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紙器は軟包装にとって代われるか?

紙器は素材別で国内パッケージ出荷統計で全体の約45%を占めています(包装技術協会出荷統計)。ここ数年そのシェアは着実に増加しています。紙器の増加にはどのような要因があるのでしょうか?

第一に、新型コロナウィルスによる生活スタイル、購買行動の変化が想定されます。ここ数年劇的に増加したのが、eコマース市場です。経済産業省によれば、2019年の同市場規模は19兆円を超え、2010年の7兆7千億円に比べて倍以上、年間の伸び率も5%を超える急成長を記録しています。

経済産業省 日本のBtoC-EC市場規模の推移(単位:億円) より

店頭販売では、陳列棚に並べられるパッケージは商品情報の告知や、POP販促機能が求められますが、 eコマースに求められるのは、まず輸送とロジスティックへの適応です。この機能に最適なのが段ボールです。段ボールは軽く、扱いやすく、加工もしやすく、強度も申し分ないことから宅配便などの輸送にも適しています。

そして、eコマース市場において大事なのは商品を開封する顧客タッチポイントの演出です。まさに蓋を開ける一瞬の演出がパッケージに求められているのです。

「蓋を開ける」という表現は紙器にピッタリの表現かもしれません。YouTubeで「unbox therapy」という新製品を開封するチャネルは、登録者1,820万人を超える大人気チャネルです。新製品のパッケージを開封するところから始まる映像は消費者の期待を、パッケージを開封する一瞬に凝縮させています。

Amazonはeコマース対応のパッケージを作成するためのガイドラインとして、「フラストレーションのないパッケージ」(FFP)めざしています。具体的には廃棄物が少なく、開封が容易で、コスト的にリーズナブルで、輸送中に商品を保護できるパッケージです。顧客の期待やニーズに適合することによって有意義な開梱体験を演出できれば、顧客との良好なブランド価値を構築することができます。米国では独自の顧客タッチポイントを作成するための製品パッケージソリューションの需要が、2025年まで に合計615.5億ドルと予測しています。

進むプラスチックの代替

紙器成長の2番目の要因は「プラスチック環境憲章」の影響です。プラスチックの使用を最小限に抑えるという消費者や政府、団体からの圧力が高まり、多くのブランドオーナーや食品生産者は、環境への取り組みを強化しています。

フランスの冷凍食品専門店Picardは、プラスチック消費量を年間16.5トン削減するために、リクローズ機能を持った紙ベースのアイスクリームカートンを導入しました。新しいアイスクリームカートンは、95%の持続可能な方法で管理された森林からの再生可能な繊維ベースの紙によって作られているため、多くの国で紙器のリサイクルルートに適応可能です。ポリエチレン(PE)の薄い内層が、製品の保護とバリア性を保証します。

このような紙化の動きはわが国でも顕著です。味の素株式会社は同社のメイン商品である「味の素」「ハイミー」のプラスチック包装を紙化することですることで、年間12トンのプラスチックを削減しました。

化粧品の株式会社コーセーは「雪肌精」のパッケージを紙単一素材のスタンディングパウチで実現しました。一般的な紙製スタンディングパウチは紙素材に加えてシーラント層にプラスチック素材を組み合わせますが、本製品は紙素材とヒートシールニスで構成することで、プラスチック使用ゼロ化を実現しました。また外箱には国内の古紙回収率90%以上、省資源化で地球環境に貢献できる段ボール素材とバイオマスインキを採用しています。

ネスレのSMARTIESは1937年に市場導入されて以来、全世界で年間2億5千万個が販売されるお菓子です。

2021年、わずか2年間の計画と開発の後ネスレはSmartiesのすべてのパッケージを全世界で、リサイクル可能な紙に切り替えました。これは、2025年までにパッケージの100%をリサイクル可能または再利用可能にするという同社の取り組みの一環です。また、生産ラインをプラスチックから紙に移行させるという困難なプロジェクトでもありました。

このプロジェクトの詳細についてはYouTubeでもご覧になれます。

スーパーなどで使われているプラスチックトレイを紙に替えたのがスペインのコンバーター「Graphic Packaging International」です。持続可能な方法で管理された森林から供給される再生可能な繊維から作られたPaperSealは、従来のトレイと比較してプラスチックを80〜90%削減します。使用後はフィルムライナーを分離できるため、リサイクルが容易になります。また、ガス置換・真空パックトレイも利用可能で、従来のプラスチックトレイと同等のシールの完全性と貯蔵寿命を提供します。生鮮および加工肉、スライスチーズ、調理済み食品、冷凍食品、スナック、サラダ、フルーツなど、幅広い製品に利用可能です。このパッケージは世界のworld star賞と日本のグッドデザイン賞を受賞しています。

バイオベースの紙ビール瓶「ファイバーボトル」

デンマークのビールメーカーCarlsbergは6月22日西ヨーロッパ8か国で、再生可能化学の第一人社Avantiumによって開発された植物ベースのPEF(ポリエチレンフラノエート)を使用したバイオベースの完全リサイクル可能なビール瓶「ファイアーボトル」を開発し、8,000名に市場テストを行うことを発表しました。

PEFは完全に天然原料から作られ、プラスチックのリサイクルシステムとの互換性があり、国のリサイクルシステムから外れても自然に分解されます。PEFは持続可能な包装の利点に加えて、ビールと外殻の間の効果的なバリアとして機能し、従来の化石燃料ベースのPETプラスチックよりもビールの味と泡立ちを保護します。驚くことにバイオベースのこのシェルには、缶やガラス瓶と比較して、ビールをより長く冷たく保つ機能を持っています。

このプロジェクトはPEFの生産元であるAvantiumとCarsberg,Paboco(Paper bottle Company)  及びPaper Bottle Communityの協力で実現しました。

Carlsbergの持続可能性プログラム「Together Towards ZERO]は2030年までに醸造所での炭素排出をゼロにし、バリューチェーン全体のカーボン・フットプリントを30%削減することを目指しています。Pabocoはコカコーラやロレアルとも協働プロジェクトを行なっており、今後もペーパーボトルの開発は続くものと思われます。

ビールの輸送には一般的にシュリンクフイルムが使われますが、このシュリンクフイルムを板紙に置き換えたのがスペインのパッケージコンバータGraphic Packaging International Spainで、Estrelaビールのマルチパックパッケージとして、輸送にも陳列にも対応する丸みのあるパッケージを開発しました。

広がる紙器需要

紙器が軟包装に取って代わるには、バリア性と透明性が不可欠です。バリア紙については王子製紙の「SILBIO BARRIER」シリーズや日本製紙の「シールドプラス」、凸版印刷「GL-X-P」などが開発されています。また透明な紙についても「セルロースナノファイバー」や王子HDと三菱化学などの開発例が存在します。また、LIMEXのような新しい素材の出現で、近い将来プラスチックに代替する紙素材も出現するでしょう。ただ軟包装にはこれまで築いてきた、製造ノウハウや加工技術があります。紙の需要を伸ばすためにはそれらを一つ一つ解決していく努力が必要です。

 

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