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アメリカンナイズされた日本食パッケージ

日本食が恋しくなる海外生活では、現地で買えるお馴染みの日本商品は懐かしい味に触れられるとてもありがたい存在ですが、日本からの輸入製品はやはり割高で気軽に買うことはできず、私はどうしても我慢ができない時だけにしています。

ところが輸入製品でもなく、それほど高価でもない日本製品があるのです。今回はそんなアメリカ現地向けの、アメリカンナイズされた日本食品と、パッケージデザインについてご紹介したいと思います。

シズル感たっぷり!見た目に違わぬジューシーさで定番入り【HI-CHEW】

画像1:アメリカ版ハイチュウ

日本人メジャーリーガーから徐々にそのおいしさが伝わり、今ではキオスクのような小さなお店でも置かれるようになったハイチュウ。根強い人気の古参ブランドが勢揃いし、新規参入が難しいイリノイのお菓子売り場の棚にも当たり前のように定番化している姿は、日本から大リーグに挑戦し、人気選手となっている大谷選手のようだといったら大袈裟でしょうか。メジャーリーガーが試合中に食べるお菓子として、すぐにチューイングガムが連想できますが、ガムに限らず粘り気のある噛み心地のお菓子は、アメリカでもチュウイータイプとしてクッキーなどでも人気です。ハイチュウはその名の中にChewが入っているので、アメリカ人としても好ましい食感がイメージしやすかったのも勝因の一つだったと思われます。

ところでイリノイで見かけるお菓子のターゲット戦略は二分化されているようで、子供向けのチョコスナックやキャンディ(画像2)と、大人が食べる焼き菓子や高級チョコレートなど(画像3)とは全く別の売り場に配置されています。

画像2:子供向け箱物お菓子売り場

画像3:大人向けお菓子売り場

日本ではある程度ターゲット層ごとにまとまる傾向はあるものの、お菓子売り場がここまではっきりと二つに分かれることはなかったので、若干のカルチャーショックがありました。

子供向けお菓子のパッケージデザインは、画像2でご覧の通り原色と大きなロゴの組み合わせが多く、一見カラフルでバラエティ豊かなようで、実はデザイン戦略的には画一的な印象を持ちます。

特にシズル表現は凝ったものはあまり見られません。説明的なリアルイラストなどはよく使われていますが、日本のお菓子によく見られる、中身のクリームがトロッと溶け出す様子や、パリッとしたクッキーの外皮の表現、詩的なキャッチコピーなど、食欲をそそるデザイン要素は日本より少ない印象です。

人気商品になればなるほどシンプルな構成が多く、事前情報のない私としては全く味がイメージできず、なかなか手が出ません。子供の頃から当たり前のように触れていれば、それがどんなお菓子なのか原体験的に知っているので、むしろカットやキャッチコピーは余計な要素なのかもしれませんね。

さて、我らがハイチュウはどうかというと、どちらかというと子供向けのお菓子売り場に置かれているのをよく見かけます(画像5)。売り場の空気を読んでか?やはりビビッドな色にロゴがメインの構成ですが、みずみずしさを感じさせるキラキラとしたバックパターンが入っていたり、韻を踏んだキャッチコピーが書いてあったり、私にはやはり日本流のシズル感表現が息づいているように思います。ハイチュウの溢れるようなジューシーさが視覚的にも再現されていて魅力的に見えたというところも、新参者が参入しにくいイリノイ市場での成功につながったのではないでしょうか。

画像4:広い棚面積を誇るハイチュウ

日本のデザインの方がアメリカっぽい?【CUP NOODLE】

世界のカップヌードルはもちろんアメリカでも入手可能です(画像5)。ラインナップもカレーとシーフードがついてきて、御三家が揃い踏みです。

遠くからでもカップヌードルがあるとわかる視認性、ブランド力の強さがここでも再確認されました。

が!ここで突然大きく『オリジナル』味の表記が。もちろんこれは日本で言うところの『カップヌードル』そのものなのですが、確かに、お菓子売り場での私と同様、何も知らないアメリカ人からすれば『カップヌードル』のロゴだけでは、どんな味なのかわかりませんよね。でも安易に『醤油味』などにせずに『オリジナル』としたところにプライドが感じられました。

さて、ここまでで私は、この『オリジナル』はカレーやシーフードと同じ味のバリエーションの一つとなり、デザインもカレーとシーフードに合わせて下部にシズルカットを入れたのだな、と思ったのです。

