アメリカでは近年、Tシャツやトートバッグなどに存在感のあるメッセージやタイポグラフィが描かれた、文字を主役にしたおしゃれなデザインをよく見かけるようになっています。
定番のニューヨークをテーマにしたおしゃれな文字デザインから、日常の一言、ユーモアあふれる言葉までいろいろとあり、思わず注目してしまうことが多々あります。
そんな特徴的なタイポグラフィを活かしたデザインは、さまざまな分野の商品に取り入れられている他、食品や日用品のパッケージにも活用されています。
ニューヨークで見かけた、タイポグラフィが印象的な商品やパッケージをご紹介します。
ニューヨークがテーマのタイポグラフィ
ニューヨークで最も有名なロゴと言えば、「I♥NY」。ニューヨークの著名グラフィックデザイナーのミルトン・グレイザー(Milton Glaser)が1977年にデザインしました。シンプルですが、赤いハートが印象深いロゴデザインで、長くニューヨークを代表するタイポグラフィのデザインとして、Tシャツなどさまざまな商品に使用されてきました。

ニューヨーク好きや旅行者に人気のニューヨークをテーマとしたデザインの商品は、ミュージアムやニューヨーク市関連のお店をはじめとする、さまざまな場所で販売されています。そして、「I♥NY」に続く、タイポグラフィにこだわったデザインの商品もいろいろと登場しています。
こちらは、ニューヨークシティの市庁舎にあるギフトショップで見つけた、文字と絵がバランスよく組み合わされたタイポグラフィが印象的な「Maptote」のトートバッグです。

ブルックリン発の雑貨ブランド「Maptote」は、いろいろな街の地図や名物をモチーフにしたデザインのトートバッグをはじめとするデザイン雑貨で人気のブランドです。中でも目を引いたのが、個性的なタイポグラフィが印象的だったこちらのデニムのトートバッグです。
「New York City」の文字には、ニューヨークと言えば誰もが知っている、ニューヨークの街を象徴するモチーフがアルファベットの文字に組み込まれています。「N」にエンパイアステートビル、「E」にホットドッグ、「W」にピザ、「O」に地下鉄、「R」にタクシー、「I」に自由の女神など、ニューヨークらしさいっぱいの絵が組み込まれたユニークなタイポグラフィのトートバッグです。デザインには旅行者にもお馴染みのニューヨーク名物に加え、ニューヨーク通好みのアイテムも散りばめられています。

文字が中心のミニマリズムデザイン
アメリカでは、文字そのものが主役となった、面白いコンセプトの現代アート作品もよく目にします。
例えば、こちらはニューヨークのワールドトレードセンターの駅(WTC Cortlandt)の壁画です。アメリカ人女性現代アーティストAnn Hamiltonによる2018年の作品で、アメリカ独立宣言や世界人権宣言の一節が刻み込まれています。壁一面にぎっしりと文字が刻まれた、言葉の力を感じさせられるとても印象的な作品です。

そんな文字のアートを彷彿とさせる、シンプルに文字が描かれたミニマルアート的なデザインも人気となっています。
「何を読んでいるの? (What are you reading?)」と言葉を発しなくても、誰かに話しかけているようなメッセージで、このメッセージが目に留まった人と話が弾むきっかけになりそうなデザインです。こういった、誰かに話しかけているような日常的なメッセージが描かれたマグカップやトートバッグ、Tシャツなどの商品をよく見かけるようになっています。他にも、著名人の名言が描かれているものなどさまざまなバリエーションがあり、ニューヨーク公共図書館のギフトショップをはじめ、ミュージアムショップでもいろいろなデザインの商品があります。

図書館やミュージアムの商品に描かれているメッセージよりも、カジュアルなバージョンの商品がこちらです。
「私は大きな心を持っている (I have a big heart)」「私は朝型人間ではない (I am so not a morning person)」など、メッセージデザインのアイテムで一躍人気になった、ニューヨーク発のブランド「Pamela Barsky」のポーチです。同様のコンセプトのデザインは、Tシャツをはじめとするアパレル商品などでもよく見かけます。

文字を中心とするデザインは、食品のパッケージなどでも取り入れられています。
こちらは、ニューヨークのコーヒーブランド「Irving New York」のコーヒー豆です。パッケージを大きな力強い文字が埋め尽くすデザインで、棚の中で一際目立ち、ニューヨークのローカルブランドのコーヒー豆であることが一目でわかり、思わず手に取ってしまいます。

