菓子業界のパッケージや販促PRに関する事例をご紹介する連載6回目は、前回の「資生堂パーラー」編に続き、人気ブランドに学ぶパッケージデザインの事例をご紹介します。
▼関連記事
「人気ブランドのパッケージデザインに学ぶ~「資生堂パーラー」編」
今回取り上げるのは、東京土産として1991年11月にデビューして以来、大人気の「東京ばな奈」をはじめ、「ねんりん家」、「シュガーバターの木」「TOKYO チューリップローズ」など、数多くのブランドを続々と生み出してきた「株式会社グレープストーン」です。
同社は1978年に東京・阿佐ヶ谷の地で創業し、「ぶどうの木」ブランドのお菓子と共に、食器や輸入食品などの販売からスタートしました。1989年、「株式会社グレープストーン」に社名変更し、1980年9月には、皿盛りデザート専門店「ぶどうの木」銀座店を開業します。1985年4月、百貨店に「銀のぶどう」を出店。
私も子供の頃、母に連れていってもらったデパ地下でこのブランドに出会い、当時は珍しかった“西洋和菓子”という世界観に心奪われました。
1990年5月には「鎌倉五郎本店」鎌倉小町通り本店を開設。そして、「東京ばな奈」の発売後、1992年には羽田空港、1992年12月には東京駅キヨスクにて販売を開始し、その認知度を飛躍的に上げていくことになります。
「東京ばな奈」の歩みと地球環境への配慮
「グレープストーン」の各ブランドの魅力として、世界観が作り込まれストーリー性に富んでいる、ということが挙げられます。そこには、食器や食材の販売から始まった会社ということもあり、お客様に“食べることで生活を豊かにする”ということを伝えようとしてきた背景があります。創業社長もデザイナーのような気質をお持ちの方で、ブランドによってイメージをあえて色々変えて提案しているのだそうです。
ブランド担当者は、複数のブランドを兼任することも多いそうですが、デザインについても、商品担当者と社内のパッケージデザインチームとが共に考えます。そこに外部のデザイン会社が参加することもあります。デザインチームには、包材の選択や仕入れの算段をする担当者や、グラフィックデザインの専門家などが在籍しています。
「東京ばな奈『見ぃつけたっ」」は、現在の企画開発責任者が美術大学出身で、着任初期の頃はパッケージデザインも手掛けていらしたそう。発売当時から大きな変更はなく現在に至ります。
描かれているのは、おしゃれで元気な東京ガールという設定のバナナ。当時、「○○子」というのではない女児の名前が流行していて、「ばな奈」というのは、女の子の名前を想定しています。
青いリボンをつけてはいますが、いわゆるキャラクターにはならないよう、目鼻まではつけませんでした。というのも、そこまで可愛らしくしてしまうと、ビジネスマンの方々が手土産にしにくくなってしまうためです。箱のサイズもA4書類をイメージし、アタッシュケースに入る大きさにしました。
青いリボンは、ちりめん生地をイメージ。「銀のぶどう」が掲げていた「西洋和菓子」のイメージから、伝統的な「和」の意匠を採り入れたもので、バナナの影にも刺し子を思わせる柄が入っています。
また、「東京ばな奈」は、ブランドのイメージカラーの黄色を、商品だけでなく店全体のディスプレイに採用した店構えでも目を引きました。
その後、2005年に “黒い「東京ばな奈」”として、ココア生地とバナナカスタードを組み合わせた「東京ばな奈の黒ベエ」という名の商品が登場。そこから様々な色や模様のスポンジケーキを使った「東京ばな奈」の開発が進んでいきます。
2012年の「東京スカイツリー®」開業時の出店に際しては、生地にヒョウ柄が施された「東京ばな奈」が初登場して話題を呼びました。2017年12月には、上野動物園でのパンダのシャンシャン一般公開に合わせて、パンダの顔が描かれたデザインの「東京ばな奈パンダ バナナヨーグルト味、『見ぃつけたっ』」を発売。
オリジナルの「東京ばな奈」を軸としつつ、可愛らしい動物デザインや、漫画やアニメの人気キャラクターとコラボした品も続々と登場していきます。
「東京ばな奈」のようなタイプの菓子に、焼き印を使わずにこのように様々な柄を描き出す製法は、個人店の手作業では可能であっても、大手メーカーでは類がありません。
最近は、菓子自体のデザインが、そのままインパクトある外箱の絵柄として成立するようになってきました。
2022年12月8日、JR東京駅八重洲地下中央口改札を出てすぐの「東京駅一番街」に、「東京ばな奈」の旗艦店となる「東京ばな奈s(トーキョーバナナーズ)」が開業しました。
そこに先行販売品として登場した新商品が、「米粉だよ!東京ばな奈もちふわ バナナカスタード味」です。
