近所のスーパーに買い物に行くたび、その存在感を急激に高めていると感じる売り場があります。それは、かつて「牛乳の代替」という控えめな立ち位置だった植物性ミルク、すなわちプラントミルクの販売コーナーです。棚を埋め尽くすのは、オーツ、アーモンド、ピスタチオ、ココナッツ、カシューナッツ…。今やそこは、牛乳の「代わり」を消極的に探す場所ではなく、数ある選択肢の中から「自分らしい1本」を主体的に選ぶ、新しい定番カテゴリーへと進化を遂げています。
かつてプラントミルクを選ぶ理由は、アレルギーやヴィーガン、宗教上の理由、あるいは常温保存ができるといった機能性が主でした。しかし、今やそれらは前提条件。現代の消費者が求めているのは、味や栄養成分はもちろんのこと、そのブランドが持つ「姿勢」や「世界観」であるように感じられます。
今回は、アメリカのプラントミルク市場を牽引する主要ブランドをご紹介しながら、それらがパッケージを通じて自らの立ち位置をどのように可視化しているのか、その「現在地」を私なりの視点で探ってみたいと思います。
1.「定番」の顔づくり:二強ブランド「Oatly」と「Califia Farms」
少なくとも私の住むイリノイ州のプラントミルク売り場では、「Oatly(オートリー)」(画像1左)と「Califia Farms(カリフィア・ファームズ)」(画像1右)が二大巨頭として君臨していると言ってもいいのではないでしょうか。どこのスーパーに行っても必ず棚の目立つ位置を占めています。
この両者の特長は、パッケージデザインにおいて対照的なアプローチを取りながらも、共通して「牛乳の模倣」から脱却している点です。

(画像1:左「OATLY」、右「CALIFIA FARMS」)
攻めの姿勢を貫く:「Oatly」
スウェーデン発のプラントミルクブランド、「Oatly」は、あえて整えすぎないタイポグラフィを中心とした、シンプルでユニークなデザインでアメリカに上陸しました。オーツ由来であることや環境への配慮ははっきりと押し出しつつも、ありがちな「健康的で新鮮な優等生」のような牛乳のイメージはありません。攻めたデザインによって「我々は牛乳の代用品ではない、Oatlyというカテゴリーなのだ」とでも言わんばかりのインパクトです。
シカゴ駅で見かけた広告(画像2)では、目隠しをした男性が「Oatlyだと知らなくても、この味が好きだ」と親指を立てています。これは「本当は牛乳が飲みたいけど、仕方なく我慢して飲むもの」という代替品のイメージから離れ、「おいしいから、これがいい」という積極的な選択肢である宣言とも受け取れます。

(画像2:シカゴ駅構内の「Oatly」のポスター)
造形美でプレミアムを語る:「Califia Farms」
一方で、カリフォルニア発の「Califia Farms」(画像1右)が取った戦略は、ボトルの「造形美」です。象徴的なのは、なだらかな曲線を描くカラフェ型のボトル。冷蔵庫の中に並んでいるだけで、生活の質が一段上がったような感覚を与えてくれるこのデザインは、プレミアムなブランドイメージを決定づけました。
ブランド名の由来は、創業者の出身地カリフォルニア州の語源となった伝説の女王「カリフィア」。「Oatly」がポップでアクティブな印象を与えるのに対し、「Califia」は大地の恵みとある種の高貴さを感じさせるラグジュアリーな立ち位置です。
どちらのブランドも、赤青白などの原色を基調とした牛乳らしいデザインの記号は意識的に避けているように見えます。まず固有のブランドとして個性を確立し、その世界観の完成度が、多くのファンに支持されて定番化している理由の1つではないでしょうか。
2.引き算が価値になる:「MALK」というクリーンさ
市場が成熟し、棚が情報過多になる中で、逆に「語らないこと」で強い存在感を放っているのが「MALK(マルク)」です。
「MALK」のパッケージ(画像3)は、潔いほどシンプルです。商品名のスペルは「milk」ではなく「MALK」。この一文字の違いに、「私たちは牛乳に比肩する新しい存在である」という誇りとアイデンティティが詰まっているようです。
特筆すべきは、パッケージ正面に記された「原材料の数」です。「3つの原材料だけ(3 Simple Ingredients)」といったアイコンが、何よりも雄弁に商品の質を語っています。
現在のアメリカの健康志向において、「何が入っているか」以上に「何が入っていないか(添加物やガム、増粘剤を入れない)」が重要な判断基準です。
「MALK」のデザインは、そうした「クリーンさ」を求める消費者の心理を、余白を生かしたデザインで巧みに突いています。他のブランドが「いかにおいしいか、いかに環境に良いか」を饒舌に語る中で、「MALK」の静かでストレートな佇まいは、逆に「これなら信頼できる」という安心感を際立たせています。

