ニューヨークでは、商品のインスタ映えをさらに一歩先に進め、商品と一緒に遊び心溢れる「エクスペリエンス(体験)」を提供するマーケティングがトレンドとなっています。そんなトレンドが顕著に見られるのが、夏真っ盛りのこの時期に大人気になっているアイスクリームです。
ニューヨークのスーパーマーケットや、最近流行している期間限定のポップアップストアなどで、パッケージとインストアプロモーションで工夫が見られるアイスクリームブランドを題材に、アイスクリームの商品の魅力と合わせて、思わず誰かに伝えたくなるような印象的な体験を提供している面白い事例を紹介していきます。
パッケージでユニークな遊び体験を提供
個性的な形状のパッケージで、思わず目に止まるのが、こちらの Magnum のパイントのパッケージです。Magnum は、ヨーロッパ発のアイスブランドで、イギリスとオランダを本拠とする世界でも有数の一般消費財会社ユニリーバ傘下のブランドです。そんなMagnum がアメリカの家庭用アイスとして好まれるパイント版の新商品を出しました。
こちらのアイスクリームは、Magnum の強みである贅沢に使用されたチョコレートが実感できる、ちょっとした面白い体験をさせてくれるものとなっています。一見、スリムなスタイリッシュなアイスクリームパッケージに見えますが、実はこちら、よく見てみると、パッケージの両側のスリムな窪み部分を強く押し、中のチョコレートを割って下さい、との指示が書かれています。
アイスクリームの蓋を開けると、中からもこんな指示が出てきます。「蓋を開ける」→「10分間待つ」→「チョコレートを割る」。普段は、アイスが綺麗に保てるように気をつける所ですが、逆に、意識的にぐちゃぐちゃにするという作業がやってみると意外と面白いです。自分でチョコレートを割り、たっぷりチョコレートとアイスをかき混ぜて食べるという、ちょっとした体験型のアイスクリームとなっています。
Magnum は、チョコレートにこだわりを持ったアイスクリームブランドで、チョコレートコーティングの棒タイプのアイスクリームが主力商品となっています。新しく登場したこのスプーンですくって食べるパイント型のアイスクリームでも、強みであるチョコレートの存在が効果的にアピールされています。
パイントタイプのアイスクリームでも、棒アイスクリーム同様、アイスクリームの周囲がしっかりとチョコレートで固められています。通常、パイント型のアイスクリームでは、チョコレートが入っている場合でも、事前に混ぜて提供されるというのが普通ですが、敢えて、チョコレートの存在が際立つ形で提供されています。こちらのアイスクリームでは、トップと底、周囲を分厚いチョコレートで囲み、さらにアイスクリームの中にもチョコレートが層になって入っており、それを各自割って、かき混ぜるという面白い食べ方になっています。
ぎゅぎゅっとパッケージを握ってチョコレートを割る感覚、そして、スプーンでトントンと分厚いチョコレートを割る感覚、今までに体験したことのない遊び感覚が非常に面白く、また食べた時の食感も全然違ったものになっています。見るだけでなく、実際に、自分の手で割ってみるとチョコレートは、なかなか存在感のある破片となり、高品質のチョコレートがたっぷりと入っていることが実感できます。
アートなプレミアムアイスクリーム
ニューヨークでは、賃貸料の高騰とそれに伴う空き物件の増加などの背景もあり、短期間限定で実店舗を使用し、商品のプロモーションや販売を行う、ポップアップストアが人気となっています。季節性のある商品や新ブランドの新商品を実験的に導入してみるのに適した販売方法です。
アイスクリームブランドも夏限定でお店を一等地にオープンでき、それを機にブランド力を高める、またはお客さんの反応を見ながら今後の戦略を練ることができるとあり、優れたプロモーション方法のひとつとなっています。
Magnumは、数年前から、ニューヨークのハイブランドの小売店が集まるソーホーで、夏限定でポップアップストアをオープンしています。ニューヨークの地元の人々はもちろん、世界中からの旅行者たちもやってくるソーホーでのポップアップストアでは、非常にインターナショナルな客層がやって来ています。
