ブランドアイデンティティーとは顧客に同一のイメージを訴求し、ブランド特有のイメージや価値観を想起してもらい競合商品との差別化などを通じて、購買や利用に結びつける活動です。
一般的には商品ターゲットを設定し、そこに広告やパッケージを通じてポジショニングをしていく活動ですが、そんなブランド戦略を真っ向否定したのがデンマーク発のクラフトビール「Mikkeller」です。
Mikkellerは、2006年にデンマークのコペンハーゲンで創業し世界中でファンを増やし続けている人気ブルワリーです。スタートアップ時は、大規模な醸造施設を持たず、台所レベルの製造設備で様々な商品開発を行いました。
Mikkellerのブランド戦略は以下のようにまとめることができます。
挑戦的な商品開発
Mikkellerの代表的な商品Beer Geek Breakfastは、25.0%のオート麦をベースにしたビールでコーヒーとスモーク、そしてダークチョコレートとローストモルトの良い香りがします。
朝食と非常に相性の良いビール(といわれています)です。午後から夜にかけてもおいしく飲むことができます。
Mikkellerは他社ビールブランドが開発しないようなニッチな分野を攻めています。
例えば、ラーメンビール(ラーメン専用のビール)、世界最恐の苦味ビール「1000 IBU」、クリームエール(ビール嫌いでも楽しめるオリジナルブレンドビール)など尖った商品が揃っています。
コペンハーゲン空港の「RAMEN TO BÍIRU– NØRREBRO」では、ラーメン専用のビールが販売されています。Mikkellerは大手が参画できないニッチ市場で、挑戦的に商品開発を進めています。価格も高価格に敢えて格付けして、特定シーンで選ばれる商品となっています。
Mikkellerのブランドコミュニケーションガイドではビジョンやミッションは、「私たちが目指しているのは、高品質のクラフトビールを世界中の消費者にとって新しい基準にします。 世界中のすべての最高のレストランで、高品質のクラフト ビールをワインやシャンパンの本格的な代替品にしましょう。私たちは失敗します。人々の味覚とおいしいビールの概念に挑戦してください。世界中のすべての最高のレストランで、高品質のクラフトビールをワインやシャンパンの本格的な代替品にしましょう。私たちは失敗します。じっと立ってください。私たちは常に楽しくて新しいアイデアを思いつき、新しいコンセプトを開発し、次のプロジェクトに継続的に取り組んでいます。 会社が成長するにつれて、組織化の緊急性が生じていますが、私たちは今でも頭脳よりも直感に従うことを好み、常に自分自身に思い出させています。水っぽくて味のないビールを作ります。」というように、自由、気ままな開発ポリシーをイメージさせます。
小回りのきくファントムビジネスモデルの採用
Mikkellerは「ファントム」や「ジプシー」とも称されるビジネスモデルを採用しています。自社で設備を持たないことによって、各地で実験的な味のビールを生み出し、少量多品種でも成り立つ経営を採用しています。
Mikkellerは2006年の創業以来、1000種類以上、年間約100種類のオリジナルビールを生み出してきました。その結果、多様な味を飲み比べできる楽しみがあります。そして、2007年には世界のビールマニアが集まるサイト「ratebeer.com」にて 年間最優秀醸造所に輝いています。自社で特定の製造所は持たず、世界中の醸造所とコラボして商品を届ける仕組みになっているため、ニッチな領域でも攻められるのです。
積極的なコラボレーション
Mikkelleの重要な要素は、コラボレーションです。世界的に有名なミシュランレストランや他の素晴らしい醸造所から、デザインブランド、ワイナリー、アーティスト、ロックスターとコラボレーションをしています。
具体的にはThe National、David Lynch、Rick Astley、B&O、SAS、The Danish Refugee Council、Gaffel、Noma、El Cellar de can Roca、Alinea、Uerige、Weingut Meierer、Burger Kingなどがリストアップされています。
デンマークにある世界No.1レストラン「ノーマ」のハウスビールも手掛けるなど、食通からも注目を集めています。
日本でも、大阪の箕面ビールがMikkellerとコラボしてBeer Geek Breakfastを和テイストにした商品を販売しています。また、銭湯カルチャーの発信拠点となっている「小杉湯」とコラボしたイベントなども開催しています。
小粋なパッケージデザイン
Mikkellerは、アートディレクターであるアメリカのアーティスト、キース・ショア氏によるイラストが印象的です。ラベルやパッケージだけでなく、店のネオンやグラス、店内のアートにも使用され、Mikkellerの世界観を構築しています。
どんな味かわからなくても、ついつい買いたくなる、飲みたくなる、キャッチーなデザインが特徴です。Mikkellerのビールは、世界中にブルワリーがあり、種類も細分化されているので、親しみやすく、ちょっとポップで、飲んでみたいと思わせるようなギミックなラベルデザインが効いています。
Mikkellerのトレードマークは愛嬌のある男女「ヘンリーとサリー」の顔が使われています。
ブランドカラーもコカコーラの赤やスターバックスの緑のように特定の色を提示することなく、ミント、ライトブラウン、紙(無色or地色?)、緑、そして2次色としてグレー、茶色、桃色、藤色、ピンク、赤、ブルゴーニュ、ダークブラウン、オレンジ、黄色、ライトブルー、青、イブニングブルー、紫などの複数の色が指定されており、ブランドアイデンティティーでよく使われる、ユニークな色彩は指定されていません。
Mikkellerに限らず、クラフトビールのパッケージデザインはアートでポップなものが多いので、デザインに興味がある方には注目です。
Mikkellerは、ブランドガイドラインをオープンに提示することで、ブランドコミュニケーションに一貫性を保っています。ブランドの定義と運用が確立しているため、国を超えて、ユニークな活動をしている人や企業とのコラボレーションも可能になっています。ブランドコミュニケーションの一貫性を保ちつつ、地域に合わせてカスタマイズしている点も注目されます。
ファン作り
Mikkellerのブランドづくりの一つがファンとのコミュニティーづくりです。みんなでランニングをした後にビールを飲む(ランナーはレベル別にグルーピングされ、走り終わったらビールを一杯サービスで飲むことができます)「Mikkeller Running Club」や、世界中からビールマニアが集う「Mikkeller beer celebration 」などを各地で開催して、ブランドの社会価値を提言します。ビールを通じた商品価値の提案、パッケージデザインなどによる情緒価値に加えて、社会価値を大事にするMikkellerのブランドコミュニケーションの巧みさです。
自由なビールをまとめる
Mikkellerのブランドコミュニケーションは大手のメーカーでは難しい、ニッチな商品開発とファブレスで柔軟なビジネスモデル、そして顧客を自分達の世界に取り込む仕組みづくりを行い、ファンづくりを実践しています。このような活動が世界的に熱狂的なファンを生み出している原動力になっています。ブランドと顧客との距離が近くなった今、双方向のコミュニケーションが顧客の心を掴んでいます。その一端にキャッチーなパッケージデザインが一役担っています。
追記:日本のMikkeller
日本では渋谷にある千代田稲荷神社の向かいにMikkeller Tokyo の店舗が立地しています。Mikkeller Tokyo は、Mikkellerのビールと世界中のビールを 20 種類以上提供するキャッシュアンドキャリーのパブスタイルのクラフトビール専門店です。店内に入ると大きな黒板に、ずらりと本日のラインナップが掲示されています。このお店でも毎土曜日にはランニングクラブが開催されています。
▼お酒がテーマの記事
米国でスタイリッシュに進化するSAKEブーム
西アフリカ発、健康効果の高い注目のドリンク「ハイビスブルーム」とは?