アメリカでは、近年、食品分野において多様なパッケージが見られるようになりました。中でもパスタは日常的な食品でありながら、個性的でおしゃれなパッケージデザインが目を引く存在です。
スーパーなどで見かける多種多様な定番ブランドやプライベートブランドのパスタに加え、イタリア各地のローカルブランドのこだわりのパスタまで登場しています。また、ひよこ豆や米など小麦以外の食材を用いたグルテンフリーや高タンパク質といったヘルシー志向の代替パスタも登場し、選択肢が大幅に増えています。こうした変化に伴い、おしゃれに進化を遂げているバラエティに富んだパスタのパッケージを紹介します。
アメリカの食文化におけるイタリアの影響
アメリカには歴史的にイタリアからの移民も多く、アメリカの食文化に大きな影響を与えています。ピザ、マカロニ&チーズ、サブマリンサンドイッチなど、イタリア由来でアメリカにおいて独自の進化を遂げ、定番料理となっているものが数多くあります。また、手軽に調理できるパスタやパスタソース、さらに便利な冷凍食品など、イタリア系食材はアメリカのどのスーパーを訪れても豊富に取り揃えられており、身近な存在になっています。
ニューヨークをはじめとする大都市周辺には、長い歴史を誇る老舗イタリア食材店やレストランがあり、アメリカにいながらイタリアの伝統的な味を楽しむことができます。そんな老舗のイタリア食材店では、よく手作りの商品をオリジナルデザインのパッケージに詰めて販売しています。
例えば、ニューヨークの老舗イタリア食材店のひとつである1906年創業の「Raffetto's」は、新鮮な生パスタやラビオリを得意とするお店です。
ラビオリのように中に具が入った繊細なパスタは、形が崩れやすいため、厚手で丈夫な紙箱が使われています。中身は個包装されず、生のパスタがそのまま箱に入れられます。パッケージはイタリア国旗の色合いで、シンプルながらもどこか懐かしさを感じさせるデザインです。
一般的なパスタのパッケージは?
アメリカのパスタ市場で、大部分を占めているのは乾燥パスタです。
日本ではパスタはプラスチック製の袋のパッケージで販売されることが多いですが、アメリカでは紙製の箱が主流になっています。完全に紙製ではなく、箱の窓の部分に透明なプラスチック製の素材を使用し、パスタの形状が確認できるようになっているものが多くみられます。
アメリカで最も典型的なパスタのパッケージとなっているのは、ブランドのロゴとテーマカラーを用いた統一感のある紙箱です。代表例として、「Barilla」の濃い青色、「De Cecco」の薄い青色を基調とした紙箱のパッケージがあります。「Barilla」は、1877年にイタリアのエミリア=ロマーニャ州で創業した老舗パスタブランドで、現在では世界各国に展開し、世界およびアメリカのパスタ市場でトップシェアを誇っています。
「Barilla」は、アメリカやヨーロッパなどでは、他ブランドに先駆けて1950年代頃からブルーボックスと呼ばれる紙箱のパッケージを使用してきました。日本では市場の慣習に合わせプラスチック袋のパッケージを使用していましたが、2021年春からは、環境保護への対応として、日本でも紙箱パッケージが導入されました。脱プラスチックで、環境への配慮による紙箱への変更は、今の時代に受け入れられやすい良いタイミングだったのではないかと思います。
「De Cecco」は、イタリアのアブルッツォ州で1831年から続く製粉所を起源とし、1886年に創業されたブランドです。現在では、「Barilla」に次ぐイタリアのトップパスタブランドとなっています。パッケージデザインには、レトロなフォントやイラストが用いられ、ファミリービジネスの長い歴史や品質へのこだわりを伝えることにより、オーセンティックで高品質なブランドイメージをアピールしています。
紙箱に次いで多いのが、プラスチック袋のパスタ商品です。
数あるプラスチック袋のパッケージの中でも目を引いたのが、ニューヨークの老舗イタリアレストラン「Rao's」が採用している半透明の袋のパッケージです。中身が透けて見えるため、通常のパッケージに見られる窓はありません。一般的にプラスチック製の包装は安価な見た目になりがちですが、半透明のデザインにすることで、プラスチック製ではないかのような上質な印象を与えています。
「Rao's」は、1896年創業のニューヨークの歴史あるイタリアレストランで、現在ではスーパーなどで広く販売されるパスタソースでよく知られています。2023年にはスープなどで知られる大手食品メーカー「Campbell's」の傘下に加わりました。
プラスチック袋と同じ形状ですが、あえて紙を使用しているブランドもあります。こちらは、1846年創業のイタリアの老舗パスタブランド「Rummo」の紙製のパッケージです。環境に優しい紙袋を使用した上品なイタリアらしいデザインで、本場の雰囲気を演出し、差別化を図っています。
ポップでおしゃれなデザインパッケージ
