どこか東洋的なイメージがあった茶葉専門店
コーヒーか紅茶かと問われれば、ドイツは圧倒的にコーヒーの国。ドイツの朝食に、コーヒーは欠かせない存在です。一方、紅茶を日常的に飲むと言われているのは、北ドイツの東フリースラント地方程度です。そもそもドイツ語でTee(お茶、英語のTeaに相当)と言った場合、紅茶だけでなく、緑茶、白茶、青茶、黒茶、さらには茶葉を使っていないハーブティーまで含めた飲み物を意味します。日本ではお茶というとすぐに緑茶や日本茶を思い浮かべますが、ドイツではもっと幅広いイメージで捉えられています。
ドイツでお茶類を買う場合、スーパーなどで袋入りの茶葉やティーバッグを購入するか、茶葉専門店に行きます。茶葉専門店には茶葉が入った大きな缶がいくつも壁に並んでいて、好みのお茶を伝えて缶から出してもらって買うという方式が一般的でした。お茶は東洋原産のためか、店内や缶のデザインもどこか東洋趣味な場合が多く見受けられました。
シンプルで上品な店舗&パッケージ
そうしたこれまでの茶葉専門店のイメージを見事に覆したのが、ベルリンのPaper & Tea(以下P & Tと記載)です。とにかく店舗もパッケージデザインも、スタイリッシュ。シンプルで洗練されたデザインは、ギフトやおみやげにもぴったりです。
「お茶の伝統は、コミュニケーション、クリエイティビティ、文化の媒体となるもの。そうしたお茶の世界を、現代に合わせて紹介する」ことをコンセプトに、2012年に西ベルリンのシャルロッテンブルク地区に1号店がオープン。続いて2014年に東ベルリンのミッテ地区に2号店ができました。オンラインショップでも販売しています。
今回お邪魔したのはミッテ店。ミッテ地区は、東京に例えるなら青山のようなエリアで、周囲にはセンスのいいカフェ・レストランやブティックが並び、各国からのツーリストも大勢訪れます。
店内を見渡すと、商品が整然と並んでいます。商品構成は、パック入り・円筒形の缶入り・筒入りの茶葉と茶器、カード類、エコバッグなどのオリジナルグッズ。カード類は、ギフト用途の場合にお茶と一緒に購入できて便利です。
さらに店内の一角には、淹れたてのお茶をその場で飲めてテイクアウトもできるブリューバー(Brew Bar)を設え、茶葉販売だけでなく、ドリンクとしてのお茶販売も行っています。
ディスプレイもデザインも、コミュニケーション
すべての茶葉は、産地や味の特徴、淹れ方がドイツ語と英語の2カ国語表示でディスプレイされています。商品の脇には、ガラスボトルに入った茶葉も並んでおり、フタをあけて匂いを嗅ぐこともできます。「茶葉の色や形、香りがわかるように、ガラスボトルに入れています。茶葉を説明したディスプレイは、お客さんとのコミュニケーションの形です」とは、ストアマネージャーのダニエルさん。お客はオープンな店内を自由に見ながら、気になった商品についてスタッフにさらに詳しく聞くことができます。
さらにディスプレイと同じ内容が、茶葉のパッケージにも記載されています。お茶の知識がない人、ギフトとしてもらった人にもそのお茶について理解を深め、適切に淹れることでベストな味を楽しめます。お湯の温度、茶葉の量、抽出時間はわかりやすいアイコンともに書かれているので、たとえ言葉がわからなくても一目瞭然でしょう。
このアイコン表示は、すべての茶葉商品に共通しているもの。こうしたデザインを見ていると、何事も規格化して整理することが上手なドイツ人の特性を感じます。計算されたシンプルで美しいデザインは、社内で方向性を決めてデザイナーに依頼しています。ドイツではグラフィックデザインやアイコンのことをコミュニケーションデザインと呼びますが、それはデザインは単なる美しさだけでなく、人とのコミュニケーションを目的とするものだから。このパッケージにもその意図が表れています。
ヨーロピアンにも覚えやすいネーミング
P & Tの工夫はネーミングにも見られます。すべてのお茶には、お店が独自の名前を付けているのです。もちそんそれに加えて、産地やお茶の種類(緑茶など)も併記しています。例えば中国浙江省産の緑茶には ”TIGER ROCK WU LU”とネーミング。Wu Luとは霧のことで、中国では「雲と霧の多いところは茶の名産地」ということわざがあり、浙江省は霧がちなことから名付けたそうです。「ヨーロピアンにもわかりやすい名前を付けることで、お茶に親しみやすくしています」と、ダニエルさんは話します。ロマンティックかつエキゾキックな響きのする名前は、お茶をいっそう特別なものに感じさせます。
ブリューバーでお茶と出会う
ストアマネージャーのダニエルさんが、店内のブリューバーで東フリースラント地方のブレンド紅茶 “Dark & Stormy”を淹れてくださいました。ベルリンのサードウェーブ系コーヒーショップにはハンドドリップ用のドリッパーがありますが、それと同じ要領でティー用スタンドを特注したそうです。フラスコを思わせる球状の器に茶葉を入れ、適温のお湯を注ぎます。ガラス製なので、茶葉がジャンピングする様子が見られます。
蒸らし終えたら、器具のレバーを引いてお茶をサーバーへ。こちらもお茶の水色がわかるガラス製。サーバーからカップへ均等に注ぎます。
ブリューバーは通りに面した窓際にあるため、アイキャッチ効果も抜群。お茶を淹れる光景から、お客さんが店内に足を踏み入れることもあります。
さらにこの日は、近くにあるサードウェーブ系コーヒーショップのThe Barnとのコラボで、P & Tのスパイス入りルイボスティーとエスプレッソをブレンドした「ルイボス・スパイスド・フラット・ホワイト」お披露目イベントも開催されていました。
ルイボスティーとエスプレッソ用の豆を一緒にマシンで抽出したドリンクは、まさしく両者の中間的な味。スパイシーな後味が記憶に残ります。本来は相容れないようなお茶とコーヒーですが、新たな発想があればコラボできるのだということを教えてくれます。
これまでの常識にとらわれずに新たな可能性を見せてくれるP & Tは、お茶の国である日本でも参考にできる点が多いと思います。
P & T Berlin-Mitte
Alte Schönhauser Str. 50, 10119 Berlin-Mitte