日本では健康食品としてもデザートとしても、日常生活に定着しているヨーグルトですが、アメリカでの熱量はそれを凌ぐかもしれません。脂肪分の違いからプロテイン量、はたまた動物性か植物性か…と、それぞれのブランドが持つスペックの違いの波に飲み込まれそうになります。
しかし、数多あるブランドがひしめき合うこの激戦区で、消費者は迷いなく自分の「お気に入り」を手に取ります。そこにあるのは細かな情報の読み取りではなく、パッケージが放つ「世界観」への直感的な共感です。
私も渡米直後の頃こそ、数多の商品群を前に立ちすくんでしまいましたが、今では初めて訪れた街のスーパーに行っても間違いなくお目当てのヨーグルトを選ぶことができます。
今回は、そんなアメリカのヨーグルト売り場で放たれている、ブランドごとの「メッセージ」を読み解いていきたいと思います。
1.暮らしに溶け込む、優しい王様ブランド:Chobani(チョバーニ)
アメリカでヨーグルトを語る際、まず外せないのが「Chobani」です。日本ではまだなじみが薄いかもしれませんが、アメリカでは州を問わず、あらゆるスーパーの棚の中心を担う、王道ブランドです。私のイメージですが、健康感とデザート感のちょうど中間にあるバランスの良さが人気の理由ではないでしょうか。
「Chobani」のパッケージは、とってもナチュラルでシンプルです。オフホワイトでマットなラベルと水彩タッチのフレーバーのイラストがホッとさせてくれます。
ヨーグルトでミニサイズがある場合、カップも蓋もそのまま一回り小さくなるもの、という先入観があったのですが、カップの口径はそのままで高さが低いものをたまに見かけます。「Chobani」にも同じデザインで背の低いミニカップがあって、ちょっとかわいいです。ココット皿のようで食べやすく、これも意外とありだと思える形状です。

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期間限定フレーバーもこまめに発売されますが、派手なコピーで煽ることなく、パッケージ全体で「プレミアム感」を伝える手法には、王者の余裕すら感じます。

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2.ストイックな職人が作る「素材」:Fage(ファイエ)
「Chobani」が"親しみやすさ"の象徴なら、対照的に"ストイックな質実剛健さ"を放つのが、ギリシャ発の老舗ブランド「Fage」です。

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蓋を開けるとまず驚かされるのが、ヨーグルトの表面を覆う「一枚の紙」。これは、ヨーグルトから自然ににじみ出る上澄み液(ホエイ)を吸収するためのものだそうです。

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この一手間が、「Fage」の独特な濃厚さを生んでいるのでしょうね。クリームチーズのようなテクスチャーと、クセのない後味はデザートとしてだけでなく、料理の素材としても非常に優秀。パッケージも一見してヨーグルトというよりは、真面目なプロ向け乳製品のようなシンプルさ。甘さや楽しさよりも、職人技を楽しみたいタイプの消費者にも支持されているようです。
3.罪悪感なし!「健康デザート」:Noosa(ヌーサ)
ここで、私がいちばん気に入っているブランド「Noosa」をご紹介させてください。この人気が全米規模なのか分かりませんが、少なくともイリノイのどこのスーパーに行っても必ず手に入るくらいではあります。どちらかというと「健康食品」の枠に収まりきらない、リッチなデザートとしても地位を確立しているのではないでしょうか。
「Noosa」のパッケージは、黒地に鮮やかな原色を組み合わせた配色で、真面目な健康イメージからは少し距離を置いた、大人向けのおしゃれさがあります。

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最大の特徴は、売れ筋サイズの中容量(画像5手前3点)に見られる、平べったいカップと黒い縁の蓋です。蓋にはフレーバーがモノクロのシルエットで描かれ、内蓋ではユーモラスな牛のイラストとメッセージが迎えてくれます。この牛のセリフは何種類かあって、毎回のちょっとしたお楽しみとなっています。
ヨーグルトという健康的なイメージを持つカテゴリーにしては、少しカジュアルでスタイリッシュな印象です。この距離感の作り方が、大人たちの心を掴んで離さない理由ではないでしょうか。中身も大人の味覚にふさわしく本格的で、ナチュラルな風味のソースとクリーミーなヨーグルトは、デザート感覚でありながら、夜に食べても罪悪感が薄れる嬉しい存在なのです。
4.廃棄のその後までを考える:Yoplait(ヨープレイト)
アメリカのヨーグルト市場で非常に長い歴史を持つ「Yoplait」は、甘味も強めでとろみのあるテクスチャーで子どもにも人気のブランドです。
カップが先細り状になっていて重ね置きしやすい独特の形状になっていて、限られた冷蔵庫のスペースを有効活用できる優れものです。当然スーパーでも縦に重ねて並べられていて、店頭効果も抜群です。

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パッケージの側面には「野生動物を守るために、使用後は潰してから捨てること」といった注意書きが記されています。これは日本の商品にはなかなか見られない表現ではないでしょうか。

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アメリカでは廃棄物処理が主に埋め立てなので、カップは捨てたらそのままの状態で野外に置かれるとも言えるわけです。屋外の埋立地には小さな野生動物も立ち入るので、甘い匂いに誘われてか、暖を求めてか、この入り口が狭い特殊なカップ形状に、頭を突っ込んだらそのまま出られずに命を落とすということが問題とされたそうです。そのため、このような他の商品には見られない注意書きがされているわけです。
パッケージデザインと処理方法の違いは、こうした環境対応のメッセージの違いにも現れています。
5.「思想」を分かち合う:Forager Project(フォレジャー・プロジェクト)
最後にご紹介するのが、植物性ヨーグルトを中心とした環境意識の高いブランド「Forager Project」です。「プロジェクト」という名称が示す通り、これは単なる商品ではなく、ある種の「社会的な計画」への参加を促すパッケージと言えるかもしれません。蓋にも、カップの裏側にも、このブランドからのエシカルなメッセージがグラフィカルに書いてあります。

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商品ラインナップをいくつか試してみましたが、いちごのような、元々酸味のあるフレーバーとの相性はよく、かなりヨーグルトの代替品として優秀だと思いました。
ただ、バニラのような甘さが主体のフレーバーだと、独特な酸味や、後味にナッツ由来の「豆っぽさ」が際立ち、正直なところ好みは分かれるかもしれません。
しかし、このブランドを選ぶ消費者は、味の完璧さ以上に、その背後にある「環境への姿勢」を支持しているのではないでしょうか。エコな思想が先行しすぎるとどうしても「押し付けがましさ」が出がちですが、手作りのぬくもりが感じられる親しみやすいパッケージデザインで、印象としては全くそのような先鋭性はありません。
ライフスタイルの一部としてこのプロジェクトに参加することを自然なスタンスだと思わせてくれるような、そんな現代的なブランディングの妙が光ります。
最後に:ヨーグルト売り場はブランディングの見本市
元々アメリカのパッケージデザインには、日本と比べると文字情報が少なく、その代わり「全体から感じ取れるブランド表現」を重視している傾向があります。この辺はやはり、ブランディングはアメリカのお家芸といったところで、成功例がいくらでも目に留まります。
今回、各ブランドのパッケージを並べてみると、ヨーグルトというカテゴリーを示す「白」を基調とするルールは共通させつつ、それ以外の要素でいかに個性を出し、差別化を図るかに各社が工夫を凝らしているのがわかります。
アメリカの巨大なヨーグルト売り場は、最新のウェルネストレンドを映し出す鏡であると同時に、この「カテゴリーらしさ」と「個性」をどう両立させるかという、ブランディングの絶好の見本市とも言えるのではないでしょうか。
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