この数年、アメリカではアイスクリーム市場が大きく盛り上がっています。
きっかけは、コロナ禍による生活スタイルの変化です。
「家で楽しめる少し特別なもの」「体に良いものを選びたい」というニーズが高まり、素材やフレーバーにこだわったアイスが次々と登場しています。
2020年には約70億ドルだったアイスクリーム市場が前年比17%増となり、過去10年の平均成長率が年2.4%の中、驚異的な成長を遂げました。2024年には182億ドルを突破し、2033年には250億ドルを超えると予想されています。
トレンドの主役は「アーティザン・アイスクリーム」
この急成長を支えているのが、「アーティザン・アイスクリーム」と呼ばれる高品質で個性的なアイスたちです。アーティザン=職人というその名の通り、良質な素材にこだわりながら昔ながらの製法を採用し、今までにないユニークなフレーバーが多いのが特徴です。
人工着色料や添加物、保存料を使わないのはもちろん、環境にも配慮するなど、今の時代に合った価値観が反映されていることもポイントです。こういったアイスはコロナ前から注目されていましたが、在宅時間が増えたことで一気に火がつき、小規模メーカーや個人ブランドの参入も後押しして大流行となりました。今回はその中でも特に人気の3ブランドを紹介します。
1.Van Leeuwen(ヴァン・ルーウェン)
広告なしでも大人気!変わり種フレーバーとセンス抜群のデザインで話題になっています。
「Van Leeuwen」は、2008年に創業者のベン・ヴァン・ルーウェンによってNY・ブルックリンで誕生しました。味のおいしさはもちろんのこと、最大の特徴はそのパッケージにあると言えます。
絶妙なパステルカラーにSofia Pro書体を使用した温かみのあるロゴ、ミニマルなパッケージデザインはPentagramというデザイン会社が手掛けたものです。Pentagramは、アイスクリームのパッケージによくあるごちゃごちゃとした情報をすべて省き、原材料のシンプルさとおいしさを反映するためのカラーパレットと余白を生かしたデザインにしたとのことです。なんと、このデザインに変えたことで売上が50%もアップしたのだとか。

パステルカラーの補色効果で一番目立っています。
もちろん中身も本格派です。たっぷりのクリームと卵、そして厳選したオーガニック原料を使用することで濃厚な味わいになっています。ミシュランの星を獲得したシェフ、トーマス・ケラーのレシピを参考にしたフレンチスタイルのアイスクリームです。安定剤や人工添加物は一切不使用で、環境に配慮した農家や地元の農家から原材料を厳選しています。使い捨て容器などすべて100%再生・リサイクル可能なものを使用し、冷凍庫のエネルギー消費の削減にも取り組み、環境にも配慮しています。また、創業当時からヴィーガン向けアイスも作っています。
また、「Van Leeuwen」は広告をほとんど使用していません。それでもSNSでもたびたび話題になるのが遊び心のあるフレーバーたちです。「地球味」「マカロニ&チーズ」「ランチドレッシング味」「ピザ味」などなど・・・思わず試してみたくなる変わり種がたくさんあります。

大人気のPlanet Earth(地球)味。こちらはヴィーガンバージョン。
味はブルースピルリナとアーモンドのカスタードアイスと抹茶味のアイスのブレンド。
(リンク)https://www.instagram.com/vanleeuwenicecream/p/B_SqT6kFamy/?hl=en

ランチドレッシング味。
(リンク)https://www.instagram.com/p/CpnOFGlglNK/

バーやサンドイッチタイプも。
(リンク)https://www.instagram.com/p/DF0f8XWPQHj/?hl=en

コスメとのタイアップも、シンプルなデザインの拡張性ならでは。
(リンク)https://www.instagram.com/p/DGiyk3XpDVL/?hl=en
2.Talenti(タレンティ)
"中身を見せる"戦略で大人気!透明な容器のジェラートブランドです。
「Talenti」はアルゼンチン生まれのジェラートメーカーです。アメリカでは2003年にテキサスからスタートしました。「Talenti」のトレードマークといえば、その透明な容器です。
中身が見えることで味や香りの想像がしやすく、「美味しそう!」と思わず手が伸びてしまいます。このパッケージは創業者のジョシュ・ホックシュラー氏自らがデザインしたものです。
塩キャラメル、チョコクッキー、アルゼンチンのデザートのドゥルセ・デ・レチェ、バニラジェラート、キャラメルトリュフがレイヤーになったアイスです。
Bloombergの記事では、「Talentiはパッケージデザインが小さなブランドをトップに押し上げた好例」と紹介されています。よくあるカラフルで情報量の多いアイスのパッケージとは異なり、「Talenti」は"静かな自信"を表現しています。言葉数を少なくすることで、他とは異なる存在感を放つことに成功しています。
また、この容器の良いところは口が大きく積み上げが可能で、使い勝手が良いところです。インスタグラムでは#Pintcyclingのタグでアップサイクルの例がたくさん紹介されています。BPAフリーの素材でリサイクル可能なプラスチックですが、捨てずに使い続けたくなる実用性が人気の秘密です。
3. Jeni's Ice Creams(ジェニーズ)
アーティザン・アイスクリームのパイオニアでBコープ認証の優良ブランドです。
「Jeni's Ice Creams」は2002年、オハイオ州で誕生したアーティザン・アイスクリームの火付け役です。
創業者のジェニ・ブリットン・バウアーは美大生で調香師を目指していたそうです。そんな中、チョコアイスにカイエンペッパーを入れたり、バラやバジルを混ぜ込んだ"食べられる香水"のようなアイスを作ってみたことをきっかけにアイス作りの道へ進みました。また、自然そのものの素材をいかし、牧草地で育てた乳製品を使用するなど原材料へのこだわりにも定評があります。味はバタークリームのような濃厚さがありながらも、すっきりとした後味が絶品です。
フレーバーの展開も、グリーンスムージー味、スーパームーン味などのユニークなものから、ヤギのチーズ×チェリーやワイルドベリー×ラベンダーなど幅広い層に人気です。パッケージはレタリングアーティストのジェシカ・ヒシュによるかわいいロゴがアクセントの、手作り感あふれるデザインです。また、2013年には社会や環境に配慮する公益性の高い企業に与えられる「B Corp認証」を取得しました。味だけでなく、企業としての姿勢も高く評価されているブランドです。

グリーンスムージー味。
(リンク)https://www.instagram.com/p/DFTR3pTxm5o/?img_index=1

ヤギのチーズとチェリーのアイス。
(リンク)https://www.instagram.com/p/C-8BowrMxxM/

スーパームーン、コスミックブルーム、パープルスターボーンなどの宇宙シリーズも展開。
(リンク)https://www.instagram.com/cltfive/p/C5ES0UVsWtz/?img_index=3
アーティザン市場と日本の可能性
アイスクリームという一見成熟したように思える市場ですが、SNSの普及やライフスタイルなどの変化により、現在のトレンドや価値観を反映した創意工夫をまだまだ織り込める刺激的な市場に変化しています。そしてこういった質の高いユニークな食体験を提供できる素質としては、やはり日本の可能性を感じざるを得ません。
たとえば、すでに「Van Leeuwen」はさつまいも×柚子のアイス、「Talenti」では生姜×抹茶の組み合わせのジェラートや、「Jeni's Ice Creams」では味噌×バタースコッチ×ブラウニーのアイスなど、日本の味を取り入れたフレーバーも展開していますし、シンプルなデザインの人気も日本との高い親和性を感じます。今後も注目したい分野です。
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