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AI(人工知能)が導くパッケージデザインの変革

コロナ禍はニューノーマル(新しい生活様式)の動きを推進し、世界中で人々の外出が自粛されています。

企業はDX(デジタルトランスフォーメーション=IT技術を活用してビジネスや企業自体を変革し優位性を確立する)への取り組みを本格化し、マーケティング分野でもIT技術を取り込んだデジタルマーケティングへと駒を進めています。

そしてパッケージデザインの世界においてもその動きが見えてきました。以前より議論されてきた"AI"(人工知能)によるパッケージデザインが走り始めています。

コロナ禍において、従来のような消費者モニターへの対面でのデザイン評価調査が難しくなっている現在、AIで生成したり評価をするパッケージデザインのあり方が注目されていることも頷けます。

まずパッケージデザインをAIで評価するとは、どういうことでしょうか。実際にAIで評価し、商品化されているデザインを追って見てみましょう。

「消費者がデザインをどう評価するか」を予測するAI

日経のニュースサイトでこれまでに何度か紹介されてきた株式会社プラグ(小川 亮 社長)が先頭を走っていると思われます。プラグ社で運用を始めている「パッケージデザイン評価AI」は、パッケージデザイン開発とマーケティングリサーチを手掛けるプラグ社が2019年4月から提供を開始したサービスです。

これまで同社が20年にわたって蓄積してきたパッケージデザインの消費者調査(590万人)の結果を学習データに使い(ディープラーニング)、東京大学と共同研究したシステムということです。

消費者がデザインをどのように評価するかをAIが予測でき、こちらは2019年日経クロストレンド他・ディープラーニングビジネス活用アワード特別賞を受賞しています。

プラグ社では定期的にパッケージデザインの消費者好意度調査を行ってきており、そのデータベースを基にされています。

アウトプットされる評価項目は「好意度予測スコア」「ヒートマップ」「デザインイメージ算出」で、各々デザインはどの程度好まれるか、デザインのどの部分が好意度と結びついているか、消費者はどのようなイメージで受け取るか(19の感覚ワード毎で算出)が分かるというものです。

 

AIが評価したデザインを人(筆者)が評価する

この「パッケージデザイン好意度評価予測AIサービスシステム」を活用して生み出されたパッケージデザインが、カルビーの「とうもりこ」「えだまりこ」のリニューアルデザインです(2019年10月発売)。

カルビー株式会社「とうもりこ」「えだまりこ」(筆者撮影)

プラグ社のホームページで公開されている画像資料でリニューアル前後のデザインをぜひ見てください。

AI好意度予測結果グラフ(「とうもりこ」「えだまりこ」)株式会社プラグ ホームページより

AIが評価したデザインを人間(筆者)が評価してみましょう(笑)。

リニューアル前のデザインと比較して確実に良くなったと筆者は思っています。どのようなデザイン要素や比較候補が用意されたか等いきさつは知るところではありませんが、細部から見ていきましょう。

「とうもりこ」「えだまりこ」ともに改善されたところは次の点です。まず、ネーミングがより目立ち認知しやすくなっています。そして「とうもりこ」のとうもろこし写真周りのグリーンフレーム、「えだまりこ」の豆型フレームが取り除かれていることでパッケージ自体が大きく見え、中身と原料素材に注目率が向上しています。

同時に、スナック菓子のシズルの視認性も上がり中身がわかりやすくなっています。皆さんもご存じのように、店頭で商品パッケージを見る時間はほんの一瞬です。その一瞬で商品の中身や特徴を認識できなければ、消費者の目は次の商品へと移ってしまうものです。このリニューアルデザインは、その課題を改善していると言えます。

筆者撮影

筆者撮影

また、商品訴求コピーですが、旧デザインでは「塩ゆでコーン」「うましお」と味つけの識別を強調していたのですが、リニューアル後では「ゆでたてとうもろこしの味わい」や「あふれるえだまめの味わい」を持ってきています。この商品の特性では、消費者は味つけのことよりも「どう美味しいか」を求めているということを予測したということでしょう。

デザイン後に行われた新旧デザインの好感度調査では、リニューアル後がかなり優位な評価を得たと報告にあります。筆者が感じるに、消費者の総意を読み込んだ実に王道を行くデザインではないかと思いました。

次に、ネスレ日本の「ネスカフェ ゴールドブレンド 大人のご褒美」シリーズのパッケージデザインも見ていきましょう。開発において「パッケージデザイン評価AI」が活用されたと発表されています。

