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デジタルで拡がるBrand world

パッケージ、広告、デジタル体験、店頭ディスプレイ、そして人工知能(AI)を活用した一体感、没入感のあるブランド体験を生み出すBrand world(ブランドワールド)の展開が進んでいます。

包装のインターネット(IoP)は、インターネットに接続されたセンサー、データ交換、デジタル技術をパッケージに統合することで、サプライチェーン全体でリアルタイムの追跡、モニタリング、エンゲージメントを可能にします。

IoP市場は、飲食品、医薬品、消費財、ロジスティクスなど様々な分野で活用されており、製品のトレーサビリティ強化、賞味期限の改善、効率の向上、豊かな顧客体験を提供します。IoTに加えてAI技術やPOP、デジタルサイネージなどの店頭メディアやイベントなどによる一体感と没入感のあるブランド体験による、視覚的要素と体験的要素が統合されたブランドワールドという概念が拡がっています。

「Diageo(ディアジオ)」スマートウイスキーボトル

ブランドオーナーの「Diageo」は、ジョニーウォーカー・ブルーラベル・ウイスキーのボトルに電子タグを取り付けました。このボトルは、ハイテク企業「Thinfilm」が作成した近距離無線通信(NFC)技術をラベルに統合して顧客体験を豊かにし、サプライチェーンの追跡を可能にします。

「Diageo」はスマホでボトルをタップする顧客に、ブランドストーリーやカクテルレシピ、顧客への提案、販促資料を送付することで、マーケティングと顧客体験の強化に活用しています。印刷されたセンサータグのシール検出機能により、顧客はスマートボトルウイスキーの改ざんや真贋を確認できます。センサー技術により、メーカーはお店から顧客の自宅までのライフサイクルを把握し、様々な異常や無責任な飲酒を抑制するためのセーフガードとしても機能します。

さらに「Diageo」は、生成AIの力を活用してジョニーウォーカーウイスキーの顧客に、パッケージのパーソナライゼーション体験とスコッチウイスキーのスピリッツ・ツーリズム体験を提供しました。

スコットランド人アーティスト、スコット・ネイスミスとのコラボレーションを記念した「ジョニーウォーカー×スコット・ネイスミス」プロジェクトでは、顧客が240ポンド(日本円で約28,000円)を支払い、ジョニーウォーカーのブルーラベルのボトルにカスタムメイドのラベルデザイン・製品アートワークを共同制作できます。アートワークは、ネイスミスの作品の主要テーマを反映した3つの質問への回答に基づいて作成され、様々な色、場所、芸術的スタイル、時間帯を表現したものが生み出されます。AIを活用し、わずか数分でユニークなボトルデザインが完成します。

「L'Oréal」スマート化粧品パッケージ コネクテッドビューティー

NFCタグを化粧品の容器に組み込み、スマホでタップすると製品情報や使用方法、成分などを表示させるプログラムを展開している「L'Oréal」はランコムの「ル・タン・パルティキュリエ カスタムメイドファンデーション」で、顧客の個々の肌の色調に正確にマッチさせ、カスタマイズされたファンデーションを作成する特許取得技術を開発しています。

「L'Oréal」グループが開発した「Beauty Genius」は、AIと膨大なデータベースを組み合わせることで、肌分析からパーソナライズされた製品提案を一貫して提供します。ユーザーは自撮り写真を送るだけで、肌の状態を詳細に分析し、最適なスキンケア製品の提案を受けることができます。

また同社は、「ビッグバン・ビューティーテック・イノベーション・プログラム」を展開し、よりスマートで持続可能な美容の未来のためのイノベーションを推進しています。このイニシアチブでは、AIを活用したグリーンテクノロジーに焦点を当てた新たなサステナビリティプログラムを、スタートアップ企業と連携して進めています。

この消費財大手はマーケティングサービス企業ブランドテック・グループと提携し、ビューティー・ウェルビーイング事業向けのカスタムメイドの社内システム「ビューティーAIスタジオ」構築に取り組んできました。現在、米国と英国を含む18の市場に展開されているこのスタジオは、Dove Intensive Repair、TRESemme Lamellar Shine、Vaseline Gluta Hyaといったブランドにおいて、有料ソーシャルメディア、自動化されたプログラマティックディスプレイ広告、そしてeコマースで活用できるブランド資源の制作に活用されています。

デジタルクリエイティブ

ユニリーバはAIを活用し、ブランドのアイデンティティを維持しながら、場所、時間、天候に応じてトーン、ビジュアル、訴求ポイントを調整する、ダイナミックなデジタルクリエイティブを運営しています。

