米国プライベートブランド協会(Private Label Manufacturers Association)によれば、2023年は、プライベートブランド(PB)の市場が好調でした。販売数量では、ナショナルブランド(NB)が2.8%減少したのに対し、プライベートブランドは0.1%の減少に留まりました。その結果、プライベートブランドのユニットシェアは20.7%となり、2022年から0.5ポイント改善し、過去最高を記録しています。
売上高は4.7%増で、ナショナルブランドは3.4%増に留まりました。プライベートブランドの売上総額は2,363億ドルで、2022年から101億ドル増加し、史上最高記録を更新しました。売上は過去4年間で34%増加し、 2019年比で602億ドル増加しました。その結果、プライベートブランドの売上シェアは1.2ポイント上昇し、過去最高の18.9%となりました。
米国小売大手の「ウォルマート」は2024年4月に新しいプライベートブランド「bettergoods」を立ち上げました。小売業者は、品質と手頃な価格を求める幅広い購買層を引き付けるために、プライベートブランドを衣替えしています。最近のプライベートブランドは、パッケージデザインにおける従来のアプローチの延長線上とは異なっています。
「ターゲット」「ウォルマート」「CVS Health」などのプライベートブランドは、従来のシンプルで価格重視のプライベートブランドのデザインポリシーから離れつつあります。ナショナルブランドのようなカラフルなグラフィックと自社ブランドの親しみやすいロゴを特徴とする、現代的で鮮やかなパッケージが採用されています。高所得の買い物客と予算を重視する層の両方を同時に満足させるこの戦略は、プライベートブランドの位置づけを書き換えつつあります。
「ウォルマート」「CVS Health」がプライベートブランドラインを拡大
4月に立ち上げた「ウォルマート」のプライベートブランド「bettergoods」は小売業最大のプライベート食料品ブランドで、冷凍食品、乳製品、スナック、飲料、パスタ、スープ、コーヒー、チョコレートなど300種類の商品を提供しています。ほとんどの商品は5ドル以下の価格に設定されています。
幅広い商品を提供しているにもかかわらず、「ウォルマート」は「bettergoods」のパッケージデザインで、大胆な色彩、最小限のグラフィック、明確なメッセージなど、一貫性とシンプルさを重視しています。「ウォルマート」は、新しいプライベートブランドを通じて「シェフが考案した高品質でユニークな料理を驚くほどお得な価格で提供する、新たな高級体験」を提供し、コスト意識の高い消費者を引き付けることを目指しています。
「ウォルマート」は「bettergoods」で、従来のプライベートブランドのアプローチから一歩踏み出し、ユニークな商品を提供することで競争に打ち勝つことを目指しました。ナショナルブランドに代わる商品を低価格で提供する従来のプライベートブランドのコンセプトとは異なり、「bettergoods」は「ウォルマート」独自のものであり、顧客に新鮮で刺激的な味をコンセプトとして展開しています。(同社プレスリリースより)
他の大手小売業者もこのトレンドに参加しています。ドラッグストア「CVS Health」が最近立ち上げたプライベートブランド「Well Market」には、スナック、飲料、食料品が含まれています。パッケージデザインには親しみやすい筆記体のロゴが採用され、その商品は医薬品とは程遠いデザインになっています。ただし、パッケージの目立つ部分に栄養情報を表示し、ドラッグストアらしさも表現しています。
Z世代を狙ったプライベートブランド
プライベートブランドは、Z世代の消費者の間で注目を集めています。米国のプライベートラベル製造業者協会によれば、Z世代の買い物客の64%がプライベートブランド製品を頻繁に購入しており、51%がこれらの製品に基づいて買い物先を決めています。 Z世代の好みに影響を与える要因には、持続可能性と環境に対する価値観が大きく、小売業者がこれらの需要に適応するにつれて、プライベートブランドの成長が長期的に続くものと思われます。
Z世代に人気の食料品配達会社「Gopuff」などの人気のプレーヤーも、この年齢層にアピールするためにプライベートブランドの提供を拡大しています。「Gopuff」は最近プライベートブランド「Basically」を強化しています。「Gopuff」は、ユニークで高品質な新製品ラインである「Basically Premium」を提供するだけでなく、2022年に発売された既存の「Basically」ブランドも拡大しています。グルテンフリーのビーフスティック、アルミボトル入りの天然水、プレミアムココナッツウォーターなどが、顧客のニーズに対応し、注文の20%にプライベートブランドが含まれています。
米国プライベートブランドの流れ
