なぜ「ユニオン・マーケット」は、ニューヨーカーに愛されるのか?
ニューヨーカーに愛される「ユニオン・マーケット」とは
昨今、世界的におしゃれな地区の代名詞となっているニューヨーク市のブルックリン。でも、だからと言って最先端のサービスやショップが必ずしも人気とは限りません。住民に好まれているのは、センスや感度の良さはベースにありますが、案外、人の温もりを感じるサービスであり、ショップなのです。日々の生活に欠かせないスーパーマーケットも、しかりです。
今回はブルックリン発信の人気スーパーマーケット、ユニオン・マーケットの店内プロモーションやパッケージ商品への取り組みなどをご紹介します。
ユニオン・マーケットは全国的には著名ではありませんが、地元に多くのファンを持ち、現在、市内の店舗数は5店舗。ブルックリンの中でも古くから閑静な住宅地として知られ、また、食生活へのこだわりが強いニューヨーカーが暮らしているブルックリン・パークスロープ地区に2店舗(この地区は70年代創設のco-opがあることでも知られている)、キャロルガーデン地区(こちらも高級住宅地。若いファミリー層に人気がある)、マンハッタンのローワーイーストサイド(コミュニティという意味で、ブルックリンとよく似ているという理由で立地を決めた唯一のマンハッタン店)、そして2018年には、住宅地として近年人気が高まっているプロスペクトハイツ地区に新店舗をオープンしました。この店舗の広さは4,500平方フィート(約126坪)で、今までで一番大きい店構えです。
ユニオン・マーケットのビジネス哲学は、サスティナブル、良品質、利便性のある食品“Food you should be eating(あなたが食べるべき食品)”を提供すること。
ともするとホールフーズに類似するかのようですが、ユニオン・マーケットの共同経営者のひとり、ラリック氏は「ホールフーズは、今やAmazon.com経営の大型チェーン店。ユニオン・マーケットは地元志向。自分自身がそうであるように、ユニオン・マーケット自体も『ニューヨーカー』なのです。店舗サイズも都会暮らしに合ったサイズ(大きすぎず、小さすぎず)で、地元で作られた新鮮な食材や乳製品、乾物、お惣菜などを、さっと見つけられる『クイックショップ』を目指しています。」と言います。
気軽に立ち寄れるサイズ感、共感できる食材やお惣菜が揃い、電話やオンラインで注文してピックアップやデリバリー(半径10ブロック内であれば無料)も可能。ケータリングには「スモークサーモンに2種類のクリームチーズとベーグル、野菜も添えて」といった、ニューヨークらしい気の利いたプラター(8〜10人分で69ドル)もあり、個人向けだけでなくコーポレーション向けにも対応。おしゃれ志向のニューヨーカーの心をくすぐっています。
City Harvest(ニューヨーク市最大の食料救援団体)をはじめとする慈善団体や非営利団体、および学校に食料を寄付するなど、地域社会への貢献もこの店の好感度を上げている点です。
「ユニオン・マーケット」のオリジナル・プロモーション・アイテム
ユニオン・マーケットのプロモーションカラーはブラック。それはオリジナル製品やショッピングバッグ、エコバッグにも反映されています。
エコな紙カートン製パッケージ商品の広がり
「”Food you should be eating (あなたが食べるべき食品)” とは、内容だけではない。パッケージングもしかり。食料シーンで起こっている事由を常に把握し、顧客の共感を得ながら環境改善に協力する」と、ラリック氏。パッケージ商品も、エコに敏感な顧客が納得する紙製のパッケージを、自身も必要性を感じて増やしているとのこと。
店内ディスプレイは敢えて「吊り下げる」
最近の米国の人手不足や人件費高騰などの理由で、吊り下げ作業は面倒、時間のロス、と、大手スーパーではフックで吊り下げる袋物(パウチ)を商品からはずす傾向にあるようですが、中型サイズのユニオン・マーケットではスペースの有効利用からも、吊り下げタイプは今も有用な商品であり、売り場に動きを作る欠かせないアイテムになっています。
ニューヨーカーはニュービジネスに対して意外と懐疑的?
私の住まいはパークスロープにあり、ユニオン・マーケットは、大型店にはない利便性と良品(だけ)が揃う、まさに“クイックショップ”です。買い物客の間には「ユニオン・マーケットが好き」という共有感(安心感)があり、それも、ここに足を運びたくなる所以です。
近所にあるブルックリン初のホールフーズにも、オープン当初にはユニオン・マーケットと同様の雰囲気がありましたが、経営がアマゾンに変わってからは違う店になってしまったような寂しさを感じています。(もちろん、リーズナブルな価格のものが増えたのは喜ばしいことですが。)一時はホールフーズに顧客を取られていたユニオン・マーケットですが、最近は、顧客が戻ってきているようです。
Amazon goなど、未来型のショップは、若い層には受け入れられ易いかもしれませんが、ニューヨーカーはニュービジネスに対して意外と懐疑的。手強く、押し付けを嫌います。ユニオン・マーケットのように、土地柄を熟知して住民のニーズに寄り添う温もりのあるプロモーションは、今後もきっと生き残っていくだろうと、この取材を通して思いました。
ニューヨークのスーパーでは「おひとり様用スイーツ」が静かにブーム中。日本人にとっては、当たり前の存在といえるスイーツの「おひとり様パッケージ」が、ニューヨークのグルメなスーパーマーケットで静かなブームになっています。#パケトラ https://t.co/jKOprjgwNr pic.twitter.com/bnJelV9amZ
— パケトラ (@Pake_tra) 2019年5月9日
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