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コスメ・パッケージ、ロンドンではどんな傾向が主流?


イギリスではクリスマス商戦が終わり、各小売店もバレンタイン時期までの閑散期にお客さんを呼び込むためのセール期間に入っています。この国ではクリスマス時期には生活雑貨からファッション・アイテム、ジョークたっぷりの面白グッズや高価な電化製品まで、ありとあらゆる種類のプレゼントを家族や友人同士で贈り合います。近い関係になればなるほど、一人に対してなぜか複数のプレゼントを贈るのが習わしなので、プレゼント選びも懐具合も大変。毎年この時期になると、イギリス人たちが楽しみつつも心の中ではため息をついている・・・その気持ちがとてもよくわかります。

さて、女性へのプレゼントとして不動の人気を誇るのが、コスメやスパ商品の数々。何もかもがきらびやかになる祝祭シーズンだからこそ、贅沢な気持ちにさせてくれるものに注目が集まるのですね。ロンドンでは一般的に化粧品を購入する場合、日本と同様に身近なドラッグストアを利用する人も多いです。

代表的なのは Boots、そしてSuperdrugと呼ばれるチェーン店。Bootsは中心部にも無数にありますが、地方へ行っても各町に1軒はあるというくらい馴染みのあるブランドです。いわば日常的な駆け込み系店舗。

一方で、高級ブランドを多く扱うデパートのコスメ売り場もいつも賑わっていますし、Space NKなどコスメ専門の高級セレクト・ショップ、自然派商品を扱うWhole FoodsやPlanet Organicなどの売り場も、意識の高い働く女性たちに人気です。

化粧品は自分を綺麗にしてくれ、気分をアップさせてくれるもの。「ご褒美感」が高い商品だからこそ、ドラッグストアではなく、ゆったりリラックスした気持ちで買い物できる高級店でわざわざ購入するという女性も多いと思います。

キラキラしたい若い世代に人気のドラッグストア

BootsやSuperdrugなど、イギリスのドラッグストア・チェーンのコスメ売り場はかなり充実していて、特にBootsは店舗正面に「Pharmacy」と掲げているだけでなく、必ず「Beauty」の文字も併記するほど化粧品類に力を入れています。これは大規模店舗ほど顕著な傾向にあり、例えば 2フロアある大型店であれば1階のワンフロア全てを化粧品にあててしまうほど。西欧諸国の主要ブランドは高級品からリーズナブルなものまで数多く揃えているので、ここに来れば「お目当てのブランドの、あの商品が必ず手に入る」という安心感があります。

また「No7」という自社開発のオリジナル・ブランドを展開し、こちらも大人気。No7はアンチエイジングのスキンケア・シリーズが主力商品で、ほとんどのイギリス人が知っているし、使ったことがある定番ブランドなのです。

写真:中心部の目抜き通り、オックスフォード・ストリート沿いにある大きなBoots。2フロアのうち、1フロア全部にビューティー関連商品があふれています。

写真:店内のコスメコーナー。

Bootsの化粧品棚の陳列は日本のドラッグストアほどカジュアルではないにしても、かなり実用的。特別な工夫を施すようなことはなく、商品が見やすいようにズラリと一面に並べるシンプルなディスプレイです。また目を引く場所には若い世代を意識したカラフルなパッケージの低価格商品を置いていることも特徴です。

例えばUK発のメイクアップ・ブランド、RevolutionのObsessionというシリーズを置いていますが、こちらは10色入ったアイシャドウのパレットが、ミラー付きでたった6ポンド(約850円)! このブランドはチョコレートをイメージしたパッケージが特徴で、コスメ・コーナーになければ本当にチョコかと思うほどですね。イギリスでは世代性別を問わずチョコレートは最も人気のある菓子系の嗜好品で、女の子たちも大好き。どうしても目がいってしまうので、そこを狙ったパッケージ・デザインなのでしょう。

写真:Obsessionシリーズのアイシャドウ・パレットは、まるで高級板チョコの箱みたいなパッケージに入っています。

写真:Revolutionの他のシリーズもご覧ください。パッケージはやはりチョコレート風。左上はメイクアップの全セットが入ったギフト・ボックス。左下はリキッド・タイプの口紅のシリーズ。やっぱり板チョコの箱みたいです。写真右側の商品はご覧の通りアイシャドウですが、板チョコそのものをかたどったパッケージ! とてもユニークです。

その他、カラフルでポップなパッケージであるためか、クリスマス・シーズンに大々的にプロモーションされていたのがサンフランシスコ発のブランドBenefitでした。Benefitはレトロなイラストと文字デザインの組み合わせが、アメリカのポップ・アートやアメコミを模しているようにも見えるデザインが特徴。このBenefitの Boi-ingシリーズ、エアブラシ・コンシーラーの箱は、側面を斜めにカットし、幅広になった部分に文字を載せ、店舗ディスプレイの専用ラックに収めたときに文字がよく見えるよう作られていました。

