お酒のパッケージにもサステナビリティの波
ラグジュアリー商品の典型でもあるお酒はこれまで華やかなパッケージで豪華さを表現してきましたが、この分野にも新たな試みが出現しています。
お酒の中でも「ヘネシー」や「レミーマルタン」などの高級ブランデーは小売価格で1万円を超える高額商品も多く、その分パッケージも贅を尽くしています。
高級ガラスの「バカラ」を使用したきらびやかなブランデーのパッケージはよく知られています。
コニャックに天然繊維のボトル
コニャックは品質の良いブランデーの一つで、フランスのコニャック地方で作られていますが、A. de Fussignyの「2050」コニャックは亜麻繊維、植物ベースの樹脂、
rPET*(リサイクルPET)フイルムで作られたボトルです。ボトルのラベルはミルクの副産物から作られるカゼイン(牛乳やチーズに含まれるリンタンパクの一種)から作られており水溶性で生分解性のフイルムが使用されています。
*表記は日本の記事では「R-PET」、海外の記事では「rPET」が良く使用されています。本記事ではrPETに統一しています。
このボトルは、フランスの新興企業Green Gen Technologies社の「Green Gen」ボトルを利用しています。
「Green Gen」ボトルは地元調達の亜麻繊維にバイオプラスチックを組み合わせ、頑丈で防水性があります。
ボトルの内側のコニャックと接する面は食品グレードのrPETが使われていて、従来のボトル(700g〜1kg)と比較すると重量は圧倒的に軽い85gに仕上がっています。
Green Gen Technologies社は他のワインやスピリッツの企業にもこのボトルの採用を望んでいるため独占契約は結んでいません。
ジョニーウォーカースコッチウイスキーの紙ボトル
ロンドンに本社を置くディアジオ (Diageo )社はスピリッツおよびソフトドリンクをメイン商品とする企業で、「スミノフ」「ギネス」「ジョニーウォーカー」などの多くの国際ブランドを所有しています。
ディアジオ社は持続可能な方法で調達された木材のみで作られた世界初の100%プラスチックを使用しない紙ベースのスピリッツボトルを開発しました。
ボトルは、食品安全基準を満たすために持続可能な方法で調達されたパルプから作られ、標準的な廃棄物の流れでリサイクルが可能です。この技術により製品の既存の品質を損なうことなく既存のデザインを再現することができます。
ジョニーウォーカースコッチウイスキーでデビューした紙ボトルは、ベンチャーマネージメント企業であるPilot Lite社とディアジオ社が共同で設立した包装技術会社であるPulpex Limited社が製造しました。
この商品が生活のあらゆる分野で使用できるようにするために、Pulpex Limited社はこの技術をユニリーバやペプシコなどのスピリッツと非競合のカテゴリで世界をリードする企業とパートナーコンソーシアムを設立し、Pulpex Limitedの設計と技術に基づいて独自のブランドの紙瓶を発売する予定です。
化粧品のエスティーローダー社やケチャップのクラフトハインツ社が既に商品のプレスリリースを発表しています。
ディアジオ社は、事業全体での環境への影響を最小限に抑えサプライチェーン全体で環境基準達成に取り組むため「Seagram’s 7」のボトルを100%リサイクルプラスチック(rPET)ボトルに移行すると発表しています。
また、ケンタッキー州ローレンスバーグに建設中の新しい1,000万ガロンの蒸留所を100%カーボンニュートラル工場にする予定です。
物流にやさしいフラットボトル
従来の丸いワインボトルは美しいフォルムで馴染みもありますが空間的には非効率的です。四角い箱にワインを入れれば、どうしても無駄な空間が出来てしまいます。このジレンマを打開するために、古典的なボルドーボトルの「断面デザイン」をモチーフに採用して設計デザインされたのがフラットボトルです。
750mlという容量を確保するために、標準のボトルよりも約2cm背が高くなりますが横にすれば積み重ねることができます。
ボトルはリサイクルされたリサイクル可能なrPETでできておりそのスペース効率によりより多くのワインを輸送用コンテナに詰め込むことができ、CO2排出量を削減することができます。
もともとこのボトルは各家庭の郵便ポストに入れることができるようなレターボックスサイズにすることを狙ったものです。現在、輸送用のパレットに456本の丸いボトルを搭載していますが、新しい10本のフラットボトルケースは1本のパレットで1,040本のボトルを輸送することができるので輸送効率は2倍以上となります。軽量であることも輸送面では有利になります。
Garçon Wines社は2020年の第4四半期までにフラットボトルを州内で販売することを目指しており包装会社のAmcorが北カリフォルニアで環境に優しいボトルを製造しています。
これらのボトルを満たすアメリカのワインメーカーはまだきまっていませんが、Garçon Wines社はセゲシオ、パインリッジ、アーチェリーサミットを所有するクリムゾンワイングループなどの西海岸の生産者と話し合っているようです。
世界初の紙ワインとスピリッツのボトル
2020年6月に発売されたCantina Goccia社のFrugal Bottle*のワインは売り切れが続出しました。
Frugal Bottleは英国の包装会社Frugalpac社によって開発され、二酸化炭素排出量が最も少ないリサイクル紙ベースの製品です。