ポップな絵文字のタイポグラフィ
最近おしゃれなスーパーマーケットでよく見かける、ヘルシー系の食品や飲料の新ブランドの商品は、若い世代をターゲットとしていることもあり、ポップなデザインのパッケージがとても多くなっています。
例えば、プロバイオティクスのソーダ「Culture POP Soda」は、フレーバーを絵文字と色で表現しています。こちらはストロベリー味で、いちごの絵が商品名に組み込まれ、可愛いポップなタイポグラフィとなっています。
「Culture POP Soda」は、マサチューセッツ州で2020年に創業された新しいヘルシーソーダブランドで、人工甘味料を一切使用せず、オーガニックなフルーツジュースとスパイス、ハーブで味付けしたプロバイオティクスソーダを販売しています。
砂糖不使用のヘルシースナック「Fruit Roll Bear」は、フルーツをロール状にした面白い形状の商品です。グミのように見えますが、本物のフルーツのみを使用したドライフルーツのスナックです。商品名の「O」にはロールを表現する絵文字が組み込まれ、さらにレモン味を強調するため、「Sour」の「O」にはレモンの絵文字が使用され、ポップなタイポグラフィとなっています。
こちらは、2009年に創業したイギリス発のフルーツスナックブランド「BEAR Snacks」の商品で、パッケージにはマスコットのクマがイギリスを思わせる緑の葉っぱと共に描かれており、ロゴの文字にも葉のモチーフがさりげなく組み込まれています。ヘルシーでポップなデザインの商品は、若いファミリー層にも大人気です。

「BEAR Snacks」のロゴのように、ブランドのロゴで遊び心のあるタイポグラフィーを使用している商品も増えています。
プレミアム砂糖のブランド「Wholesome」は、オーガニックやフェアトレードの砂糖で知られており、ブランド名のロゴ、そしてパッケージのデザインではハートの絵文字を使用しています。「Wholesome」の「m」の文字がハートのデザインに。そして、パッケージの中心にある中身が見える窓もハートがかたどられています。砂糖は日常的な食品なので、従来からのブランドが多く、総じて飾り気のないパッケージが多く並んでいますが、そんな中、個性を出したカラフルで親しみやすいデザインのパッケージは目立つ存在となっています。さらに「リジェネラティブ農法」や「フェアトレード」など、地球環境や人に優しいブランドのコンセプトも前面に力強くアピールされており、健康や環境保護に関心がある人々の興味を引きやすくなっています。
ヘルシースナックのブランド「Nature's Bakery」も、ブランド名「Nature's Bakery」の「U」に笑顔の顔文字のようなタイポグラフィーを使い、全体的に丸みを帯びた太文字で、温かみがあり親しみやすい雰囲気をだしています。ヘルシースナックの分野では、パッケージのデザインに力を入れているブランドが多いので、お店の棚でより目立つ存在であるために、印象的なタイポグラフィのロゴを用いて名前を一目で覚えてもらえるような工夫がされています。
「Nature's Bakery」は、ネバダ州で2011年に創業したスナック会社で、フィグバーやブラウニーバーなど、持ち運びできるソフトクッキーで知られています。2020年からは、スナックバー大手の「KIND」の傘下となっています。

「Icelandic Provisions」は、2015年にアメリカで創業した、アイスランドのヨーグルト、「スキル(Skyr)」のブランドです。スキルは、通常のヨーグルトより高タンパクで栄養価が高いとされているヨーグルトで、アイスランドの大手乳業会社をパートナーとし、アメリカでスキルの販売を行っています。「Icelandic Provisions」の商品には、北欧を彷彿とさせるストーリー性のある個性的なロゴとパッケージが使用されています。ヴァイキングをイメージした船の形が描かれ、PROVISIONSの「O」の文字にはヴァイキングの盾をイメージする面白い絵文字が使用されています。アイスランドの食文化を代表するスキルのブランドとしての誇りが感じられる北欧風のパッケージデザインです。
砂糖無添加のヘルシーな自然派ジャムで知られる「GOOD GOOD」も面白いロゴを使用しています。「GOOD GOOD」は、2015年にアイスランドで創業したジャムやスプレッドを中心とするブランドで、こちらも北欧的なセンスが感じられるパッケージを使用しています。物語の中のような木の実と葉っぱのイラストを背景に、インパクトのあるロゴを前面に押し出しています。ブランド名の「GOOD」の中央に曲線を加えることで、まるで笑顔のように見える面白い遊び心のあるタイポグラフィのデザインになっています。ジャムの典型的なパッケージとは異なる愛嬌のあるロゴで目を引き、砂糖無添加のヘルシーなジャムであることをアピールしています。

躍動感のあるタイポグラフィ
最近、食品や飲料系の新ブランドを中心に、文字が踊ったり、ゆがんだり、揺れたりするような動きのある躍動感のあるタイポグラフィをよく目にするようになっています。
サンフランシスコのクラフトチョコレートブランド「Recchiuti」の商品のパッケージは、不揃いにデザインされた個性的なタイポグラフィが目を引き、存在感があります。
文字がまるで音楽のリズムにでも乗るように、伸びたり縮んだり強弱のある不揃いなデザインになっており、楽しいワクワク感が伝わってきます。とてもミニマルなデザインにもかかわらず、インパクトがあり、ブランド名とチョコレート名が記憶に残るパッケージになっています。
特徴的なタイポグラフィはパッケージのみならず、中身のチョコレートそのものにも刻まれており、整然とした機械的な印象とは真逆の、こだわりの職人により作られたクラフト感のある一品である印象を受けます。