アメリカでは、「Eataly」など本場の味が手軽に楽しめるグルメマーケットが増えており、プレミアム感のあるイタリア産のパスタもいろいろ登場しています。
そんな特別感のある高級パスタで欠かせないのが、目を引くパッケージデザインです。こちらのヴィンテージ感のある女性が描かれたポップでおしゃれなパッケージは、カラフルなパスタをヘアスタイルとしてデザインに取り込んでいます。
実は、こちらのパッケージでは紙箱にプラスチック窓がついていません。箱に切り込みを入れて窓を作り、プラスチック袋で密封されたパスタを箱の開いている窓から見せています。紙箱によるデザインの自由さと、密封性が高いプラスチック袋の長所が組み合わされています。
中には、イタリア語でファルファッレと呼ばれる蝶々型のパスタが入っています。サンドライドトマト、ほうれん草、ターメリック、ニンジン、スイスチャードなどが練り込まれており、彩り豊かで華やかな見た目になっています。
「Good Hair Day Pasta」と呼ばれるこちらのシリーズには、蝶々型パスタの他にもさまざまな種類があります。パスタの形状や色の違いを活かし、ストレートヘアやパーマなどさまざまな髪形を女性や男性の顔で表現し、存在感のある面白いデザインのパッケージとなっています。
クラフト風デザインのパッケージ
イタリアでは各地に独自のパスタ文化の伝統があり、それぞれの地方ならではの多様なパスタがあります。
こちらは、ジェノヴァなどがあるイタリア北西部のリグリア州の名物パスタ、トロフィエと呼ばれる短くねじれた形状のパスタです。「Pasta di Liguria」の商品で、海沿いのリグリア州を連想させる綺麗なブルーとホワイトのタイルのような幾何学模様のクラフト風デザインが取り入れられています。
地方の名産品のパッケージにその土地らしい文化や色使いをデザインとして取り込み、オーセンティックな雰囲気を漂わせています。
カラーでみせるスタイリッシュなパッケージ
こちらはマルケ州のフレッシュなホームメイドのエッグパスタを得意とするパスタブランド「Filotea」のフェットゥチーネです。2005年創業の比較的新しいブランドで、ファミリービジネスによるハンドメイドの少量生産の商品です。パスタの質へのこだわりが高く、ローカルの原材料を使用し、低温乾燥で時間をかけて製造しています。
パッケージのデザインにもこだわりのあるブランドで、ビビッドな色とともに引き締まる黒を用い、珍しい目を引くモダンでスタイリッシュなデザインのパッケージです。箱の中央には大きな窓が作られ、中身の手作り感があるパスタがよく見えるようになっています。
イタリア各地のこだわりを持つブランドのパッケージには、具体的な生産地を示す地図がよく描かれています。左は「Filotea」の生産地で、イタリアのマルケ州、右は「Pasta di Liguria」の生産地でリグリア州を示しています。イタリアでは、パスタもワインやチーズなどと同様に、どこで作られたものかということが大切にされています。
プライベートブランドのパッケージ
アメリカのスーパーマーケットでは売れ筋の分野を中心にプライベートブランドの商品を展開しており、パスタもそれぞれのスーパーでプライベートブランドの商品があります。
プライベートブランドというと価格が手頃で容量が多いなどコストパフォーマンスが高い商品が一般的に多いです。幅広くあらゆる商品でプライベートブランドを展開している「Trader Joe's」ではプレミアム感のあるプチ高級価格の商品にも力を入れており、おしゃれなデザインのパッケージも多く見られます。
こちらのパスタにはブラックペッパーが練り込まれており、パッケージには「Trader Joe's」風のレトロな雰囲気で黒胡椒の木が描かれています。パッケージのプラスチックの小窓からは、少し黒っぽい色をした樽の形のパスタが見えるようになっています。
この商品は、パスタの表面に凹凸をつけ、ざらざらした表面に仕上げるブロンズカットと呼ばれる伝統的な手法で作られています。表面がざらざらしていることにより、パスタのソースがよくからみ、美味しく食べられます。低温で時間をかけて乾燥させなければならないなど、手間と時間がかかるため価格帯が上がりますが、「Trader Joe's」は、新しい商品を試してみたいという好奇心旺盛な客層やプレミアム感のあるこだわりの味を求める客層など幅広い客層に対応する商品展開をしています。
グルテンフリーパスタのパッケージ
アメリカでは、小麦に敏感な人のために小麦を使用しない「グルテンフリー」の商品が増えています。パスタの市場でも小麦の代わりに、ブラウンライスやひよこ豆などを原料にしたグルテンフリーパスタが販売されています。小麦を使った一般的なパスタに比べて少し価格帯が上がりますが、健康志向の若者を中心に人気があります。また、通常のパスタと比べると、パッケージも親しみやすいお菓子のようなポップなデザインで特別感を出している商品が多くなっています。
