近年では、日本でも輸入ビールが手に入りやすくなりました。その独特な味とラベルデザインに、興味を持つ方も多いのではないでしょうか?実は私が暮らすフランスでも、お酒のラベルには独自のこだわりが感じられます。時にはデザインが素敵というだけで、購入の決定打になることもあります。
そんなフランスで大流行しているのが、若い世代を中心に広がる「ノンアルコールビール」です。ラベルのデザインもどんどんスタイリッシュに変化していて、まるでコンセプトストアのアイテムのように、洗練されたデザインが数多く並んでいます。
ちなみにフランスでは、ビールは缶よりも瓶での販売が主流です。手に取った時のガラスの質感もまた、デザイン全体の魅力の一つになっているようです。
フランスでなぜノンアルコール飲料がブームに?

ノンアルコール飲料(フランス語でsans alcool)の市場規模はフランスでも大きくなっています。
長い間、"脇役"のような存在だったノンアルコール飲料ですが、現在のフランスでは、アルコールフリーのドリンクが急速に拡大しています。種類も実にさまざまで、フランスを代表するワイン・シャンパンをはじめ、ビールやスピリッツ、さらにはカクテル(モクテル)までが、バーやレストランのメニューを彩るようになっています。
ノンアルコール飲料の人気が高まっている背景には、フランスで進むアルコール離れがあります。フランス公衆衛生局(Santé Publique France)によれば、過去50年間でアルコール消費量は30%以上減少しました。その要因としては、健康意識の高まりや飲酒運転に対する規制の強化、そして若い世代のライフスタイルの変化などが挙げられます。
さらに近年のフランスでは、毎年1月を禁酒月間とするキャンペーン「ドライ・ジャニュアリー」の認知度も高まっていて、"お酒を飲まない"という新しいライフスタイルが市民権を得るようになりました。

フランスの「アルコールフリー」ワイン
もう一つ注目すべきは、アルコールフリーがフレンチ・ガストロノミーの世界にも浸透しつつあるという点です。今や多くのシェフやソムリエが、ノンアルコールの「フードペアリング」に関心を寄せており、食材そのものの味を引き立てる組み合わせが次々と提案されています。
こうして活況を呈しているフランスのノンアルコール市場ですが、中でも大きな進歩を遂げているのが、ノンアルコールビールの分野です。ニールセンIQの調査によると、2023年時点でノンアルコールビールはフランスのビール市場全体の6%を占めており、年間で二桁の成長率を記録するなど、市場での拡大が進んでいます。
今回は、そんなフランスのノンアルコールビールを、大型デパート、スーパーマーケット、ワインショップの3つからご紹介したいと思います。
※フランスでは、ビールがノンアルコールとみなされるのは、アルコール度数が1.2%未満の場合です。
パリのデパート「ル・ボン・マルシェ」のノンアルコールビール

「ル・ボン・マルシェ」のビール売り場
パリで最も古いデパートとして知られる「ル・ボン・マルシェ」。アルコール売り場の広さでも有名なこの老舗デパートですが、最近ではノンアルコール飲料のラインナップも、訪れるたびに充実度を増していると感じます。商品は整然と陳列されており、種類が豊富でありながら、見やすさも保たれているのが印象的です。

フランスの地ビール
フランスといえば、やはりワイン大国のイメージがあります。お隣にはベルギーやドイツといったビール大国が並んでいるものの、フランスではアペリティフ(食前酒)としてのビール人気が高く、むしろワインよりも広い世代に親しまれています。

「Biobir(ビオビル)」のノンアルコールビール
今回手に取ったのは、フランスのブルワリー「Biobir(ビオビル)」のノンアルコールビールです。アルコール度数は0.00%で、"お酒を飲まない人のための食前酒"として設計されているそうです。使用されているホップは南仏・ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏で収穫されたもので、麦芽もヨーロッパ圏内で生産されたものを使用しています。原材料にも大きなこだわりが感じられます。

ラベルの色味も少なめです。
パッケージは非常にミニマルなデザインながら、「0%」の文字が大きく配置されており、一目でアルコールフリーと認識することができました。フランスをはじめ、ヨーロッパ産のビールといえば、伝統的にカラフルで華やかなラベルが多い印象ですが、あえて装飾を抑えたこのシンプルさがむしろ新鮮に目に映りました。

クラシックなタイプの瓶ビール(アルコール入り)
もう一つのノンアルコールビールは、パリのブルワリー「BAPBAP(バプバプ)」からです。パリ11区に位置するブルワリーでは、麦芽の粉砕から瓶詰めまですべてが100%パリ製というこだわりのクラフトビールが生産されています。

