ビジネスパーソンが読むメディア。マーケティング、セールスプロモーション、パッケージの企画・開発に役立つアイデアと最新の情報を、世界中から配信。

SDGs対応とエシカル消費、問われるパッケージの役割

EKM-MittelsachsenによるPixabayからの画像

はじめに

コロナ禍という引き金で企業のSDGs(持続可能な開発目標)への対応が待ったなしとなり、商品やサービスの開発においてもさまざまな取り組みが行われています。脱炭素がその主たるテーマとなっていると思いますが、そんな中で先ごろユニクロ製品製造におけるウイグル強制労働問題の疑いがクローズアップされていました。

多聞に国際政治問題色が濃く消費者というより国家間が先導する異例の事態となっています。これはフェアトレード(公正な取引・生産地(者)への支援などへの取り組み)の問題の拡張版とも言えますが、日本ではこうした生産地の人権や生活に配慮するという事柄に初めて触れた人は多いのではないでしょうか。そして、こうしたことが企業のSDGsの課題であると結び付けている人はどれほどいるのでしょうか。

一方で先ごろ発表された日経調査の「トレンドマップ 2021上半期」において将来性があるとして急浮上したキーワードが「サステナブル消費」、「エシカル消費」であったと報じられていました。

がぜん露出度の増えた言葉「エシカル消費」ですが、私たち消費者の認識、購買行動の実態には、まだまだ大きな差があるように見えます。今回はその「エシカル消費」とパッケージが果たせる役割について皆さんと考えてみたいと思います。

SDGsの動きとしてのパッケージ

ここのところ当パケトラでも記事レポートの多くは「サステナブルな商品&パッケージ」に関わる情報が多くなっています。

オランダ流、エシカル製品のシリアスなメッセージを「パッケージ」と「プロモーション」で消費者に届けるアイデア」   
オランダ 水迫尚子さん

2020年後半にアメリカで注目されたパッケージ、総集編(4)」  
プレミアムレポート 森泰正さん

どこまで持ち帰りカップはエコになっているの?」    
日本 packagecollectionさん

リサイクル率No.1で「段ボール」が化粧箱の主役に躍り出る?素材感を生かしつつ高級商材のパッケージへ(化粧品編)」    
日本 三原美奈子さん


このように、現在進行形のサステナブルな商品、パッケージについて続々紹介されています。

紹介されるパッケージの多くは地球環境に負荷をかけない、脱炭素、海洋プラスチック問題から減容化、紙化に向かったものになっています。そして具体的には通販「LOHACO」の環境対応商品への評価から始まったとも言える飲料容器のラベルレスや脱プラスチック・ストローの動き、さらには先述した森泰正さんが昨年報告されていた「LOOP」(容器リターナブルのプラットホーム)の国内運営開始が話題となっています。

各社の環境対応包装について

新技術を伴う環境対応包装が海外市場で発表されています。特にコスメ美容ジャンル系でのパッケージの動きに新鮮なものを感じています。

ロレアル(仏)の「紙チューブ入り化粧品」、花王の脱プラ成型ボトルとなるフィルム製ポンプ容器「Air in Film Bottle(エアインフィルムボトル)」(現在米国限定)、国内での発表ですと、P&Gの「SK-Ⅱ」セット商品の竹素材製カートンなど面白いものがあります。

ロレアルのボール紙を主とした紙製チューブは世界初で、FSC森林認証を受けた紙の繊維を用いた素材で作られているようです。脱プラスチックの紙化は全世界的に速度を上げてきています。

花王は「Air in Film Bottle(エアインフィルムボトル)」を開発し、新ライフスタイルブランド「MyKirei by KAO」(ヘアケア、ハンドウォッシュ)の容器として米国で販売をスタートしています

このパッケージはフィルムパウチの外枠の淵に空気を入れることで自立させ、上にポンプを付けて使用するようになっています(ポンプは再利用方式)。プラスチック使用量はポンプ型プラボトルに比して約50パーセント減ということです。エアインボトルは以前よりありましたが、ポンプ容器として使えるものは筆者が知る限りでは初めてです。

花王の脱プラ成型ボトルとなるフィルム製ポンプ容器「Air in Film Bottle(エアインフィルムボトル)」 https://www.mykirei.com/

国内としてはP&Gが「SK-Ⅱ」の中で一番売れ筋の「トライアルキット」にFSC森林認証を受けたバンブーパルプ製のパッケージを使用しています。通常の木材より成長が早く、再生力も高い竹を素材としたもので木材資源の保全に貢献するというものです。P&Gとしてはさらには小売業界と連携したボトルの回収、リターナブルへも取り組むとのことです。

