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人気ブランドのパッケージデザインに学ぶ~「資生堂パーラー」編

菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載5回目は、人気ブランドに学ぶパッケージデザインの事例をご紹介します。

今回取り上げるのは、1902年、ソーダ水や当時まだ珍しかったアイスクリームの製造販売をする日本で初めてのソーダファウンテンとして誕生した「資生堂パーラー」です。創業者の福原有信(ふくはらありのぶ)氏は、1872年に日本初の民間洋風調剤薬局として銀座の地に「資生堂薬局」を開業。その後、1900年にパリ万博を視察した帰りにアメリカへ立ち寄り、当地のドラッグストアでソーダ水を提供する様子を見て、これを日本にも採り入れたのです。

さらに、1928年には本格的な西洋料理を提供するレストランとして開業。1932年頃には、ブランドの代名詞とも言うべき「花椿ビスケット」も発売され、家に持ち帰って楽しめるお菓子の販売を本格化します。手土産として人気の高いキューブ状の「チーズケーキ」は、1978年に発売された商品です。

そんな「資生堂パーラー」の洋菓子シリーズの現在のデザインは、2015年、実に25年ぶりに行われた全面的なリニューアルで発表されたものがベースとなっています。

「銀座アヴァンギャルド」がテーマの2015年リニューアル

1962年に落成した「資生堂会館」を全面改装して、1973年に「旧資生堂パーラービル」が開業。現在の「東京銀座資生堂ビル」は、これを建て替えして2001年3月に完成した。

母のお供で行くのが楽しみだった「デパ地下」のスイーツ売り場。そこに並ぶ多くの洋菓子ブランドの中でも、「資生堂パーラー」と言えば、何といっても高級感があり、お洒落なパッケージのイメージがありました。
特に印象的だったのが、ブルーの地に金色の「S」の文字を組み合わせたデザインの紙袋や箱です。

このデザインが、1990年、グラフィックデザイナーの仲條正義氏によって大きくリニューアルされた洋菓子シリーズのパッケージでした。仲條氏は、1933年東京生まれ。1956年に東京藝術大学美術学部図案科卒業し、同年、資生堂宣伝部に入社。1960年よりフリーとなり、翌年、株式会社仲條デザイン事務所を設立。1968年から2008年まで40年以上にわたって資生堂企業文化誌『花椿』のアートディレクターを務めた方です。洋菓子シリーズのパッケージのみならず、「東京銀座資堂ビル」のロゴおよびサインなども含め、「資生堂パーラー」のデザイン全般に深く関わられました。

2015年に発表された新デザインの紙袋

そして2015年、「資生堂パーラー」の新たな洋菓子シリーズの発表会には、私も取材にお伺いさせていただきましたが、この時も仲條氏が、「銀座アヴァンギャルド」というテーマでデザインを制作。「アヴァンギャルド」は、“革新的な、前衛的な”といった意味ですが、銀座の街らしいモダンなイメージはそのままに、よりスタイリッシュで遊び心に富んだパッケージになったような印象を受けました。

ブルーの紙袋は、以前は金色だった「S」の文字とストライプが、白と黒に変更されました。1990年のリニューアル当時は、“食品にブルーを使うのはタブー”とされていた時代で、派手なデザインの印象を抑えるのに金色を配したそうです。新たなデザインでは、白と黒のメリハリの効いた、より力強く明るい雰囲気となりました。

2015年に発表された新デザインの「チーズケーキ6個入」

特に印象的だったのは、「チーズケーキ」のパッケージに描かれた、牛のシルエット。スタイリッシュさの中に愛らしさがあり、どこかユーモラスで心惹かれました。一目見て、中味がわかりやすいデザインにしたそうで、商品名も大きく目立つように記載されています。

2015年に発表された新デザインの「チーズケーキ9個入」

このように各商品の個性が際立つ一方、白地に赤と青のストライプという共通のデザインが施されていることで、統一感も感じられました。

2015年に発表された新デザインの「ビスキュイ30枚入」

ちょうど「缶クッキー」の人気が高まる中、様々な味や食感が楽しめる20枚入・30枚入・50枚入の「ビスキュイ」は、目を引く缶のデザインも含めて注目されました。

2015年のリニューアルで、「花椿ビスケット」にも青・赤と白のストライプ柄が施された

ロングセラーの「花椿ビスケット」にも、24枚入の青い缶、48枚入の赤い缶それぞれに、白字に青・赤のストライプ模様が施され、上品な印象から、より活力を感じさせるイメージとなりました。

「ブランデーケーキ」も、2015年にモダンなパッケージに変更。樽や蒸留所、煉瓦模様などが描かれている

一方、1978年に発売されて以来、息長く愛されている「ブランデーケーキ」のパッケージには、ブランデーの樽や蒸留所、煉瓦が描かれています。カラーリングも他の品とは異なるやさしい色合いで、少しレトロな雰囲気が魅力的です。

