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ポートランドのアップサイクルショップ

「パケトラ」読者のみなさま、こんにちは。ポートランド在住の東リカです。

今回は、この街で見つけた、肩肘張らずサステナブルファッションを取り入れられるアップサイクルのお店を3つ紹介します。

「アップサイクル」とは

サステナブルを考える上でのキーワードの1つとして、最近よく耳にする「アップサイクル」。これは不要となったものの本来の形状や特徴などを生かしつつ、新しいアイディアを加えることでもう一度使える別のものへと生まれ変わらせることです。

ゴミを一度素材に戻してから再利用する「リサイクル」や、不用物そのものを再利用する「リユース」とは異なる考え方で、「創造的再利用」とも呼ばれるように不要物にどのようなアイディアでどれほどの付加価値を与えられるかがみんなに受け入れられるための大切なポイントになります。

全米でも環境意識が高く、DIY精神が根付いていることで知られるポートランドとアップサイクルの相性は抜群だと思われます。案の定すてきなお店が見つかりました。

本物に宿る真の価値を活かすものづくり

ポートランドのダウンタウンにあるKiriko Made

1店目は日本人オーナーの田中克幸さんが2013年より経営するライフスタイルブランド「Kiriko Made」。お店に入ると、わたしたちにとって親近感のある「和」の要素と同時に「ポートランドらしさ」も感じます。

それは日本の伝統的なファブリックが、ジャケット、帽子のバンド、スカーフなどとして、アメリカのファッションアイテムの中に違和感なく、けれども大きな存在感を保って取り入れられているからのようです。

田中さんは、日本の伝統工芸や日本人の細部にまで行き渡る鋭い感性などを誇りにしつつも、「Kiriko Made」は特に日本好きでなくとも、一般のアメリカ人が気に入って自然に長く使いたくなるアイテムを見つけてもらえるように心がけています。実際に顧客の95%以上が、日本好きというよりもユニークなスタイルが好きな人たちだそうです。

西洋のファッションに「もったいない精神」を象徴するスカーフを合わせて

ポートランドでストリートファッションのお店を経営していた田中さんが「Kiriko Made」を始めたきっかけは、当時大きな潮流となっていたファストファッションそして「フィクショナル・リアリティ」、つまりわざと品数を抑えて生産される限定スニーカーをセレブDJなどが身につけて見せることで、発売と同時に価格が跳ね上がるといった、商品そのものではなく後付けされた「虚構の価値」、そしてそれに踊らされる消費活動をつまらないと感じ始めたこと。それよりも、例えば、職人が何百時間も費やして手作業で絹を加工し作り上げる絞りのように、物自体に価値がある「本物」を提供したいという思いでした。

大江戸の繁栄を支えた「もったいない精神」

着物の端切れをバンドとしてあしらったフェルトハット

取り入れている日本のファブリックは不要となった着物などを再利用したもの。

「もったいない精神」でファブリックは着物のように縦に裁断することで、使えない部分を極力減らし細長く残ってしまった部分も帽子のバンドやネックレス、ブレスレットなどとして最後まで使い切る努力をしているそうです。

その努力の根底には、田中さんの伝統技巧の施された日本のファブリックひいては先人へのリスペクトがあります。

18世紀にロンドンやパリを上回る世界最大の100万人都市となった江戸の巨大な消費市場が支えられたのは、衣服は破れたら繕われ陶磁器は壊れたら修理されるというように全ての産業が再利用、再資源化を中心に成り立っていたからだと言われています。

田中さんは、そんな昔から日本にあったファストファッションの対極にあるノウハウを大切にし、使い込むことで味がでて一生ものとなるような商品を作っているのです。

良いものは、自然に長く大切にされる

Kiriko Madeオーナーの田中さん(右)とデザイナーのモモさん

それでも「100%リサイクルの店作りを目指しているわけではない」という田中さん。

その理由は、なんとなくいいことをした気になるリサイクルに意義を感じないから。それよりも、シンプルに「好きなものを一生大切にする」ことで無理せずサステナブルファッションを広めて行きたい考えです。

自分たちが、その時々に「かっこいい」「欲しい」と感じる主観的な感覚よりも、例えばビンテージのリーバイスのように、何十年も残ってきたものは客観的にみても残るだけの価値がある、と田中さんは語ります。

持ち主が気に入っているからこそ、大切に着て例え着なくなっても捨てずに誰かに託すほどのアイテム。「Kiriko Made」では、使い込まれて穴のあいたジャケットに、例えば日本のファブリックのパッチを当てることでさらなる50年の命を吹き込むなど、デザイナーとしての自意識は抑えつつあくまで物自体を主役にしたものづくりが行われているのです。

既にあるものだけを材料にする

Looptworksの工房兼ショップ。航空機のシートカバー、またアップサイクルされたバッグなどが展示されている。

2軒目は、「既にあるものだけを使う(To use only what already exists)」をコンセプトにしたライフスタイルブランド「Looptworks」。

有名ライダースブランド「ラングリッツレザー」、老舗のウールブランド「ペンドルトン」、クラフトコーヒーショップ「ノッサ・ファミリア」といった地元の人気ショップから、オレゴン大学のスポーツチーム「オレゴン・ダックス」やデルタ航空、アラスカ航空など複数の航空会社、「パタゴニア」、「エディー・バウアー」といった幅広い有名ブランドとのコラボレーションで知られています。

「Looptworks」では、パートナーとなる企業の不要となった素材や端切れ、商品などを使い新しく魅力的な商品へとアップサイクルします。例えば、ラングリッツレザーのレザースクラップとペンドルトンの端切れを組み合わせたトートバッグや航空機の客席用レザーシートカバーで作った旅行バッグなどは、サステナビリティへの意識を別にしても手が出るような魅力的なアイテムです。「Looptworks」として販売するだけではなく、クライアントが自ら新たな商品として販売するケースもあるそうです。

