アメリカのコスメやスキンケアなどのビューティ業界は、パンデミックを経て再び成長軌道に乗り今勢いがあります。美容系の商品といえば女性向けの商品が中心となりますが、近年注目を集めているのが、男性用ビューティプロダクトです。以前からタレントやモデルをはじめ身だしなみに気を使う人は一定数いましたが、現在では一般の人でもSNSなどで自分の姿を露出する機会が増え、美容系インフルエンサーの影響などもあり、見た目を気にする人々の裾野が広がっていることが成長の背景にあると思います。ニューヨークのコスメ売場を訪れてみると、店員もお客さんも共に男性が増えており、女性だけでなく男性もターゲットとする商品が増えてきています。
男性用コスメの最大分野であるスキンケア商品を中心に、ニューヨークのコスメ売場で印象に残ったジェンダーレス及び男性向けブランドとその商品を紹介します。
ニューヨークのデパートでも日本同様、1階フロアなどの目立つロケーションに様々なコスメブランドのカウンターが並んでいます。それぞれのブランドの売り場には、ビューティーアドバイザーがいますが、最近では男性のスタッフも多くなっており、場所によっては1/3くらいのスタッフは男性となっています。「Sephora」や「Ulta」などの大型のコスメ専門店などへ行っても同じような光景です。スタッフ10人中3人くらいは男性です。
一方お客さんの数はというと、男性は10人に1人くらいで女性の方が圧倒的に多いです。ただしいつ訪れても女性だけということが少なく一部に必ず男性の購入客がいます。男性一人で買い物に来ているケースや、カップルでやって来て男性用の化粧品を熱心に吟味して購入しているケースもあります。
男性スタッフの数はそれなりに多いのですが、男性用コスメのブランドや商品の数に関していうと圧倒的に女性をターゲットとしたものが大部分を占めています。
コスメにはスキンケアのためのコスメと見た目を彩るメイクアップのコスメとありますが、男性たちが主に買い求めているのはスキンケア商品の方です。
スキンケアに関してはジェンダーレスの商品や男性専用の商品も多く、場所によってはスキンケア、洗顔、シェービングクリームを中心に男性専用のビューティ商品売場まであります。
一方メイクアップ商品に関しては、男性専用のブランドはとても少なくメイクに興味がある男性は女性用のメイクコスメの中から選択して使用しているのが現状です。そのため男性であっても、女性用メイクアップコスメを自身が愛用しメイクも詳しくアドバイスできるような人が男性スタッフとなっています。
ニューヨークの人気老舗ブランド
ニューヨークの有名なコスメブランドといえば、スキンケア商品で知られる1851年創業の老舗「Kiehl's」です。男女共に人気があるジェンダーレスなブランドで、ここ最近の男性コスメのブームよりずっと以前から男性ニューヨーカーたちに人気があるブランドです。長く家族経営のブランドでしたが、2000年からはフランスを本拠とする世界最大の化粧品会社「L’Oreal」の傘下ブランドとなっています。
一般的なコスメブランドが並ぶコスメコーナーにおいては男性のみをターゲットとした男性コスメはまだまだ少なく「Kiehl's」などジェンダーレスなブランドの商品が人気となっています。
「Kiehl's」の定番スキンケアシリーズがセットになったお試しセットは初めての人でもわかりやすく、デパートの男性フロアのコスメ棚などにも並んでいます。
「Kiehl's」のパッケージは昔から変わらずとてもシンプルです。基本色は白、茶、青などで、薬局のお薬のようなイメージがあります。店頭には必ず薬剤師さんのように白衣を着たスタッフや白衣のガイコツ人形がいて「Kiehl's」のシグナチャーになっています。
「Kiehl's」は男性に人気のコスメブランドのひとつとして、デパートの男性フロアにもよく登場します。ここでは「Kiehl's」の専用コーナーが男性のファッションフロアの一角にありましたが、場所によっては一つの棚に色々な男性向けコスメのセットがまとめて並べられていることもあります。そしてそんなコスメが並ぶエリアには、男性の床屋さんを連想させるチェアがディスプレイされていたり、実際に床屋さんのスペースになっていたりすることがあります。一般男性にとってのコスメは、洗顔、スクラブ、髭剃り、そしてスキンケアなど床屋さんの延長線上にある存在とも言えるのかもしれません。
男性のお客さんも多い「Kiehl's」ではジェンダーレスな商品に加えて、男性向けラインの商品も販売しており、パッケージは男性コスメの定番カラーの青を基調としたパッケージの商品となっています。
男性にも人気のジェンダーレスコスメ
