ニューヨークは、長期間に渡るパンデミック生活を経て、最近ではすっかり日常の生活が戻り、コロナ後のフェーズへと移行しているところです。
ロックダウンされる以前の1年半前のニューヨークにはなかった、ウィズコロナ時代と、コロナ後を見据えた、今ならではの新しいトレンドが色々と登場しています。そんな最近のニューヨークの飲食・小売業界の代表的なトレンドを、ニューヨークでお馴染みの存在で、日本でも、最近、新巨大旗艦店が銀座に登場し話題になっている、イタリアのグルメマーケット、Eataly を例に紹介します。
(Eatalyとは、ニューヨークをはじめ世界各地で、イタリアの食文化をテーマにフードマーケットを展開し、世界にイタリアの食文化を伝えていくことに成功している注目のお店です。)
●前回の記事はこちら。
ローカルブランドとのコラボ戦略が面白い!
以前、ニューヨークのEatalyの誕生記念の感謝祭パーティを紹介させていただきましたが、Eatalyは、世界各地に展開する、イタリアの食の魅力を伝えるグルメマーケットで、常にマーケティングの仕掛けがとても面白い企業です。
Eatalyがワインとケーキを大盤振る舞いしたそのパーティでは、ワイン片手にショッピングを楽しむ大勢のお客さんで店内は大盛り上がりし、その日のレジ待ちは大行列となり、人々の購買意欲を引き出すEatalyの腕には感服したものでした。
コロナ禍ではそんなに多くの人々を集めるパーティのような大々的なことはできませんが、そんな中、Eatalyが力を入れているのは、ローカルブランドとのコラボです。そこに居るだけで、楽しくなる空間を創り出すという取り組みを、ニューヨークのローカルブランドとタグを組んで行っています。
パンデミックにより、自宅で過ごす時間が長くなり、生活スタイルが大きく変わったという人々が多い中、居心地良く楽しく過ごせる空間をお店で提供し、再び外出の楽しさを思い出してもらおうという意図があります。
今回 Eatalyが新しく取り組んだ戦略は、ローカルのものを大切にするニューヨーカーたちの心理も上手く取り入れたもので、コラボ相手も、お客さんもみんなが喜ぶ、とても面白い試みです。
Eatalyが選んだコラボ相手は、とても意外な相手でした。さっそくコラボ戦略の詳細を一つ一つみていきましょう。
1.ミュージアムとのコラボ
Eatalyのコラボ戦略の一つ目は、なんとミュージアムとのタイアップです。ダウンタウンのEatalyでは、ニューヨークの色のミュージアム、Color Factory New York とコラボし、店内をカラフルにデザインしています。ニューヨークは、コロナ後、ファッションも含め、気分が盛り上がる、ビビッドな明るい色合いのデザインが流行っていますが、Eatalyでも色と遊び心のある楽しい雰囲気の空間デザインとなっています。
Color Factory New York は、カラーをテーマにしたミュージアムで、展示を見て回るだけのミュージアムでなく、体験を通じインタラクティブに楽しめたり、フォトジェニックな撮影スポットが数多く用意されたり、今らしいトレンドを取り入れたミュージアムです。アーティストとのコラボも積極的に行っており、空間デザインを得意としているという面白いミュージアムで、今回、Eatalyは、そんな色のミュージアム、Color Factory New Yorkとのコラボで、楽しい雰囲気を演出しています。
店内のレストランスペースは、カラフルな天井に包まれて、楽しい食空間になっています。ソーシャルディスタンスをとったテーブルセッティングがされ、広々としていて、明るく開放的な気持ちのいい空間になっています。
2.植物園とのコラボ
Eatalyの興味深いコラボ相手のもうひとつは、ニューヨーク、ブルックリンにある植物園です。パンデミック中の長いステイホーム期間に、花や緑の観葉植物の人気がとても高まりましたが、ミッドタウンのフラットアイアン地区にある Eatalyの屋上レストランでは、今年の夏、ブルックリン植物園とコラボし、癒しの空間を登場させました。花と緑が豊かな美しいレストランとして有名になっています。
季節によって変化するレストランをテーマにしており、春はピンク色など春の彩りのお花で華やかになり、夏は涼し気な緑いっぱいの空間に変身です。お花のカクテルなど、個性的なメニューも提供しています。
店内のデザインは、フラワーデザイナーなどに依頼するというのが普通の形ではないかと思いますが、パンデミック禍だったからこそ実現可能だった新たな試みで、通常だったら中々思いつかないようなミュージアムや植物園などの新たなパートナーシップから面白いアイデアが生まれて来ていると思います。
3.近隣店とのコラボ
Eatalyのもう一つのコラボは、Eatalyのすぐお隣にお店を構える、北欧ブランドで有名なマリメッコです。近所のお店とのコラボは、地域の活性化などメリットも大きいと思います。
ちょうど、マリメッコのお店と、Eatalyのお店の両方の正面に、このマリメッコデザインのEatalyの出店が作られました。