写真:Boi-ingシリーズのエアブラシ・コンシーラー。

また季節限定のアイブロウ・セットが詰まったギフト・ボックスは足まで付けてジュエリー・ボックスのような高級感を出しつつも、グラフィックと色使いはキッチュなまま。ハイティーンにプレゼントしたらさぞ喜ばれるだろうなというデザインです。

写真:アイブロウ用のメイクアップ・セット。

統計を調べたわけではないですが、Bootsで化粧品を買う層というのは、私の印象ではまず若い世代。どんどん新しいメイクアップを試してみたい学生さんや若い子育てママのような層をよく見かけます。それから買い物に時間をかけたくない人。Bootsは割引もよくしているので、なるべく安く買いたい実用主義の主婦の皆さんも。メジャー・ブランドの定番品を求めている人もリピートしていると思います。

エコ&ナチュラル:大人の気配りがトレンドの主流に

ドラッグストアの化粧品売り場が古典的なキラキラ・グロッシー路線を採用しているとすれば、それと一線を画しているのが、リバティやセルフリッジズ、ジョン・ルイスといった高級路線のデパートの化粧品売り場です。特にリバティの化粧品売り場はそのセレクトの秀逸さからロンドンのコスメ愛好家が一目も二目も置いていることで知られ、高級品からリーズナブルな良品までさまざまなブランドを、落ち着いたディスプレイの中で一覧することができます。

さて、時代の流れとして肌に優しい自然素材で作った化粧品で、なおかつ環境に配慮したナチュラル・コスメが好まれる傾向にあるのは、世界どこでも同じだと思います。イギリスでもデパートでは自然派コスメの選択肢が多く、パッケージ素材も環境に影響が少なく、よりナチュラルに見える紙がほとんど。リバティのコスメ・フロアを歩いていて目立ったのは筒型のものでした。高級スーパーのウェイトローズで取り扱っているUK発の自然派コスメ・ブランド、Bee Goodは、ミツバチの巣を模した六角形のパッケージでビジュアルでも原素材を主張しています。

写真:紙製筒型は自然派コスメのパッケージでよく見かけます。

写真:左はドイツ発のナチュラル・デオドラントのブランド、Ben & Anna。右はUK発のナチュラル・コスメ・ブランド、Pestle & Mortarの美容液。

写真:Bee Goodはブランド名もパッケージもとてもわかりやすい直球型。左上の商品は中でも最も高級なレンジの一つ。

また紙やプラスチックのパッケージ代わりに布ポーチを使用するなど、リサイクル可能でなるべく環境に配慮した包装を追求しているのも、自然派コスメ・ブランドの特徴ですね。こういったトレンドは、環境意識が今後さらに高まっていくにつれて強まり、様々な試みが生まれてくると思われます。

写真:イタリアで作られているZaoというオーガニック・ブランドのクレイを使ったミネラル・パウダー。コンパクト部分に収穫済みの竹素材を使用しているほか、パッケージも布ポーチで廃棄物なし。商品のライフサイクルを地球レベルで考慮。

コスメに限らず自然派スーパーでは歯ブラシなどの日用品も環境に配慮したパッケージで売られています。こちらは持続可能性を意識した世界初の歯ブラシ、Hydrophil。柄の部分が竹素材でできているほか、ブラシ部分にはナイロン4と呼ばれる生分解性のある樹脂素材が使われ、100%の生分解性を誇ります。パッケージはシンプルな紙パッケージと、持ち運びに便利な竹筒も用意。

自然派コスメ・ブランド業界が成長するにつれ、パッケージも環境に配慮するための様々な工夫がなされていくことは必至なので、今後の動向が楽しみです。

写真:Hydrophilのサステイナブル歯ブラシ。

食品? 洗剤? 化粧気のないラボ系容器/パッケージ

さぁ、キラキラ系、ナチュラル系とご紹介してきましたが・・・ロンドンにはもう一つ、容器やパッケージの傾向があると思います。それは食品や洗剤の容器を思わせるような極力デザイン性を排したカテゴリー。まるで実験研究室からそのまま商品棚に並んだかのように見えるので、私は勝手にラボ系と名付けています。

例えばこちらのイタリア発Davinesの商品は、リバティに専用棚があるナチュラル系。中核は紙パッケージの商品ですが、こちらの「エッセンシャル」シリーズはデザイン気がなく、とても簡易なプラスチック容器に入っています。ただし、Davinesのプラスチック容器は食品製造向けの人体にとってより安全な「フードグレイド」と呼ばれるプラスチックを使って作られており、プラスチックの使用量も必要最低限に抑えて商品化しています。(食品用のプラスチック容器に関しては「人体に害を及ぼすレベルの構成物質が食品に移らないこと」というEU規制があります)