これは、「株式会社Dole」のブランドバナナ「スウィーティオ」の中でも、産地のフィリピンで規格外品として廃棄されていたバナナを活かす「もったいないバナナ」プロジェクトに賛同して、バナナ原料のうち17%使用したもの。スポンジ生地に国産米粉を使ったグルテンフリー商品でもあります。
さらに、「東京ばな奈」史上で初めて、8個入と12個入の包装紙をなくして箱自体にパッケージデザインを施し、ゴミを減らす試みもしています。箱に使用している紙も、適切に管理された森林からできたFSC認証紙を使用し、環境に配慮した植物性由来成分を含むインキを選ぶなど、SDGsへの貢献を目指した取り組みを行ったものです。
2021年8月、「東京ばな奈」誕生30周年の節目に、従来はプラスチック容器だった4個入パッケージを、プラスチックごみの課題解決に向けたSDGsの取り組みの一環として、紙箱に変更しました。
2022年1-12月に行われた調査では、この「東京ばな奈」4個入がマドレーヌ・ケーキマフィンカテゴリーで「日経POSセレクション2020売上No.1」を獲得しています。
続々と誕生する新ブランドとそのコンセプト
「東京ばな奈」の後、2007年に池袋の東武百貨店に1号店が開業したブランドが、バームクーヘン専門店「ねんりん家」です。当時、バウムクーヘンというジャンルはスイーツ業界の中でも既に第二次ブームを迎えていて、「グレープストーン」の展開は、どちらかというと後発のタイミングでしたが、“コナモノ”ブームと言われた焼き菓子人気の後押しもあり、大いに注目されます。
特に、ゴツゴツした表面が特徴的で、⽪はカリッと焼き上げ、中はしっとり熟成させた「マウントバーム しっかり芽」という商品が完成したことで、器を扱ってきた同社ならではの「陶芸家による焼き物」のイメージと結び付いたそう。樂焼茶碗を伝承する樂家の表玄関にかけられた「御ちゃわん屋おちゃわんや」と書かれた白のれんから着想したデザインも採り入れ、のれんには「年」の赤い筆文字と、日本語のブランド名を入れました。職人が心で焼き上げるというイメージと、商品の名前、パッケージやロゴのデザインが一瞬で一致したブランドだったそうです。
2010年、埼玉県・大宮駅構内に1号店がオープンしたシリアルスイーツ専門店「シュガーバターの木」は、一番人気の定番商品「シュガーバターサンドの木」をはじめ、様々なタイプのシリアルスイーツが揃います。
大宮と言うと、新幹線駅としての土産需要を想定したものかと思いきや、新幹線側とは逆方面の場所で、コストパフォーマンスのよさもあり、主に地元のお客様に支持されたそうです。
特に、全粒粉・ライ麦・小麦、穀物の旨味を存分に活かし、サクサクと軽く香ばしい特製のシリアル生地の表面を、芳醇な発酵バター感のある独自のブレンドバターをシュガーと一緒に焼き上げる製法は、同社にとっても「発明品」と言えるもの。他店が容易に真似できない品であるという自負があるそうです。
当初のパッケージは、ブルーと白に黄色を配し「木」のモチーフをアクセントとしたデザインでしたが、2021年4月、「シュガーバターサンドの木」の製法が変わり、さらにバター感がアップした”バターシリアルスイーツ”に生まれ変わったのを機に、パッケージもリニューアル。ブルーと白を基調にペールピンクを差し色として、「木」のシンボルがより目立つ形で、少し北欧調をイメージしたようなデザインとなりました。
まず、選びぬいたバターをとかしたブレンドバターは、特に芳醇な「発酵バター」の配合比をあげて、コクと香りをより濃厚に。
また、従来の「シュガーバターサンドの木」は、2枚のシリアル生地はどちらもシュガーバターした面を上側に、ホワイトチョコレートをのせてサンドしていました。しかし、これだとせっかくのバターのコクや香りを100%楽しむことができないと、下側の生地を反転させ、上下共に、外側面でシュガーバターが味わえるようにしたそうです。
行列のできる大人気に!「TOKYO チューリップローズ」のパッケージ
さらに、2019年3月、西武池袋本店に常設店が開業し、現在もなお行列の絶えない人気ブランドとして話題なのが「TOKYO チューリップローズ」。繊細なラングドシャクッキー細工のチューリップの中に、とろけるショコラクリームのローズを咲かせた代表商品「チューリップローズ」は、フランス・パリで腕を磨いた金井理仁(かないまさひと)シェフが考案したスペシャリテ。「グレープストーン」として初めて、パテイシエの名前を前面に出したブランドでもあります。
SNSなどでの「映え(ばえ)」が重視される昨今のトレンドにはまったものの、それを狙って作り出したのではなく、金井氏の“発明”があったからこそ誕生したブランドという点は、まず“もの作り”ありきの同社らしい流れです。