コンテナタイプのアウトドアのピザ屋さんで、店内に入らずに外で購入して飲食もできる、気軽なテイクアウトショップとなり、パンデミック中でも大活躍のお店でした。
Eataly での例のように、パンデミックという厳しい環境の中、ニューヨークでは、地域、業界、異業種間など様々な分野で新たな連帯感が生まれているのが感じられます。パンデミックに伴う仕事内容の変化に伴い、クリエイティブなプロジェクトに時間を割くことができるようになったことも背景にあると思います。
アウトドアダイニングの大流行
ニューヨークで、コロナ以降の最大の変化と言えば、まるでヨーロッパの街のような感じで、外での食事スペースがとても増えたことです。
Eataly も、テイクアウトショップに加えて、アウトドアレストランもコロナ禍でオープンしました。
ニューヨークではパンデミック中、レストラン内での飲食が長いこと禁止され、その代わりに、推奨されたのが、レストランの外にスペースを確保し、テーブル席を作り、飲食できるようにしたアウトドアダイニングです。車道の路面に、感染防止のための仕切りのついた個室型のテーブル席の小屋を建てたり、歩道沿いに席を並べたりすることなどが可能になりました。このアウトドアダイニングはパンデミック後も続くこととなり、ニューヨークの新しいカルチャーの誕生となりました。パンデミックのおかげで生まれた良い副産物と言えます。
ニューヨークでコロナ後新しく定着したアウトドアダイニングでは、Eatalyの屋上レストラン同様、花と緑をはじめ工夫を凝らしたディスプレイが非常に流行っており、これもまた、コロナ後の新しいトレンドです。
販売の効率化
Eatalyは、レストランだけでなく、イタリア食材のマーケットとしても人気があります。レストランの閉鎖が長く続いていましたが、その間、マーケットはオープンしていました。コロナ禍でマーケットの方に生まれた変化というと、まず一つは、セルフレジの登場です。買い物にやって来る人の利便性を高め、店員との接触機会も減らすことができます。
食材の販売フロアの途中に、即決済ができるよう、セルフレジが設置されるようになりました。パンデミック中に、セルフレジを導入した、スーパーマーケットなど他にもありますが、特に、20代前後のお客さんが、セルフレジを好んで利用する傾向にあるように思います。レジ待ちによる、不必要な人との接触を減らせる上に、時間の節約にもなり、忙しいニューヨーカーにとっては、これからも定着するサービスだと思います。
販売拡大を進めるうえで、Eatalyをはじめ、ニューヨークの飲食業界でパンデミック中に拡大した代表的なサービスといったら、やはりデリバリーです。お客さんが買いに来られなくなったのなら、お店の方から必要としている人に商品を届けようということで、食材や、ミールのデリバリーが大幅に拡充されました。
Eataly も instacart や Mercato を利用した食材のデリバリーや、UBERなど5種類くらいあるフードの宅配会社のサービスに参加するようになりました。こちらもパンデミックをきっかけにより利用者が増えたサービスですが、その後も忙しい人々を支える便利なサービスとして定着していくのではないかと思われます。
パンデミックをきっかけに、新しい試みを取り入れた結果、その後も人々の利便性を補う便利なサービスとして定着していくならば、販売拡大を見直すよい機会だったともいえるかもしれません。
現在のニューヨーク
アフターコロナの次のステップに前進しようとしているニューヨークでは今、Key to Passport というワクチンパスポート的なルールが課され、レストラン、ミュージアム、劇場などを利用する際には、ワクチン接種証明の提示が義務付けられています。スーパーやお店での買い物、アウトドアダイニングなどでは、提示義務はありませんが、レストランでは、提示義務があるため、Eatalyでも、ダイニングバーを含む屋内のレストランでは、必ず席に着く前に接種証明の確認が行われます。
ワクチン接種を済ませていれば、以前に近い形の生活ができ、屋内での飲食も可能になっていますが、それぞれのお店が競うように、花や緑の豪華な飾り付けなどのクリエイティブな空間を演出しているアウトドアダイニングは、これからもまだまだ人気が続きそうです。
パンデミックをきっかけに、ニューヨークのローカル同士がコラボをするようになり、みんなが win win になるようなタイアップが見られるようになったことは、非常に面白い変化だと思います。それにより今までなかったようなアイデアやサービス、そして魅力的な空間などが街にもっともっと増えて行くのではないかと思うと非常に楽しみです。
▼関連のある記事はこちら
サンフランシスコの「非接触テクノロジー」が、コロナ時代の新たな食生活を生み出している
インフルエンサーの心を掴む、リッツカールトン香港「クリスマス・アフタヌーンティー」PRイベント