「Looptworks」の小売店兼工場では、訪れた日も所狭しと商品が並び数多くのプロジェクトが進行していました。

インターンのクロエさんが取り込むフーディをバッグにアップサイクルするプロジェクト

その1つがエディー・バウアーの加工過程で傷物となり売れなくなったフーディを3つのスタイルのバッグにアップサイクルするプロジェクトです。案内してくれたプロダクトマネージャーのスザーン・クラフト(Suzanne Kraft)さんによると、ジッパーやライナーなど、できるだけ多くの部分が使えるよう、デザインを工夫したそうです。また、フーディが入ってきたビニール袋も捨てずに再利用するそうです。

もう1つは、プロの女子サッカークラブ「ポートランド・ソーンズ」のスタジアム・バナーを再利用したポーチ。ファンにとっては思い入れのある素材が利用されていることはもちろん、おしゃれで、1つとして同じものがないユニークさも魅力です。

コミュニティで盛り上げるムーブメント

Looptworksのミッションが示された壁

「Looptworks」はBコーポレーション(社会や公益のための事業を行っている企業に発行される民間認証制度)であることからも分かるように、サステナビリティを核にしたブランド。

クラフトさんは、「Looptworks」の一員として埋め立てゴミを減らすことはもちろん商品を製造するプロセスのなかでサステナビリティへの周囲の意識を高め、広げていくことができることも誇りに感じているそうです。

お気に入りの商品を手にしたプロダクトマネージャーのクラフトさん(写真提供:Looptworks)

実際「Looptworks」では、自社内に止まらずゼロウェイスト活動に取り組む企業と共に、彼らの不要な素材をいかに魅力的なアイテムに生まれ変わらせるかを考えています。

例えば、取材に訪れた日は女子高校生がインターンとして働いていました。地元の職人の採用や、逆に余剰の素材が海外の工場にあればカーボンフットプリントを増やさないために現地でアップサイクル加工を行い、公正な賃金を提供することにもこだわっています。

さらに、今後ローンチ予定のクローズドループアパレルラインでは、顧客が不要になった「Looptworks」の服を店頭に持ち込むことでその服を再生させる、という顧客への働きかけも行われます。

このように自社の社員だけではなく外部の企業や大学、スポーツチーム、また学生、職人、顧客といったコミュニティと共に、環境により大きな影響をもたらしているのです。

旅先で見つけたサステナビリティへの道

TORRAINオーナーのジャノさんと長女のGeorgette(ジョージー)ちゃん

最後の1店は、シリア系アメリカ人、ナイラ・ジャノ(Nyla Jano)さんが創業した「TORRAIN」。ジャノさんは約10年前にカリフォルニアで大好きなアパレルデザインの仕事に就いたものの、流行にとらわれ消費主義を加速するようなファッション業界の体制に疑問を感じるようになっていました。

そんな中、旅行に出かけたカンボジアの路地のあちこちに捨てられていたカラフルな農業用のビニール袋をシンプルなバッグに加工しシェリムアップの夜市で販売する現地の女性、Sotheaさんと出会います。

街を汚している農業用袋のアップサイクルや困窮化する現地の職人の状況についてSotheaさんと話し、また実際に職人たちを訪ねるうちに、ジャノさんはデザイナーとしてのスキルを活かして、環境に優しくカンボジアの職人コミュニティのエンパワーメントに貢献するブランドを立ち上げることを思いつきます。

アウトドアで使いたい軽く機能的なバッグ(Photo by Andres Gomez)

その後ポートランドに引っ越したジャノさんは、その考えを実行に移すべく自宅の工房で試行錯誤を重ね、2011年にはSotheaさんをパートナーにライフスタイルブランド「TORRAIN」が誕生しました。

自然を愛する気持ちが、環境への配慮に

地元ポートランドで集めた素材を使ったバックパックとクーラー

軽く耐久性・防水性に優れた農業用の袋ですがそのままではあまり用途はなく、アップサイクル商品として販売するためには付加価値をどれだけ加えられるかが重要です。

その点、ジャノさんがデザインしたバックパックやダッフルバッグは見た目のデザインはもちろん、ポケットやライナー、ジッパーなど機能面でもしっかり配慮されておりどれもアクティブな生活にぴったりです。

農業用の袋と合わせて使われるペットボトルを再利用したファブリックには、ジャノさんがデザインしたトポグラフィや自身のルーツであるシリアの伝統模様のプリントが施されているのも素敵です。現在は、地元ポートランドのブルワリーのモルトや麦の入っていたバッグを使ったクーラーバッグなどラインナップも増加しています。

ジャノさんがデザインしたトポグラフィ生地を表にし、ライナーに農業用バッグを使用したダッフルバッグ

ブランド名の「TORRAIN」は、「地形」を意味する「Terrain」と「To Rain(雨が降る)」を掛け合わせた造語。

子供の頃から、スキーやサーフィンなどアウトドアスポーツに親しんできたというジャノさんにとって大切な自然環境を守っていくサステナブルなファッションは当然の選択肢だったそうです。

ジャノさんは長女を出産したばかり。次の世代がずっとアウトドアを満喫するためにもサステナビリティファッションをさらに広めていきたい考えです。

どのブランドも、たとえ環境への関心が高くない人でも使いたくなるアイテムを提供していると思いますが、いかがでしょうか。

興味をもたれた方は、ぜひ、お店のサイトをチェックしてみてくださいね。

 

■Kiriko Made

https://kirikomade.com/

■Looptworks

https://www.looptworks.com/

■TORRAIN

https://torrain.org/

 

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