箱を開けた時のお菓子そのものも華やかさ、愛らしさを活かすため、パッケージ自体はシンプルに、上品に。同社のそれまでのブランドに比べて、ややハイブランドのイメージで、化粧品のパッケージを思わせるようなカラーリングとなっています。
2019年10月に発売されたベイクドショコラスイーツ「ローズガーデン」も、2023年6月1日頃から新デザインのローズボックスのパッケージにリニューアルしています。
中央に描かれたローズピンクのバラが目を引き、キラリと輝くシルバーの輪郭も、思わず心ときめく雰囲気。背景には優しいペールトーンで大輪のローズを重ねた、愛らしくエレガントなデザインとなりました。
個包装も、スタイリッシュなグレーを基調に、“ローズガーデン”をイメージした花びら模様が華やかです。「カシスバニラ」は愛らしいピンク色、「カルダモンシトロン」はフレッシュなイエローが差し色となり、教会のステンドグラスの薔薇窓やモザイク画を思わせるような上品さがあります。
雑誌&イラストレーターとのコラボという試み
2019年4月には、東京を代表する皿盛りデザート専門店のブランド「銀座ぶどうの木」が、雑誌『Hanako』の“毎日を、おいしく生きる”というコンセプトに共感し、「新しい東京スイーツ」を目指してコラボレーション。『Hanako』の人気特集『喫茶店に恋して。』のタイトルを冠したブランドを立ち上げ、「東京駅グランスタ」内に店舗をオープンしました。
本物の文庫本のようなデザインに作り込んだ箱を採用し、商品ごとに人気イラストレーター制作のパッケージデザインを発表。第2弾商品として2019年11月に発売された「クレームブリュレタルト」は、表面と中身の“パリとろ”の食感の対比が特徴です。
酒井真織(さかいまおり)氏のイラストによる“地球を飛び出しておいしい スイーツを探しに宇宙へ”というストーリーのパッケージで、商品のしおりが純喫茶にありそうなコースター型といった遊び心も。
「みんなが贈りたい。JR東日本おみやげグランプリ2020」で「菓子部門賞」を受賞し、現在も人気の品です。
2023年3月発売の新商品「ハニートーストサブレ」は、ハチミツをとろりとかけてバターをトッピングした“焼きたてトースト”にインスパイアされた見た目が可愛らしく、バターの香るトースト型サブレに、まろやかなハチミツショコラとバターショコラをのせています。
パッケージは、人気イラストレーターあわいさんによる描き下ろしイラストで、「ハニートーストサブレ」をかじる女の子と、小さなコーヒーカップを描いたキュートなデザインです。
2021年にスタートした本格バタースイーツ専門店「BUTTER STATE's(バターステイツ)」は、4月1日に先行で公式オンラインショップがオープンし、4⽉14⽇に西武池袋本店に1号店、4月16日に大丸東京店に2号店がグランドオープン。
代表作であるクッキー「バターステイツ」シリーズは、極限までたっぷり北海道産バターを練りこんだ生地が焼成中になだれとろける様子が話題となり、オープン1ヶ月で累計販売30万個を突破しました。
このブランドのパッケージは、テキスタイルデザイン風のイメージで、同社のブランドの中でも高級感のある雰囲気です。しかし、人気に甘んじることなく、2023年秋にはパッケージ変更の予定だそう。どのように進化するのか楽しみですね。
2023年7月21日には、JR東京駅「東京ギフトパレット」内に新ブランドBRULEE MERIZE(ブリュレメリゼ)」もオープン予定と、新たなチャレンジ続ける「グレープストーン」。しかし、改めて取材をさせていただき、決してブランド優先なのではなく、お菓子自体の「発明」を出発点として、パッケージデザインも含め、その思いを伝えるのに最適の表現方法を試行錯誤してきたことが伝わってきました。
現在、世界的な物流費用の値上げや、原材料が入手しづらいといった課題もありますが、プラスチックに代わる新素材の研究にも、継続的に取り組んでいきたいとのこと。素早い動きを見逃さないよう、これからも注目です!
このライターの記事
-
2024.10.25
パティシエ達も注目!クリスマスの働き方改革も実現する、デコレーションケーキの新包材!
-
2024.08.30
2025大阪・関西万博までカウントダウン!地元店舗が共創する新たな「大阪みやげ」の“YOKAN”とは?
-
2024.02.09
「HIGASHIYA」20周年で登場、異分野とのコラボレーション和菓子の面白さとは?
-
2024.01.12
創業100周年「中央軒煎餅」が考える未来とは?新商品やフードロス削減の提案
-
2023.06.30
人気ブランドのパッケージデザインに学ぶ~「グレープストーン」編
-
2023.05.24
人気ブランドのパッケージデザインに学ぶ~「資生堂パーラー」編