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アワードから探るオランダパッケージ事情

『パケトラ』さんで記事を投稿するようになってから、スーパーやショップなどで、一般の買い物客よりもパッケージに意識が向くようになりました。それでも生活圏内では、手にする商品は限られてしまいます。オランダを含む欧州では、脱プラ、リサイクルがパッケージの主流と言えますが、それ以外の何かがあるはず。

色々と調べているうちに、VerpakkingsManagementという業界誌があることを知りました。オランダ語のVerpakkingは、「パッケージング」という意味です。この団体は包装・パッケージング業界の主要業界誌として、最新動向、詳細な業界情報、ケーススタディをオンラインおよび年に11回の印刷物で30年以上にわたり発信し続けています。

そんなVerpakkingsManagementが、2016年以来、「NL Packaging Awards」(NLとはオランダのことです)というパッケージ・アワードを主催しています。コロナ禍の影響で過去3年ほど中止していたらしいのですが、2023年に賞を復活させました。

NL Packaging Awardsは、オランダ人を対象にしており、食品、飲料、化粧品およびケア製品、持続可能な包装、デザインコンセプトなど、さまざまなカテゴリでパッケージングを審査します。審査員は、イノベーション、環境への配慮、美しさ、実用性などの基準でエントリー作品を評価し、受賞者を決定します。そして、賞の授与だけではなく、ベストプラクティスを共有し、持続可能性や消費者安全性などの問題を喚起するプラットフォームとしても機能しています。

2023年は100以上のエントリーがあり、「ビューティ&パーソナルケア」「サステナビリティ・フード」「飲料」「生鮮食品」「保存食」「イノベーティブな技術」「イノベーティブなパッケージ、マテリアル」「ノンフード」「販促用パッケージ」「サステナビリティ・ノンフード」「プライベートレーベル」「ウェブリテイル」の12部門でそれぞれの優秀賞が選ばれました。

その中で、興味をひいた4部門について、優秀賞パッケージと、商品のどこが評価されたのかをご紹介します!

Packaging Awards 2023

2023年は6月に発表されました。今年も注目です! 画像出典:VM Packaging Awards 2023

ビューティ&パーソナルケア部門「IKA Beauty Ready Steady Reds Collection」

IKA Beauty Ready Steady Reds Collection

オーナーはフィリピン出身。食品サプリメント開発に携わっていたという異色のキャリアの持ち主です。IKAとはフィリピンの方言で「あなた」という意味だそう。画像出典:IKA Beautyのウェブサイト

2021年に誕生したオランダのコスメブランド。紅色のリップスティックを3種類発売しています。大手が席巻する化粧品市場に新しいブランドが食い込むには、品質のみならず、パッケージで際立たせることが極めて重要です。審査員は、黒やゴールドなどの色調が支配するカテゴリーで、あまり見られない鮮やかなイエローを選び、消費者に「新しさ」と「ポジティブ」な印象を与えたと評価。丸型のケースが一般的ななかスクエア型にすることで、ブランドが発信している“your best you”(最高のあなたというニュアンス)という力強いメッセージとの符号を図っています。そして、口紅を塗るという行為が、その人らしさをサポートものだと訴え、引き出し式の化粧箱、エンボス加工でその特別感を演出。

審査員から指摘された改善点としては、ケースと化粧箱の黄色の不一致、「レッド・コレクション」なのに、「赤」の要素が少ないところなどでしたが、ブランドのメッセージとパッケージが合致しているところは高く評価されていました。

飲料部門「Williams Premium Canned Cocktails」

Williams Premium Canned Cocktails

化粧箱の内側には「A night out in a can(夜のお出かけは缶の中に)」という洒落たキャッチフレーズが。
画像出典:Williams Premium Canned Cocktailsのウェブサイトの画像を加工

プレミアム缶詰セットのギフトボックスは、カニ缶でもツナ缶でもなく、カクテル缶。ロッテルダムのアントレプレナーの「カクテルを缶に詰める」というアイデアが受賞に結びつきました。缶詰といえば、ツナであれ、フルーツであれ、「食べ物」が主流ですが、整然としたラベルのデザインによって、ツナ臭さを感じさせない(笑)と評価されました。8缶詰め、12缶詰めでギフト用の化粧箱に詰めることができるようになっており、カクテルの種類(缶)を自由に選ぶことができます。「Date Night Special」という特別パッケージでは、恋人同士のロマンチックな夜というコンセプトのもと、6個の缶、チョコレート、そして缶のキャンドルがセットになっています。