AIヒートマップ評価の一例(「ゴールドブレンド大人のご褒美」)株式会社プラグ プレスリリースより

この商品もどのようなデザイン案が比較候補にあったか筆者は知るところではありませんが、採用デザインを見る限り、なるほどやはり基本を外さずしっかりとした情報訴求ができていると思います。

おそらくヒートマップにも表れるであろう視線集中箇所は、中央のメニューネーミングとカップ上層面のコーヒーアートのシズル部分だと思いますが、「大人のご褒美」のコピーをその間中央に置くことで必ず読ませることに成功しています。背景のアート的なグラデーションと合わせて、狙い通り"とっておきの一杯"のコンセプトが伝わっていると言えます。

現時点で経験豊富なクリエーターやデザイナーが見て選別したとしても、同デザインを選ぶのではないかと筆者は思います。クリエーターやデザイナーと同様の仕事をこのAI評価システムが行っているとも言えますが、こうしたAIは今後ますます学習を積んでいくという観点からすると、生半可な人間の知見をはるかに超える評価能力を持つことは間違いないでしょう。

プラグ社の小川社長にお聞きしたところ、「とうもりこ/えだまりこ」も「ゴールドブレンド大人のご褒美」も実際の売行きは順調とのことで、消費者が好意を持つデザインの選出が好結果を出しています。

さらにクライアントの方々もAIの評価を見て課題を発見し、仮設検証を繰り返して精度を上げていくという当サービスの有効な活用法を実施されていると話されていました。

 

AIによるパッケージデザイン生成の現状

アサヒグループホールディングスが2020年6月に発表した「AIクリエーターシステム」は、AIを使ったパッケージデザイン生成システムを開発したもので、ビールや飲料といった同グループの商品パッケージのデザイン過程に試験的に取り入れています。

「AIクリエーターシステム」は、インプットされた素材から複数のデザイン案を自動で生み出し(「デザイン生成システム」)、その自動生成されたデザイン案をAIが検討・評価して(「デザイン評価システム」)決定案を選出するシステムです。

「デザイン評価システム」に関してもディープラーニングが使われています。事前に社外のクリエーター約300人によって作成された多数のデザイン案に対する評価結果を評価システムに学習させているもので、学習を積み重ねていくことでより評価の精度を高めているそうです。

また、AIによるパッケージデザインは海外でも話題になっています。

ロシアで関心を集めたのがデザイナーのニコライ・イロノフ(Nikolay Ironov)氏。モスクワにある有名なデザイン会社「アート・レベデフ・スタジオ(Art. Lebedev Studio)」に所属するニコライ氏は、1年間で20件以上のデザインプロジェクトを担当し、ロゴやパッケージデザイン等で商業的に成功させたことで好評を得ていました。

 

Lebedev Studioホームページ「Nikolay Ironov Work」より

しかしニコライ氏の活動が1年以上経過した2020年に、同氏が人ではなくAIだったことが公表されて話題になったのです。アート・レベデフ・スタジオのホームページでぜひ作品を見てください。皆さんは、これらのデザインにどういった印象を待たれるでしょうか?

Lebedev Studioホームページ「Nikolay Ironov Work」より

パッケージデザインより進んでいると思われるのはwebデザインにおけるAI活用でしょう。例えば、ユーザーが望みのテンプレートを選択し、コンテンツ情報や画像を入力すれば、自動で適切なwebサイトのデザインを生成してくれるというものです。テキストや画像も参考文面や選択使用可能なものが多数用意されています。

さらに今後、ソフトウェア企業やスタートアップ企業では実施されたデザインを経過的に診断し、予測データを基にデザイン面の課題発見と改善を行って効果を上げていくというサービスの開発にも取り組んでいるということです。

また、日経ニュースサイトで"AI画家"というように紹介されていたAIもあります。

米企業「オープンAI」(米マイクロソフト出資)の公式ブログで紹介されている同社のAI「DALL-E(ダリー)」は、人間が入力した言葉から画像を創作します。ダリーが学習ベースとしているのは英文とそれにまつわる画像やイラストのペア(約2億5000万例)。まずはファッションやインテリアのAIデザイナーになることを目指しているそうです。

これらをはじめ、広い用途でのAI活用は、専門家によれば2025年までに1,186億ドル規模の市場に成長するとも言われているようです。

AIによるパッケージデザインの課題と進化の方向

ただ、パッケージデザインにおいては筆者として考えるところもあるので記しておきます。

パッケージデザインは売場に陳列されている競合商品との関係も大きく影響を受けます。例えば、2019年10月に全国販売でデビューヒットを放ったコカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」

