日本で「量り売り」と聞いて思い浮かぶのは、オーガニックやエシカル消費にこだわった、ちょっと特別で洗練されたお店ではないでしょうか。
実際、日本ではそうした"こだわり派"の専門店が中心で、環境や健康への意識が高い人たちがターゲットになっている印象です。ディスプレイや商品、接客に至るまで丁寧に設計されていて、「行くだけで気持ちが高まる」と感じる人も多いはず。私自身、そのようなお店を訪れるときは、日常というより体験としての買い物になることがほとんどです。
一方カナダでは少し違った光景が広がっています。もちろんナチュラル志向の洗練されたお店もありますが、もっと身近で日常的な"庶民派"の量り売りショップが街に溶け込んでいます。おしゃれな内装や厳選された商品が並んでいるわけではないけれど、誰でもふらりと入れて気軽に利用できます。量り売りショップで子どもから高齢者までが自然体で買い物を楽しむ様子は、日本ではまだあまり見られない光景かもしれません。
今回はそんなカナダの量り売り文化を象徴する2つの店舗をご紹介します。
The Source Bulk Foods(ザ・ソース バルク フーズ):洗練された体験を求める人へ
まずご紹介したいのが、「The Source Bulk Foods」です。環境や健康への意識が高い層から支持されている量り売りショップです。丁寧に選ばれた商品が450種類以上並び、全てがオーガニックです。内装は木の質感を生かしたナチュラルな空間で落ち着いた雰囲気です。
穀物、ナッツ類、スパイス、製菓材料を主に販売しています。
洗剤やシャンプー、入浴剤などの日用品も量り売りされています。
さまざまなラインナップの中で特に印象的だったのは、自家製のナッツバターです。店頭にはその週の搾油スケジュールが掲示されていて、どの日にどのナッツが搾られるかがわかるようになっていました。こうした細やかな管理からも、鮮度に対するこだわりが感じられます。
実際に購入したダークチョコレートはとても濃厚で香り高く、良質なものでした。
食材だけでなく、すでに調理されたグラノーラやスナックも販売されています。
店内で作られているコンブチャも量り売りです。サーバーが設置されており、ちょっとした楽しみがあります。味は日替わりで提供されていました。
店内の黒板には、スタッフのお気に入りの商品やゼロウェイストを目指したスローガンが可愛く描かれていて、自然と目を惹かれます。
洗練された店内や質の高い商品を見て、買い物というより"暮らしを選ぶ時間"といった印象を受けました。エコバッグを提げたお客さんたちが、ひとつひとつの商品をじっくり見比べる姿も印象的でした。
環境保護への取り組みも積極的で、これまでに4,500万枚以上のプラスチック袋を埋立地から削減し、5,000kg以上の包装廃棄物の削減にも貢献しています。また、海洋保護団体「Sea Shepherd(シーシェパード)」への寄付活動も継続的に行われており、企業としての姿勢にも一貫性があります。
ゼロウェイストやエシカル消費を意識した買い物を楽しみたい方には、まさにぴったりのショップです。
Bulk Barn(バルクバーン):暮らしに根づく量り売りスーパーマーケット
一方、もっと実用的に、もっと気軽に量り売りを取り入れているのが「Bulk Barn」です。1982年に創業し、カナダ全土に275以上の店舗を展開する国内最大級の量り売りチェーン店です。その存在感は抜群で、まさに"量り売り版のスーパーマーケット"といった位置づけです。
店内には常時3,000種類以上の商品が並びます。お菓子やナッツ、穀物、製菓材料はもちろん、ペットフードまで網羅しています。ヴィーガン、グルテンフリー、非遺伝子組み換えなど、多様な食のニーズにも対応しています。あまり量り売りのお店では見かけないロングパスタも販売しており、ショートパスタの種類も豊富です。
ソースやジャム、スープ、さらにはアップルパイの中身など、すでに加工されたものも多くあります。
プロテインも味や成分の違いによって幅広くラインナップされており、スーパーマーケット以上の品揃えに感じられました。
ペットフードも充実しています。大型犬から小型犬まで、ごはんからおやつまで。犬猫はもちろん、鳥類やハムスターなどの小動物のフードも揃っていて驚かされます。
価格も良心的で、新しい食材を試してみたいときや、特定のレシピにだけ使いたいときにも便利です。一方でまとめ買いにも対応しているため、ファミリー層にはまとめ買い用の店としても重宝されているようです。まさに「必要な時に、必要な分だけ。」そんな合理的な買い物スタイルが、日常の中で自然と根付いています。
内装はシンプルで、商品によってはダンボールのまま並んでいますが、それがかえって肩肘張らない雰囲気を作っています。
たくさんのスナックが並び、色とりどりの商品が並ぶ光景は大人でもワクワクします。ある店舗では小さな子どもたちが真剣な表情でお菓子を選び、袋に詰めている姿が印象的でした。
特別なこだわりがなくても、誰でも気軽に楽しめる、そんな庶民的な空気がこのお店の魅力です。
持参した容器で買い物ができる「Reusable Container Program(マイ容器プログラム)」も導入されています。ジャーやタッパーなどの再利用可能な容器を使うことで、使い捨てプラスチックの削減につながる仕組みです。
こうした取り組みはナチュラル系ショップでは珍しくありませんが、「Bulk Barn」のような大規模チェーン店でもしっかり根づいているのが特徴です。店頭ではまず容器の重さを量り、ラベルを貼ってから商品を詰めることで、中身だけの重さが精算されるようになっています。この制度はすでに多くの人に利用されていて、2021年時点では売上の20%がマイ容器を使った購入によるものです。
毎週日曜には15%オフになる「サステナブル・サンデー」も実施されており、気軽にエコを取り入れたい人にとっても始めやすい仕組みとなっています。
店頭には無料の使い捨て袋やプラスチックカップも用意されています。また、その場でガラス容器を購入することも可能です。
クリップ付きの紙とペンが用意されていて、詰めた商品の内容をメモできます。
「The Source Bulk Foods」のような"こだわり派"と、「Bulk Barn」のような"庶民派"。対象とする客層やアプローチは異なりますが、どちらも買い物の選択肢を広げています。「量り売りは意識が高い人だけのもの」と思っていた人でも、「Bulk Barn」のような店に出会えば、「これなら自分にもできそう」と感じるかもしれません。一方で、「The Source Bulk Foods」のような店に足を運ぶことで、日常の買い物に心地よい刺激や、新しい気付きを得られることもあるでしょう。
自分の暮らしや価値観に合ったスタイルを選べるからこそ、無理なく続けられる。カナダの量り売り文化には、そんな自由さと柔軟さがあります。日本でも、もっと幅広いスタイルの量り売りが広まっていけば、日々の買い物が豊かになるかもしれません。
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