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パッケージの再設計

120年の歴史を持つ飲料ブランド、「カナダドライ」が2024年5月に、14年ぶりにパッケージデザインを変更しました。新しいフレーバー、「カナダドライ フルーツスプラッシュ」の発売に合わせて、カナダドライ製品の全種類の缶とマルチパックカートンを新しいデザインに移行しました。

新しいグラフィックは、長年使用されている視覚的なブランド要素を基本にしています。カナダドライおなじみの王冠と盾、そして緑、金、赤の基本色を、パッケージデザインのコア資産として大事に継承しています。

今や、パッケージの再設計は、ブランドにとって不可欠な施策です。適切な再設計を行えば、売り上げを飛躍的にアップさせることも可能です。デザインリニューアルによる売り上げの影響度を基に表彰している「Designalytics Effectiveness Awards」は、市場での販売実績と各デザインの厳格な定量的消費者テストに基づいて、受賞者の選定を行っています。

2021年のグランプリは、 E. & J. Gallo Winery のワインブランド、「Dark Horse」が授賞しました。ブルックリンを拠点とするクリエイティブエージェンシー「ForceMAJEURE」が再設計を担当。同ブランドのビジュアル資産である馬の絵柄を強化し、大胆な色使いでポップなデザイン展開をしました。

再設計の結果、Dark Horseの売り上げは前年同期比で15%増加し、同価格帯のワインの平均を大きく上回りました。Designalyticsの分析によると、ワイン購入者は 6.7フィート離れたところから従来デザインを識別していましたが、リニューアル後のデザインでは倍以上の15.2フィート離れたところから新しいデザインを認識し、消費者のブランド認知距離は2倍以上に伸びました。

また、Dark Horseをよく知っている消費者に新しいデザインについて調査したところ、90%が馬のアイコンをブランド独自のものとして認識しています。
(参照:https://www.forcemajeure.design/project/dieline-x-designalytics-design-effectiveness-award/)

大きく商品ポジショニングを動かしたCVS Beauty

2024年のグランプリはこの賞で初めてプライベートブランドが受賞しました。世界中でエネルギー価格や、製品価格の上昇に伴ってプライベートブランドが注目されていますが、ドラッグストアCVS Beautyはそれまでの典型的なプライベートブランド「Beauty 360」のブランドポジションを見直し、ナショナルブランドと競合するような高品質で手頃な価格帯の商品として位置付けました。

デザイン変更後の6か月間で、CVS Beauty製品の売上は前年同期比で20%増加しています。Designalyticsの消費者評価でも、さまざまな商品で評価が上がっており、オレンジ色のキャッチーなアプリコットフェイシャルスクラブは、カテゴリー購入者の74%が以前のデザインよりも新しいデザインを好んでいます。
(参照:https://thedieline.com/the-cvs-beauty-brands-bold-new-design-delights-consumers-and-drives-heart-y-sales-growth/)

CVS Beauty Before

CVS Beauty After
パッケージの再設計とは、既存の製品や商品に対するパッケージ(包装や容器)のデザインや機能を見直し、改善するプロセスを指します。このプロセスには、以下のような目的や要素が含まれます。

    1. 機能性の向上: 製品の保護や運搬の効率を高めるために、材料や形状を変更
    2. 視覚的な魅力: 消費者の目を引くデザインに変更し、競合製品との差別化を図る
    3. 環境への配慮: 環境に優しい材料を使用したり、リサイクル可能なパッケージにすることで、持続可能性を向上させる
    4. ブランドイメージの強化: ブランドの価値やメッセージを反映したデザインにすることで、消費者にアピール
    5. コスト削減: 生産コストや物流コストを削減するために、材料や製造プロセスを見直す
    6. ユーザーエクスペリエンスの向上: 開封のしやすさや使いやすさを考慮し、消費者の利便性を高める

パッケージ再設計のタイミングと重要性

それではどのような状況になった場合、パッケージの再設計が必要になるのでしょうか?企業、業界、消費者は刻々と進化しており、さまざまなパッケージ要素の重要性が増しています。パッケージをアップグレードするタイミングを知ることは、時代を先取りし、顧客とブランドのつながりを保つために欠かせません。

小売業は熾烈な競争を伴い、 ある調査では購入の決定の73%が販売時点で行われているといわれます。パッケージをアップグレードすることによって、ブランドを再定義し、消費者マインドの中でブランドの位置付けを変えることが大事です。パッケージを頻繁に変更することは好ましいことではありませんが、タイミング良く変更することは顧客にとっても新鮮な刺激です。

パッケージを変えるべき5つの兆候

(1)パッケージ更新から時間が経過

最後にパッケージを更新したのが6〜8年以上前であれば、パッケージ再設計のタイミングかもしれません(もちろん100年経過しても更新の必要性を感じられない素敵なパッケージもあります)。
現代の市場の変化は大変早く、顧客のニーズや、製品、技術、マーケティング手法、法的枠組みが変化します。以前行った決定はもはや適切ではない可能性があり、ブランドを新しい段階に進めるためにリフレッシュが必要になります。市場には様々なデータがあり、パッケージが時代遅れになっていて顧客の支持を失っているかどうかを判断することができます。