包装紙の唐草文様はイギリスの挿絵画家オーブリー・ビアズリー氏の作品から着想。「意匠部」によって植物の蔓を思わせる“資生堂アール・ヌーボー・スタイル”が生み出された

ギフトの包装紙は、白・ブルー・赤の3色ですが、赤色の比率が高く、レトロで華やかな唐草文様です。これは、大正時代に遡る1920年代に「意匠部」の部員の方々が生み出したデザインが踏襲されているそうです。約100年前の意匠が今に受け継がれているというのは、さすが老舗のブランドならではの醍醐味。

福原氏は、「資生堂薬局」から1916年に化粧品部を独立させ、薬局から1つ道を隔てた角に、化粧品販売店を開店。1階を店舗、2階を化粧品製造場として、3階に「意匠部」を新たに設けられたそうです。「意匠部」では、ポスターや新聞などの広告、パッケージデザイン、店舗設計まで行っていたそうで、この時代にそのような専門の部署が設けられていたという意識の高さに驚かされます。ここから、「資生堂スタイル」とも称される、モダンで洗練されたデザインが生まれていったのです。

2019年リニューアル、銀座本店ショップ限定商品パッケージのコンセプトとは

「資生堂パーラー 銀座本店ショップ」限定販売の「プティフール セック」

2019年11月1日、レストラン、サロン・ド・カフェ、ショップなどの内装も新たに、「資生堂パーラー 銀座本店」がリニューアルオープンしました。これに合わせて、銀座本店ショップ限定商品のパッケージデザインも8年ぶりにリニューアル。“銀座八丁目物語~銀座八丁目からあらたな歴史を~”をコンセプトに、こちらも仲條正義氏が制作しました。

デザインの主軸は、シックさや懐かしさを感じさせる「千鳥格子」。2015年にリニューアルした定番品の涼やかなカラーリングとも異なり、赤色が目立ちます。側面にはカタカナの商品名が大きく書かれ、天面には “八丁目”の「8」の数字も採り入れた店舗ロゴが、商品名以上に大きく目立つ仕様で配されているのも特徴的です。

「資生堂パーラー 銀座本店ショップ」限定販売の「スペシャルチーズケーキ」は黄色い千鳥格子柄のボックス入り

「資生堂パーラー 銀座本店ショップ」限定の「スペシャルチーズケーキ」など、中身に合わせたボックスカラーのデザインも目を引きます。

「資生堂パーラー 銀座本店ショップ」限定販売の「金平糖」は、蓋の絵柄によりホワイト・ピンク・ミックスの3種がある

新たに登場した「金平糖」などは、男の子・女の子・子猫の絵が蓋に描かれ、可愛らしくやさしい雰囲気を醸し出します。

季節限定パッケージが伝えるイメージ

人気のキューブ形「チーズケーキ」と、銀座本店ショップなど取扱店限定商品の「手焼きチーズケーキ」には、毎年、季節限定の味も登場します。

季節のチーズケーキのパッケージは、仲條氏による定番品のデザインとは異なるシリーズで、2023年のテーマは、“NOSTALGIC WALK(ノスタルジック ウォーク)”。「あの日窓から見えた季節の風景や街並み、街中を歩きながら老舗の味や季節の思い出に浸るようなデザイン」を、春、夏、秋、冬と展開する内容です。

第一弾は、2月15日に発売された「春のチーズケーキ(さくら味)」と、銀座本店ショップ他、取扱店限定商品の「春の手焼きチーズケーキ(さくら味)」。華やかな桜色を黒の背景が引き立てるデザインが印象的でした。

2023年夏の数量限定商品「夏のチーズケーキ(レモン)6個入」。3個入もあり

4月25日に発売された「夏のチーズケーキ(レモン)」のパッケージには、レモンと共に、夏の照りつけるような日射し、青い海が広がる浜辺で感じた潮風、ドリンクを片手に涼んだ時間など、季節の思い出を呼び起こすようなモチーフの絵柄です。ブルーの差し色や黒の背景も春限定パッケージと共通していて、トータルのデザインに統一感があります。

ロングセラー品のパッケージは、そう頻繁に変更するものではありませんが、このような季節限定品の展開があると、味の点ではもちろん、売場の見た目でも、「見たことのない新しいものが出ている」という新鮮な印象を与えてくれます。

そのうえで、年間のデザインテーマが統一されているため、売り場の前を通る度に、「あのパッケージは何となく見たことがある」というブランドのイメージが蓄積されていくように感じます。

2022年には創業120周年を迎え、今後、「花椿ビスケット」をはじめ、間もなく100年の歴史を重ねる商品も継承し続ける「資生堂パーラー」。学ぶべきことの多い洗練されたパッケージデザインに、これからも注目です。

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