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パッケージの先進技術

世界3大パッケージング展の一つ「東京パック」が2024年10月23日から3日間、東京ビッグサイトで開催されました。同展ではパッケージ技術分野で注目される日米コンテストの発表・展示が同時に開催されました。

DOW PACKAGE INNOVATION AWARD

米国のDOW社が主催する「DOW PACKAGE INNOVATION AWARD」は、30年以上続く、包装業界の世界的な表彰事業です。
毎年世界の舞台で革新的なパッケージングが選ばれます。今回の審査は6月にバンコクで国際審査団が「技術の進歩」「持続可能性」「ユーザーエクスペリエンスの向上」を中心に審査を行い、「TOKYO PACK 2024」で発表されました。

ダイヤモンド賞

今回の最高賞であるダイヤモンド賞は、「パナソニック エナジー」と「トッパン インフォメディア」の乾電池用の紙製バッグが受賞しています。

「乾電池エボルタ・エボルタネオシリーズ エシカルパッケージ」は、従来のブリスターパッケージから紙パッケージに変更することで、環境負荷の低減と使いやすさを両立し、エシカル消費を促進する乾電池の新しいパッケージです。従来のパッケージから包装材料の使用量を38%~60%削減し、CO2排出量を50%以上削減しています。プラスチックカバーを排し、高精緻な印刷表現でカバーしています。

プラチナ賞

ダイヤモンド賞に続くプラチナ賞は5点のパッケージが受賞しました。

(1) Gerdau Graphene社によるグラフェン強化包装

「Gerdau Graphene」は、グラフェン(グラフェンとは最も軽量で極めて高い電子移動度を有し、導電性や熱伝導性、力学特性などに優れたナノ炭素材料で、電子材料への応用が期待できるだけでなく、プラスチック等にその素材の強度と復元力を高められるため、汎用の新たな素材として期待されている。)の特性を活かしたさまざまな商品の研究・開発を行っており、今回、独自の技術により、世界に先駆けて、グラフェンの汎用プラスチックへの応用・製品化を実現しました。

「Gerdau Graphene」は、米国最大の条鋼製鉄メーカーであるGerdauのグループ会社で、同グループは住友商事とともに鉄鋼事業で長年パートナーシップを構築しています。ポリエチレンおよびポリプロピレン樹脂は、自動車用部品から家電部品、包装フィルム、医療機器、日用品、食品容器と、日常使用する多くの製品に用いられるプラスチック素材の原料ですが、「Gerdau Graphene」の製造するグラフェン強化型樹脂を少量添加することで、その機械的特性および熱的特性を高め、プラスチックの薄肉化を実現します。

「Gerdau Graphene」によると、プラスチックフィルムを従来と同等以上の強度で25%薄くできること、また、プラスチックフィルムが薄くなることで生産性が7%向上することが確認されています。プラスチック製品の原料であるポリエチレン・ポリプロピレンの消費量を低減することで、原油から精製されるナフサの消費量を抑制します。

グラフェン包材

グラフェン包材

(2) CJ CheilJedang Corp.によるバイオサーキュラー包装「Hetbahn®」

「CJ CheilJedang」は、電子レンジ対応の包装ではあまり使用されていないバイオリサイクル材料を使用して炊飯用「Hetbahn®」トレイを開発しました。
「CJ CheilJedang」によると、この包装には25%のISCC Plus認証バイオリサイクル素材が使われており、炭素排出量を17% (年間約12.7トン)削減しています。「Hetbahn®」 包装は酸素と細菌を遮断し、無菌包装プロセスと組み合わせることで、商品を室温で安全に流通でき、賞味期限は9ヶ月を実現します。

Hetbahnトレイ

Hetbahn®トレイ

(3) 「Starprint Public Company Limited」によるマカダミアナッツ用紙箱「Macada」

「Macada」のマカダミアナッツの紙箱は、ユニバーサルデザインと環境適正が採用されています。視覚障害者がアクセスしやすいように、開口部に点字が施され、ジッパーのミシン目で箱を簡単に開けることができます。色の選択とパッケージ全体の読みやすさを向上させるための配慮がなされ、高齢者などにも対応しました。

利便性もこの箱のもう1つの重要な特徴です。前面パネルを拡張できるため、パッケージボックスは、消費者がマカダミアの殻を処分できる容器に変身します。一方、マカダミアナッツを真空シールすることで製品の品質を保ちます。カートンに切り込まれた透明な窓も、製品の視認性を高めます。クラフト紙で作られたこの箱は、100%リサイクル可能で、自然に生分解されます。印刷には、天然原料から作られ、食品に安全な大豆インクが使用されています。

Macada

Macada

(4) 「P&G China」による紙製ハニカムクッション「Versafiller」

「Versafiller」は、紙製のハニカム構造を持つ梱包用クッションです。カスタマイズ可能な形状は、製品を「Versafillerクッション」に押し付けるだけで、梱包された製品の形状に合わせてフィットします。

紙製のハニカムの壁にある革新的なグラデーション構造の穴は、製品を直感的に固定します。形状に依存せず、見た目も美しく、丈夫でありながら軽量な「Versafiller」は、eコマースの梱包でよくある問題点に対処するために開発されました。「Versafiller」は、保管および輸送中に約85%の容積削減を実現します。すべて紙でできているため、100%リサイクル可能です。

Versafiller

Versafiller

(5) 「Aptar」によるリサイクル可能なシリコンバルブノズルを特徴とする液体化粧品用の「スタードロップスクイーズボトル」

「スタードロップスクイーズボトル」は、特許取得済みのスマートバルブテクノロジーを採用した独自のハイブリッドパッケージで、使用時に内容液を正確な量で供給します。新しいつや肌と定義され、限りなくナチュラルな状態を目指す「スキニマリズム」は最近の主要な美容トレンドです。