カクテルミックスやカクテルガーニッシュなどを手掛ける「Filthy」は、とても奇抜で大胆な印象を与えるタイポグラフィを使用しています。「Filthy」は、2010年に創業した、マイアミを拠点とするカクテル関連のプレミアム商品に特化したブランドです。高揚感を表現しているようなインパクトのあるタイポグラフィのロゴを用いて、品質へのこだわりを感じさせると共に、美味しいカクテルで楽しい時間を過ごしている気分を想起させるデザインです。

グラフィティ風のタイポグラフィ
ニューヨークと言えば「グラフィティ」の街。街のあちらこちらに壁画が描かれ、ニューヨークのカルチャーを代表するものの1つになっています。グラフィティは、ニューヨークでヒップホップと共に成長し、現在では世界中で見られるようになっています。
アーティストが独自のスタイルで描くタイポグラフィも、グラフィティの代表的なモチーフの1つです。

そんなニューヨークカルチャーを象徴するグラフィティを、デザインに取り入れた商品もあります。
フィラデルフィア発、ニューヨークでもお馴染みのコーヒーブランド「La Colombe」の商品です。ニューヨークをテーマとしたブレンドのコーヒー豆「Bowery」で、パッケージには、グラフィティで見かけるような躍動感のあるタイポグラフィが用いられています。コーヒー豆は通常の市販のコーヒー豆同様、密封されたプラスチックバッグに入っていますが、透明の袋を使用することで中身が見える工夫がされています。さらに、外箱に入れて販売されていることは珍しく、特徴的なパッケージとなっています。

ヴィンテージデザインのタイポグラフィ
ニューヨークはアメリカを代表する歴史ある商業都市で、街中を歩いているだけで、建物、看板、壁画などさまざまなところでヴィンテージデザインに出会うことができます。
かつてはニューヨークを代表する港で、多くの人が行き交っていた、ニューヨーク最大の魚市場があったサウスストリートシーポートには、そんな歴史を紹介する博物館、サウスストリートシーポートミュージアムがあります。珍しいものでは、凝ったデザインのタイポグラフィが目を引くビジネスカードなども展示されています。

ヴィンテージデザインは近年大人気となっており、さまざまな分野で見かけるようになっています。ヴィンテージ感のあるタイポグラフィは、歴史ある老舗ブランドの他、クラフト感やプレミアム感を演出したい新しいブランドでも用いられています。
ロゴのタイポグラフィが印象的な「Bob's Red Mill」は、1978年に創業したオレゴン州の食品ブランドで、さまざまな穀物や野菜のプレミアム製粉製品を販売しています。ロゴのタイポグラフィは、文字の中に細やかな横線が均一に描き込まれた手書き風のデザインが特徴的で、そんな繊細なデザインから、一つ一つを丁寧に仕上げる上質なものづくりへのこだわりが感じられます。

「Mrs. Meyer's Clean Day」のハンドソープも、美しい清潔感のある色合いで、立体感をもたせたヴィンテージ風のタイポグラフィのロゴが使用されています。「Mrs. Meyer's Clean Day」は、2001年創業と比較的新しいですが、アメリカ中西部で庭を愛し丁寧な暮らしを実践して来た創業者の母親のイメージをもとに誕生したブランドで、小綺麗でヴィンテージ感のあるデザインとなっています。

アメリカでは、メッセージやタイポグラフィを中心に据えた文字のデザインが人気になっています。ニューヨークでは、以前からニューヨークの文字をおしゃれにデザインしたTシャツやトートバッグなどいろいろな商品がありますが、現在はそれにとどまらず、さまざまな言葉のメッセージをデザインの中心にした商品も増えています。
そんな文字のデザインへの注目の高まりとともに、食品や日用品などでもタイポグラフィにこだわったパッケージの商品が増えています。特に若い世代やファミリー層をターゲットとするヘルシー食品の新しいブランドでは、可愛い絵文字を取り入れたタイポグラフィを使用し、思わず手に取りたくなるようなポップで親しみやすい雰囲気を醸し出しています。またコーヒーやチョコレートなどのプレミアム商品では、それぞれのブランドや商品のイメージに合わせてデザインされたタイポグラフィを用いて、上手く特別感を演出しています。
言葉遊びをしているような面白い個性的なタイポグラフィは、アメリカの消費者の注目を集めやすくなっています。そのため、ブランディングの観点からも商品やパッケージのデザイン、ロゴなどでそのブランドならではの統一感のある特徴的なタイポグラフィを使用するブランドは、今後ますます増えていくと思われます。
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