パケトラ読者のみなさま、こんにちは。半年前(2024年2月時点)にオレゴン州ポートランドからポルトガルの首都、リスボン近郊へ移住した東リカです。
ポルトガル初の記事となる今回は、ポルトガルが世界の約半分の市場を誇る「コルク栓」についてお伝えします。ワイン開封後は、小さなコルク栓について考えることは少ないと思いますが、実はものすごい労力とテクノロジーが詰まっているのです!
世界最大のコルク企業「アモリン」を取材しました。
コルク栓の種類と特徴
ワインとは切っても切り離せない存在のコルク栓。その歴史は古く、ワインボトルにコルク栓が使われるようになったのは、高級シャンパンの代名詞となっている修道士、ドン・ペリニヨンが使い始めた1668年からだとか。そして現在も、世界で消費されるワインの約70%にコルク栓が使われています。中でも熟成ワインを作る権威ある欧州のワインメーカーは、コルク樫の樹皮を円筒形にくり抜いた天然コルク栓(Natural Cork Stoppers)にこだわっています。
その理由としては、見た目の美しさはもちろん、ネガティブカーボンフットプリント、3Rを満たすサステナブルさ、永い熟成に耐えうる耐久性が挙げられます。
また、コルク栓工場内を案内してくれたアモリンのマーケティング&コミュニケーションディレクター、カルロス・デ・ジェズス(Carlos De Jesus)さんによると「天然コルク栓1つ1つに約8億個の細胞があり、瓶詰めの際に各細胞が含有する微量の空気が瓶の中に押し出されれ、ワインにマジカルな熟成を仕掛ける」ことも天然コルク栓が選ばれる理由になっています。
ただし最高級の天然コルク栓として使えるのは、コルク全体のほんの3割程度。また、後に述べますが、製造に相当の労力もかかるため、1つ5USドルになるほどかなり高価なアイテムです。
そこで、それほど熟成せずに楽しむカジュアルなワイン向けに、「テクニカルコルク(Technical Cork Stoppers)」と呼ばれる、天然コルクをくり抜いた後の樹皮など、余剰コルクを細かく砕いたコルク粒を圧搾して作ったコルク栓が作られています。
ちなみに、シャンパンなどスパークリングワイン用のコルク栓にも天然コルクディスクを貼ったテクニカルコルクが使用されます。スパークリングワインの栓は、抜くとキノコ型になっていますが、実は元々はワイン同様の円柱形。高い内圧に抵抗し、ガスの蒸発を防ぐために、瓶の口よりも大きなコルク栓をぎゅっと圧縮してボトルに詰めるのですが、ボトルの上に残されたコルク栓は、もとの大きさに戻るため、キノコ型になるのです。
最高級の天然コルク栓ができるまで
では、最高級コルク栓はどのように作られるのでしょうか。世界で名だたるワイン生産者をクライアントにもつ世界一の最高級コルク栓工場を覗いてみましょう。
原料となるコルク樫は、ポルトガル、スペイン、モロッコ、アルジェリアなど西部地中海盆地を中心に分布しています。樹皮の収穫は、木を伐採するわけではないので、コルク樫は、約200年ほど成長を続け、土地の生態系や土壌を守り、また、二酸化炭素を吸収し続けてくれます。
そんなコルク樫ですが、樹皮が収穫できる成木になるまでには、約25年の年月を要します。ただし「バージンコルク」と呼ばれる最初の樹皮、そして約9年後に行われる2度目の収穫時の樹皮もコルク栓の品質には届きませんが、樹皮を剥がすことで成長を促し、より良いコルク樹皮を育てます。
コルク樹皮は、約9年ごとに収穫するので、3度目の収穫、つまり約43年目からようやく49 mm、54 mmという長さの天然コルク栓をくり抜ける厚さになります。抜いたコルク栓が、樹齢50年以上、100年以上の木から作られているかと思うと簡単に捨てる気にはなりませんよね。
収穫したコルク樹皮は半年以上屋外専用エリアに積み、湿度が一定になるまで休ませます。その後、樹皮は工場に運ばれ、品質ごとに専用タンクでボイルし、乾燥させます。
そして、厚さ、品質共に最高級用に選ばれた樹皮は、不要な部分を切断され、手作業で円筒形にくり抜かれます。アモリンの天然コルク栓の8割はAIロボットがくり抜いていますが、最高級品は、今も熟練工が手がけます。
その後、全てのコルク栓は、それぞれ外側、内側に穴がないかなど構造を調べる2台のハイテク機器を通り、不適合品は排除されます。
さらに、ブショネ(細菌によって汚染されたコルクによりワインが劣化してしまった状態)を排除するため、「長さ50mのオリンピックプール800面相当の水から1滴の水滴を見つける」というナノグラム単位の厳密さでTCA(トリクロロアニゾール。ブショネの原因となる成分)を感知する最新GC ECD(ガスクロマトグラフィー電子捕獲検出器)である「NDtech®」を使い、コルクを1つ1つ検査していきます。
ガスクロマトグラフといえば、ハイテクを駆使した科学捜査ドラマ『CSI:科学捜査班』などで犯罪現場捜査官がわずかな手がかりを特定するのに登場したりしますが、この工場に世界最多のGC ECDが設置されているんだとか。
そして、ポリッシュ、洗浄、乾燥を経て、ワインブランドロゴをインクもしくは焼印かレーザーで刻印し、完成です。
このような気の長いプロセスやハイテクが詰め込まれているなんて、驚きですよね。
なお、穴やTCAが検出されたワイン栓に不適合なコルクは、床材など別の商品へとリサイクルされます。アモリンでは、電力の67%をコルクダストのバイオ燃料で賄うほどで、コルク材は100%、徹底して使い切ります。
ワインオープナー不要で開け閉め自在なコルク栓ワインボトル
近年は、オーストラリアやニュージーランドなどを中心に、コルク栓に代わりスクリューキャップのワイン栓を導入するワインメーカーも少なくありません。
先に述べたブショネの排除や安価であることが、スクリューキャップ導入の大きな理由となっています。
また、スクリューキャップはワインオープナー不要で手で開け閉めできる気軽さも、カジュアルにワインを楽しみたい人には魅力です。
とはいえ、一方で、たとえ若いワインでもサステナブルで美しいコルク栓に対し、スクリューキャップであることに味気なさを感じる消費者も少なくありません。
そんな消費者の期待に応える、ワインのパッケージがアモリンとアメリカの大手ガラス容器メーカーO-Iが共同開発した「ヘリックス(Helix)」です。
ヘリックスは、世界初の手で開け閉め自在なコルク栓のワインボトル。ガラス瓶の口とテクニカルコルクの栓に刻み目を入れることで、ひねるだけでコルク栓を抜くことができるようになりました。現在はさらにコルクの表面に特殊処理をすることで、刻み目なしで、通常のワインボトルにも利用できる商品へと進化しています。
カルロスさんによると、コルクスクリュー不要で抜けるようにするための抽出力とコルクのO2放出量をHelixが想定するフレッシュなワインに最適化することに最も苦労したそうです。
現在、アメリカでは主にBronco Wine Companyによって、ヨーロッパではNelemanなどの先進的なワインブランドによって導入が進んでいます。OI社がフランス、イギリス、中国、アメリカの4カ国で行った消費者アンケートによると「スマート、上品、楽しい、驚きだ」などの声が挙がっているんだとか。
コルク栓は伝統的な小さなアイテムですが、どんどん進化しているんですね。
【参照】
Amorim https://www.amorim.com/
Helix https://helixconcept.com/
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