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多様化するヴィーガン食品とそのパッケージ

パケトラ読者の皆さんにとっては、世界のヴィーガン市場の急成長はもうすでに常識で今更感もある話題かもしれません。でもむしろ市場が充実した今こそ、各社が差別化を図って様々なアプローチを模索し始めた面白い状況ではないでしょうか。

ヴィーガン食品といえば、肉や魚、牛乳などの代わりに、大豆を使って肉や魚の味や食感を再現した代替肉や、牛乳の代わりになるナッツミルクなどが定番です。アメリカではそういった食品にはヴィーガンマークが付いていて、私の体感ではすでにスーパーの中の3割程度はマークのついた商品で占められています。

ヴィーガン食品には、マークだけでなく、『Alternative(オルタナティブ、代替)』という表記がよく記載されています。「本当は肉を食べたいけれども動物のためには仕方なく。」とか、「使い勝手は悪いけれど環境に良いものだから我慢する。」とか、本来の欲求をごまかすための「何かの代わり」というわけです。

最近ではかなり本物の味や栄養素に近づけたとはいっても、やはりどうしても本物には負けてしまうところはあり、おいしさや機能・効果よりも、地球や動物にやさしくオーガニックなイメージの方を訴求するパッケージデザインが主流でした。つまりそれは地球や動物を優先させるために、人間本位の欲求やニーズを後回しにした表現ともいえるかもしれません。

しかし最近では技術も進歩し、そんな既存のヴィーガン食品のイメージから脱却して、むしろ植物固有のパワーを摂りに行こうとする積極的な表現や、最先端技術をアピールするなど、「何かの代わり」ではなく、商品のありのままの魅力をアピールする表現が目につくようになりました。

植物の力は強い!【RIOT(ライオット)】

こちらのエナジードリンク、『ライオット』(画像1)は、100%植物由来の成分で従来のエナジードリンクと同じレベルのエネルギーを実現したというのが売りです。

すでに発売されてから6、7年経っているらしいのですが、私の住む街のいくつかのスーパーでは最近になってラインナップも幅広く、手に取りやすい位置の棚を陣取るようになりました。時代がこのブランドの方向性に追いついたのかもしれません。

植物由来商品にしては珍しく、『ライオット=暴動』と少々物騒なほどに力強いネーミングに、他社が『Plant based(プラントベース、植物由来の)』の表記をすることが多い中、サブコピーにも『Plant powered(プラントパワード、植物性の動力)』と押し出しの強い表現を使っているあたり、エナジー機能の強さに自信のほどが伺えます。

最先端フードテックを味わう【SIMULATE®️】

画像2

『SIMURATE®️(シミュレイト®️)』は、フードテック会社シミュレイト社による、植物性素材で出来たフライドチキン風の冷凍食品ブランドです。(画像2)

こういった代替肉の商品は、本物の肉と変わらない美味しさだと言いたいがために、シズルカットはむしろ型どおりな、万人にわかりやすいおいしさや食べ応えを表現しているものが多いのです。例えばこの『PLANT BASED BURGERS(プラントベースドバーガーズ)』(画像3)は、文字でこそ植物由来を訴えてはいますが、全体的な印象はいわゆる普通のハンバーガーパテのパッケージのシズルカットと違いはなく、とてもジューシーでおいしそうな肉の味と食感が伝わってきます。

画像3

ところがこの『シミュレイト®️』は、肉のシズル感は削ぎ落とし、白をベースにシンプルな黒文字でブランドロゴを配した構成は、まるでアップル社製品のパッケージのようです。内容名の横に記された『v 1.0』もPC機器のイメージを演出しています。これはシミュレイト社の技術改良によって商品が良くなるたびに、バージョンの数字を上げていくのだそうです。つまり日本でよく謳われる『おいしくなって新登場!』的なキャッチコピーを、バージョンアップという表現によって代替しているわけです。

この商品の魅力は、肉を食べたい欲求をごまかすようなおいしさよりも一歩進んだ、イノベーティブな最新技術に触れられる喜びにありそうです。近い将来、シミュレイト社は代替食品界のアップル社となれるかもしれません。

