古い風習を現代風にアレンジ。理髪店×コーヒーショップ「COTTER BARBER」のブランドストーリー
ブルックリンの人気地区ウィリアムズバーグと、その北側のグリーンポイント地区とのほぼ界に、今回取材したCOTTER BARBER(コッター・バーバー)はあります。
偶然3年ほど前に、私はこの店を見つけました。友人と「立ち話もなんだから、どこかに座って話したいね」と辺りを見回して、コーヒーショップだと思って中に入ったのです。すると、ブルックリンらしいブリックウォール、ヴィンテージの椅子、美しく整えられたバーバーが奥に見えました。コーヒーショップと理髪店の組み合わせが、なんともかっこよく、斬新なアイデアと思ったのです。
今回は、2店舗目をオープンしたばかりのCOTTER BARBERを訪ね、オーナーのブライアン氏にショップ開業や運営のバック・ストーリーを伺いました。
コーヒーショップがもたらす理髪店への効用は?
Q:理髪店とコーヒーショップの組み合わせは、どんな風に思いついたのですか?
「祖父が経営する理髪店では、いつも顧客にコーヒーをサービスで出していた。子どもの頃からその風景に慣れ親しんできたから、僕にとってコーヒーショップのアイデアは決して新しくはないんだ。料金をとる、という点では新しいかもしれないけどね」
Q:コーヒーショップがもたらす理髪店への効用はありますか?
「今まで理髪店に縁がなかったストローラー(乳母車)を引いた女性(お母さん)が店内に入ってくる。すると、夫にうち(理髪店)を勧めてくれる。子どものカットもしかり。コーヒー豆を買うついでに、理髪店のプロダクトにも興味を持ってくれて、ギフトとして買ってくれる=顧客が増えるというわけさ。とても良い循環ができていると思うよ」
「コーヒーショップはブランドイメージにも一役買っている。ヘアカットが終わるまで、顧客は腕時計を気にしながら時間つぶしに雑誌を読む。飲み物を提供することで、その時間が寛ぐ時間に変わる。そういう「時間」を提供する店=ブランドイメージを、COTTER BARBERは大切にしているんだ。オープン当初は9AMから12PMまで、ヘアカットのお客さんにコーヒーとペーストリーをサービスで提供した。喜んでもらえたよ」
どちらもイーブンに力を注ぐことで得られる、厚みのあるファン層
コッター・バーバーが扱っているコーヒーは、ブルックリンの人気ロースターのひとつであるParlor Coffee(パーラーコーヒー https://parlorcoffee.com )のもの。集客吸引力のあるコーヒー・ブランドです。
理髪店でコーヒーを扱うというアイデアの本質は、上で記したように、アメリカの理髪店の、古くからの顧客向けサービスが発端ですが、COTTER BARBERはブルックリンで人気のParlor Coffeeをセレクトして、周辺にはレベルの高いコーヒーショップとしても認知され、理髪店とは別にレギュラーのファンを作っています。
今もコーヒー豆の販売をしていますが、現在、ショップブランドのオリジナル・コーヒーをParlor Coffeeと開発中。Made in Brooklynのここでしか買えないオリジナルブレンド豆の販売は、コーヒーショップのファンへのアプローチであり、ふんわりと、理髪店の顧客を増やすプロモーションにもつながっています。
Q:バックヤードがありますね。私が数年前にコーヒーをオーダーした際に「奥へどうぞ」と声をかけてもらいました。静かで、プライベートな感じがとても心地よかったです。
「コーヒーを買う人の中から見極めて、バックヤードを勧めている。騒ぎそうな人はNG。サンドイッチボード(立て看板)にはあえて庭席があることは書いていない。書かないことで、声をかけられた側は特別扱いしてもらったという優越感が味わえる。君もそうじゃなかった?」
確かに。チェリーツリーが木陰を作って初夏の日差しから守ってくれる感じや、特別扱い(笑)が嬉しくて、大変気分よく過ごせたと記憶しています。
従業員の休憩にも使われるバックヤードには折りたたみ式のガーデンチェアとテーブルが。バーベキューピットもあり、野外パーティにも十分使えるスペース。今は特に顧客向けイベントは考えていないが、アイデアはいつでもウェルカム、とブライアンは言う。
Q:理髪店とカフェの併設は、日本ではなかなか難しいようです。ニューヨーク市はどうですか?
