菓子業界のパッケージや販促PRに関する面白い事例をご紹介する連載2回目は、ハロウィンやクリスマスの新作発表会の中で感じた「パッケージの遊び心とサステナビリティの必要性」についてです。2022年9月某日、ニューヨーク発の本格ブラウニー専門店「Fat Witch Bakery(ファットウィッチベーカリー)」代官山店にて、ハロウィンとクリスマス商品を中心とする発表会が開催されました。そのパッケージには、思わず興味を惹かれる点が。さらに店頭に並ぶアイテムや告知の中にも、今の時代のニーズに沿った提案がありました。
ニューヨーク生まれのブラウニー専門店の日本での展開
「Fat Witch Bakery」創業者の女性は、ニューヨークのウォール街の証券取引所で働いていたPatricia Helding氏。母親のレシピで手作りブラウニーを焼いて同僚達に配っていたところ大好評で、やがて本格的に自分のブランドを立ち上げることを決意。1998年にニューヨークのチェルシーマーケットに第1号店を出店しました。
私の記憶では、日本の百貨店の催事で見かけるようになったのは10数年以上前からで、海外からの特別出店という形でブラウニーが並んでいたのを思い出します。
現在、「Fat Witch Bakery Japan」を運営するのは、大阪市に本社のある「リボン食品株式会社」です。創業は1907年(明治40年)。まだまだ洋食やパンが珍しかった時代に、日本で初めてマーガリンを開発した会社として知られています。2015年5月に日本での出店が決まり、9月よりネット通販を開始。2016年6月には京都・下鴨店、2018年には大阪店(現在閉店)、2021年8月に代官山店がオープンしました。
代表取締役社長の筏由加子氏曰く、Patricia さんとの出会いがあり、3つの約束を交わして意気投合したとのこと。1つ目は「“I care”の精神」。求めることの異なるお客様1人1人にとって居心地のいいお店にするために、お客様に寄り添って考えることを大切にする。2つ目は「どこを食べてもおいしい」こと。どこかなじみ深い味わいを世界のどこの店舗でも提供するということ。日本で製造するにあたり、日本人が濃厚なバターとして評価するフランス産のバターなどに比べてアメリカのバターの味が薄いということから、濃厚なコクも表現しているリボン食品のコンパウンドマーガリンを使うことについても話し合い、納得してもらえたと言います。
3つ目は「ウィット」。お客様との間に深い絆を築いて、何度も訪れていただくための“ウィット”(=知的なユーモア)を大切にすること。
パッケージに描かれた魔女のイラストは、元々、Patricia さんの手描き。実は元美術教師であり絵心があったため、商品ロゴの文字も彼女のハンドライティングだそうです。
あちこち飛び回る「Witch(魔女)」は、まさに“忙しい女性”の象徴。仕事や家事に励む女性達を応援する存在でありたい、という願いを込めている。「太った」をネーミングにしたのもPatricia さん流のジョークで、世の中の女性達も笑って受け入れてくれるはずとの思いから名付けられたそうです。
このイラストをよく見てみると、実は、デザインが2つあるのですが、わかるでしょうか?
その違いは、高層建築の建ち並ぶ街のシルエット。ニューヨークバージョンと、日本のバージョンがあるのだそうです。そう言われてよく見ると、エンパイア・ステート・ビルディングらしき建物や、東京タワーや五重の塔があることに気づきます。
「Fat Witch Bakery Japan」のブラウニーには3種のラインがあり、長年ニューヨーク店で愛されているフレーバーのライン「BASICS(ベーシック)」と、日本に出店するならば和素材を入れたブラウニーも作ろうと、幾度も試作を重ねて完成させた「WABI.SABI(ワビサビ)」、さらに期間限定で発売されたものやファン考案のブラウニーの「COLORS(カラーズ)」があります。日本で生まれたフレーバーは、街の風景が日本になっているというお話を伺い、気づく人は気づいてちょっと楽しくなる、これもまさに“ウィット”だなと感心しました。
クリスマスパッケージに見られる遊び心
今回の発表会では、期間限定フレーバーのお披露目もあり、これらを含む専用パッケージ入りのセットも販売されます。「クリスマス9個セット」は、中央のオリジナルフレーバーのブラウニーのパッケージ柄が、赤いサンタ帽子をかぶった魔女になっているのも可愛らしいです。
レッド・グリーン・ゴールドの3色の三角形パッケージは、昨年も好評だったというクリスマス限定フレーバー入りの3個セット。蓋を開けると、それぞれ台紙が金色・緑色・赤色となっていて、色彩の対比も鮮やかです。三角形が小さなクリスマスツリーのようでもあるので、食べる前も後も、食卓に置いておくだけで、ちょっとしたクリスマスオーナメントのようですね。
「BASICS」「WABI.SABI」「COLORS」の各フレーバー6種入りセットにも、クリスマス限定版パッケージが登場します。面白いのは、それぞれの箱単体でも成り立つ絵柄なのですが、これらを横に並べると一続きの長い絵が完成すること。そう知ると、つい3つのバージョンを揃えて購入して、並べてみたくなってしまいそうです。これも“ウィット”の要素だと言えるでしょう。
地域に根差したグローバルブランドへ
「Fat Witch Bakery」代官山店には、オープン型のショーケースに、カラフルなパッケージの様々なブラウニーがずらりと全種類並んでいて、お客様は1個ずつ、好きなフレーバーを選んで購入することが出来ます。
「Fat Witch Bakery Japan」では、このブランドを単に「ニューヨークから来たお店」で終わらせず、本店の精神を受け継ぎながらも、地域ごとの独自の方針によって長い間愛されるお店を目指しているそう。時間をかけて地域に深く根差したグローバルブランドを作っていきたいとのことです。
たとえば「Fat Witch Bakery」代官山店をオープンするにあたり、72個入りという豪華なセットを作って販売したところ、とても売れ行きがいいそうです。エリアごとの客層のニーズとのマッチングは、とても大切ですね。
下鴨店をオープンする際も、伝統ある京都ならではの特徴を活かしたコンセプトショップにしようと、元の建物の色彩や佇まいを活かして、一見すると町屋風の風景にとけ込む外観や、ゆったりと落ち着く雰囲気の内装に仕上げたそうです。
オリジナルecoバッグ利用での割引やフードロス削減の取り組みも
また、「Fat Witch Bakery Japan」には「ウィッチメイト」というしくみがあります。オリジナルecoバッグ、又は保冷ecoバッグを購入して利用くださるお客様は、購入金額から2%オフとなり、その後も割引価格が適用されるというものです。
特に代官山店は、「Fat Witch Bakery」の店舗でも初となる「サステイナブル」というテーマを掲げていて、「ファットウィッチ エンズ」という名で、ブラウニーの端っこを切り落とした部分の販売も不定期・限定数であります。1袋税込540円。通常のブラウニーに比べてカリッとした食感があり、これが好きというお客様もいらして密かな人気アイテムとのこと。フードロスを減らそうという取り組みとしても意義がありますし、さらに、この品の売り上げの一部で、「あしなが育英会」に支援寄付もしているそうです。
今回の事例を通じて、パッケージや商品提案に遊び心があると、よりいっそう楽しめるなということ。そして、その品を通じて、環境保護や社会貢献にも繋がるというメリットがあると、共感・納得して心地よく購入できるということを、改めて感じました。これらをバランスよく兼ね備えることで、よりお客様の気持ちに沿った提案が出来るのではないかと思います。
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