菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載8回目。今回は、2003年に誕生したモダンな和菓子ブランド「HIGASHIYA(ひがしや)」を取り上げます。この10年ほどの間に、メディアでよく取り上げられるようになった“ネオ和菓子”として紹介されることもしばしば。日本文化の世界観を伝えるお洒落なデザインの和菓子やパッケージで注目されています。
「HIGASHIYA」が目指すもの
「HIGASHIYA」は、「現代における日本の文化創造」というコンセプトのもと、建築、インテリア、 プロダクト、グラフィックなど、多岐に渡るデザイン活動を行う「SIMPLICITY(シンプリシティ)」の代表取締役・緒方慎一郎氏が2003年に東京・中目黒で創業した和菓子のブランドです。より深く日本文化の世界観を表現するべく、お菓子だけにとどまらず、店舗やパッケージのデザインに至るまで全てを手掛けています。
2009年には、国内外に向けた発信拠点として、銀座中央通りに面した「ポーラ銀座ビル」2階に「HIGASHIYA GINZA」をオープン。2019年6月には、千代田区丸の内の「三菱UFJ信託銀行本店ビル」1階に「HIGASHIYA man 丸の内」をオープンしています。
「SIMPLICITY」では、東京大学総合研究博物館「インターメディアテク」や、ラグジュアリーホテル「アンダーズ 東京」のチャペル・ギャラリー・バーといった施設、スキンケアブランドの「Aesop(イソップ)」による「イソップ京都店」など、多岐に渡る店舗内装を担当してきました。
「HIGASHIYA」の看板商品である「ひと口果子」は、1つ1つに日本の伝統色の名前が付けられた、色とりどりの一口サイズの和菓子です。木の実類やキューブ状の小さな琥珀羹などをそれぞれ異なる餡で包んであり、様々な食感と味が楽しめます。
2017年にリニューアルし、巻紙と紐で綴じた木箱に6個を詰め合わせた2パターンが登場。
「ひと口果子 真(しん)」には、創業当時から人気の、デーツに発酵バターとロースト胡桃を挟んだ「棗(なつめ)バター」と共に、「鳥の子[生姜入り白餡+蜂蜜羹]」、「紫根(しこん)[紫芋餡+栗甘露煮]」、「深支子(こきくちなし)[焼芋餡+バター+黒胡麻]」、「路考茶(ろこうちゃ)[つぶし栗+ブランデー羹]」、「榛摺(はりずり)[カカオ餡+榛]」の計6種類が入っています。
「ひと口果子 行(ぎょう)」は、定番の3種とともに、「大寒」「立春」「啓蟄」「春分」・・など、1年を「二十四節気」に分け、その時季にふさわしい素材を用いた限定の「ひと口果子」が3個の、計6個入です。
定番の「ひと口果子 真」に3種類加えて、「濃紫[紫芋餡+カシューナッツ]」、「柑子(こうじ)[かぼちゃ餡+チーズ]」、「萌葱(もえぎ)[抹茶餡+レーズン]」も含めた全9種類を桐箱に詰め合わせたものもあり、ギフトや手土産にも人気です。
20周年を記念した、4組とのコラボレーション
2023年、そんな「HIGASHIYA」が創業20周年を記念し、限定仕様の菓子を発表しました。
2023年8月の立秋、立冬、2024年の立春、立夏にかけて、和菓子とは異なる分野で活躍する4組とのコラボレーションによる、新たな発想を取り入れた菓子を販売しています。
第1弾として、染織家・志村ふくみ氏の芸術精神を継承し、植物による染織に取り組む「アトリエシムラ」とのコラボレーションによる「ひと口果子『草木の恵み』」が、8月8日~10月7日まで販売されました。
その内容は、草木染めの植物として親しまれてきた紅花、藍、梅で染めた3種類の「ひと口果子」。それぞれに四季折々の自然の風物を表す雪月花にちなんだ名がつけられ、「嵯峨野の雪(さがののゆき)[白餡+梅+赤紫蘇]」、「藍の月(あいのつき)[竹炭餡+藍の葉+粒餡]」、「紅の花(べにのはな)[紅花餡+蜂蜜羹]」として、「アトリエシムラ」制作の裂(きれ)でデザインされたパッケージに各2個ずつ、6個入で販売されました。