「ニューヨークもややこしいのは同じだと思う。長い時間を費やしてリサーチを重ねた結果、コーヒーショップが入り口で理髪店は奥、レジカウンターは別々に設置、コーヒーはテイクアウトのみ、という今の形になったんだ」
簡単なベンチやスツールはあるけれど、それはバーバーの待ち時間に座る簡単な席と取れる。ゆっくり座ってお喋りするカフェとは一線を画している。
ヴィンテージスタイルもこの店の魅力
Q:店内の備品はヴィンテージが多いですね。特にバーバーチェアは年代物ですね。
「父親がヴィンテージの車やボートが好きで、趣味でメンテナンスもやっていた。僕はそんな環境の中で育ったから、自然とヴィンテージに惹かれてしまうみたいだ。バーバーチェアは100年前のもので、セットで見つけるのは非常に難しいから、自分で不備のある7つのチェア(の部品)を合わせて、使えるチェア4つにメンテナンスしたんだ」
Q:お店の名前の由来を教えてください
「名前の由来はCotter Pin (コッター・ピン)。コッター・ピンは、オートモビール(バイクや車、バスや電車)に多く使用されている“すべてをつなぐ役割をするピン”。子どもの頃「これは何?」と父親に質問したら、そう答えてくれた。このバーバーチェアにもコッター・ピンは使われている。店名を考えているときに丁度目の前にあったコッター・ピンを眺めながら、理髪店は昔から地域のコミュニティの場所=みんなを「つなぐ」場所。「Cotter Barber」いいじゃないか!ってね」
2店舗目のブランディングもコーヒー×理髪店からスタート
Q:最近2店舗目をオープンされましたね。前から計画されていたんですか?
「計画していたわけじゃなかった。友人から、レストランにしたい物件があるから一緒に見てほしい、と言われてついて行ったら、レストランには小さ過ぎた。でも理髪店ならいける!と思ったんだ。
ロケーションは1号店からさほど遠くない。周りの環境のことも熟知している。周りに良い理髪店がないことを知って、すぐにリースにサインした。一号店の知識を活かして、地域貢献をしたいという気持ちと、また魅力的な店を作ってみたいというクリエイティブな気持ちが、ビジネス拡大よりも勝っていたんだ」
店内には髪の毛もほこりも一切落ちておらず(散髪中はもちろん別ですが)、細かな備品は常にピカピカに磨かれ、隅々まで清掃が行き届いている。これは2つの店の共通点で、ブライアン氏がもっとも大事にしている店のポリシーだそう。
Q:2つの店の違いはありますか?
「2号店は、今は1号店同様コーヒーを出しているけれど、いずれはクラシカルなカクテルやハードリカーを提供してみたい。今はそれに向けて働きかけているところ。これも理髪店の古い慣例で、新しいアイデアではないけれど、こういう良い風習は継承していきたいというのが僕の考えさ」
プロダクトはヴィンテージのショーケースの中に展示。この店もコーヒーやお茶がテイクアウトできる。
奥に長い1号店とはだいぶ趣を変えて、正方形に近い間取りの2号店。エントランスを入って左手に、プロダクトのショーケースとコーヒーステーションがあり、ブライアン氏の審美眼にかなったヴィンテージの備品が、新築の店舗にノスタルジックでウェルカムな雰囲気を作り出しています。
これは私個人の意見ですが、1号店よりマチュアな印象です。これも彼の戦略なのでしょうか、2号店の周辺は古くからの駅前商店街で、このほうが街に溶け込みます。1号店で成功している「ドリンク×理髪店×ヴィンテージ」という3つの要素=パッケージは変えずに、これだけ雰囲気の違う店づくりができるブライアン氏のクリエイティビティには脱帽です。
ショップコンセプトを考えるとき、大抵は新しいアイデアを模索しますが、Cotter Barberのように古い風習の魅力を現代風にアレンジする方向性は良いアイデアだと、取材をしながら感じました。
公式サイト:https://www.cotter.nyc
Instagram:https://www.instagram.com/cotterbarber/
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— パケトラ (@Pake_tra) August 19, 2019
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