環境配慮に関するキーワード、3R(リデュース・リユース・リサイクル)はよく知られていますが、「McKinsey」によると、2030年までのリユースパッケージの普及率は5%程度にとどまると予測されています。
リユースパッケージの普及を阻害している要因は、インフラの不足に加えて、意識面では高い需要があるものの、実際の消費行動には繋がっていないという現実的な課題が指摘されています。また、コストやサプライチェーンでの受け入れ、製品の安全性なども指摘されています。環境意識の高い欧州では比較的受け入れられているようですが、使い捨て文化が定着している米国ではあまり俎上に載っていません。
ペタルマ市のカップ再利用実験
カリフォルニア州ペタルマ市の再利用可能な飲料カップの試験運用は、地域に導入された全米初のプロジェクトで、コカコーラ、マクドナルド、ペプシコ、スターバックスなどの名だたる大手ブランドが支援する、官民一体のプロジェクトになりました。
ペタルマ市は米国カリフォルニア州ソノマ郡の都市で、人口は約7万人です。ペタルマ再利用カッププロジェクトは、"再利用の日常化"という野心的なビジョンを掲げ、循環型経済構築を目指す団体「Closed Loop Partners」による5年以上の再利用促進の取り組みに基づいて立ち上げられました。
2024年の3ヶ月間、カリフォルニア州ペタルマ市内のレストラン30軒が、60ヶ所を超える地域の回収ボックスを通じて、市内のどこにでも返却できる持ち帰り用の再利用可能なカップを採用しました。このシステムは、従来型のデポジットやペナルティ、登録が不要で、参加に経済的、地理的、心理的障壁を伴うことが多い既存の再利用モデルに比べて導入しやすい仕組みになっています。
米国では毎年500億個の使い捨てカップが購入され、廃棄されており、その多くが埋め立て地に送られています。ペタルマ市のプロジェクト参加レストランの顧客は、追加料金なしで再利用可能な持ち帰り用カップで飲料を受け取ることができます。ペタルマ市内に60個以上のカップ返却箱が設置され、消費者が使用済みカップを返却しやすくなっています。
カップは毎日回収され、洗浄された後、再利用のために循環されます。
結果は、プロジェクトの紫色のカップのうち、51%が再利用システムに返却され、使い捨てのカップと比較して環境上の利点が生み出されました。ペタルマでのコラボレーションは、再利用プログラムが効果を発揮する能力を制限されることが多いアクセシビリティの課題に対処することができました。

カップの再利用フロー
再利用を促進するフードサービススキームの提供
再利用を普及させるためには、容器や回収インフラの構築が必要です。プラスチック包装資材メーカー「Eco-Products」と再利用システムを提供している「Ozzi」は全国の機関に、再利用可能な容器をより利用しやすくするための包括的なサービスを提供しています。
「Eco-Products」の耐久性があり、再利用可能な「Veda」の食品サービス用容器の新製品ラインは、「Ozzi」の追跡および収集技術を搭載しており、多様なニーズを満たすためにさまざまなサイズとオプションの容器を提供しています。
また、「Eco-Products」の製品およびゼロ廃棄物の専門家が、使い捨て容器から再利用可能な容器へ簡単に移行できるように、無料のサポートを提供します。
「Ozzi」の革新的なファイナンス(仕組み)は、食品サービス施設に再利用可能な容器、Ozzi収集機、O2GOカート2台、収集レポート、5年間の技術サポート、完全な部品保証を提供する新しいファイナンスオプションを提供します。特別な料金はかかりません。Ozziマシンは、完全に自動化された収集ソリューションです。
Ozziシステムは、利用者または施設が1回限りの使用料を支払います。その後、容器を受け取って食べ物を詰め、食事後に空の容器を自動Ozziマシンに投入すると、洗浄・消毒されて再利用の準備が行われます。
「Veda」の容器は、食品保護・安全基準を満たすNSF認定を受けており、最低1,000回の洗浄に耐えるエコラボの食器テストを受けています。Ozziシステムは独立して動作することも、「CBORD」や「Atrium」などのキャンパス食事システムアプリにシームレスに統合することもできます。
欧州のリユース実証実験
リユースに比較的積極的な欧州では、「GoUnpackaged」の「Refill Coalition」の下で、小売店「Aldi」とネットスーパーの「Ocado」が詰め替え容器の実験を行い、「Aldi」の店内詰め替え率は最大57%に達し、容器の86%がデポジットなしで返却されました。詰め替え可能な容器は、わずか2サイクルで使い捨て容器の環境パフォーマンスを上回っています。
