ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

【特集】世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(5)——「ドイツ・ベルリン」の今

パケトラをお読みいただいているみなさんへ。ベルリンの久保田由希です。日本では緊急事態宣言が出て、不安な方も多いのではないかと思います。

今回は新型コロナウイルスをめぐるベルリンの様子とともに、いち生活者としての私の心の動きもお伝えしたいと思います。この危機を一緒に乗り越えられることを願って。

Photo:ベルリンの住宅街。最低限の外出はできます

ベルリンの現措置

ドイツは州による自治権が大きい連邦国家なので、国が決めた指針を元に各州で詳細を決定しています。ここでは私が住むベルリンの措置について書きます。

4月14日現在、ベルリンでは外出制限と人との接触制限が出ています。外出回数を必要最低限に絞り、人との接触を極限まで控えることで、感染のスピードを緩やかにするのが狙いです。おもな制限は以下の通りで、少なくとも4月19日まで続きます。

①通勤や日常の買い物、医者への通院など、生活を続ける上で必要不可欠な外出は可能。健康維持のための散歩やジョギングも可能で、外出の回数に制限はありません。

Photo:天気がいいと散歩やジョギングをする人が急増します

②他人と会うときは1名のみで、最低1.5mの間隔をあけること。自分を含めて3人以上が一緒にいるのは不可です。ただし、同居家族は3名以上でも一緒にいられます。

③店舗は、日常生活に必要不可欠な業種を除き閉店。博物館やスポーツ施設、遊具のある児童公園も閉鎖です。営業できるのは食料品店やスーパーマーケット、食品市場、薬局、ガソリンスタンド、ドラッグストア、郵便局、銀行、メガネ・補聴器店、ホームセンター、園芸店、書店、自転車店、葬儀社、卸売業など。

Photo:スーパーに並ぶ人々。最低1.5mの距離を取っています

Photo:ドラッグストアの貼紙には「お客さんが1人出たら1人入ってください」との注書きが

④飲食店はテイクアウトとデリバリーのみ可能。店内飲食は不可。

⑤学校は休校し、そのままイースター休暇へ。休校中はオンラインによる課題を行っている学校や教師もいます。

目まぐるしく変化した3月中旬以降

こうした措置はすべてが一気に始まったわけではなく、次々と畳みかけるように発令されました。

3月12日頃からイベントが続々中止になり、クラブや博物館などが閉鎖。14日夕刻に、アルコール主体の店に対して「ただちに営業停止せよ」との通達が出て、16日にはそのほか多くの店舗も閉店が命じられ、22日からは18時まで営業可だった飲食店がテイクアウトとデリバリーのみに。集会は禁じられ、他人とも1名しか会えなくなりました。

美容室も22日から閉店。隣国との国境も閉鎖が相次ぎました。当初は措置に違反した場合の罰金はありませんでしたが、現在は処罰の対象です。

Photo:多くの飲食店は入り口をふさぎ、テイクアウト専用コーナーにしています

ドイツ政府とベルリン州政府は、コロナウイルス危機に関する情報(現在の感染拡大状況や医療状況、補償内容など)を、政府広報やメディア、SNSを用いてわかりやすく発信しています。数ヶ国語で書かれている情報もあります。

メルケル首相は、テレビを通じて国民に演説を行いました。自身の経験を踏まえつつ、市民に対する配慮に満ちており、困難を乗り越えるために人々の協力が必要だという内容が明確に伝わったと私は感じました。この演説は多くの人々に影響を与えたようです。外国人である私も、この演説に勇気づけられました。

Photo:演説を行ったアンゲラ・メルケル首相

思い返してみても、3月中旬以降は怒涛の日々でした。自分の好きだった場所や生活が、翌日にはもうないかもしれない。これまでに経験したことのない事態の始まりでした。

初めての経験で不安に襲われて

もちろん私にも大きな影響がありました。家にこもる生活が始まると、外出自体が決死の覚悟を要する行為に思えてきます。通りを歩く人とはできるだけ離れて、なるべく物には触らないように。スーパーの買物は週1回程度にとどめ、可能ならば現金ではなくカード決済で。普段は眠りが深い私が、明け方に悪夢で目覚めたこともありました。

私が最も心配したのは、日本にいる家族です。もし家族になにかあったら?もし私が罹患したら?このまま会えないかもしれない……そう思うといても立ってもいられず、「フライトが休航にならないうちに」と、日本への帰国も検討しました。

でも、仮に飛べたとしてもドイツからの帰国者は14日間の自主隔離が必要ですし、私が感染して大切な人にウイルスをうつしてしまうかもしれない。考えた末に、いまはそれぞれの地で元気で乗り切れるようにしようと決めました。

これほどまでに、外国に住むしんどさを感じたことはありません。距離的に離れているだけでなく、住んでいる国が違う。これは非常時には大きな障壁になると感じています。

現在の措置にほぼ固まった3月下旬から、3週間以上が経ちました。当初は不安に駆られていた私も、大分落ち着いてきたように思います。いまは家にいて、心身ともに元気でいることを第一に過ごしています。

Photo:花が咲き乱れる美しい季節。心身の健康のため、よく散歩をしています

変わる働き方とライフスタイル

制限措置を受け、人々のライフスタイルも大きく変わりました。まずは仕事。業種や職種によっては仕事がなくなりました。これに対しては、内容に応じて国やベルリン市から補償金が支払われています。

Photo:「地元店の通販を利用して支えよう」という貼紙

在宅勤務に切り替えが可能な人は在宅に。当然ながらコロナ危機以前と同じ成果を出せるわけではないと思います。しかし、「それでも構わない」というメッセージを会社側が出したり、臨機応変に目標を変えたりといった話を聞き、非常時こそコミュニケーションと信頼関係が重要だと感じました。

在宅勤務によってオンラインの利用も増えました。ビデオ会議の導入や、学校ではオンラインでの課題提出などを試しています。

自宅での時間が増えたことで、DIYや園芸にいそしんだり、料理に凝りだす人も。部屋にいながらオンラインパーティやオンラインコンサートも楽しめます。ベルリン文化の一翼を担うクラブのストリーミング配信と募金プラットフォームも生まれました。

Photo:花の苗や用土が売れているそうです

Photo:募金ができるクラブのプラットフォーム

私は、初めて布製のマスクを作ってみました。ヨーロッパではマスクの習慣はなく、アジア人の私が装用すると感染者のように思われそうでためらっていましたが、3月下旬頃からはマスク姿の人がちらほらと現れたので作ったのです。布製マスクの通販も見かけるようになりました。これを機に、ドイツでも気軽にマスクがつけられるようになればいいと思います。

Photo:通販で販売中の布製マスク

コロナウイルス危機によって、それまでの「当たり前」が変わっていく様子を私たちは目の当たりにしています。人々の意識は確実に変わり、収束後の価値観も変わることでしょう。

本当に大切なものはなにか。どういう時間を過ごしたいか。どんなものやサービスがほしいか。1年後に、私たちはなにを思っているでしょうか。この危機を乗り越え、安心して暮らせる日が再び訪れることを心から願っています。どうかお元気でいてください。

▼他の都市を読む

【特集】パケトラライターが伝える、世界の今。新型コロナウイルスが変えた私たちの生活(4/16更新あり)

このライターの記事

Top