次に紹介するブランドは、「The Ordinary」です。カナダのトロントで、2013年に創業したジェンダーレスなコスメブランドで、男性にも人気があります。2021年から、ニューヨークを本拠とする大手化粧品会社「エスティ・ローダー・グループ(Estée Lauder Group) 」が、「The Ordinary」 を運営する「Deciem」の大株主となり傘下に入っています。
飾らないシンプルなパッケージが特徴で、ヒアルロン酸、グリコール酸、ナイアシンアミドなど高級化粧品で使用されている成分のスキンケア商品をリーズナブルな価格で販売している個性的なブランドです。
パッケージの雰囲気からわかるように、このブランドの商品の売り方はまるで化学薬品を売るようなイメージのブランドなのです。
通常コスメというと、その効果が一目でわかるような商品名やキャッチフレーズをつけイメージ戦略的に販売することが多いですが、そういうイメージの言葉よりもとにかく成分を前面にだして販売しているブランドです。よってこのブランドは、初心者が一目見ただけではよくわからないものばかりで、自分でそれぞれの成分の効果を事前に知っていないと購入できません。組み合わせによっては一緒に使用してはいけない危険な成分もあるので、美容及び化学的知識を駆使して使用するベテラン向け商品です。そんな変わり種の商品展開なので美容系メディアやインフルエンサーたちが、話題にしたくなるブランドとなっています。
そんな「The Ordinary」のパッケージは、全般的にまるで化学薬品を連想させるデザインになっています。「Kiehl's」同様とてもシンプルで、基本カラーは、白、透明、茶色などで、表示ラベルが化学薬品の瓶のように、含有量(%)も含め、明確な成分表示がされています。「Kiehl's」が薬局的イメージだとしたら、こちらは化学実験室のイメージのブランドと言えます。今まで他のコスメブランドの常識になかった、潔いくらい明確に成分表示をしているブランドです。
このような男性に人気のあるジェンダーレスコスメのトレンドをみていると、男性コスメは女性用コスメと違い、高級感は求められていないように感じられます。どちらかと言うと、高級感のあるパッケージやかっこいいイメージではなく実直に中身が評価されている印象があります。
男性用ブランドのコスメ
Jack Blackは2000年創業、テキサス発のパーソナルケアブランドで、スキンケア、シェービングクリーム、洗顔など男性用の商品を手掛けています。2018年からは、アメリカのパーソナルケア商品会社、「Edgewell Personal Care」の傘下となっています。「Kiehl’s」や「The Ordinary」はジェンダーレスなデザインのパッケージで、商品の中身もジェンダーレスな香りと使い心地になっていますが、「Jack Black」は、商品の香りもパッケージも、完全に男性向けとなっています。
男性向けの定番 「Jack Black」はデパートやコスメ専門店でもよく見かけるブランドでした。初めての人でもわかりやすい定番商品をセットにしたものが販売されているのは、男性用コスメブランドでも同じです。パッケージは男性向けコスメで使用されることが多い濃いブルーやブラックを基調としたものになっています。
ジェンダーレスコスメの現状
現在男性用コスメは需要が増えてきており、販売側もそんな変化に対応してきています。しかし商品自体は、男性専用となるとまだまだブランドの選択肢が少なく、選択肢の多くはジェンダーレスコスメブランドによるものとなっています。
男性用コスメは、各種市場調査によると今後2030年頃まで、5‐10%程の年平均成長率(CAGR)で拡大していくことが予想されています。
背景にはSNSの日常生活への浸透により、身だしなみを気にする男性が増えていることがあり、コスメ業界はもちろんパーソナルケアや一般消費財など様々な業界の企業が男性用コスメにも注力しはじめています。
今後さらに男性用コスメマーケットの成長が続いていけば、ターゲット層となるコアな男性ファン獲得のために男性専用ブランドも増えていくと思われます。
今後の男性用コスメ業界の成長には美容系アントレプレナーやインフルエンサー、そしてSNSの影響が大きいZ世代の動向が鍵となってくると思います。
男性用ビューティプロダクトの世界は、女性用と比較するとまだまだこれからの業界であり、クリエイティブなアプローチにより急成長を遂げることができる可能性が秘められていると思います。
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