店内詰め替えステーションは、「Aldi」のソリハル店とレミントンスパ店で16ヶ月にわたってテストされ、モジュール式の詰め替え容器を既存のサプライチェーンに統合しました。これにより、容器1つあたり最大24個の使い捨てプラスチックパックが置き換えられました。同時に、「Ocado」はオンラインストアで消費者向けリターナブル商品を8ヶ月以上にわたり販売しました。消費者は通常の食料品配達時に、事前に充填された再利用可能な容器を受け取り、返却することによって、最大5個の使い捨てプラスチックパックを代替することができます。
調査結果によると、売上シェアは平均30%でした。オンラインリユース品は週ごとの売上シェアが最高43%を記録し、平均16%でした。消費者の満足度は高く、97%が詰め替えシステムを衛生的だと感じ、89%が使いやすいと答えています。
このモデルは「Aldi」の既存の物流システムにシームレスに適合し、デポジットインセンティブなしで86%の容器返却率を達成しました。
「Ocado」利用者の100%が、受け取ったパッケージは清潔だったと回答し、商品は高評価を得て、96%の消費者が再びこの梱包を購入すると回答しています。
さらに、ライフサイクルアセスメント(LCA)によれば、再利用可能な容器は、わずか2回の再利用サイクルで使い捨て容器よりも優れた環境パフォーマンスを発揮し、運用に影響を与えることなく包装廃棄物と二酸化炭素排出量の両方を削減しました。
「Refill Coalition」はこの実証実験によって、拡張可能で商業的に実現可能な再利用システムについて、主流化に向けた準備が整っていることが証明されたと考えています。また、市場の競合企業が協力することで、イノベーションを推進し、コストを分担し、リスクを低減できることを示唆しました。
さらに、売上シェアと詳細な調査は、消費者が普段の買い物の一環として詰め替えや再利用を強く望んでいることを示しています。他の小売業者やブランドもこれらの実績のあるソリューションを採用しています。
再利用への勢いは確かにありますが、成功するには現実的なアプローチが必要です。
欧州では消費者の意識の高まりと使い捨てモデルに対する規制の強化に伴い、再利用可能なパッケージソリューションの需要が高まっています。
再利用は急速に成長していますが、消費者の関心を引き付け、ビジネス価値を高め、環境に良い結果をもたらすなど、いくつかの課題に取り組む必要があります。
「Innova Market Insights」のデータによると、2020年から2024年にかけて、再利用可能な包装を使用した食品・飲料製品の発売は18%増加しました。この傾向を牽引したのは欧州で、世界の発売数の62%を占めました。最も一般的な包装形態はボトルでしたが、スタンドアップパウチが急速に成長しました。最も多く使用されている素材はガラスで、再利用可能な紙製包装も増加しています。
ブランドが再利用と詰め替えに失敗している理由
「Root」のレポートでは、ブランドが再利用と補充の戦略を実行する際に直面する、上位5つの課題を明らかにしました。具体的には以下となります。
1)ルールの欠如
2)LCAの不明確さ
3)ビジネスモデルの転換
4)再利用や補充のしやすさ
5)業界の協調
現状はポリシーガイドラインがまだ策定中であり、ブランドが長期的な再利用および補充戦略を策定できるようにするために必要な詳細が不足しています。欧州の包装および包装廃棄物に関する提案は、特定の産業向けの新しい目標を提示しています。
それでも、「再利用」の世界的な定義、つまりパッケージを補充できる最小回数や、いつ、どのように洗浄する必要があるかなど、ブランドが従うべき明確で一貫したガイドラインが存在していません。そのため、さまざまなブランド、セクター、市場が規則を独自解釈し、誤解を招く「グリーンウォッシュ」の主張や運用上の混乱につながる可能性があります。
拡がるリユース市場
6月16日は世界詰め替えデーに制定されていますが、フェントン・パッケージング・ソリューションズは、アコピアおよびザ・フレンドリー・ケミカル社(FCC)と提携し、2ヶ所のチャリティーショップに「Miniml」製品の詰め替えステーションを開設することで、パーソナルケア・家庭用製品のパッケージを削減することを目指しています。
詰め替えステーションは、英国の2ヶ所で発表されました。従来の硬質プラスチック製容器を廃止し、再利用可能なパッケージに置き換えました。
実施されたチャリティーショップを利用する人々は、倫理的で持続可能な選択の重要性を一般的に理解しており、廃棄物ゼロのライフスタイルを求めることが多いため、持続可能な補充ステーションモデルに完全に一致しています。