パッケージでは、AIと3D技術を活用したデジタルツインの導入により、パッケージの設計・表現・展開を劇的に変化させています。すべてのパッケージデザイン、ラベル、言語バージョンを1つのファイルに統合することにより、ブランドの一貫性が100%達成され、世界中の市場で同一品質の表現が可能になっています。

また、マルチメディアに対するコンテンツの一元化で、クリエイティブスピードと質の向上とコスト削減を図っています。私たちは、より多くのタッチポイントとチャネルが購買行動を規定する世界に生きています。ブランドにとってそれはメディア、ソーシャルメディア、小売、検索プラットフォームを通じて注目を集める手段が増えることを意味します。あらゆる瞬間が、ブランドへの関心を喚起し、創造し、そして購買意欲へと転換するチャンスなのです。

NIKEのQRコード展開

ナイキはスマートパッケージの分野で大きな実績をあげています。そのSNKRSエコシステムは、ダイナミックで没入感のあるブランドワールドへと進化しています。
ナイキはQRコードを店舗、商品、タグ、パッケージなど、幅広く活用しています。パッケージにQRコードを設置することで、ナイキは限定コンテンツ、特別オファー、新商品リリースの最新情報などを提供できます。あるQRキャンペーンでは、消費者がナイキのオリジナルシューズデザインを作成できる機会を提供しました。

•SNKRS Stashジオロケーションハント:消費者はSNKRSアプリを使って、対象都市の壁画やポップアップストアをスキャンし、ARで限定アイテムをアンロックできます。これは、物理的な存在感とデジタルストーリーテリングを融合させたものです。

•SNKRSショーケースライブストリーム:2025年6月、ナイキはARを活用したライブストリームを通じて20種類以上の新しいスタイルを発表し、消費者が小売店や開封体験に抱くエネルギーとスタイルを強化しました。

•「Move to Zero」ARパッケージ:一部のNikeパッケージには、没入型のサステナビリティコンテンツを起動するWebARマーカーが追加され、開封した瞬間から同社の環境ミッションを体感できます。

これらはアイデンティティ、驚き、そしてロイヤリティを強化し、感情に訴求する緊密に織り込まれたブランドの世界を構成します。
2027年に導入される新しいバーコード規格GS1サンライズ2Dコードへの移行により、ブランドと消費者のインタラクションに新たな機会が生まれてきます。また、EUデジタル製品パスポート法などの規制要因が導入を促進します。そして、従来の広告チャネルと比較してメディアの無駄をシームレスにゼロにするコネクテッドパッケージの導入が進みます。ブランドの視覚的要素と体験的要素のあらゆる側面が統合されたブランドワールドという概念が、より顕著になるでしょう。

ブランド表現のエコシステム全体に投資する必要性がさらに高まっています。視覚的な一貫性だけでなく、感情の連続性も重要です。
ブランドは、このブランドワールドの考え方を活用して、マーケティングを統合し、没入型のストーリーを構築し、製品とチャネルを同期させ、さらにはクイックレスポンス(QR)、拡張現実(AR)、またはロイヤルティツールを介してパッケージをインタラクティブなゲートウェイに変換しています。

感情の連続性とは、パッケージ、TikTok広告、店頭ディスプレイ、アプリなど、ブランドとのあらゆるインタラクションにおいて、一貫した感情的なトーンが喚起されることを意味します。単にビジュアルを一致させるだけでなく、あらゆる接点において、統一されたメッセージと、感情的なエネルギーを強化・統合することが顧客ロイヤルティと長期的なつながりを構築します。

パッケージはまさにブランドワールドの玄関口です。実店舗の棚とデジタル体験を繋ぐ、触覚的で感情的なアンカーです。多くの場合、最初のタッチポイントであり、最も長く続くタッチポイントでもあります。QRコード、近距離無線通信(NFC)、ARといった技術を活用したスマートパッケージは、エンゲージメントを深め、消費者を商品からより広いブランドの世界へと導きます

適切なパッケージは、ブランドの雰囲気を醸成し、ブランドエクイティを強化し、より深いロイヤルティを喚起します。
飲料、美容、健康、ウェルネス、高級食品といったライフスタイル重視の感覚的なカテゴリーでは、ブランドワールドは特に重要です。

これらの空間において、消費者は単に製品を購入するだけではありません。彼らは、自らのアイデンティティ、価値観、そして日々の習慣を反映するブランドを選んでいるのです。パッケージは、そうした体験への入り口となり、雰囲気を醸し出し、感情を揺さぶり、ブランドが創り出そうとする世界に消費者を誘います。

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