「BAPBAP(バプバプ)」のノンアルコールビール
「BAPBAP(バプバプ)」は2015年4月、"100%パリ産のビールを造る"というビジョンのもとに誕生しました。現在は8種類の定番ビール(うち3種はオーガニック、1種がノンアルコール)に加え、定期的に限定ビールもリリースされており、オリジナリティを重視したラインナップが特徴です。今回手にしたノンアルコールビールも、ビールらしくないデザインのためか非常に目立っていました。
スーパーマーケットのノンアルコールビール

スーパーマーケットのビール売り場
一方、フランスのスーパーマーケットでは、ビール売り場がワイン売り場と同じくらいの広さを誇っています。近年は特にノンアルコールビールの需要が急増しており、2020年にはその販売量が前年比34%の増加を記録しました。
この成長を受け、大手から小規模ブルワリーまで、各メーカーが多様で高品質なノンアルコールビールの開発に力を入れています。たとえばハイネケンは2017年に「0.0%」を発売し、現在では世界30カ国で売上の約10%を占めるまでになりました。

フランスのビール、「1664」のノンアルコールバージョン
さて、フランスのスーパーマーケットでおなじみの定番ビールといえば、何といってもブラッスリー・クローネンブルグ社の「1664」です。濃いブルーに白い楕円ラベル、4つの赤いリボンが目印で、スリムなボトルがトレードマークです。この「1664」からもノンアルコールバージョンが登場しており、やはり大きく記された「0.0%」の表記が目を引きます。

ベルギーのビール、「GRIMBERGEN(グリンベルゲン)」のノンアルコールバージョン
またフランスでは、隣国ベルギーのビールも大変多く飲まれています。中でも有名なのが、「GRIMBERGEN(グリンベルゲン)」。1128年に創立された修道院に由来した名前で、当時からビールが醸造されていました。フランス革命の混乱を経て醸造は一時途絶えましたが、2021年には修道院構内での醸造が約200年ぶりに再開され、歴史と伝統を受け継ぐブランドとして再び注目を集めています。
そんな「GRIMBERGEN(グリンベルゲン)」から登場したノンアルコールビールは、250mlとやや小ぶりなサイズです。フランスでは330ml瓶が主流のため、手に収まりのよいサイズ感が新鮮に映ります。ただ、ラベルデザインは他のものと比べてクラシカルな印象が強く、長い歴史を持つブルワリーならではの落ち着いた雰囲気を感じました。
歴史的なブルワリーがデザインを大きく変えない一方で、新興ブランドはより斬新で大胆なアプローチを取っている点も、フランスのノンアルコール市場の興味深い傾向と言えるでしょう。
ワインショップで手に入るビールは?

フランスの「カーヴ(cave)」(ワインショップ)
フランスでお酒を購入できるもう一つの代表的な場所が、「カーヴ(cave)」と呼ばれる専門のワインショップです。デパートやスーパーマーケットとは異なり、「カーヴ(cave)」ではワイナリーと直接契約を結んでいるケースも多く、希少性の高い銘柄や、作り手のこだわりが詰まったボトルが数多く揃います。
今回訪れた「カーヴ(cave)」ではノンアルコールビールの取り扱いはありませんでしたが、その代わりに紹介されたのが、2024年に設立されたフランスの新興ブルワリー「EGUA(エグア)」のビールでした。「EGUA(エグア)」のオーナーは、かつてパリの高級ホテルで腕を振るっていたという現役のシェフです。現在はパリ郊外にレストランを構え、料理との相性を追求したクラフトビールの製造にも取り組んでいます。

「EGUA(エグア)」のビール。ローストチキンや生ハムとのペアリングが良いとのこと。
古いフランス語で"水"を意味する「EGUA(エグア)」。その名の通り、ラベルデザインにもどこか清々しさがあり、すっきりと洗練された印象を受けました。さらに興味深かったのは、ワインのように料理との相性が丁寧に紹介されていた点です。2024年に誕生した新しいブルワリーながら、ビールと料理のペアリングという領域を切り開いているところに、変わらない"フランスらしさ"を感じました。
新興ブルワリーは洗練されたデザインで差別化を図る傾向に
フランスにおけるノンアルコール飲料は、もはや一過性のトレンドではなく、革新性と将来性を兼ね備えた独立したカテゴリーとして、着実に市場に根を下ろしつつあります。高まる需要に応えるかたちで新たなブルワリーも続々と誕生しており、とりわけ30代を中心とする若い世代が、この成長を力強く牽引しています。
今回ご紹介したように、近年登場している新興ブルワリーの多くは、華美なデザインを避けたミニマルなラベルを採用しています。視覚的なシンプルさの中に、強いメッセージ性があるのも特徴だと言えるでしょう。そこには、健康志向や環境配慮、自己表現とフランスの"今"を反映させたデザインが詰まっています。
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