提供する容器は、同等のプラスチックパッケージの重量の10%であるため、プラスチックの重量を即座に90%削減できます。バッグは何度も洗って再利用してからアップサイクルすることができ、ボックスも再利用またはアップサイクル可能です。
「Le Bain Hermès」のリニューアルで詰め替え可能なガラス製香水瓶を採用
フランスの高級メゾン「Hermès」は、パーソナルケア商品「Le Bain Hermès」をリニューアルしました。パッケージには、虹のようにカラフルな色合いの詰め替え可能なガラス瓶が採用されています。ガラス瓶は、緑、青、赤を含む8色展開で、ボトルの色が詰め替え容器にも反映されています。
フードデリバリーの大手「Uber Eats」が再利用容器を導入
「Uber Eats」は、レストランのテイクアウト包装の循環経済の構築に注力している「DeliverZero」と協力して、昨年、米国の「Uber Eats」が提携しているレストランに再利用容器を導入しました。ニューヨークとコロラド、西海岸のロサンゼルスとサンフランシスコを中心に130軒以上のレストランで展開しています。
「DeliverZero」は、食品の配達や持ち帰りによる包装廃棄物を削減する、独自の再利用可能な包装ソリューションを提供します。返却可能で再利用可能な食品容器のネットワークにより、加盟店や「Uber Eats」などのプラットフォームは、参加店舗への容易な返却や、宅配業者の手を通じて、再利用可能な容器でのテイクアウトや配達を顧客に提供することが容易になります。
「Uber Eats」の消費者にとって、これは包装廃棄物の削減に参加できる有意義な方法の1つです。ニューヨーク市で約1年前にサービスを開始して以来、「Uber Eats」と「DeliverZero」のパートナーシップで、11,000個を超える使い捨てコンテナが埋め立て処分されるのを防ぎました。「DeliverZero」は、推定1,810kg以上の温室効果ガス排出量と約6,000ガロンの水の使用量を削減しています。
「Uber Eats」のロサンゼルスのレストランパートナーは、包装廃棄物を削減するために「DeliverZero」と契約を結んでいます。また、「Uber Eats」は、インセンティブなどを通じて、LAおよび全国の関心のあるレストランが毎日再利用可能な品を模索できるよう支援しています。
シカゴ・ベアーズ再利用カッププロジェクト
NFLのシカゴ・ベアーズとパートナーである「Keurig Dr Pepper」「Bold Reuse」「ASM Global」「Levy」は、再利用可能なカッププログラムを試験的に導入しています。
このプログラムは、試合ごとに8,000人以上のユナイテッドクラブ会員を対象とし、ファンに追加費用なしでさまざまなサイズのカップを提供します。ファンは、回収・洗浄・消毒・再利用されるよう、マークの付いた収集箱に空のカップを入れます。
このように徐々にリユースが導入されていますが、詰め替えや再利用のプロジェクトはメディアで大きく取り上げられ、大手ブランドオーナーや小売業者から多額の投資が行われていますが、消費者の受け入れは比較的低いままです。
米国の循環型経済センターは2018年以来、小売店やレストランにおいて、多様な再利用可能な包装ソリューションの試験運用を行ってきました。センターの再利用インサイト・ラボでは、市場テスト、フォーカスグループ、顧客インタビューを通じて、定性・定量調査とデータ分析を実施し、循環型経済を日常生活の最前線に据える再利用システムのアーキテクチャを設計・構築する方法を模索しています。
実際にリユースを実践している顧客の体験から抽出されたインサイトを整理すると、再利用プログラムの成功には、顧客に再利用の物流プロセスを理解してもらい、継続的な教育と明確なコミュニケーションが不可欠で、90%以上の返品率を達成することが極めて重要であるとしています。
顧客の再利用プロセスはさまざまな段階にありますが、習慣化には時間がかかります。再利用システムは循環型経済にとって不可欠ですが、再利用の定着には、ライフスタイルへのシームレスな統合が重要で、早期導入者からのフィードバックを共有することで、参加を最適化し、公的・民間双方にとっての再利用の日常化に向けた知見を提供しています。
テクノロジーによって、バックエンドでの再利用の追跡は簡素化されていますが、フロントエンドでの技術的なハードルが多すぎると、顧客が負担に感じてしまう可能性があり、再利用システムが意図した効果を達成するためには、実用性、持続可能性、魅力のバランスをとることが重要です。
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