ファッショナブルな生き方【Tattooed Chef(タトゥード シェフ)】

冷凍食品売り場には、レンジアップすれば完成する一食分の調理済み商品もたくさん取り揃えてあります。朝ごはん用であったり、子供に持たせるランチ用であったり、ちょっとしたお夜食やおつまみ用など、用途も様々ですが、プラントベースで作られたメニューの商品はここ1年で増え続けており、今は冷凍食品コーナーの1ケース分を上から下まで丸ごと占有するほど。

そのケースの中で人気商品が置かれやすいセンターの位置には、最近は『タトゥードシェフ』ブランドの商品が来るようになりました。ブリトーやピザなど、若者に人気のボリューム感のあるメニューをボウル(丼)スタイルにしたものなどが特に人気なようです。(画像4)

画像4

このブランドはタトゥーの入ったシェフのイラストをシンボルマークとしていて、パッケージデザインも清潔感のある白地にペイズリー柄で統一感を出すなど、生活感の強い冷食の既存イメージとは一線を画すファッショナブルな展開をしています。

『タトゥードシェフ』のクリエイティブディレクターであるサラ・ガレッティ自身もタトゥーをした若者であり、このブランドは厳密に肉食を排除するヴィーガンだけをターゲットとせず、肉も食べるけれども週末だけ肉食を避けるといった程度のライト層も歓迎するとメディアで述べていて、気軽なライフスタイルにもマッチするところが若者にも受けているのではないでしょうか。

感謝祭のご馳走もヴィーガン仕様【Tofurky(トーファーキー)】

アメリカで重要な祝日の一つサンクスギビングデイ(感謝祭)のご馳走といえば七面鳥の丸焼きですが、代替七面鳥肉を使うことで、ヴィーガンもこの日の食事を楽しめることができるようです。

日本人にとってはお馴染みの食材、豆腐を使って作る豆腐の七面鳥、Tofu+TurkeyでTofurky(トファーキー)は、既に一つの料理名として定着しています。

この『トファーキー』を商標として保有している会社は、トファーキーそのものを既製品として製造販売しているので、感謝祭だけでなく誰でもいつでも気軽に食べることができます。(画像5)

私は個人的に七面鳥肉を食べつけないので、少々パサつきが気になってあまり得意ではなかったのですが、慣れ親しんだ豆腐が素材だからか、むしろこちらの方がおいしくいただけました。サイズ的にも七面鳥丸ごとサイズよりお手軽で、アメリカ人ほどの胃の許容量がない人にもちょうどよいのではないでしょうか。

パッケージデザインも七面鳥を連想させる要素を一切使わず、ワインと共に食べるオケージョンを示すイラストで構成しています。

画像5

さて、このトファーキーブランドは、他にも様々な商品を発売しています。(画像6)

味のついたスライス加工肉の代替品シリーズではあるのですが、パッケージデザインではサンドイッチやブリトーなど、用途の方をメインにイラスト化しており、やはり「何かの代わり」ではなく、そういうプロテイン食品なのだとでもいいたげな、ユーモラスな顔つきをしています。

画像6

終わりに:ヴィーガンの多様なあり方

本当は肉が食べたいけれども、自分の選んだライフスタイルや信条のために我慢する側面が大きかった頃には、その我慢がどれだけ地球や動物に貢献できるかを賞賛できるように、パッケージでもオーガニックでナチュラルな表現が主流だったのかもしれません。

今ではヴィーガンマークも、「動物性のものは一切口にしません!」と厳密に信条を守るヴィーガン達のための目印というよりは、「健康やダイエットのために、今日は植物性のものにしようかな。」というくらい気軽に買いたい人たちにも訴求できるアイキャッチの役割となっているようです。

また、多民族が混在するアメリカでは、宗教的にある動物性の食材を避けなければならない人たちにとっても親切な表示になっていて、ヴィーガン食品のターゲット層はどんどん広がっています。

これだけニーズが高まり、市場も多様に拡張していると、「本物の肉の味に近い」程度では当たり前すぎて優位性や差別化が測れなくなっています。特に新規参入ブランドは、差別化を図るためにその周辺ニーズを掘り起こしていくため、多様化が進むのではないでしょうか。

冒頭に言及したヴィーガン食のパッケージによく記載される『Alternative(オルタナティブ、代替)』の言葉には、「型にはまらない、伝統から外れた、」という意味もあります。今後は「代替」の方の意味は薄れていき、こちらの意味合いが濃くなっていくかもしれません。

 

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