アメリカでの床屋の歴史を辿ると、19世紀にシカゴから始まったと言われています。古くから床屋さんは、ただ髪を切るためだけの場所ではなく、男性にとって重要なコミュニケーションの場所としての役割を持っていました。近年美容院に行く男性も多くなりましたが、昔ながらのbarber shopは今でもいたるところにあり、古き良きアメリカを感じられる町の景観の一部とも言えます。
今回はその中でも、古くから男性たちの社交の場であった「床屋」と「バー」という異業種でありながらも親和性のある二つの業態が併設した空間を作り、さらにはオリジナルブランド商品も展開する「Blind Barber」についてご紹介します。
Blind Barberのポリシー
創業者であるJeff氏が大学卒業後の進路に悩んでいた時、彼のお祖父さんの「男友達と気軽に出かける溜まり場なら床屋が一番だな」というつぶやきから、ビジネスのアイデアが浮かんだと言います。そして無一文の状態で売りに出ると噂のあったバーのオーナーと、現在のビジネスパートナーであるJosh氏にビジネスプランをもって直談判しに行ったことから、このビジネスは始まったそうです。
今回お店の方にインタビューをしたところ、昼は床屋、夜はバーがメインで多くのお客さんはどちらか一方を利用するようですが、床屋でバーのドリンクを楽しむ人もいるとのことでした。
Blind Barberには「他者から受ける評価で顧客が満足感を得るのではなく、顧客自身が直接受けて心地よくなれるようなサービスを提供する」というポリシーがあり、このポリシーに基づき取り組む内容を決めているとのこと。例えば、彼らのターゲット顧客は「環境に配慮した商品を使っている自分」を感じることで気持ちよく商品を消費できると考え、お店で使用するものや商品は出来る限り環境に配慮した原料を使用することにしています。
併設しているバーカウンターには、床屋を意識した赤と白の紙ストローが飾られていました。現在アメリカでは「プラスチックストロー廃棄問題」が社会問題として大きく取り上げられています。シアトルでは2018年に全国チェーン店を含む全てのお店でプラスチックストローの廃止が決定し話題となりました。昨今ニューヨークでも「環境に配慮したブランド」と掲げるお店では、紙ストローの採用が多く見られるようになっています。
オリジナルグッズで他社との差別化を図る
Blind Barberはオリジナルグッズで他社との差別化を図っています。商品ラインナップはヘアスタイリング材のみならず、シャンプーなどのヘアケア商材にも幅を拡げています。写真にもマークがある通り、全ての商品でアニマルテストは行わず、自然由来の原料を使用しています。
お店の方によると、製造会社と直接話をして納得できたメーカーの容器を採用したとのことでした。一部の容器は日本の企業から輸入しており、しっかり蓋が閉まる等クオリティーの高い日本製の容器はクレームに繋がりにくいとも教えてくれ、日本人としてとても嬉しくなりました。また多国籍であるニューヨーク発祥のブランドだからこそ、他国への展開も見据え、7ヶ国語で書かれた原材料の説明書がついていました。
全ての商品は店内でも購入できますが、オンライン、他の床屋、美容院、セレクトショップ、そしてホテルへの販売にまで販路が拡がっているとのことでした。それでは主力の販売チャネルではない商品を、店内でどのようにディスプレイしているのでしょうか。
プロダクトのディスプレイがインテリアの一部に
ニューヨークにある「Blind Barber」一号店は完全予約制で、席は二つしかありません。その二つの席の間に挟まれたビンテージ棚に、まるでアンティークグッズを飾るかのように全ての商品が一つずつディスプレイされていました。顧客と直接話せるタイミングがあるにもかかわらず売り込みをしないのは勿体ないように感じますが、オンラインや定期購入に需要のある商品であることを理解し、お店ではディスプレイに徹していました。こういった決断は自社直販オンラインサイトがメイン販売チャネルの商品には応用できるポイントだと感じました。
ラインナップを見ていると、製品の特長や使用用途に合わせて容器の形状がそれぞれ違っていることに気付きました。
容器の種類を増やすことにより1種類あたりの発注数が少なくなり、それが原因で交渉や契約が難しくなることや、コストが高くなるといった懸念点があります。ただし、「顧客に心地よく」商品を使用してもらうため、自宅でスタイリングをする際に一番扱いやすい形状の容器をセレクトし、できる限りストレスフリーであることにこだわっているのです。
購入時の一時的な満足感のみならず、「使用する度に使い心地や満足感を感じられる製品」を企画するチカラが求められていくのではないかと改めて感じました。
パケトラ編集部より
ブラインド・バーバーは現在、アメリカ国内でニューヨーク、ブルックリン、ロサンゼルス、シカゴの4店舗を運営しています。理髪店でありながら、ファッション、音楽、ライフスタイルといった様々なカルチャーの発信拠点となり、おしゃれな紳士たちが集う場所になっているそうです。
スポーツ選手や芸能人、有名ブランドとのコラボレーションやタイアップに加え、受賞歴もある実力派。紹介されていたオリジナル製品も、英デザイン誌『Wallpaper』主催のデザインアワードで「ベスト・ポマードデザイン賞」を受賞しています。日本語の公式サイトもあり、ここでオリジナルグッズも購入できるようですね!
なお日本国内では、ひとつの空間で理髪店と飲食店を運営するには様々な条件があるため、このような業態での営業をお考えの方は事前に保健所への確認が必要です。(自治体によりルールは異なる。)
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