Frugal Bottleは大型のボックスワインなどで利用されているBIB(バックインボックス:液体輸送用容器)と基本的な発想・構造は共通で、94%のリサイクル板紙とワインの品質を維持する食品レベルのパウチで構成され12ヶ月の賞味期限を実現しています。重量は従来のガラス瓶の約1/4の83gの軽量で、内側に使われているパウチは15g程度、PETボトルなどと比べると樹脂使用量は1/4で二酸化炭素排出量はガラスボトルの最大6.5分の1になります。
一般的な使い捨てのガラス瓶とその輸送はワイン製造の二酸化炭素排出量の多くを占めておりワイン業界全体の炭素排出量の39%を占めています。Cantina Goccia社は今後ワインの半分をFrugal Bottleで販売していく予定です。
*Frugal BottleはFrugalpac社の商標です。
2次包装も変わる-レミーコアントローシャンパンボトル「2nd skin」
一般的なシャンパンボトルは、1平方センチメートルあたり約6kgという高い圧力に耐えるために835gのガラスが使われた頑丈なボトルが使われています。
この伝統的なボトルをより軽量な800gの軽量ガラス瓶に変えようという試みが、カンヌ映画祭の公式シャンパンでも有名なシャンパンテルモント社で行われています。
ガラスはテルモントの炭素排出量(ガラスの製造と輸送)の20%を占めておりボトルの重量を800gに減らすことは、ボトル1本あたり4.2%の削減に相当しすべてのシャンパンで8,000相当トンのCO2排出量を削減します。この革新的なボトルは2025年に市場に導入される予定です。
飲料に直接触れる1次包装に加えて、売り場や実際の飲用場面で商品をアピールする2次包装にも新しい動きがみられます。
パッケージコンバーターのIPL Packaging社は、射出成形された紙の発泡体から作られたシャンパンパックを開発しました。
ボトルの輪郭を包み込むような洗練されたデザインで「2nd skin」とよばれています。シェルタイプのパックは発泡スチロールの機能に近いBIWI社のBio Foamを使用して作られています。
Bio Foamは、ジャガイモまたはサトウキビあるいは竹セルロース繊維に由来する工業用デンプンに基づく生体高分子で、射出成形プロセスによって製造されています。
軽量で優れた断熱性と高い衝撃吸収性を持ち、紫外線にも強く生分解性で堆肥化可能で従来のリサイクルの方法が適用できます。
持続可能な管理がなされているヨーロッパの森林から得られた木材を原料とする紙には、耐光性を確保するため保護層としても機能するよう天然の金属酸化物が添加されていて、それがボトルをぴったりと包み込む形状に加工されています。
成形部品とカット製品の両方に適したBio Foamはアウターパックとインナーフィッティングおよびパーツに使用できます。
紙を使用して開発された軽量のシェルのようなケースは、ルイナールの以前のパッケージの9倍軽量でボトルの輪郭を包み込むように成形されています。
「2nd skin」は、パックの二酸化炭素排出量を前世代と比較して60%削減しました。
ルイナールは電動式トラクターの採用、畑でのブドウ樹以外の植物の植樹による生物多様性の確保、殺虫剤・除草剤の不使用、ワイナリーでは自然エネルギーの使用やリサイクル率99.7%の達成など、畑やワイナリーでできる環境面での対応をおこなっています。
さらにルイナールは、シャンパーニュを熟成させるセラーがメゾンの地下38 mにある白亜質の石でできた古代の石切り場跡「クレイエル」と名付けられたトンネルであることでも有名で、ここでは温度も湿度もシャンパーニュの保管・熟成に最適なものとなっています。流通面でも10年前から飛行機を使った商品輸送はやめ、フランス国内では60%のボトルが電気自動車や人力で運ばれています。
コンピューターメーカーHPがパッケージに注目
2022年2月2日 コンピュータ業界のリーダーであるHP 社は、パッケージ開発会社で世界で唯一市販されているプラスチックを使用しない紙ボトルのパイオニアChoose Packaging社の買収を発表しました。
HP社はデジタル印刷技術を活用してカスタマイズ可能なファイバーベースの製品をより迅速かつ手頃な価格で市場に投入するように設計された3D印刷対応の成形ファイバーツーリングソリューションを導入します。
HP社は毎年1億5000万トン以上の使い捨てプラスチックを繊維ベースの100%プラスチックフリーのパッケージで置き換えることによって市場革新を狙っています。Choose Packaging社をパーソナライズおよび3D印刷ビジネス(究極は受託充填事業にも?)を統合することで市場を拡大し、テクノロジーと顧客のフットプリントの拡大を目指しています。
Choose Packaging社の特許技術はペットボトルに代わるものを提供し、多種多様な液体製品を保持できます。その斬新な紙ベースのボトルは、天然に存在する無毒の材料で作られ世界的な瓶詰めソリューションの新しい基準への道を開拓していきます。
アルコール飲料にも持続可能なパッケージを
お酒のパッケージは液体を扱うことから高い密閉性やバリア性が求められますが、ここへきて新しい試みがたくさん出てきたので注目されています。
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