日本コカ・コーラ株式会社「こだわりレモンサワー 檸檬堂」(筆者撮影)

清涼飲料メーカーとしては初のアルコール飲料への参入挑戦でありながら、見事成功させたことで話題になりました(20年上半期の販売数量は計画を上回る422万ケースを突破)。

缶チューハイ分野のデザインと言えば、以前はメタリックシルバー、レモン果実のシズル写真、イエロー&グリーンカラー、スパークリングをイメージする背景といったところが定石となっていました。

しかし「檸檬堂」はあえてそれらすべてを排除し、藍色ベースを軸とした"レモンサワー専門居酒屋の店主の前掛け"をイメージしたという異色のデザインを持ってくることで、他の競合商品とは大きく異なるコンセプトの訴求に成功したものとなりました。

この場合のパッケージデザインは、ともに売場に陳列された競合商品の「我こそはレモン果汁のさわやかさ・スカッとした切れ味の美味さが一番だ!」と目立つこと優先の派手なデザインの中で、言わば落ち着いた風采と物語性を感じさせるものです。その結果、周りとは違う存在感ゆえに目に留まり、品質の違いに気付かれたと言えるのではないでしょうか。

世界でも走り出しているAIは、果たしてこのようなデザインを選ぶでしょうか。現状のAIでは商品単独としての好意度の評価は得ることはできる一方で、こうした競合商品と比較される売場状況を取り入れた場合の好意度には差がでることも考えられます。

ただしこの場合は、好意度というより「目に留める力」や「売場での存在力」なので、少し意味が異なってくるかもしれません。

学習をデータベースとする生活者感覚の収集条件を購入現場とすることは大変困難なことです。したがって、現在のAIとしては最良の方法と言えると思います。

これからのAI はもっと進化していくでしょう。こうしたリアル店舗の売場陳列時の認知感覚や消費者インサイトまでをも取り込んでいくと、まさに確実に販売予測を示すことのできるシステムとなるでしょう。

 

パッケージデザイナーに今後求められてくること

今後、パッケージデザイナーとAIの関係はどうなっていくのでしょうか。

クリエーターでない一般の人でもAIを使えれば、一端のパッケージデザインは作れますし、好意を持たれるデザインを選ぶことができます。AIは200万~300万枚という膨大な画像を短時間で分析できるということですので、やはり人より精度の高いものができると想像できます。

現状でのAIによるデザインは、入力される条件や用意されているデータベース(ビッグデータになっていくが)によってアウトプットは変わってきますし、その範囲内という限界もあるでしょう。

デザイン生成では、表現コンセプトの立案はできません。デザイン評価では、想定する競合商品や売場の陳列環境(ECサイトも同様)が考慮されません(これらも理論上は可能になる)。よってコンセプトを立案し、AIの技術進化を常に知って使うことが大切です。

そして、これからのデザイナーにはAIを上手に使うことが求められてくるでしょう。デザイン思考、デザイン経営が求められてきた現在、UX(ユーザーエクスペリエンス=商品の利用を通じて得られる体験)やマーケティング戦略のプロセスを見越したデザイン思考を備えた柔軟な発想ができるデザイナーに期待が高まってくるのは間違いないことでしょう。

 

 

[参考]
■株式会社プラグ パッケージデザインAI
https://lp.package-ai.jp/

■カルビー 「第1週目『とうもりこ』『えだまりこ』リニューアル発売!パッケージデザイン制作に初めてAIを導入!」
https://www.calbee.co.jp/newsrelease/191001.php

■ネスレ日本 「大人にご褒美を。こだわり尽くした自信作!心もほどけるカフェメニュー新登場」
https://nestle.jp/fun-picks/topic/service/23472.php

■アサヒグループホールディングス株式会社 「AIクリエーターシステム」ニュースリリース
https://www.asahigroup-holdings.com/pressroom/2020/0309.html

■Nikolay Ironov - Art. Lebedev Studio
https://www.artlebedev.com/ironov/

■インターネット・アカデミー  【AI×デザイン】デザインをするAI(人工知能)の驚きの機能とは?
https://www.internetacademy.jp/it/programming/ai/ai-web-design.html

■日本経済新聞  AIが絵を描いたら、異色のモナリザに 革新は間近
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG264N10W1A120C2000000/

 

 

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