P&Gの「SK-Ⅱ」セット商品のバンブーパルプ製カートン     HP公式サイトより

こうした動きの中で筆者は「LOOP」の日本での動きに日本人がどれほどついていくのかが、これからの「エシカル消費」を占うのではないかと見ています。

イオン(1年間の優先販売権)で始まっている「LOOPゼロウェイスト(ごみを出さない)」(首都圏の一部実施)ですが、公式サイトの直近のお知らせを見ると、2021年5月25日販売開始の後、2021年6月26日「ドクターブロナーLOOPマジックソープ」の2品種が品切れ・品薄となっているとの表示があります。

イオン「LOOPゼロウェイスト(ごみを出さない)」  HP公式サイトより

販売数量はわかりませんが、これは人気が高いと受け取ってよいのでしょう。「LOOP」は容器デザイン面の人気と販売効果についてすでに語られていますが、容器回収リユースシステムというものが日本人の慣れ親しんだ分別ゴミ捨て習慣と同様の体験行為であることがわかりやすく、また行為を含むブランディングであり目に見える自己参加の納得感が促進効果をもたらしているのではないかと筆者は感じています。

日本人のSDGs認識、「エシカル消費」行動は遅れている?

最近、国内消費者の「エシカル消費」についての実態調査の結果を目にしましたので、少し引用してみたいと思います。日本人は欧米よりは遅れていると言われていますが、結果からもそうした状況が浮かんでいます。

調査は2021年5月10日に発表された日本インフォメーション株式会社
「SDGsって何? エシカルな消費活動の実態調査」です。
結果の主なところを以下にピックアップさせていただきます。

Q.「環境意識・行動」で実施しているのはなにか?
A.対象者全体で「マイバック持参」66.0パーセント、「ゴミの分別」55.1パーセント、「食品ロスへの意識」41.4パーセント

「マイバッグ持参」「ゴミの分別」は、年代が高い層、さらに女性がより多く実施しているようです。

Q.環境関連のキーワード認知について
A.「SDGs」の認知は最も多いが、「意味を含めて知っていた」のは3割程度。
「エシカル消費」「ESG投資」は1割程度とあまり知られていないようです。

環境問題への意識が高い層の選別でも「意味を含めて知っていた」と回答した人は、 「SDGs」が5割「エシカル消費」3割「ESG投資」2割と、まだまだ一般的な言葉にはなっていないようです。
ただ、10代では男女ともに「SDGs」を「意味を含めて知っていた」が半数程度ありますが、「エシカル消費」は10代の中でもあまり浸透していないようです。

Q.環境対応商品を意識して選択・購入しているか?
A.サステナブルな取り組み自体に付加価値を感じているのは全体で1割。
「特に意識して選択・購入していない」が6割。

まだまだ「消費行動」という点では、環境保全視点は普及途上と言えます。

Q.「エシカル消費」実施者が実施する理由はなぜか?
A.「価格やポイントがお得」が50.6パーセント。
「同じような商品であれば貢献につながる方がよい」41.1パーセント、「環境や社会に貢献できる」37.7パーセントと続く。

50代以上の女性では「同じようなら貢献」目的で消費行動する意識があるとなっています。

Q.「エシカル消費」非実施者の実施しない理由はなぜか?
A.「エシカル消費の意味が分からない」という回答も多い。
環境への意識が高い層でも「どの商品がエシカル消費につながるか分からない」60.7パーセント、環境への意識が中の層も40.7パーセントが分からないと回答。
「エシカル消費」の定着には、企業側の積極的かつわかりやすいエシカル商品の訴求が必要と推察されると報告にあります。

このことから、「エシカル消費」や「サステナブルへの取り組み」の認知、理解が少ない。まだまだ品質や利便性、お得感が優先されるということです。

日本人は元来、もったいない、大切に使う、清潔にする、質素、というような精神を根底に持っていて生活してきたものでありますが、外洋から大量に入ってきたものを使わされ(言い過ぎですが)、その便利さに慣らされたら、今度は急に地球環境に悪いから使わないようにしなさいと、また外から言われ(ているような感じであろうか?)ても、すんなり聞き入れられないのだろうと感じます。

いわゆる自分事になっていないのではないかと思われます。日本人に限りませんが災いに合って初めて学ぶことが多い。自然災害でも起きてから皆対策を取るようになってきたと同じ事になっているのではないでしょうか。