左の商品は、「Banza」のブラウンライスで作られたロティーニと呼ばれる螺旋状のショートパスタです。2014年に創業した「Banza」はアメリカのグルテンフリーパスタの代表的な存在で、グルテンフリーの国際的認証、GFCO認証(箱左下のGCマーク)を持つブランドです。
左側の「Banza」のパッケージは、ヘアスタイルのデザインでパスタを見せるパッケージと同様のコンセプトで、開いた口からパスタを見せ、パスタを食べている様子を連想させる面白いデザインとなっています。
右側は、ビビッドな黄色いパッケージが印象的な「Trader Joe's」のプライベートブランドの商品で、ひよこ豆で作られたフジッリと呼ばれる螺旋状のショートパスタです。イタリア南部発祥のフジッリは、北部発祥のロティーニと似ていますが、長さや螺旋の詰まり具合などで若干異なります。窓がパスタの形に切り取られたポップで可愛いデザインになっています。
ブラウンライスやひよこ豆以外にも、例えば、枝豆、レンティル、キノア、ブラックビーン、ズッキーニなどさまざまな原材料を用いた代替パスタが登場しています。もともとは、グルテンフリーというコンセプトでしたが、小麦以外のさまざまな原材料を用いることで、結果的に炭水化物を減らしたり、たんぱく質や食物繊維の量を増やすことが可能になり、よりヘルシーなパスタを生み出すことになりました。
高タンパクのヘルシーパスタのパッケージ
アメリカでは、糖尿病など成人病の予防のため、炭水化物の摂取を減らし、高タンパク質で食物繊維の豊富な食事が推奨されています。中でも、ヘルスやフィットネス系のSNSの影響もあり、プロテイン中心の食事は健康意識の高い層で大人気となっており、プロテイン関連商品が数多く登場しています。
通常の小麦製のパスタは、高炭水化物食品のためヘルシー志向の人々の趣向に合わず、成長に陰りが見えていました。そんな中、最近大きなトレンドとなっているのが、パスタの主原料であるデュラム小麦を使用し、パスタならではの美味しさや食感を維持しながら他の原材料を混ぜることによって、ローカーボ(低炭水化物)、高プロテイン、高食物繊維となるヘルシー志向のパスタです。
そんなトレンドを背景に、近年、高タンパク質を掲げたパスタブランドがいろいろと登場しています。パッケージデザインも、グルテンフリーパスタと同様に、目立つ色合いを使用したポップなデザインが定番となっています。
「Brami」は、デュラム小麦にルピー二豆(Lupini Beans)を混ぜることによって、伝統的な味を保ちながら、高タンパク質、高食物繊維、低炭水化物のパスタを実現しています。「Brami」は、2010年代に創業したアメリカのブランドで、製造はイタリアで行っています。パッケージは、プロテインパスタであることを数字も交え強調するとともに、ポップな色合いながらイタリア産という本場感を演出したものになっています。
さらに2023年頃からは、「Carbe Diem」、「Pete's Pasta」 など高タンパク質、高食物繊維、低炭水化物を掲げた新ブランドが続々と登場しています。最近登場した新ブランドは、SNSをよく活用する層を主なターゲットとしており、オンライン販売を中心としているため、スーパーマーケットではあまり見かけません。
業界最大手の「Barilla」は、長い間、代替パスタの「Protein+」の商品ラインがありましたが、そんなプロテインパスタの流行を受け、2024年からハイプロテインであることを前面に押し出したリブランディングを行っています。
アメリカでは、近年、食品や日用品など日常生活に密接した分野でも、健康、環境保護、本物志向、デザインといった新たな価値観に基づいた新商品が続々と登場しています。パスタもそんな分野の一つで、本場イタリアのブランドの本物志向の商品や、小麦を使用しないグルテンフリー製品、炭水化物を抑えてタンパク質や食物繊維を強化したローカーボ、ハイプロテインの健康志向の商品など、さまざまな新商品が見られるようになっています。
数年前まで成長率が鈍化していたアメリカのパスタ市場ですが、新たな需要に応えた多様な商品の登場により、ここ数年再び盛り返し成長中です。市場調査によってばらつきはありますが、今後2030年頃までは年間平均成長率(CAGR)5%前後の成長となり、オンライン販売のシェアが増えていくことが予想されています。
多様化するパスタの新商品に欠かせないのが、ブランドのメッセージを伝え、ターゲット層にアピールすることができる存在感のあるパッケージデザインで、クラフトやポップ、モダンなどさまざまな趣向を凝らしたおしゃれなものがいろいろ登場しています。今後も消費者の心をつかむ、従来のパスタの概念を進化させたユニークなコンセプトとパッケージの商品がさらに増えてくることが期待されます。
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