このMagnumのポップアップストアではお客さんの好みにカスタマイズしたアイスクリームをオーダーすることができます。まず最初は、アイスクリームを選び、次に、担当のスタッフさんとお話をしながらトッピングを選んでいきます。アイスクリームが完成するまでにお客さんが選択しないといけない項目は、意外と多く、この迷いながら自分好みのものを作り上げていくという選択のプロセスを楽しむことも醍醐味となっています。そのため、贅沢にたっぷりと時間をかけてひとつのアイスクリームを作り上げていきます。
お店の人は、まるでひとつのアート作品を作り上げていくかのように、お客さんの前で丁寧に一つ一つの工程を仕上げ、お客さんの目を楽しませてくれます。アイスクリームのサイズにぴったりとフィットした紙製の箱を使い、こぼれるくらいたっぷりとトッピングをするので、そのトッピングをキャッチする役割を担いながらも、目で見た時にアイスクリームが目立ち、箱はなるべく影の存在となるような絶妙な高さで作り上げられています。
お客さんが食べるときに棒も持ち上げやすい構造です。お店の人がお客さんと協力して作り上げたこのアイスクリームは一つ一つがオリジナルのアート作品みたいなものです。そんな作品を撮影しやすいように、店内には撮影スポットも用意されています。また、店内は、映像や匂いを体験できる装置があったりとちょっとした食とアトラクションが融合したエンターテインメントなスペースとなっています。
ミュージアムをテーマとしたアイスクリームブランド
これまで、ニューヨークをはじめ、ロサンゼルスやサンフランシスコなどで、アイスクリームをテーマとした期間限定のポップアップを展開しているのが、Ice Cream Museumです。今の時代のトレンドを集約したような面白いコンセプトのアイスクリームブランドです。
最近では、クリエイティブな分野に興味を持つ人が増え、世界的に美術館がとても人気となっていますが、そんな流行までもを取り入れたIce Cream Museumが、今年は、ニューヨークにミュージアムショップのようなお店屋さん、パイントショップをオープンさせ、週末は大行列となる大人気のトレンディスポットとなっています。
お店の中に入ると、そこに広がっている世界は、まるでポップアート美術館。訪れたお客さんたちが、自由に遊び、写真を撮っている姿が見られ、活気あるお店となっています。ポップアートのようにカラフルで美しいアイスクリームのショーケースです。
アイスクリームのパッケージもひとつひとつ考えられた、目を引き、写真映えするデザインのものとなっています。パッケージや店舗のデザインに加えて、アイスクリームのネーミングにも遊び心が加えられていて、例えば、バニラのアイスクリームは、「Vanillionaire」というネーミングなのですが、この名前は「 Vanilla(バニラ)+ Billionaire(ビリオネア) 」から来ていて、お金持ちの象徴としてパッケージにはダイヤモンドのデザインが施されています。まさにポップアートの作品のような感じになっているのです。
オリジナルブランドグッズは、カラー別に、パッケージカラーを完全に統一して展開されています。完ぺきなまでに統一されたカラーの商品棚は、お店を訪れたお客さんが思わず写真撮影したくなるスポットになっています。その時のポーズは、店内に置いてあるピンクのショッピングバスケットを片手にショッピングする姿です。
また、思わず写真を撮りたくなるような巨大なサクランボやバナナなどのぬいぐるみも並んでいて、ショッピングしながらも思わず遊んでしまうような工夫がたくさんされています。最近では、セルフィーを撮影することを目的に美術館を訪れるという人も増えていますが、まさにそんなSNS好きの人々も惹きつけるスポットとなっています。
ニューヨークでは、商品の販売だけではなく、エンターテインメントと融合し、個性的なエクスペリエンスを売るというブランドが増えています。オンラインとの差別化から、五感を刺激し、実店舗でのみ体験できるようなサービスの提供の必要性が背景にありますが、今までのように作り上げられたイメージで販売する戦略から、明確に、目の前のお客さんを楽しませることにより、ブランドのファンになってもらおうという戦略にシフトしています。
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