ノンアルコール飲料の拡大は、単なる"健康志向"や"代替"の枠を超え、多様な価値観やライフスタイルに対応する選択肢として進化しています。
今回ご紹介するのは、カナダ発のノンアルブランド7社。それぞれの製品が、どのような視点でパッケージを設計し、どのようなストーリーでプロモーションを展開しているのかをご紹介していきます。
いずれのブランドも、オーガニックなどの健康軸を持ちながら、見た目はポップでスタイリッシュです。日本で想像する"ヘルシー系ドリンク"のイメージとは一線を画しています。ターゲットは明確ながらも限定的ではなく、Z世代から子ども連れのファミリー層まで幅広い印象です。
腸活をカジュアルに楽しむ、遊び心があるソーダ
「Geez Louise(ジーズ・ルイーズ)」は、1缶に5gのプレバイオティクスを含む"毎日ケア型"のソーダです。プレバイオティクスとは、腸内の善玉菌のエサになる成分で、腸内環境の「土台」を整える働きがあります。代表的な成分にはイヌリンや食物繊維があり、機能性飲料のひとつとして注目される要素です。
このソーダは、外部のクリエイターチームと連携して開発され、タイポグラフィを主役にしたミニマルなデザインと、遊び心のあるコピーが印象的です。
「Join the gut‑together(腸活でつながろう)」「The soda that cares about your gut!(あなたの腸を思いやるソーダ!)」など、身体への気遣いを軽やかに伝える表現が多く、見た目からも"健康的だけど楽しい"という価値観を打ち出しています。
機能性に寄りすぎず、ポップなカルチャー感覚で"腸活"を提案する点がユニークです。
"いかにも健康"を脱した、ポップで親しみやすい一本
「Cove Soda(コーヴ・ソーダ)」は、「Trust your gut!(腸を信じて)」というキャッチコピーを掲げるオーガニックソーダです。こちらもプロバイオティクスを含み、有機栽培の素材を使用しています。ゼロシュガー・人工甘味料不使用といった設計に加え、1缶で1日に必要なビタミンCの約80%を摂取できる機能性も備えています。
注目したいのは、そのパッケージの"ふつうっぽさ"です。多色使いの明るい配色とポップなロゴで構成された缶デザインは、他の砂糖入り炭酸飲料に混ざっても違和感がないほどです。いわゆる"健康飲料らしさ"をあえて感じさせないビジュアルが、手に取りやすさや間口の広さを生んでいるのではないでしょうか。
地産果実の恵みをそのまま詰めた一本
「Heartwood Sparkle(ハートウッドスパークル)」はトロント郊外のエコファーム「Heartwood Farm」で生まれたノンアルコールドリンクです。
グランピングや農場体験ができる施設で、果実を搾汁し炭酸を加えて缶にしています。りんご、洋梨、サワーチェリーなどの地元産果実を直搾りし、自然サイクルの中で育まれた素材そのものの味わいが詰まっているのが魅力です。添加物や加糖は一切加えず、果実の質感がそのまま缶に閉じ込められているのが特徴です。
4つの素材で勝負。信頼と共感を集める一本
「Healtea(ヒールティ)」は、逆浸透膜で浄化した水に、有機ハーブ、レモン果汁、カナダ産メープルシロップのわずか4つの素材のみで作られたハーブティーソーダです。
逆浸透膜とは、極小のフィルターで水の不純物を取り除く浄水システムで、ピュアな水をベースにしています。そこに加えるのは、カナダの自然が育むオーガニック素材ばかりです。
2024年には、スパークリングウォーター部門で「Product of the Year Canada」を受賞し、ブランドとしての信頼性も高まっています。
また、プロモーション施策としては、夏季限定でドリンクコンテストを開催。ヒールティーを使ったモクテルやカクテルの動画をユーザーに投稿してもらう参加型企画で、フレーバーに合わせた受賞枠を設けるなど、ブランドと消費者の距離を縮める取り組みが印象的です。
都市への愛を缶に込めたブランド
「City Seltzer(シティ・セルツァー)」は「I LOVE THIS CITY(この街が大好き)」というメッセージを缶に掲げ、都市への愛情とコミュニティ感を訴求するソーダブランドです。ミニマルなタイポグラフィと、フレーバーごとに異なる爽やかな色味を使った缶デザインが特徴です。地元らしさと軽快な飲み心地をリンクさせ、街の風景に自然と溶け込むような存在に仕上がっています。
「City Seltzer」は、オタワ川の保全を目的としたチャリティ団体とのパートナーシップを結び、毎年の売上の1%を寄付しています。実際に河岸のクリーンアップ活動にも参加しており、「泳げて、飲めて、釣りもできる川」を次世代へ残すというミッションを支援しています。
また、SNSや広告ビジュアルではストリートや公園など、リアルな都市風景を背景にしたカットが多く、ブランド全体が"都市生活者向け"という視点で統一されています。シンプルで親しみやすいパッケージに、地域とのつながりを重ねることで独自の存在感を放つ一本です。
メープル樹液を使った新感覚スパークリング
「Sapsucker(サップサッカー)」は、カナダ産オーガニックメープルの樹液(サップ)を炭酸化したブランドです。「Not Just a Pretty Can(かわいいだけの缶じゃない)」と記された缶には、素材そのものへの自信が表れています。見た目のインパクトに頼るだけでなく、中身のナチュラルさと味わいで勝負するというメッセージ性が込められているのが特徴です。
フレーバーごとにまとめて試せるサンプラーパックを展開し、味を比較しながら楽しめる設計で新規顧客の探求心に応えています。
また、「#SuckerForSap」というSNSハッシュタグを通じて、ファンによる投稿型プロモーションも展開しています。ブランドの世界観と親しみやすさをユーザー主導で広げている好例です。
"ただの水"に見せない、ソーダ的アプローチ
「SaltWater Co.(ソルトウォーター)」は、創業者自身の健康課題をきっかけに、ミネラル不足を補う"毎日の水"として開発されたブランドです。
ピュアな浄水にヒマラヤピンクソルトのみを加え、糖分も添加物も一切不使用というストイックな構成です。
注目したいのは、そのプロモーションやパッケージです。パステル調のカラーリングや、ソーダを思わせるロゴデザインが、ノンアル飲料売り場にも自然と馴染むデザインに仕上げられています。
カナダではノンアル飲料の棚が、お酒を飲まない人のためだけでなく、「身体にやさしい・機能性がある飲み物」を包括するスペースとして扱われることもあり、スーパーマーケットでは「水」「ソーダ」「ノンアル飲料」といった分類の境界が曖昧なケースも見られます。
こうしたライフスタイル志向の広がりの中で、「SaltWater Co.」のパッケージや訴求は、ノンアルブランドと共鳴する要素を多く含んでいます。
このような背景を踏まえると、「SaltWater Co.」もまた、ノンアル市場の拡張を読み解くうえで見逃せない存在といえるでしょう。
ノンアル市場の広がりと、パッケージが担う役割
日本では、健康や機能性を訴求する飲料といえば、清潔感や自然派を想起させるデザインが主流です。一方、今回紹介したカナダのノンアルブランドには、ポップな色使いや都会的でミニマルなレイアウトなど、Z世代の感性に寄り添った表現が多く見られました。
"お酒を飲まない人"のためだけでなく、"新しい楽しみ方"を求める層にまでノンアル市場が広がっている今、プロモーションやパッケージもその価値観の多様化に呼応し始めています。健康的であることを前提としながらも、それを強調しすぎない絶妙なバランスです。そんなデザインや打ち出し方こそが、今のノンアルブランドに共通する新たな潮流なのかもしれません。
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