写真:Davinesの化学薬品棚のようにも見える商品棚。

写真:右はDavines。左はドラッグストア・チェーン、Superdrugの棚にあった食品容器を思わせるスキンケア商品。イギリスのスーパーでは、まったくこれと同じデザインのディップ・商品をたくさんスーパーで見かけることができます。

写真:こちらはDavinesのヘアマスク。まるでドリンク食品かソース、ベイビー・フード、あるいは洗剤かといったパウチ容器ですが、グラフィックはさすがイタリア的な色使い。

このラボ系の簡易容器/パッケージで思いつくUK発のコスメ・ブランドが、Lushです。残念ながら日本の店舗には行ったことがないのですが、おそらくどの国のLushでも、カラフルな商品と五感を刺激するデモンストレーションでお祭り的な楽しさをいっぱい感じられ、思わずウキウキしてしまう店舗仕様なのではないでしょうか。

写真:ロンドン中心部の目抜き通り、オックスフォード・ストリート沿いの大規模店。

Lushは1994年にイギリス・ドーセットで産声をあげたブランドです。当初から動物実験反対、社会問題への取り組み、完全な植物ベースのナチュラル・コスメとして売り出しているので、先輩ブランドであるボディ・ショップに理念が少し似ています。

まるでチーズやチョコレート、キャンディやムースのような見た目の美味しそうなスキンケア/バス用品はハンドメイド。フロアはまるで食品マーケットのようでもあり、チーズを量り売りするかのように自分でグラム数を選びます。独自のプレゼントを作りたいなら、いくつか固形のスキンケア商品を選んで卵のパッケージに似せた黒い紙容器に入れてもらいましょう。

写真:左:石鹸のように見えるスキンケア商品は、卵入れのような黒いパッケージに入れてギフトに。右:まるで薬瓶か栄養剤のように見えるこちらは何だと思われますか? 歯磨き粉です! 一つ口の中に入れて歯で砕き、歯ブラシで磨くのですが、マウスウォッシュ代わりにも使えるようですよ。

写真:左はスプレー式洗剤にも見えるボディ・スプレー! その他もブラック&ホワイトでミニマムを極めたデザインです。

ラボ系はパッケージというよりも容器デザインとしての紹介でした。ラボ系は引き算の考え方なので容器を包むパッケージがないのは道理なのかもしれません。純粋なパッケージなら、極め付けがあります。クリスマス・ギフトのパッケージです!

クリスマスは最大のギフト商戦期

日本は年間を通してお中元やお歳暮、バレンタインやホワイトデーなどギフトを贈り合う風習がありますが、イギリスでは一斉に贈り物をする時期で最大なのはクリスマス、次に男性から女性に愛を伝えるバレンタインでしょうか。クリスマス商戦の勝負は12月に入ってから。この季節はクリスマス・ギフト商品がありとあらゆる小売店に大量に出回ります。

最後に、昨年12月のクリスマスにデパートに並んでいたコスメ関係のクリスマス・ギフト・パッケージを、足早にご紹介しますね。

写真:イギリスでは、クリスマス・シーズンになると忘年会ならぬクリスマス会をこれでもかと開きます。そのテーブルに必ず用意されているのが「クリスマス・クラッカー」(写真右下)。隣り合わせになった人とクラッカーの両サイドを持って引っ張り合うと、どちらかのサイドにキャンディの真ん中部分がついてきます。その中に小さなプレゼントと紙の王冠、ときにクリスマス・ジョークが書かれた紙片が隠れていているのですが、このキャンディ部分を引いた人がラッキーだと言われています。左と右上の写真は、そんなクリスマスの風物詩、クリスマス・クラッカーをかたどったパッケージ。

写真:左はUK発の高級ブランドCowshedのハンド・ソープ&クリーム。すでに容器に入っているので、パッケージはペーパーカバーのみ。このまま洗面所に置けばホテル並みの快適さを味わえそう。右もクリスマスを意識したギフト商品ですね。ふだん、イギリス人はパッケージやラッピングにほとんど興味を示さないのですが、クリスマス時期だけは各ブランドこぞってパッケージに工夫を凝らすのが面白いです。

さて、イギリスのコスメ商品のパッケージ、いかがだったでしょうか? 小売店が変われば、客層も変わり、ディスプレイも変わってきます。一般的なドラッグストア、デパートや自然派スーパーでは、置いてある商品も違うのでパッケージもそれぞれに傾向がありました。商品パッケージと商品棚ディスプレイを連動させているのは、店舗数が圧倒的に多いドラッグストアだと思います。

高級=自然志向となっている現在、パッケージは紙製やリサイクル可能なナチュラルなものが主流である一方で、まるで食べ物や洗剤・薬品のようにも見える素っ気なくも実用性やキッチュさを追求したプラスチック容器+パッケージなしのトレンドも引き続き見られそうですね。2019年のトレンドがどうなっていくのか楽しみです。

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