ところが改めて日本の日清さんのサイトで商品デザインを確認してみたら、カレーもシーフードもシズルカット無し、ほぼロゴのみのデザインなのに気がつきました!日本でカップヌードルを見慣れているみなさんはすぐお気づきになられたでしょうか?しばらく日本の商品を見ていなかった私には、ちょっとしたアハ体験でした。

先ほどアメリカのお菓子のパッケージはロゴがメインだと申しましたが、カップヌードルに関しては真逆なようです。

『カップヌードル』がいったいどういう食べ物なのかが、アメリカでも広く知れ渡りブランド価値が認められるようになれば、アメリカでも日本のようにロゴがメインのデザインになっていくと予想しますが、いかがでしょうか。

画像5:カップヌードル

ちなみにアメリカでは、カップヌードルブランドで焼きそばも発売されているのです(画像6)。

作り方は、日本のインスタント焼きそばのように湯切りするのではなく、カップの中に水を入れて電子レンジで仕上げます。お湯を沸かす手間や、別添のドライ野菜を入れる必要もなく、簡単な上になかなかおいしかったです。

『お箸』は日本やアジアを強烈に連想させるモチーフなようで、よく日本食商品デザインに使われていますが、こちらのパッケージでも、シズルカットとロゴに活用されていますね。そこはかとなく麺と箸の関係性が日本人のセンスとは若干違うような感じがして、これもアメリカンナイズされているように思いました。

私だったらお箸にかける麺の本数を無意識にもっと多くして、お箸の色もスカイブルーは選ばないかも。このようにアメリカンナイズされたデザインに滲み出る違和感から、今まで私が当たり前のように感じていたデザイン表現が、実は日本特有のものであることに気が付かされます。

画像6:カップヌードル焼きそば

味噌の表現三様【マルマン、Shirakiku、ムソー】

最後に、アプローチの違いがよくわかる2点のお味噌のパッケージをご紹介します(画像8)。

左は信州のお味噌メーカーマルマンさんの本づくり、右は西本Wismettacホールディングスさんの日本食ブランドのShirakikuのオーガニック味噌です。

左は日本語の描き文字ロゴとお味噌汁のシズルカットの組み合わせで、日本に置いてあってもおかしくないようなデザインをメインに、HONZUKURIのアルファベット表記とアメリカ市場では大きなフックとなる「No MSG(うま味調味料不使用)」を入れています。

一方右ははっきりとした赤をベースに白抜きロゴで、アメリカ式のブランディングの王道を進んでいるように見えます。

日本からやってきたことを売りにするのか、アメリカ生まれの日本食材としてアピールするのか、日本国内にも顧客を抱えているブランドと、海外向けに日本食素材として展開しているブランドの違いがデザインに表れていますね。

画像7:対照的な二つの味噌

さてこの二つは日本でもお味噌のパッケージとして馴染みのある四角いパックでしたが、もう一つ、イリノイで売られているお味噌のパッケージをご紹介したいと思います。

画像8:スマートミソ

キャップ付きパウチに入っているのはムソー株式会社さんのスマートミソシリーズです(画像8)。

先の二つは、お味噌をスプーンで掬って使うことを前提としているパッケージですが、こちらは調理中にちょっとだけ絞って使う場面が想定されているのでしょう。日本人のお味噌を使うレシピは大さじで、頻度も高く消費していきますが、それと比べればアメリカのレシピではちょっとした味付けの調味料に使われると想像できます。

たまに使うオーガニックな健康調味料として扱われるお味噌のパッケージを考えれば、この形態も正解なのではないでしょうか。箱型と比べれば少量な分、若干割高感もあるものの、グラフィックでは日本の伝統的な模様を配し、価格に応じた品格を感じます。

終わりに:日本の強みを残したアメリカンナイズ

日本からアメリカに挑戦しにきた商品のパッケージを見ると、どのようにアメリカ市場に切り込んでいくのか、様々な戦略がデザインに見え隠れしています。

日本の商品デザインをただ英訳しただけのようなパッケージはほとんど見られません。アメリカ人のライフスタイルや、市場環境を十分に考慮しつつも、日本で培われた特有のデザイン表現やブランドの強みを随所に生かしているのが、今のアメリカンナイズのあり方のようです。

今後アメリカの食事情も急速に変わっていく中、日本発ブランドのパッケージが今後どのように進化を遂げていくのか、楽しみに観測を続けていきたいと思います。

 

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