキーワードを聞くようになりました。ソーバーキュリアス(Sober Curious)とは、お酒をあえて飲まない、または少量しか飲まないライフスタイルです。
sober=“しらふ”、curious=“好奇心旺盛”を組み合わせた造語で、欧米のミレニアル世代を中心に広がっている新たなお酒のカルチャーです。
お酒を飲まない方がクールという意識が強く、健康のために我慢して禁酒するのではなく、あくまでも前向きに「飲めるけど飲まない」という選択をするのが特徴です。コロナ禍による健康志向や価値観の変化がライフスタイルの基本要因とされており、心身の健康と豊さを保つ目的で取り入れています。
一方モクテルとは、バー文化が盛んなイギリス・ロンドン発祥のノンアルコールカクテルのことをさします。「似せた」という意味の“mock”と“cocktail”を組み合わせた造語です。お酒が苦手な方やアルコールの摂取を控えている方でも楽しめるドリンクとして、世界中で人気が高まっています。
具体的には次のような飲料がよく知られています。
シャーリーテンプル
グレナデンシロップ、ジンジャエール、ライムまたはレモンを合わせたノンアルコールカクテルの代表格。
モクテルサングリア
ぶどうジュース、お好みのフルーツ、砂糖またはシロップ、シナモンなどのスパイスを使用。ぶどうジュースの代わりにノンアルコールワインを使うことも多い。
モクテルモヒート
ミントの葉、ライム、炭酸水、砂糖またはシロップを使用。フレッシュなミントと搾りたてのライムにこだわることで、ノンアルコールであっても奥行きや香りを感じられる一杯。
どの飲食店でも飲めるソフトドリンクとは違い、モクテルはちょっとした工夫で自店のオリジナリティを出せるのが利点です。思わず写真を撮ってSNSにアップしたくなるような見栄えも重要で、ここでしか飲めない特別感は集客の役割も果たします。
低アルコール飲料の成長
飲料関係の調査機関IWSRは、オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、日本、南アフリカ、スペイン、英国、米国の非アルコールおよび低アルコール主要市場が2021年から 2025 年の間に年平均成長率(CAGR) 8% 以上で増加すると予想しています。
ノンアルコールの「スピリッツ」と RTD(ready to drink) はどちらも14% を超える販売量の増加を記録すると予想され、低アルコール ワインは 4 年間でほぼ 20% 増加、ノンアルコール ワインは 9% 以上増加すると予測されています。ドイツとスペインは、ノンアルコールと低アルコールの最大かつ最も成熟した国で. ドイツのノンアルコールおよび低アルコール製品の販売量は、このカテゴリーで次に大きな市場であるスペインの 3 倍以上です。
どちらの市場も 2021 年に約 2% の販売量増加を達成しましたが、米国は 31%、英国は 17% 増加しています。米国と英国はこの分野で最もダイナミックな市場であり、米国は2021年から2025年までの期間でCAGR(年平均成長率)28% 以上 (CAGR 2021-2025)、英国は 6% の成長が予測されています。
日本でも新型コロナウイルスの感染拡大で低迷が続くビール類市場にあって、ノンアルコールビールテイスト飲料が好調です。富士経済によれば、2006年から2019年までの14年間で市場は約8倍と激増しています。コロナ禍でも飲食店で提供されていたほか、健康志向の高まりを背景に家庭需要も拡大しました。アルコール度数1%以下の「微アルコール」も併せて、低アルコール市場が一挙に拡大しています。
サントリービールの調査によると、ノンアルコール飲料カテゴリー全体の2020年の推定市場規模は対前年比3%増の2313万ケースと、15年から6年連続で成長しています。21年は前年比11%増の約2570万ケースとなりました。中でも、家庭向けの缶商品「からだを想うオールフリー」が、9月に前年同月比38%増と大幅に伸長。1-9月も前年同期比37%増となっています。
アサヒビールの調査では、日本の20代〜60代の人口約8,000万人のうち半数が日常的にお酒を飲まない(飲めない・あえて飲まない)層です。
あえてお酒を飲まない層は、若者を中心に年々増加傾向にあり、職場飲みが減ったこともあって、アルコール離れが加速化しています。「ドライゼロ」がビンと缶を合わせたブランド全体で、2022年9月に前年同月比8%増となりました。
キリンビールもノンアルコールビールテイスト飲料カテゴリーで9月の出荷量が前年同月比5%増、1-9月の累計は前年同期比8%増。サントリーと同様に、缶商品のみ展開する機能性商品の「カラダフリー」が9月に前年同月比15%増、1-9月が前年同期比16%増となりました。日本コカコーラもハードセルツアー「Topochico」をはじける炭酸水にツイストの効いたフルーツフレーバーを加えた新感覚のアルコール入りスパークリングウォーターとして市場投入しました。