オランダではアルコールといえばビールかワインが一般的なので、オランダらしいウィットに溢れるアイデアとカクテルというコンビが、この商品が評価された背景にあるかもしれません。化粧箱がインパクトに欠け、カクテル缶という意外性を削いでいるのではという辛口の批評もありました。

生鮮食品部門「MARIGOLD Queen of eggs」

MARIGOLD Queen of eggs

卵のリキュールAdvocaatは世界的なバーテンダーと、カリナリーはミシュラン3ツ星のシェフとコラボ。マーケティング戦略と黒の洗練されたパッケージが見事にマッチ。画像出典:Marigoldのウェブサイト

オランダは食に興味のない国だと言われており、実際、私も食に関しては砂を噛むような思いをすることもしばしばあります。それでも(やっと)、「カリナリー」という言葉も浸透しはじめ、街や人にも「おいしさを求める」空気が漂うようになってきました。知り合いのオランダ人から「オランダのスーパーにあるワサビは西洋ワサビを着色しただけ。本物のワサビが入ったチューブはどこで買えるのか」と聞かれたことがあり、日本でよくある「どこどこの何々」というこだわりももつ人たちが増えたんだなと実感しました。そんな今だからこそ、この高級感溢れる卵のパッケージが登場したと言えるでしょう。

オランダ12州のなかで、グルメと言われるリンブルグ州に続く農家の三代目が、鶏の飼料にアフリカンマリーゴールドの花を配合し、できるだけ自然に近づけた飼育環境で鶏を育て、オランダではじめて最高級の卵を誕生させました。経営者は最初からスーパーに卸す一般ルートではなく、シェフやレストランにリーチできる特別な販売チャンネルを探っていたそうです。実際、一般消費者は、この卵を置いている高級デリカ系に行くか(全国で12店舗だけ)に行くか、生産者にメールを送るしか入手方法はありません。

そのようなプレミアム感を伝えるのに申し分ないデザインであり、視覚的効果、コミュニケーションの階層分けが明確であると評価されました。アフリカンマリーゴールドは餌にとどまらず、ロゴデザインにも使用され、卵ひとつひとつに刻印されています。第三世代の家族経営のストーリーを組み合わせることで、この高級卵は一夜にしてできたわけではなく、長い年月と経験をかけて生まれたものであると「高級」に厚みをもたせています。

プライベートレーベル部門「JUMBO Chips」

Jumboのチップスコーナー

Jumboのチップスコーナー。Naturelとは塩味、Paprikaはパプリカ味。Ribbelは波型の厚めのポテトチップス。

スーパーにおけるプライベートレーベルは一般的に低価格帯であり、消費者にとってはあまりワクワクするような商品ではありません。コストを抑えるためもあってか、シンプルなパッケージが多いのも特徴。どこに工夫を、意外性をもたせるのか、難しいカテゴリーと言えるのではないでしょうか。審査員はそのようなデザイン制約のなかでも「強力なコンセプトを打ち出した」と、JUMBOのポテトチップスを高く評価しました。

JUMBOは、オランダで2番目に大きなスーパーマーケットチェーンです。オランダで700店舗以上、ベルギーで33店舗を展開しており、最近では首都圏郊外にイートインスペースを贅沢に設けた大型店にも力を入れています。そして、ポテトチップスはオランダで一人当たり年間約3.4キロ消費されているという、スナック菓子の代表選手。プライベートレーベルのみならず、日本の湖池屋のようなポテチの大御所Lay’sなどのブランドで、スナック菓子の一角全てがポテトチップスで占められるほどです。

競合ひしめくなか、JUMBOは「ソファがあるリビングルームでポテトチップスを」というコンセプトをグラフィックに打ち出しました。文字とソファの隆起とのバランス、イラストレーションの調和で見事にそのコンセプトが表現されていると評価されています。塩味、パプリカ味などフレーバー別でカラーコードをがらっと変えているので、商品の違いも一目瞭然。通常のパッケージより細身なスティック型では一人掛けソファ、少しだけ価格帯が高い波型ポテトチップスにはソファの前にコーヒーテーブルを置くなど、設定は同じでも、ディテールを微妙に変える芸の細かさも冴えています。

 

 

以上、簡単ですが4部門の受賞作品を紹介しました。オランダはグラフィックデザインを得意としていること、異業種間の壁が低く、大胆かつ想定外の組み合わせを柔軟に自由に発想できる気質があるように思います。そういった意味で、個人的にオランダらしいなと思ったのは、「Williams Premium Canned Cocktails」でした。2024年も行うらしいので、今年はどんなカテゴリーでどんな商品が出そろい、受賞するのか、チェックしてお知らせしたいと思います!

 

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