(画像3:「MALK」のパッケージ)
3.オーツミルク以降の群雄割拠:個性が光るブランド戦略
現在、プラントミルクの中でも特に成長が著しいのがオーツミルクです。かつてのアーモンドミルク一強時代を経て、今はオーツミルクを主軸にしたブランドが、それぞれのターゲットに合わせた巧みなデザイン戦略を展開しています。

(画像4:「Oatsome」「Minor Figures」「Planet Oat」)
ポップなライフスタイル提案:「Oatsome」
「Oatsome(オートサム)」(画像4左)は、朝食のシリアルなども手掛けるブランドです。パッケージは明るくポップなグラフィックで、家族の食卓に自然に馴染むデザインです。「特別な健康飲料」として構えるのではなく、日常のライフスタイルの一部として、ファミリー層に楽しく、おいしく取り入れてもらえるイメージ戦略と言えるでしょう。
カフェカルチャーのアイコン:「Minor Figures」
対照的に、エッジの効いたデザインで若年層の心をつかんでいるのが「Minor Figures(マイナーフィギュアズ)」(画像4中央)です。着ぐるみの頭を抱えた人物のシュールなイラストが描かれたパッケージは、一見すると飲料には見えません。しかし、これが現代のカフェカルチャーの文脈に見事に合致しています。公式サイトやグッズ展開を見ても、彼らは飲料ブランドという枠を超え、一種のファッションブランドに近い戦略を取っているように感じます。
親しみやすさと新しさの折衷案:「Planet Oat」
この中で最も「牛乳に近い文脈」をうまく取り入れているのが「Planet Oat(プラネット・オート)」(画像4右)ではないでしょうか。ミルクが跳ねるシズルカットや真面目な印象のゴシック体のロゴなどは、既存の「乳製品らしさ」を踏襲しつつ、華やかなイメージカットや温かみのある配色で、牛乳と一定の距離を保ち、新しさを演出しています。
4.嗜好品としての進化:「Nutpods」が示す「楽しみ」への転換
プラントミルクの用途は、今や「そのまま飲む」だけではありません。コーヒーや紅茶に入れるクリーマーの分野で頭角を表すのは「Nutpods(ナッツポッズ)」(画像5)です。
商品ラインナップを見ればわかる通り、そこには「代替品」という言葉から受ける消極的なイメージは微塵もありません。フレンチバニラ、ピスタチオ、クッキーバター味…。並んでいるのは、純粋に「おいしそう!」と思わせるフレーバーの数々です。これらは動物性の乳製品を摂れない人のための救済措置ではなく、コーヒー体験をよりクリエイティブに、より豊かにするための「嗜好品」へと進化しています。

(画像5:「Nutpods」の商品ラインナップ)
5.最後に:生活に溶け込む「プラントミルク」という概念
最後に、この「プラントミルク」というコンセプトが、食品の枠を超えて広がっている例を紹介します。日本でもお馴染みのボディケアブランド「Dove(ダヴ)」から発売されたボディウォッシュ、「Plant Milk Collection」(画像6)です。

(画像6:「Plant Milk Collection」のパッケージ)
このシリーズの登場は、アメリカ社会において「プラントミルク」という言葉が単なる飲み物の種類を超えた意味を持つようになったことを象徴しているかのようです。
「植物の力強さ」「人と環境へのやさしさ」「クリーンで透明性のあるプロセス」「洗練されたライフスタイル」…。こうしたポジティブなイメージを包括する、1つの大きな概念として形作られているのです。とはいえ、プラントミルクというカテゴリーは、まだまだ成長の途上にあります。今後どのような新しい意味や価値を飲み込んで成熟していくのか、その進化から目が離せません。
▼編集部おすすめ記事
タイのココナッツ商品とパッケージ
マレーシアを代表する「BOH紅茶」。地域一体でのブランディングと人々を惹きつける魅力的な商品パッケージ