米国の小売店はオンラインパフォーマンスの低下を克服するため、プライベートブランドの販売を強化しています。冷蔵製品と一般食品は、スーパーマーケットで最も売れているプライベートブランドのカテゴリーです。2021年に急成長した製品は、常温保存可能な朝食用食品、ラード、その他の冷凍食品が含まれていました。
カテゴリー別に見ると、すべての小売店における非食用製品の金額シェアは、食用製品よりわずかに高いものでした。しかし、2019年から2021年までの売上高の変化を見ると、食用のプライベートブランドが非食用のプライベートブランドよりも成長しています。新型コロナウイルスのパンデミックによる購買習慣の変化、経済的要因、および製品の品質と多様性の向上により、プライベートブランドに対する消費者の態度が変化しています。消費者は品質と価値の点で、これらの製品はナショナルブランドとほぼ同等であることに気付くようになりました。最近のインフレ率の上昇も、消費者がナショナルブランドを削減し、プライベートブランドの食品アイテムを購入するようになりました。
米国小売市場は非常に競争が激しく、「ウォルマート」や「Amazon」、「The Kroger」、「Costco」および「Target」等が競合しています 。プライベートブランドも、企業によっては複数のプライベートブランドラインを持っており、同じ企業の中でもプライベートブランドラインによって消費者の認識や購入意向には大きな差があります。「Costco」の代表的なプライベートブランドラインである「Kirkland(カークランド)」は消費者の94%にプライベートブランドとして認識されており、74%が今後購入を検討したいと回答しています。また、ターゲットの「Market Pantry (マーケット・パントリー)」は79%の消費者に認識され、59%が購入を検討したいと回答しています。ウォルマートは複数のプライベートブランドラインを持っていることもあり、ラインによって価格帯が異なっています。
調査の結果、消費者はその分野に強い専門性をもっている企業のプライベートブランドを好んで購入したいと考えていることがわかりました。既にストア・ブランドそのものが確立している「Trader Joe's(トレーダー・ジョーズ)」や「アルディ」だけでなく、「パブリクス」のようにグローサリーストアとして長年信頼を築いている企業が支持されています。
従来のプライベートブランドに期待されていたことは、ナショナルブランドよりも安く、早く消費者の手元に届けることでしたが、近年は消費者の個別の嗜好に重きを置いた差別化や、高級志向のプライベートブランドの伸びなど、プライベートブランドが進化しています。単なるナショナルブランドの代替品としてではなく、価値を高めながら市場を拡大しているプライベートブランドに、今後も注目です。「Numerator Insights」によれば、今やプライベートブランドの選択条件は価値が一番で、節約を上回っています。
世界のプライベートブランドの動向
日本の市場のプライベートブランドの占有率は約10%で、米国はより高い数値になりますが、ヨーロッパでは、20ヵ国中15ヵ国(スペイン、スイス、イギリス、ドイツ、オーストリア、ベルギーなど)でプライベートブランドの比率が30%を超えており、まだまだ米国や日本の市場も広がる可能性があります。
シカゴを拠点とする市場調査・コンサルティングの「マーケット・トラック社(Market Track)」によると、食品小売りに限定したプライベートブランド比率では、米国の約24%に対して、ヨーロッパでは70%にも達しています。ヨーロッパは小売市場における上位少数企業による市場の寡占が進み、他社との差別化のため、プライベートブランドへの取り組みが積極的に行われているからと言われています。
米国小売市場におけるプライベートブランド比率は、2009年あたりから足踏み状態が続いており、ヨーロッパのように伸びてはいませんでしたが、「ニールセン社(Nielsen)」によると、2017年は前年対比で約10%の売り上げ増になりました。プライベートブランドの開発会社である「デイモン・ワールドワイド社(Damon Worldwide)」による最新の調査では、消費者の81%が買い物をする際に必ずプライベートブランド商品を購入しています。こうした調査からも、ここ数年で米国のプライベートブランド市場が拡大していることがわかります。
米国のプライベートブランド市場の拡大の背景には、プライベートブランド比率が90%を超えるドイツの「アルディ」や「リドル」の米国進出があります。プライベートブランドの大きなメリットとして、ナショナルブランドに比べ安価での仕入れが可能となり、リーズナブルな価格設定による差別化と、魅力的なオリジナル商品の開発による差別化が挙げられます。プライベートブランドの強みを活かした事業を展開する「アルディ」や「リドル」に対抗するため、米国の小売企業もプライベートブランド商品を軸とした取り組みを強化しています。
「ウォルマート」は今年に入ってからも、プライベートブランドのミールキットを導入し、年内に北米2,000店舗で利用できるようにすると発表するなど、今後もプライベートブランド強化を加速していくと見られます。また、オンラインで注文し、店舗で受け取ることができる「グローサリー・ピックアップ」に対応するなど、よりシームレスな購買体験の提供による顧客ロイヤリティの向上も進めています。
