キリスト教の国々において、毎年3月下旬から4月上旬にかけて、「復活祭」という重要な宗教行事があります。もともとはキリストが磔(はりつけ)にされて処刑され、その後に復活したことを祝うお祭りです。日本では卵型やうさぎ型のチョコレートで有名な「イースター」ですが、スペインの「復活祭」は「イースター」とはかなり様子が異なります。今回の記事では、スペインの「復活祭」をご紹介します。
キリストの苦難の道を再現する「セマナ・サンタ」
スペインでは、復活祭の時期、とくに復活祭前の聖週間を「セマナ・サンタ(聖週間)」と呼びます。スペイン人にとって「セマナ・サンタ」のイメージとは、ずばりこのようなものです。

「プロセシオン」の様子
スペインにおける「セマナ・サンタ」とは、キリストが磔にされる直前の1週間を再現するもの。キリストが苦しんだ日々を再現することになるので、どうしても重厚な雰囲気となります。
その「セマナ・サンタ」の主役となるのは、「プロセシオン」と呼ばれる各教会にあるキリスト像の行進です。キリスト像を台に乗せた、一見お神輿のようなものを各教会の信者がしずしずと運ぶのですが、この「プロセシオン」が近くを通る間は、観客も厳かな雰囲気の中で静かに見守ることが多いようです。
また、この「プロセシオン」と一緒に歩く各教会の信者たちは、長い三角の帽子をかぶったり、大きな服を着るなど、一見すると誰かわからないような格好をすることになります。これは、「プロセシオン」がもともと贖罪の意味合いを持つ宗教行事であり、参加者が個人として目立たないようにするためとされています。こうした伝統的な衣装には、参加者の匿名性を保つ役割もあったと考えられます。
とはいえ、現代ではその贖罪の意味も弱くなり、毎年の年中行事として参加している人がほとんどです。だから「プロセシオン」が終わると、みんな長い帽子などを脱いで、普通に街中を闊歩しています。

「プロセシオン」と一緒に歩く信者の方々
こうした「プロセシオン」は、「セマナ・サンタ」の期間中、スペインの中規模以上の町では昼も夜も関係なく、文字通り24時間体制で行われます。教会がたくさんある町では必然的にこの「プロセシオン」の数も多くなり、それぞれの「プロセシオン」の時間帯は、なるべく他の「プロセシオン」と重ならないように調整されます。そのため、教会によっては夜中の2時あるいは3時から「プロセシオン」をスタートすることもあります。そうした夜中の「プロセシオン」でも大勢の信者がしずしずと行進し、その周りを観客が静かに見守ります。
ちなみに、こうした「プロセシオン」はスペイン国営放送局あるいは地元のTV局のネットワークを通じて、生放送もされています。
スペイン風フレンチトースト「トリハス」とは

「トリハス」と呼ばれるお菓子
かつては、この時期に肉を控えるカトリックの習慣があり、その影響で魚料理がよく食べられてきました。今でこそあまり言われなくなりましたが、それでも「セマナ・サンタ」の期間中には、魚やシーフードのから揚げやフライがスペインにあるバールの人気メニューとなることが多いのも事実です。
またスペインの「セマナ・サンタ」の期間中に好んで食べられる伝統的な料理の一つがひよこ豆のスープです。ひよこ豆にほうれん草、バカラオ(塩タラ)を煮込んだ料理で、やはり肉は入っていません。実は「セマナ・サンタ」になっても、スペインの北部や内陸部は日が落ちると気温が一気に下がり、寒い夜が多いのです。そんな夜に食べるとおいしいのが、このひよこ豆のスープです。
そしてスペインの「セマナ・サンタ」を代表する料理が、「トリハス」と呼ばれるスペイン版のフレンチトーストです。作り方はさまざまですが、一般的には牛乳や甘い液にパンを浸し、卵をまとわせて焼く、あるいは揚げるようにして作られます。焼いた後に粉砂糖をかける場合もありますが、基本的に味付けはかなり甘いと思っておいた方が良いでしょう。
スペインでは「セマナ・サンタ」になると、この「トリハス」がパン屋さん・ケーキ屋さん・お菓子屋さん・スーパーマーケットのパンコーナーに並びます。ちなみに「セマナ・サンタ」に「トリハス」を食べる理由としては、前述した、この期間に肉を食べることができなかった、という習慣に由来します。加えて、極めて現実的な話では、「トリハス」は余って硬くなったフランスパンを無駄にしないための節約料理だったという説もあります。
キリストの復活を卵とウサギで祝う「イースター」

ウサギの置物はこの時期の人気商品
このようにスペインで、「復活祭」は「セマナ・サンタ」という、「イースター」とは異なる形で祝われています。その一方で、「イースター」の持つ春への希望や明るさといったものがスペインで拒否されているかといえば、決してそうではありません。
スペインの街中には、春色のイースターエッグを模した雑貨がいろいろ飾られますし、1ダースくらいのチョコレートエッグが詰め込まれた大きな「卵」がスーパーマーケットで販売されます。おもちゃ屋さんにはウサギのぬいぐるみが並び、様々な大きさのうさぎ型のチョコレートも「セマナ・サンタ」の時期に販売されます。
クリスマスに並ぶキリスト教の重要行事である「復活祭」を、伝統的なスペインの「セマナ・サンタ」という形と、華やかな「イースター」という形の両方で祝うのが現在のスペインなのです。
▼編集部おすすめ記事
イースター商品が売り場に春を告げる
アメリカの春を感じる味とデザインパッケージ