第2弾として、ジャパニーズウイスキーとして世界的に知られる「イチローズモルト」とのコラボレーションによる「ひと口果子『時の恵み』」が、2023年11月8日~12月6日に販売されました。
この特別な「ひと口果子」のために「イチローズモルト」の3種の希少なウイスキーを厳選し、それぞれ相性のよい3つの餡と合わせたものです。
「THE PEATED[こし餡+ウイスキー羹]」は、熟成により深まるやわらかな燻製香とまろやかな甘さのあるウイスキーを、本来の味わいを愉しめるよう、こし餡と合わせた1品。「PX Sherry Cask[つぶし栗+ウイスキー羹]」は、シェリー樽で熟成させることで干し葡萄のような甘さとフルーティな味わいをまとったウイスキーと好相性の栗餡をあわせた1品。「Bourbon Barrel[胡桃餡+ウイスキー羹]」は、バーボン樽で熟成させたウイスキーならではのバニラのような甘さとさわやかな青林檎のような風味を引き立てる、胡桃餡と合わせた1品。各2個ずつの計6個入で、パッケージも、イチローズモルトのウイスキーラベルを用いたデザインとなっていました。
第3弾では、2024年2月4日〜5月4日に、オーストラリア・メルボルン発のスキンケアブランド「Aesop」とのコラボレーションによる「スパイス羊羹」が販売されます。
「Aesop」は、1987年の創業以来、機能と環境を重んじた確固たる考えのもと、優れたスキンケア、ヘアケア、ボディケア製品の創造を追求し続けているブランドです。世界中にあるAesopの店舗は、地域に根付くデザインの特色とその一貫したデザインを融合させることを目指し、各地域の素材やコンセプトからインスピレーションを得てつくられているそう。緒方慎一郎氏が代表を務める「SIMPLICITY」がデザインを担当した「イソップ京都店」も、白と黒を基調にした、日本的要素が織り込まれたつくりとなっています。
この「スパイス羊羹」は、「Aesop」の製品にも使用されているクローブ、カルダモン、ブラックペッパーなどのスパイスを効かせた羊羹で、「Aesop」の製品ラベルをイメージしたパッケージに包まれています。
第4弾は、2024年5月5日より、1818年に創業した三重県名張市の「木屋正酒造」6代目が自ら杜氏として醸した日本酒「而今(じこん)」ブランドとのコラボレーションで、「酒粕羊羹」を発売予定とのこと。「而今」という言葉には、 「過去にも囚われず未来にも囚われず、今をただ精一杯生きる」という意味があるそうで、この「酒粕羊羹」は、その後も通年販売される予定だそうです。
お菓子の内容はもちろん、どのようなパッケージになるのかも含めて楽しみですね。
このようなコラボレーションは、双方のブランドにとって、新たなお客様に興味を持っていただき、手に取っていただける機会となり得ます。
今回の企画では、相手先ブランドで使っている自然素材を採り入れたり、双方の世界観を共有するような名前をつけたりと、より深く掘り下げた取り組みが行われていました。私自身も、このような機会でもなければ、「紅花」や「藍」を使った和菓子をいただくことも無かったのではないかと、興味深く味わいました。
パティシエや和菓子職人の方々のお話を伺っても、他店のお菓子を見たり食べたりすること以上に、異分野のクリエイションから刺激を得て、新たな発想が生まれるということもよくあるそうです。
現代に求められるお菓子やデザインを創り出していくには、視野を広く持って、人を幸せに、楽しくさせるような季節の変化や習俗など、五感で様々な体験をすることこそが、何かしらのヒントになるのではないでしょうか。
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