リフレッシュやランチにノンアルコール飲料
低アルコール飲料の21年3月から22年2月の期間通算金額PI(購買指数)は、前年比22.5%増の894円、数量PIは同21.8%増の8.13とビールテイスト飲料同様、金額・数量ともに前年を大きく上回っています。
酒類のRTDでは近年レモンサワーが好調に推移していますが、その動きはその他低アルコール飲料にも波及。サントリースピリッツ「のんある晩酌 レモンサワー ノンアルコール」、サッポロビール「LEMON’SFREE」、コカ・コーラシステム「よわない檸檬堂」など、各社がレモンサワーテイストのノンアルコールRTDを発売しています。
RTDやワイン系のその他低アルコール飲料はビールテイスト飲料に比べるとパイは小さいものの、ステイホームの影響から爆発的に伸びています。とくに若年層は飲用率が他の世代より低いことから今後も伸長が期待されています。
これまで運転を控えている人や病気・授乳期の人など、アルコールを摂取できない人向けのイメージが長年強かったノンアルコール飲料ですが、近年は代替品としての飲用だけでなく、日中のちょっとしたリフレッシュやランチタイムなど、幅広いシーンで飲用されています。
お酒との付き合い方の変化
コロナ禍をきっかけに大人数での飲み会は減少しました。その結果、自分の好きなお酒を自分のペースで楽しむ人が増えたことも、低アルコール・ノンアルコール飲料の需要増に影響を与えています。
また、普段からお酒を飲む人であっても、その日の気分や体調によって、低アルコール・ノンアルコール飲料を選ぶなど、お酒との付き合い方も変化しています。
微アル
微アルとは、アルコール度数0.5%程度の低アルコール飲料のことで、アサヒビールがアルコール度数0.5%のビールテイスト飲料「アサヒ ビアリー」を発売するにあたって作り出した、新たなお酒のジャンルです。
お酒は飲みたいけど酔いたくないという方や体質的にお酒に弱い方にも支持され、「アサヒ ビアリー」の販売量は右肩上がりに拡大中。他のビールメーカーも続々と微アルジャンルへの参入を始めています。
法律上では同じノンアルコール飲料に該当するノンアルコールビールと微アルビールですが、この2つには製法に大きな違いがあります。アルコール発酵をさせずに作られるノンアルコールビールに対し、微アルビールでは、ビールを醸造してからアルコール分だけを分離して取り除く製法を採用。ビール好きの方でも満足できる本格的な味わいと評価されています。
ハードセルツァー
ハードセルツァーとは「アルコール入り」を意味する“ハード(Hard)”と、炭酸水を意味する“セルツァー(Seltzer)”を組み合わせたアルコール入り炭酸水です。ほんのり甘いフルーツフレーバーとすっきりとしたのどごしが特徴で、アルコール度数は2〜5%程度が主流です。
2018年頃からアメリカの若者を中心に広がり始め、今やアルコール飲料市場の新たなトレンドとして世界中で注目されています。健康志向が高まる現代において、低アルコール、低カロリー、低糖質、グルテンフリーである点も評価され、多くの消費者から支持を集めています。
健康志向の高まり
適度な飲酒は気分転換やリラックス効果といった良い影響を与えますが、過度な飲酒は肝臓に負担がかかり、肥満にもつながるなど健康を害する要因になります。
ここ数年ではコロナ禍による外出自粛や運動不足をきっかけに、心身の健康を気遣い、飲酒習慣を見直す人が増加中。飲酒量や頻度を減らしたり、低アルコール・ノンアルコール飲料を取り入れたりする傾向が高まっています。
お酒を飲まない層の増加
アサヒビールの調査によると、日本の20代〜60代の人口約8,000万人のうち半数が日常的にお酒を飲まない(飲めない・あえて飲まない)層に該当するといいます。あえてお酒を飲まない層に関しては、若者を中心に年々増加傾向にあり、アルコール離れが加速化しています。
低アルコール飲料の存在感確立
低アルコールカテゴリーと無アルコールカテゴリーはまだ非常に若く、その結果、ブランドのロイヤリティは強くありません。ブランドの課題は、消費者を引き付け、維持することですが、そのブランドロイヤリティを構築し、カテゴリーで決定的なブランドになる機会もあります。では、トレンドが進化し続ける中、ブランドはこの分野でどのように存在感を切り開くことになるのでしょうか。