アイスクリーム分野で絶対的なポジションを保ってきた「ハーゲンダッツ」も、パッケージを通じた味覚の訴求という点で課題を持っていたことから、「広く認知されているブランドから愛されるブランドへ」と進化するためにブランドエージェンシーのチェイスデザイングループはそれまでの金色の飾りから味覚を感じさせる淡い装飾に変更しました。この変更によって2021年3月に新しいパッケージが展開されてから、ハーゲンダッツの売上は2020年の同時期と比較して6%以上増加し、シェアが1.6ポイント上昇しました。

(2)競争相手に遅れをとっている

急速に変化する業界で現状維持を続けることは、常に変化し続ける競合製品によって追い抜かれることを意味します。競合他社が何をしているかを常に確認する必要があります。競合他社が変化を遂げ、目新しさを重視する消費者意識の最前線に立っている場合、急いで追いつく必要があります。
常に顧客の注目を集め、維持するためには、最善の変更を検討する必要があります。パッケージの変更は、注目を集めます。ブランドの長所と短所を特定して、競合他社と差別化する戦略が必要です。

2018年、約5年間アートワークを変えていなかった「Dove」は、従来の競合製品に加えてeコマースなども増えてきたことで、リフレッシュの必要性を感じ、高級感、現代性、保湿効果、そして感覚的な体験の向上を強調する進化的なデザイン変更を通じて、新しい購入者を引き付けたいと考え、また、より持続可能を求める消費者のために、100%リサイクル後のプラスチックボトルの使用や動物実験の実施中止など、ダヴの価値観を伝えたいと考えていました。
発売後6ヶ月間で、同ブランドは前年同期比で2桁の売上成長を達成し、ボディウォッシュ カテゴリーで初めて20%を超える記録的なシェアを達成しました。

(3)パッケージが持続可能ではない

持続可能性は単なる流行ではありません。より持続可能な方法で事業を運営することが課題となっています。消費者の8割以上が、環境は食品の購入決定に影響を与える主な要因と認識されています。人々は環境への影響を最小限に抑えるブランドに注目しており、環境に優しい製品を求めています。

炭酸飲料の7UPはVIS(ビジュアル アイデンティティ システム)を導入し、新鮮な存在感を持つ7UPの外観と雰囲気を作り出し、ロゴやラベルデザインを一新しました。このプロジェクトはシカゴ・アテナイオン建築デザイン博物館とヨーロッパ建築芸術デザイン都市研究センターから2023年度グッドデザイン賞を受賞しました。しかし、ボトルの色はそれまでのグリーンを踏襲しました。これに対し、多くの人が着色ボトルのリサイクル適正に疑問を投げかけたことから、透明ボトルへの転換の動きも進んでいます。

SCジョンソン社はAmazonと連携して2022年に、いくつかのクリーニング製品にDISSOLVE™濃縮ポッドを導入しました。ポッドは水道水で溶けるため、詰め替え用のボトルなどが不要になり、プラスチックの使用量が94%削減されます。

(4)ブランドメッセージが失われている

ブランド メッセージが数年前と同じくらい強力であるか検討する必要があります。商品は依然としてコアバリューを反映しているでしょうか?ブランドメッセージは時代に即して変化してきたでしょうか? ブランド メッセージを刷新したい場合、パッケージの再設計は優れた出発点になります。
自社のブランドを正直に見つめ、パッケージの要素が存在する理由と、その理由が現在でも有効かどうかを確認する必要があります。消費者がこれらの要素を認識し、共感できるかどうか、あるいは、より正確で創造的な方法でメッセージを伝えることができるかどうかを検討します。

ブランディングプロセスに最も影響を与えるのは購入者です。ブランドメッセージを理想的なオーディエンスに効果的に届ける方法を決定し、これらのパラメータに基づいて明確なアイデンティティを作り直す必要があります。
米国の家庭の半分に普及しているSuave Kidsのデザイン見直しで、ブランドエージェンシーはこの商品の訴求ターゲットを子供にするのか、保護者にするのかを整理して。子供に訴求することを選びました。そして、子供たちに訴求するキャラクターデザインを導入しました。結果前年比11%の売り上げ増を達成しています。

(5)トレンドの変化

トレンドは、色やロゴのデザインからパッケージの素材や質感まで変化しています。トレンドに遅れずについていくことで、適切な顧客をターゲットにし、棚で目立つことができます。短期間しか効果がない一時的なトレンドと、デザイン言語や消費者の好みの大きな変化を区別することが重要です。

業界の重要なパッケージングトレンドを常に把握しておくことで、顧客が自社製品を選ぶようにすることができます。たとえば、2023年には顧客はミニマルなパッケージデザインを好んでいました。大きなフォント、レトロ風のデザイン、パーソナライズされたパッケージなどもトレンドでした。アップグレードにこれらを組み込むことで、ブランドメッセージを最大限に高めることができます。

「Dry Idea」は、1970年代にジレット社が男女共用の制汗剤として発売しました。1990年代に男性用ラインは廃止され、ブランドは女性向け製品に焦点を移しました。その後、2006年にダイアル社に買収され、ダイアル社はその後ヘンケル社に買収されました。
Dry Ideaの新しい所有者であるThriving Brands, LLCは、忘れ去られたブランドの品質とパフォーマンスに可能性を見出し、現代の消費者向けにDry Ideaを再設計しました。ミレニアル世代とZ世代の女性の圧倒的多数がブランドをほとんど認知していないため、Dry Ideaの世界を根本的に変えることを決定しました。80年代のブランドアイデンティティを捨て、現代の消費者に魅力的で現代的なものにすることを意思決定、ブランドアイデンティティのほぼすべてを変更しました。

 

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