アルゼンチンには様々なスイーツがありますが、その中でも特にアイスクリームは大人気。イタリア系移民が多いことから、ジェラートのように濃厚な味わいが特徴です。
アイスクリームは普段のおやつに食べることが多いですが、毎週日曜日のランチ後のデザートにも欠かせません。というのも、アルゼンチンでは毎週日曜日に家族全員でランチをするのが伝統だからです。安くて量の多いアイスクリームは、大人数にぴったりのデザート。
そんなアイスクリーム大国アルゼンチンで最も有名なアイスクリーム店は「Grido(グリド)」。2001年創業のグリドは、手頃な価格と確かな味で、老若男女に愛されています。アルゼンチン全土のほか、チリやウルグアイなどの周辺諸国にも展開するほど。そんなグリドが近年、興味深い取り組みをしているのです。
アイスクリーム屋さんが目を付けたニッチ市場
グリドの新たな取り組み、それは冷凍食品の販売です。日本では一般的な冷凍食品ですが、アルゼンチンではそうではありません。日本の冷凍食品年間消費量が一人当たり22.9㎏に対し、アルゼンチンではたったの1.8㎏なのです。
筆者は2015年よりアルゼンチン人妻と生活していますが、冷凍食品が食卓に並んだことは、ほとんどありません。アルゼンチンで冷凍食品が普及していない主な理由は次の2つ。
・まだまだ共働きが一般的ではない
・職場や学校にお弁当を持っていく習慣がない(持っていくとしてもサンドウィッチなどの軽食)
また、筆者周辺のアルゼンチン人に冷凍食品を購入しない理由を尋ねたところ、「自分で作った方が安い/美味しい」という回答が多かったです。ただ、面白いことに、彼らの大半は冷凍食品を購入した経験がありません。インフレが収まる気配のないアルゼンチンでは、消費者は何よりも価格を重視しているようです。
見方を変えれば、アルゼンチンの冷凍食品市場は、成長の余地が十分にあるブルーオーシャン。実際に2017年の調査では、冷凍食品の消費量が2.7%あがっているそう。そこにグリドは目を付けたわけです。
2014年、グリドは冷凍モッツァレラピザの販売を開始します。2017年には「”Frizzio”シリーズ」と名付けて、実験的に2種類のピザと2種類のエンパナーダ(パイの包み焼き)計4商品の冷凍食品販売を開始。今では5種類のピザと2種類のエンパナーダ、2種類のミックスベジタブル、2種類のナゲットを販売するまでに成長しました。
結果から言えば、グリドの冷凍食品事業は大成功。累計販売数は1,100万個突破し、総売上の4~5%を冷凍食品が占めるほどになりました。
グリドの冷凍食品が成功した2つの理由
グリドの冷凍食品が成功した理由は主に2つ。1つ目は手頃な価格です。ピザやエンパナーダなど、他店の商品と比較しても、価格は30~40%安くなっています。
記事執筆にあたり筆者もFrizzioシリーズを購入してみましたが、価格の安さには驚かされました。ピザは1枚80ペソ(約135円/2020年3月時点)。しかも、2枚購入すると1枚無料でプレゼントするという気前の良さ。たったの160ペソ(約270円)で3枚のピザを購入できるので、もしかすると自分で作るよりも安いかもしれません。
そして2つ目の理由が、グリドの圧倒的な存在感です。まだまだ冷凍食品が珍しいアルゼンチンでは、まず消費者にその存在を知ってもらう必要があります。その点、アイスクリームチェーンとして絶大な知名度を誇るグリドは、大きなアドバンテージを持っていました。
毎週のようにグリドへ足しげく通う筆者も、冷凍食品販売が本格化された時、強く興味を惹かれたのを覚えています。値段も手頃だったため、その日の夕食のピザとデザート用にアイスクリームを買いました。グリドに行くだけで食事とデザートを購入できるのは、消費者としては嬉しい点です。
冷凍食品はアイスクリーム店の弱点をカバーする
グリドは冷凍食品を販売することで、一つの弱点を克服しています。それは、季節に売り上げが左右されること。いくら人気だとはいえ、アイスクリームの売り上げは夏に頂点を迎え、秋冬には落ちてしまいます。
一方、冷凍食品は季節に左右されず、年間を通して安定した利益を得られる商品です。アイスクリームだけでなく、販売軸を冷凍食品にも分散することで、リスク配分ができています。
実は最近になって、グリドはコーヒーやドーナツなどの販売も開始しています。アルゼンチンには日本のコンビニのようなものはありません。「キオスコ」と呼ばれる小さな個人商店がコンビニに当たりますが、淹れたてのコーヒーや軽食はありません。
もしかすると、ただのアイスクリームチェーンだったグリドが、いずれは日本のコンビニのような存在になるのかもしれません。
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