環境意識の高いドイツで急成長中のスタートアップ企業「インファーム」が提案する、新しい農業のカタチ
初めまして、宮本薫です。
2001年から2016年までモロッコのマラケシュ、2016年からドイツのベルリン在住です。ベルリンで暮らし始めて3年が経ちましたが、毎日が「なにこれ!?こんなアイデアがあったの?」というワクワクに満ちています。
私たちの食材は、何百キロも、場合によっては何千キロも離れた地球の裏側から運ばれてくるのが当然。そのためにはまだ熟していない果物を収穫するのも、農薬や保存料を使うのも仕方がない。—— そんな常識に疑問を持ち、ベルリンで急成長しているスタートアップ企業、infarmを紹介します。
365日、いつでも美味しくて新鮮なハーブが食べたい
infarm発祥の地、ベルリンの緯度は54度。43度の北海道のさらに北にあり、真冬はお昼の3時半には真っ暗になってしまいます。ベルリンの人々は、ほんの数十年前まで、冬の間はジャガイモと玉ねぎばかり食べていたと言いますし、今でも地球を半周して運ばれてきた野菜や果物に、新鮮さは期待できません。
そんなベルリンで、「365日、いつでも美味しくて新鮮なハーブが食べたい」という創業者のシンプルな希望から、infarmのビジネスは始まりました。彼らが販売するのは、自社とクラウドコンピューティングで繋がった室内水耕・垂直栽培システムです。
スマート・ガラス・ケース、栽培に必要なもの一式、温度、湿度、水、栄養分などの管理、必要に応じた人の派遣までのパッケージを、ドイツ、フランス、スイスなどのスーパー、レストラン、カフェなどに販売しています。
生産地と消費者が近ければ近いほど、地球のためになる
ケースの中には、infarm が独自に開発したセンサーがあり、自社のクラウドコンピューターとつながっています。それぞれの野菜に最適な光、水、養分が与えられます。一般の農地の0.5%の面積で同じ量が育てられ、殺虫剤は不要、調理前に洗う必要すらありません。
一般的な野菜の栄養分は、消費者のテーブルに到着するまでにかなり失われてしまうと言いますが、食べる直前に収穫される野菜には、最大限の栄養素が詰まっています。
現代では、都市に集中した人々へ新鮮な食料を供給するために、膨大なエネルギーが費やされています。しかしinfarmを使うと、90%の運送エネルギーが削減できるそうです。「生産地と消費者が近ければ近いほど、地球のためになる」がモットーです。
採れたての野菜は美味しい
ドイツは環境意識が高い人が多いので、「趣旨に賛同したからinfarmの野菜を購入する」という人も多いでしょう。でも、それだけではここまでの規模には育ちません。infarmのシステムが急成長している理由、それは「美味しい」ということです。
採れたての野菜は美味しい———よく考えてみたら当たり前のことですが、現代の都市の生活の中でそれを実感するチャンスはほとんどありません。
収穫されたばかりの野菜やハーブを中心とした、サラダボウルやランチプレートが人気です。私がいただいたのはチキンのシュニッツェルのプレートでしたが、瑞々しく味の濃いレタスのサラダは、付け合わせではなく主役でした。
また、近所のスーパーで買ってきたのは“ギリシャのバジル”、1.29ユーロ。
環境への配慮が感じられるシンプルな再生紙のパッケージです。気になる人向けに、カバーのビニールも用意されていましたが、使っている人は少ないようでした。また、葉の緑色、再生紙のパッケージ、植物の根(土はついていない)という組み合わせが、環境や食べるものに敏感な人々にアピールします。
2013年にアパートの一室で始まったスタートアップビジネスは、現在も急成長中。2018年には1億ドルの投資を受けたことがニュースになりました。
ドイツでは大手スーパー各社のほか、アマゾンフレッシュでも取り扱いがあります。2019年現在、200箇所以上の販売拠点をもち、毎月15万株以上の野菜が生産されています。今後、日本、イギリス、アメリカへの拡大を計画しているというので、来年あたりには、日本でもinfarmを見かけるかもしれません。
■infarm
Indoor Urban Farming GmbH
Colditzstraße 30, 12099 Berlin
https://infarm.com/
■Beba
(Martin-Gropius-Bau) 美術館に入場しなくてもレストランだけの利用も可能。
Niederkirchnerstraße 7, 10963 Berlin
https://www.berlinerfestspiele.de/de/gropiusbau/service/restaurant/start.html
10:00~19:00(火曜定休)
参照:
https://www.gruenderszene.de/food/88-millionen-infarm?interstitial
https://techcrunch.com/2019/06/11/infarm-series-b/
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