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医療市場でリパッケージングニュービジネス

リパッケージングでニュービジネス

厚生労働省の推計によると薬剤師は45年に2.4万人が過剰になるとしています。そうした中、薬剤師の資質の維持・向上を課題として薬学部の入学定員の「抑制」が提言されました。中央社会保険医療協議会では、2022年度の診療報酬改定に向けて薬剤師の報酬の在り方についても議論が進められ、薬局経営についても大きな課題が投げかけられています。

医薬品市場の年間成長率は5%ですが、世界の医薬品の売上高は1,100兆ユーロを超えています。米国が全体の47.5%、ヨーロッパとアジアがそれぞれ23.5%と22.5%を占めています。

そんな医薬品市場にリパックのイノベーションが起きています。2006年ドイツはブリスターパックに医薬品の再包装を許可しました。患者の薬剤摂取タイミングに合わせ、毎日接種する錠剤を処方箋に合わせて、日毎、時間帯別に再パッケージ化できるようにしたのです。

ブリスター包装センターでは、処方箋データをベースに薬を調整し気密で衛生的な袋に詰め替えます。患者個々の毎日の投与量のラベル付けと体系的な保管により、薬剤の間違いや取り違えを防ぎます。

EUの保健部門では特に厳格な衛生面の要件が求められます。具体的に、滅菌と保護包装による2段階のバリアシステムです。これは保管および輸送中の物理面と微生物的障害から内容物を守るためです。

米国ではAmazonがこのビジネスに参入しました。2年前にオンライン薬局PillPackを推定10億ドルで買収し、オンライン薬局Amazon pharmacyを立ち上げました。PillPackは「薬の服用に関する患者の負担の軽減」をビジネス理念にPharmacy OSを活用してサービスを展開しています。

ビジネススキームはドイツの例と同じで、処方箋にあわせて毎日飲用する薬剤を日付、摂取時間(朝、昼、晩)に合わせて一連のブリスターパックにリパックします。

Phamacy OSはオンライン上の処方薬管理システムで、利用者から送られてきた処方箋をもとにPillPackの薬剤師がPhamacy OSへ情報を入力します。処方箋をもとに薬を準備し包装設備にセットすると、薬が日にちごとに小分けされてそれぞれのパッケージに日付、時刻、薬の種類、服用量が印字されます。

Pharmacy OSは内蔵された画像認識プログラムとAIによって、薬の処方にミスがないかを自動的に画像認識を行い検査しながらリパッケージングしていきます。そして安全性が確認されると、処方薬を日にちごとに小分けした袋のロールを専用のディスペンサーにセットし、利用者のもとに郵送します。リパックすることで患者、医師や看護師、介護者、老人ホームの担当者の日常業務を大幅に削減し、飲み忘れや不注意な誤用、投与量エラーを防ぎます。また処方箋の変化に対してリアルタイムに対応できます。

そして特筆すべきは、プライム会員であれば患者が支払うのは薬代だけで、郵送費は無料のサービスになり、米国の複雑な保険制度にも対応できていることです。

PitchBookより

米疾病予防センター(CDC)によれば、アメリカ人の5人に1人が1日に3種類以上の薬を服用しており、アメリカ国内だけでも約3,000万人もの人が毎日複数の薬を必要としています。

世界保険機構(WHO)は「約50%の患者が正しい服用を行っていない」としています。服用ミスは重大な症状悪化につながり時には死を招きます。

アメリカの医学専門誌によればアメリカ国内だけで薬の服用ミスによる死亡者は年間12万5,000人以上にものぼると言われます。

複数の処方薬を毎日自分で準備するのは大変な作業で、曜日別に整理されるピルケースやカレンダーなどを利用している人も多いと思います。薬によっては1日おき、2日おきという服用ペースの違いもあり毎日正しい薬の服用を続けることは至難の業です。

PillPackのシステムはこの課題に対応したもので、Amazonの購買力で薬の価格支配力を実現しており、ジェネリック医薬品であれば最大80%のディスカウントを実現しています。

Amazonは2022年7月にも医療サービスを提供するワンメディカル社を39億ドルで買収し、医療分野への本格的な進出を表明しています。ワンメディカル社は24時間オンラインで、医師の診断を受けられるサービスで、パンデミックの影響もあり需要が拡大しています。2022年3月末時点で全米25市場、計188の診療所ネットワークを運営しており、76万7000人の会員、8500社の法人顧客を持ち、「One Medical Now」と呼ぶオンライン診療サービスを年額199ドル(約2万7000円)で提供しています。

法人契約を主体に、年間199ドルのサブスク契約で診療所の医師が契約者から健康不安などの相談を受け、状態に応じて適切な処置や病状が深刻な場合は専門医を紹介するプライマリーケアサービスを提供しています。

医療分野における今日的な課題は高齢者対策ですが、調査によれば50歳以上の高齢者の60%がオンライン注文を利用していることから、インターネットを通じた各種医療サービスには伸び代があります。PillPackは配送も含めてオンラインで完結していますが今後は町中の店舗拠点を活用したリアル店舗の活用もアナウンスしています。

また薬の一包化はご存じない方も多いと思いますが、日本の調剤薬局でも依頼可能です。ただし医師の指示が必要となります。医師に相談するか、若しくは薬剤師に相談し、医師に確認をとります。医師の指示が得られない場合でも、ほとんどの薬局で一包化することは可能ですが、料金(条件によっては保険適用もあり)が発生することと、リパッケージングの方法が限られているので、湿気などに弱いものについては対応できません。

日本では基本的に薬剤師による対面販売が義務付けられていますが、愛知県と福岡県で国家戦略特区を活用したオンライン服薬指導もスタートしています。

電子処方箋

2023年1月に厚生労働省が電子処方箋の本格導入をスタートします。医療機関、薬局、患者間で処方箋データを共有することによって、転職や退職、転居などで保険証や住所が変わっても服薬履歴を切れ目なく確認、記録することができます。マイナンバーカードの普及もこの動きを後押しします。

医師の処方意図も併せて電子処方箋に記載することが可能になり、薬剤師との連携が容易になります。電子処方箋の普及によって薬局から医療機関への疑義照会、調剤結果のフィードバックが容易になり、医療機関側がよりよい医療を提供するための情報を集めやすくなります。薬局側が調剤内容を誤入力することを防ぎ、薬局側の処方情報入力業務を省力化でき、処方箋の偽造や再利用を防ぐことができるといったメリットもあります。

日本でもICTを活用した服薬情報の一元的、継続的な把握が求められており、近い将来、PillPackのようなサービスがビジネス化されることも想定されます。

日本における課題は Pharmacy OSと同様のソフト開発と薬剤の画像データベース化になります。財団法人医療機器センター久保田氏の「日本で使われる薬の数と承認の考え方―新薬承認と保険適用―」によれば、わが国には約3,000成分、17,000品目 の医療用医薬品が存在しています。

これらの膨大な医薬品のデータベース化を進める必要があり、リパケージングを個別の調剤薬局でやるのか、専門のセンターに依頼するのか、ビジネススキームの再構築と法整備が求められるでしょう。

リパッケージングというシンプルなビジネスモデルですが、実現のためには多くの課題があり、Amazonが既存のノウハウで日本市場を席巻するのか、日本調剤などの日本の市場を知り尽くした日本企業が死守するのか、注目の数年になりそうです。

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