顧客の体験までデザインすることで成長を続ける「BORIS & HORTON」
イーストビレッジで人気のドッグフレンドリーカフェ「BORIS & HORTON(ポリス&ホルトン)」。今年の2月にオープンしたこの店を立ち上げたのは、親子でありビジネスパートナーの、ローガンとコピー。ニューヨーク初の正式なドッグフレンドリーカフェとして、オープン当初からウォールストリートジャーナル紙など地元紙にも取り上げられ、店舗の面積も創業当時の2倍の広さに拡張。平日休日問わず、とても賑わっているお店です。
今回は、ビジネスの起点、ロゴデザイン、そしてどのようにお店・ブランドをデザインすることで人気のお店となっているか、という視点でこちらのブランドを紹介したいと思います。
イメージは「リビングルーム」
ビジネスのきっかけとなったのは、自分たちの愛犬であるポリスとホルトンを外に連れて行くと、彼らを外に待たせておかなければならない状況がとても心苦しかったという思い出があったからだと言います。そこで、犬を外に置いていかないで、飼い主も犬もくつろげる「リビングルーム」のようなスペースを作りたいとこのカフェを立ち上げました。
飼い主のみならず犬にとってもくつろぎの空間にするため、ソファーの一部に犬が飛び乗って遊んでも、人が寄りかかっても気持ち良いクッションが背もたれとして使われていたり、壁の装飾には穏やかな気持ちになるようなクリーム色がベースのアブストラクトアートが施されていたり、と細かいところに犬・人間がリビングルームを感じられるような工夫が見られます。
ロゴデザインの3つのポイント
ロゴのデザインは、古くから交友のあった地元のデザイナーさんと何度も意見交換をして作り上げたものだと言います。
①色遣い
お店のコンセプトである「楽しさ」と「リラックス感」、そしてSNS映えを意識した薄めのブルーを使用。
②イラストとフォント
イラストは、ビジネスのきっかけであり、ブランドアイデンティティでもある2匹の犬。そして「洗礼された空間」の中にある「楽しさ」というコンセプトを伝えられるフォントを使用。(→洗礼された雰囲気を持つ「モダンローマン体」を少しポップにした字体を採用。)
③形
どんな形のものにプリントしても、ロゴがよ分かるデザインであること。創業当時よりオリジナルグッズに意欲的だった二人は、ペーパーカップだけではなく、Tシャツ、バッグなど、どんな面に印刷しても分かりやすい形のロゴにしたかったと言います。
コミュニティー形成を意識したブランド・店舗デザインで、顧客の消費カテゴリーの拡大を仕掛ける
ブランドのコンセプトは「ドッグフレンドリー、ローカルコミュニティ、エコフレンドリー」。このコンセプトは、顧客が触れる様々なものから感じることができます。
「ローカルコミュニティ」というコンセプトは、使用しているコーヒー豆からベーカリーグッズ、犬用のベーカリー、スナック、衣類に至るまで、全てローカルサプライヤーのものを使用していることを公言し、webサイトだけではなく定期的にサプライヤーのPOPUPイベントを実施することで、より多くの顧客にその事実を認識してもらうきっかけを作っています。ローカルパートナーとタッグを組むことによって、グッズを通して地域の活性化に貢献しているとも言えます。
また、「エコフレンドリー」というコンセプトは、リサイクル可能なコーヒーカップの推奨、来店者に対するゴミの分別の促進といった活動を通じて、顧客にこのコンセプトを伝えていると言えます。
カフェの激戦区のニューヨーク。周辺にも、古くからのファンを持つカフェが沢山あります。お店での経験を通じて、そのあとの顧客の行動にも働きかけるお店をデザインしなければ、一度きりの利用に止まってしまう可能性はとても高いことが現状です。
そこでこちらのお店では、顧客が無料で体験できるフォトブースを常時設置。また週に2・3回、犬の里親探しやローカルサプラーヤーのPOP UP等のイベントを定期的に開催し、常に顧客の関心を引いています。またそれと同時に、お店の方向性の理解促進と共感を生むきっかけを作り、リピーターを着実に増やしているのです。最近よく聞かれるようになった「ユーザーエクスピリエンス(UX)」という言葉。BORIS & HORTONが目指しているUX、各プロセスの中で発生する「顧客の消費」をまとめると、
きっかけ:大切な家族である犬も入れるカフェができたことを口コミやSNSで知り、お店に行きたいと思い始める。
①来店。犬、人向けの食事を購入する。(=カフェ機能に対する消費)
②雰囲気(=犬がくつろげる、穏やかな気持ちになれる)や、カフェの方向性(=ローカルコミュニティーを盛り上げたいと思っている、サステイナブルな社会の実現に貢献したい)に共感する。
③ファンになる。再度訪問する。
④取り扱っているグッズを購入する。(=小売店機能に対する消費)
⑤繰り返し訪れているうちに、週替わりのイベントにも参加するようになる。(=付加価値サービス機能に対する消費)
このように顧客の消費カテゴリーを増やすことで、収益の拡大に繋がっているとも言えます。
今後のビジョンは?という私の質問に、コピーはこう話してくれました。「店舗を増やすだけではなく、現在はまだマグカップやトートバッグ、一部犬向けの衣類のみ展開しているオリジナルロゴグッズの幅を少し広げて、グッズの卸売販売にもチャレンジしてみたい。また、SNSの影響もあり海外からの顧客も増えているので、様々な手法で顧客にリーチする活動にも積極的に取り組んでいきたいと思っている」。
事業の規模にかかわらず、アクティブでクリエイティブな発想を持ってビジネスを推し進めていくこの起業家精神こそ、ニューヨークのスモールビジネスオーナーらしさである気がしました。
更に深掘り!プレミアムレポート(2019年4月3日追記)
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