スキンケアやメイクアップ用の日常的なルーティンで使用する製品を減らすことを中心に展開し、スローでナチュラルな美しさを受け入れるシンプルさを強調しています。「ナチュラルな毎日のメイクアップ」は、検索プラットフォームで最も検索されており、「ナチュラルな輝きのある肌」は検索語で4倍に増加しています。

スキニマリズムには精密なスポイトが必要で、「Aptar Beauty + Home」がこの新しいソリューションで革新を起こしました。パッケージは人間工学に基づいており、小さなチューブと滑らかなラインで、持ち運びやすく、内容液の抽出も簡単です。
ノズルは特許取得済みのリサイクル可能なソフトシリコンバルブ技術を使用しており、ユーザーは汚染や過剰流出を防ぐことができます。ボトルの圧力を解放すると、製品の流れが自動的に遮断され、液体が吸い戻されるため、内容液の飛び散りや残留物の付着を防ぎます。その結果、衛生状態が保たれ、内容物が乾燥したり固まったりするのを防ぎます。

持続可能性を考慮して設計されたこのボトルは、簡単に詰め替えることができます。スポイトのバックルデザインとボトルの仕上げは、複数のボトルタイプでの使用に適応できます。

包装技術協会木下賞

木下賞は日本の包装技術の発展や向上に寄与した個人団体を表彰する制度です。今回は7つのテーマが選ばれました。一部を紹介します。

A. 研究開発部門:「おかえりつめかえパック」の開発
~使用済み詰め替えパックの水平リサイクル技術の具現化~「再生樹脂の活用とキャップを軽量化した衣類用柔軟剤容器の開発」

従来難しかった使用済み詰め替えパックの水平リサイクルを実現させたことが評価されました。「花王」は、2016年より自治体や企業との協働により、使用済み詰め替えパックを回収し、水平リサイクル技術の開発に取り組んできました。2023年には使用済み詰め替えパックの水平リサイクル技術を実現。再生材料一部使用の「おかえりつめかえパック」を、一部店舗にて数量限定で発売しました。

「おかえりつめかえパック」は、約1%が回収した使用済み詰め替えパック、約9%は、製品として使用されなかった詰め替えパック由来、計約10%のリサイクルした素材を使用しています。同技術は、Japanスター賞、アジアスター賞、そしてワールドスター賞も受賞しています。

リサイクルは持続可能な社会実現のために欠かせない技術ですが、元の素材に戻せないリサイクルはそこで、ループが止まってしまいます。その点、水平リサイクルは価値のある取り組みといえます。

B. 改善合理化部門:EP-PAK・GL用「液だれ防止機能キャップ」の開発

「TOPPAN株式会社」は、「株式会社J-オイルミルズ」とともに、食用油「スマートグリーンパック®」シリーズの紙パックに「液だれ防止機能キャップ」を開発。

液だれ防止機能キャップは、食用油向けの紙容器において課題であった口栓からの油だれに対し、口栓の注出部を液だれに有効なカール形状にすることで、内容物の液だれ防止を実現。注ぐ量の可変性と、ヒンジ構造による利便性を付与、ユーザビリティの向上を実現しました。

同液体容器はプラスチックボトルと比較して、プラスチック使用量を約60%削減し、酸素バリア性と遮光性に優れた容器素材の使用により、紙容器で賞味期限最長2年を実現し、食品ロスの削減にも貢献しています。

C. 新規創出部門:「アルミカップ(Lumisus)」の開発

環境負荷低減を目的として、環境配慮型容器として水平リサイクル可能なアルミニウムを素材に開発・実用化したプラスチックカップからのリプレイスとなる飲料用アルミカップです。 環境面においては、東洋製罐の飲料用アルミ缶「aTULC(aluminum Toyo Ultimate Can)」 の技術により、製造時の水使用量ゼロを実現、エネルギー消費量を最小限に抑えました。

ユーザビリティの面においては、独自の成形技術による、(1)カール形状最適化による良好な口 当たり・切創防止、(2)スタッキング状態からの容易な切り離し、(3)入目線による充填量の目安付与、(4)良好なグリップ性、(5)衛生性確保、(6)最適な積載効率等を実現しています。

包装技術賞

「キリンビバレッジ」による「グリーンエコロジーボトル」の開発
~パッケージ省資源化と物流課題の解決~
(キリンホールディングス株式会社、キリンビバレッジ株式会社)

「キリンビバレッジ」のCSV環境フラッグシップである「キリン生茶」は、2016年に新容器として円筒型PETボトル「グリーンボトル」を採用しましたが、お客様の環境意識の高まりや商品物流におけるトラック輸送ドライバーの人手不足の顕在化に伴って、この時代に適合した新形状ボトルを開発しました。

100%リサイクル素材のPETボトル採用、商品情報を記載するパッケージ の省資源化や製品をパレットに積載する箱数の効率化の視点を開発要素として盛り込んで、新形状PETボトル「グ リーンエコロジーボトル」を2022年に上市しました。

グリーンエコロジーボトル

グリーンエコロジーボトル

まとめ

2024年のパッケージ業界は持続可能性が大きなテーマでした。各種アワードも基本のテーマは共通でした。韓国で開催された国連プラスチック条約は一部産油国の抵抗もあり、最終決定を2025年に持ち越しましたが、今年も同テーマを中心とした技術開発がパッケージの技術開発の中核になるでしょう。

 

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