国内メーカーの関連商品とお客様への考え方

商品を送り出すメーカー企業はどう考えているでしょう。ストレートな自然環境、社会課題への対応商品はまだ少なく、近いと思われる商品を見てみましょう。例えば日経XTERNDの記事によると江崎グリコでは、ロングセラー商品「プッチンプリン」ブランドにおいて20年3月16日から「植物生まれのプッチンプリン」の販売を開始しています。


動物由来の原料を使用しない新商品で、反響は非常に大きく、20年度は販売計画の190パーセントを達成したということです。まずは卵や乳製品のアレルギーを気にせずより多くの人にプッチンプリンを楽しんでもらいたいとのこと。
結果的にビーガン対応になったものということですが、「厳密なビーガンだけでなく、もっと緩やかなプラントベースの志向も高まっており、この市場は今後、加速度的に広がるのでは」との話が掲載されています。

次にマルコメの「ダイズラボ 大豆のお肉」。以前にもここで取り上げた大豆原料の肉代替食品。たんぱく質クライシスといった食糧問題や環境問題、SDGsなどの取り組みから、近年急速に注目度が高まり、家庭の食卓にも少しずつ定着しつつあるということです。
マルコメの「ダイズラボ 大豆のお肉」は同社の2020年の伸長率は計画比159.9パーセント(出荷実績)と大きく伸び、21年も150パーセントを見込んでいます。

この商品ももともとはビーガンを意識したわけではないと言います。カロリーや脂質が気になる、小麦アレルギー、グルテンフリーなどに対応し、健康に気使われるお客様のニーズを満たすヘルスコンシャスな商品を追求したものと話されています。その結果として、環境問題の解決にも貢献する商品となっているとのことです。

そしてキューピーからはプラントベース(植物由来)フードの「HOBOTAMA」(植物性スクランブルエッグ)を業務用市場に出すとのニュースがあります。食についての多様性、価値観の広がりへの対応として商品化、市場の反応を見るとのことです。

各社、SDGsを意識しつつ、アレルギー対応やヘルスコンシャスを軸にプラントベース商品を生み出している様子がわかります。見方によればこれらは欧米のビーガニズムの高まりや、動物愛護や宗教上の理由以外にエコやサステナブルへの関心という枠でも捉えられますが、日本人の食に対するニーズはまずは美味しさやヘルシーさが大前提で、エコやサステナブルといった思いはまだまだ日本人の琴線には触れにくく、これまでの食生活を大きく変える動機にはなかなかなり得ないという見方であるように思えます。

SDGsの主格であるパッケージに必要とされること

「LOOP」や「LOHACO」の購入者はそれらパッケージがその目的、機能を備えた結果としてのデザインのかっこよさ、オシャレ感に価値を感じて購入のボタンを押しているというところが大いにありそうです。
先に触れましたオランダのレポートでは、パッケージにSDGsの姿勢を強く表現したものが多くありそうです。欧米のようにストレートに思想をパッケージグラフィックに表現しても日本人にはすぐに受けるようには思えないのではないでしょうか。

「エシカル消費」の購入を狙っても功を奏すにはまだまだ時間がかかりそうです。「LOOP」や「LOHACO」はそういう意味では無駄にプラスチックごみを捨てないという次元でのエコ意識からスタートを切って大変意義のある活動です。

商品購入が本来の地球の自然や人への思いやりで動くには、感覚的なエコイメージではなく、何か決定的な認識を衝くエビデンス、原理の差を示せることがカギではないでしょうか。なま易しいことではありませんが、単なる価格ポイントなどではなくその対象商品を購入、消費することが自分(消費者)にとって得であると思える仕組みを作ることも重要であると考えます。

 

[参照サイト]

・日本インフォメーション株式会社「SDGsって何? エシカルな消費活動の実態調査」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000048646.html

・グリコ、マルコメが語る「ビーガン」対応 定番にも脱動物性の波 (日経XTREND 2021/7/15)https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/watch/00013/01518/

 

[参考レポート]

オランダ流、エシカル製品のシリアスなメッセージを「パッケージ」と「プロモーション」で消費者に届けるアイデア

2020年後半にアメリカで注目されたパッケージ、総集編(4)

どこまで持ち帰りカップはエコになっているの?【連載第38回】

リサイクル率No.1で「段ボール」が化粧箱の主役に躍り出る?素材感を生かしつつ高級商材のパッケージへ(化粧品編)

ついに日本でも「LOOP」プロジェクトが始まる——テラサイクルと消費財メーカーが挑む、ゴミゼロ社会

 

▼関連性のある記事

コロナ禍での海外の売れ筋商品とパッケージのトレンド

 

このライターの記事

Top