ウォルマートは、圧倒的仕入ボリュームによるナショナルブランドメーカーとの価格交渉だけではなく、プライベートブランド強化が必須事項となり、積極的な商品開発に着手し始めたと考えられます。
全米最大のスーパーマーケットチェーンである「クローガー(Kroger)」は、オーガニックプライベートブランドである「シンプル・トゥルース(Simple Truth)」の売上が2017年に200億ドルを突破し、同社の年間売り上げ全体の約26%を占めるまでになりました。「クローガー」は、価格と商品の差別化の両面で成功した事例です。
また、「デイモン・ワールドワイド社(Damon Worldwide)」による最新の調査では、消費者の85%がプライベートブランドの品質に関して、従来のナショナルブランドと同等あるいはそれ以上と答えており、プライベートブランドへの信頼感の高さも伺えます。
全米で常に人気トップを争う「ウェグマンズ(Wegmans)」が、今年の3月から同社のプライベートブランド食品(青果、乳製品、冷凍食品、パッケージ食品)の値段を「アルディ」並みに引き下げています。高品質で健康に配慮した食品とサービスで、アップスケールな企業として認識されている「ウェグマンズ」でさえ、価格競争で生き残るために同社プライベートブランド食品の値下げに踏み切りました。
「ウェグマンズ」は全SKU(Stock Keeping Unit)の約15%がプライベートブランドと言われていますが、全体の売り上げベースでは少なくても40%を占めていると、アメリカの食品業界向け専門サイトである「フード・ワールド(Food World)」が指摘しており、この数値はプライベートブランド戦略上特筆すべきとのことです。
eコマース市場の調査会社である「ワンクリックリテール社(One Click Retail)」によると、「Amazon」の2017年のプライベートブランドの売り上げは約4.5億ドルで、同社の売り上げ全体に占める割合はわずか0.2%ほどということです。しかしながら「Amazon」はまだプライベートブランドへの取り組みを開始したばかりで、今後急速に伸びてくると見られています。
この「アマゾン時代(Amazon Era)」を生き延びるためには、デジタルへの投資と新たなプライベートブランド戦略の2つが必要と言われていますが、北米では既にプライベートブランド市場の競争は始まっており、「Amazon」のプライベートブランドへの本格的な取り組みに伴い、さらなる競争激化が予想されます。
今後も、競争が激化している各社のプライベートブランドへの取り組みに注目していきたいと思います。
日本のプライベートブランド動向
食料品や日用品メーカーの値上げが国内でも相次ぐ中、流通大手によるプライベートブランドが販売を伸ばしています。「セブン&アイホールディングス(7&iHD)」のプライベートブランド商品は売上高が2桁増となっているほか、イオンでも消費者による乗り換えが進んでいます。
「7&iHD」によると、同社のプライベートブランドであるセブンプレミアムは、一般的なプライベートブランドとは異なり、当初から価格競争力を持つと同時に独自の品質を確保するために技術開発力を持つナショナルブランドメーカーとの連携を基本にしたチームマーチャンダイジングの手法を取り入れ、生産者のメーカー名を商品に明記しています。2017年に10周年を迎えたセブンプレミアムは生鮮食品分野のセブンプレミアムフレッシュ、日用品などを提供するセブンプレミアムライフスタイルなどの5分野に展開し、売上高も順調に拡大しています。
物価高を受けて価格に敏感な30~40歳代の子育て世代の新規購買などが成長に寄与したことや、ロシアによるウクライナ侵攻以降、値上がりした食用油や卵で作られるマヨネーズの売り上げが顕著に伸びたほか、11月に乳牛メーカーが乳製品を値上げした後は乳製品も成長しています。「セブンプレミアム」の2023年までの累計売上高は15兆円を突破し、同グループの重要な収益源となっています。
イオンは約5,000品目ある食料品・日用品のプライベートブランド商品のうち、大半の製品で7月以降も価格を維持したことで、消費者のプライベートブランドへの乗り換えが進んでいます。ナショナルブランドの値上げで仕入れ価格が上がり、利益率が低下した分、利幅の高いプライベートブランドの売り上げ増で補っていると同社の広報担当者は説明しています。
まとめ
日米小売流通における環境変化に伴って、プライベートブランドの位置づけが変化しており、小売経営の視点からも重要性が増しています。セブンイレブンが惣菜にMAP包装を導入したように、プライベートブランドによる包装形態や持続可能性、品質訴求、パッケージデザインが競争力の重要な要素になってきています。
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