それは新興カテゴリーかもしれませんが、2022年の「低アルコールおよび低アルコール戦略研究」のために世界的なアルコール飲料市場アナリストIWSRが収集したデータによれば低アルコール/無アルコールは強い牽引力を持っています。オーストラリア、ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、日本、南アフリカ、スペイン、英国、米国の低アルコール市場を調査したこの調査では、2021年のセクターの市場価値は2018年の78億ドルから6%増加し、ほぼ100億ドルに達しました。このカテゴリーは現在、全アルコール部門の3.5%のボリュームシェアを占めています。
ブームを利用するために、ブランドと小売業者は、消費者がこのカテゴリーでより多くを費やしている理由を理解する必要があります。地味なライフスタイルをサポートするために低アルコールオプションに目を向けている人もいれば、健康上の理由や、アルコール消費を排除するのではなく、単に減らしたいという願望に動機づけられている人もいます。これは、人々がアルコールとより良く、より健康的な関係を築くのを助けるように設計された「ドライ1月」に参加する参加者の数が示しています。「ドライ1月」とは忘年会などアルコール飲料機会の多い12月の翌月1月を禁酒月間とする運動です。2022年には、英国で合計131,266人が「ドライ1月」にサインアップしました。これは、これまでで最も参加数の高いものです。
米国の世論調査では、アメリカ人の15%が2021年1月にアルコールをぬくことを計画しています。
世界的に、消費者は「通常の」飲酒機会(フル強度アルコール)と「ナイトオフ」(ノンアルコールオプション)を切り替えていると指摘しています。米国のノンアルコール飲料購入者の78%がアルコールビールを購入しています。禁酒ではなく、節度が求められているようです。
ミンテルの報告書によると、英国では、男性、特に年収が5万ポンドを超える18歳から34歳の男性が、2020年に最大の低アルコール購入者でした。報告書は、これはアルコールのノンカロリーとジムの進歩によるものと推測されています。
オレゴン州に拠点を置くランサムワイナリーと蒸留所は最近、ノンアルコール食前酒ブランドであるドーズを開発しました。2020年に発売され、「最も純粋で清潔な成分」から作られ、有害な毒素や農薬なしで配合された低カロリーであることに誇りを持っています。
その成功は、この健康への焦点と、自宅でのバーにふさわしい高品質のカクテル製造成分としてのブランドのポジショニングを組み合わせたようです。
低アルコール/無アルコール部門の勝者は、イメージを変革するために積極的に取り組んでいます。これらのブランドは、「アルコールなしで同じ」価値を提供するのではなく、製品の自律的なアイデンティティを切り開き、それらをユニークにする高品質の成分を強調し、低アルコール/無アルコールステータスを超えて価値を高めています。
このイノベーションの多くは独立系ブランドから来ています。Take Three Spiritは、プロセスと出所に重点を置いてプレミアムを感じさせるブランドです。自然を描き、時には魔法を想起するブランドマークは、健康とウェルネスの感覚を伝えるミニマリストの自然のシンボルを使用し、3つのキャッチフレーズは「ノンアルコール」、「クルエルティフリー」、「ビーガン」です。健康特性で作られたブランドはアルコール液体よりも優位性を与えます。
ビッグドロップのパラディソシトラIPAのパッケージングは、ノンアルコールクラフトビールのアルコール含有量ではなく、品質に焦点を当てています。スプラッシュを作るのはスピリッツだけではありません。これらの製品を独占的に製造する生産者とともに、クラフト低/無アルコールビール部門が出現しました。
ドロップブルーイングは、信じられないほどうまくいったブランドの例であり、複数の賞を受賞しています。その焦点は、「たまたまアルコールを含まない」という「受賞歴のあるクラフトビール」を作ることであり、アルコール含有量ではなく品質を主なセールスポイントとして位置づけています。ビッグドロップのパラディソシトラIPAは、緑豊かなジャングルパターンと大胆で明るいレモンドロップでデザインされた缶に入っています。募集には2021年の世界ビール賞の称賛が含まれ、ビール愛好家の間で製品の人気に信頼性を高めています。低/無アルコール市場は明らかに上昇していますが、まだ成長する余地は十分にあります。市場の勝者は、味に対する誤解を打破し、人々が低アルコール製品/無アルコール製品をどのように見るかを再構築する人である可能性が高い。メッセージは、犠牲を払ったり、逃したり、何かに落ち着くことではなく、味や品質を損なうことなく、健康、幸福、幸福を高めるライフスタイルの選択をすることです。創造的なブランディング、パッケージング、マーケティング、慎重な価格設定を通じて、ブランドは製品が輝くためにセクターでの存在感を切り開いています。
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