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ついにオリンピックイヤーを迎える日本。おもてなしの精神は、モロッコの「リヤド」から学べる

訪日外国人の数が毎年増加し、2020年にはいよいよオリンピックが開催されます。今まで国内のお客様メインで仕事をしていた人にとって、外国からのお客様をもてなす方法は大きな課題となっているでしょう。

相手にできるだけ合わせて、違和感を感じないように過ごしてもらう。日本の伝統をアレンジしてエッセンスだけ感じてもらう。もしくは、日本のやり方で、できるだけアレンジしないまま伝統を感じてもらう———様々な方法がありますが、一つのモデルケースとして、モロッコ・マラケシュにある「リヤド」をご紹介します。

Photo:マラケシュの旧市街の夕暮れ時。中央に見えるモスクの尖塔、ミナレットは塔の上から祈りを呼びかけるために建てられた。

リヤドとは

「リヤド」とは、元々は邸宅(モロッコ旧市街の庭や中庭のある)を指す言葉でした。旧市街は、外敵の侵入を防ぐために迷路のような小道が入り組んだ作りになっており、住宅は隣同士の壁を共有する長屋スタイルで建てられていて、通りに向いた窓が少ない、または全くないのが特徴です。

玄関に入ると、家の中が見えないようにL字型の廊下があり、その先に中庭が広がります。そして中庭を囲むように細長い部屋があります。

Photo:リヤド・クニザの中庭。大きなリヤド内には、このような中庭がいくつかある。スペインの”パティオ“は、北アフリカの中庭の影響を受けたもの。

上階には中庭に面した窓があり、その窓にはムシャラビという細工が施された目隠しがはめられていて、中庭から部屋の中が見えないようになっています。下の階は家族以外の男性客も出入りできる半公共空間ですが、上の階は“ハレム”=禁じられた空間とされ、家族以外の男性の出入りは禁止されています。

また、貧しい家の壁には何の装飾もないか、プリントのタイルが貼られていますが、豊かな家には職人による手作業の手焼きタイルによるモザイクや石膏細工が、天井には木工細工が施されています。

はじめは住宅として使われていたリヤドですが、マラケシュやフェズは世界中から観光客が集まる一大観光地。2000年頃から大きめのリヤドが観光客向けの宿泊施設として使われるようになり、「リヤド」という言葉は旧市街にある小型ホテルを指すようになりました。

この時期、モロッコでは不動産ブームが起こり、旧市街の好立地にあるリヤドは10倍、20倍に値上がりし、多くのリヤドが外国人により購入、改装され、外国人経営の宿やレストランになったという背景があります。

リヤド・クニザ式のおもてなし

マラケシュにある殆どの「リヤド」は、宿のオーナーがリヤドを購入した外国人であることに対し、今回ご紹介する「リヤド・クニザ」のオーナーは、元々の邸宅の持ち主である裕福なモロッコ人ファミリーです。

また、一般的なリヤドのオーナーは海外暮らし、もしくはモロッコで暮らしていてもたまに顔を出す程度、マネージャーに任せっぱなしということが多い中、「リヤド・クニザ」のオーナー一家は常にリヤドに出入りし、細かいところまで目を光らせています。

一歩足を踏み入れると、柔らかい笑顔のモロッコ人女性に迎えられ、中庭に面した「サロン」に案内されます。サロンは日本のリビングルームに当たるスペース。壁に沿うように、サロン・モロカンというオーダーメイドのソファが置かれ、BGMには控えめで心地よいモロッコ音楽が流れています。かすかにオレンジフラワーウォーターの香りもします。

Photo:伝統的なスタイルの、リヤド・クニザのサロン。タイル張りの床には絨毯が敷き詰められ、腰の高さまでのタイル、その上は漆喰で塗られ、天井にも細工が施されている。今使われているものは、機械刺繍のものだが、伝統的にはテーブルクロスも手刺繍のものが使われた。

しばらくすると、ミントティーとホームメイドのモロッコ菓子が運ばれてきます。雰囲気は、裕福なモロッコ人家庭を訪問した時と全く同じ。いい意味で、商売を全く感じさせません。

Photo:スタンダードのベッドルーム。

モロッコでは、大切なお客さんは自宅に招く文化があります。客間はチリ一つ無いよう完璧に掃除され、吟味された新鮮な食材を、何時間もかけて作った家庭料理でもてなします。

スタッフの雰囲気が優しくて心地良いですね、とオーナーに聞いてみたところ、「ここで採用の際に最も重視するのは、モロッコの伝統的なホスピタリティーやおもてなしの心があるかどうか。ホテルマンとしての形よりも、モロッコ的な真心のホスピタリティーを優先したいから、基本的にホテルマン養成学校を出た人は採用しない」と言います。

インテリアは所謂おしゃれでは無いのですが、安っぽいものが一切使われていません。お客さんに居心地よく過ごしてもらいたいという、オーナーのプライドが感じられる選定です。

Photo:ディナーの前菜。モロッコの正式な夕食では、前菜4~5種類、鳥料理(丸焼き)、肉料理、果物、茶菓子、お茶が出る。

お料理は、食にうるさいモロッコ人がきっちり選んだ贅沢な食材を使い、丁寧に作り込んだ味です。例えば、ウェルカムティーとして出てくるミントティーのミントやちょっとしたお茶菓子も、良いものを選んでいることが伝わる味で、夕食時に聞こえてきた生のモロッコ音楽もレベルの高い演奏でした。

プライドを感じられるサービス

初めてモロッコに来た外国人には違いが分からないものが多く、外国人向けにアレンジした食事のほうが食べやすいという考え方もあります。しかし、初めて来た人にも、シェフやモロッコ人スタッフが本当に良いものだと思い、プライドを持ってサービスしているかどうかは感じられますし、質の良し悪しはなんとなく伝わるのではないでしょうか。

「リヤド・クニザ」のオーナーは、マラケシュでも有数のアンティークのディーラー・コレクターかつ、アメリカ歴代大統領やハリウッドスターなどVIP専用の公認ガイドでした。リヤドを訪れるお客さんに経験してほしいことはなんですか?という私の問いに、「本物のモロッコのホスピタリティー」と言い切りました。

そんなオーナーが持つリヤドは、アレンジしていないモロッコの良さを前面に打ち出して、浮き沈みの激しいマラケシュのリヤド界で15年以上、人気リヤドとしての地位を守っています。

さて、いよいよオリンピックイヤーを迎える日本。世界中から訪日した外国人へのおもてなしで、それぞれの好みに合わせ切ることは不可能です。しかし、自信を持って良いと思う伝統を手抜きせずに提供することが、一番のおもてなしになるのかもしれません。

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