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"便利"から"魅せる"へ。パリのテイクアウトBOXが進化中

パケトラ読者の皆さま、こんにちは!パリ在住の大内聖子です。
秋の行楽シーズンがやってきましたね。こちらパリでは、9月から新年度がスタートしています。心地よい秋風に誘われて、外でランチをとる人や、休日に芝生でピクニックを楽しむ人が増えてきました。

というのも、フランスは「外で食べる文化」が根づいている国。屋内よりも外気を感じながら味わうことを好む人が多いため、テイクアウト用のパッケージにもさまざまな工夫が凝らされています。中には思わず二度見してしまうほど、ユニークで印象的なデザインもありました。

手巻き寿司がストリートフードに変身「tanori」

tanoriの外観
まずご紹介したいのは、パリで話題のフュージョン・レストラン「tanori(タノリ)」。ここでは日本の巻き寿司とメキシコのタコスを掛け合わせた、何ともユニークな一品を提供しています。

tanoriのメニュー

味はチキン、エビフライ、豆腐(ヴィーガン)など10種類。

実はパリでは、「寿司」「おにぎり」に続いて「巻き寿司」が流行中!寿司よりもカジュアルで親しみやすいとあって、巻き寿司の専門店までオープンしているのです。そんな中でも特に個性的なのが、「tanori(タノリ)」の「sushi tacos(スシ タコス)」。文字通り、巻き寿司とタコスをかけ合わせた新しいタイプの"ストリートフード"です。

ツナマヨ×アボカドの「sushi tacos」

ツナマヨ×アボカドの「sushi tacos」

「sushi tacos(スシ タコス)」は、日本の巻き寿司よりも二回りほど大きいのが特徴です。ずっしりしているので、テイクアウト用パッケージも安定感を重視したデザインになっています。具材をしっかり包み込みながら、片手でも持ちやすいフォルムが印象的でした。引き出しのようにスライドできることもポイントです。

スライドできるパッケージ
また、このパッケージからは「寿司の繊細さを守る工夫」と「商品がちらりと見えるワクワク感」の両方を感じることができました。屋外での飲食にもぴったりで、食べにくさは特にありません。

海苔は揚げてあります。

海苔は揚げてあります。

このように、和食=格式ばった印象を軽やかに裏切った「sushi tacos(スシ タコス)」。「巻き寿司をストリートで楽しむ」という文化を創り出しているところに、日本人としては新鮮な驚きがあるのではないでしょうか。異文化を融合しつつ、食べやすさにこだわったパッケージ設計も魅力的で、SNS時代に合った「拡散されるデザイン」を意識しているように感じます。プラスチックを一切使用していないので、罪悪感を抱くこともありません。

繊細なメレンゲ菓子を包む「Aux Merveilleux France」

1982年創業の「Aux Merveilleux France」

1982年創業の「Aux Merveilleux France」

次は、フランス北部・リール発祥の「Aux Merveilleux France(オー・メルヴェイユ・フランス)」から、ケーキ箱をご紹介します。この店はパリでも珍しい、"メレンゲ菓子"を専門に扱っているパティスリーです。

店舗で一つ一つ手作り

店舗で一つ一つ手作り

メレンゲといえば、"少し固めのお菓子"をイメージするかもしれません。しかし、こちらのメレンゲはまったく逆で、ふわふわとした軽い食感をしています。はかないほど繊細なその食感は、日本人の口にも絶対に合うことでしょう。

そんな看板商品のメレンゲケーキには、標準サイズとミニサイズの2種類があります。私は今回、ミニサイズのものを2つ購入しました。そして、渡されたケーキ箱に思わず目を見張りました。女性の手のひらにも余裕で乗せられるほど、小さな小さな箱だったのです。

ミニサイズのメレンゲケーキのパッケージ
"ケーキ箱"として見たことはあっても、これほど小さなサイズは今までに見たことがありません。聞くところによると、ミニサイズ専用で、型崩れしないようにジャストサイズで設計されているとのことです。

ジャストサイズのパッケージ
日本のケーキ箱は、ケーキを"守る"ために厚紙の仕切りなどを使用しています。一方で「Aux Merveilleux France(オー・メルヴェイユ・フランス)」は、"魅せる"ことを優先しています。店舗が観光客の多い地区にあるということもあって、すぐに食べ歩きできるように工夫されているのでしょう。

ミニサイズのテイクアウトBOX
実際に持ち帰ってみても、ミニサイズのテイクアウトBOXはしっかり機能していました(型崩れなし)。ブランドのロゴマークも素敵で、「軽やかさ」や「持つ楽しみ」に重点を置いています。ただ、やはり箱が小さいため、持ち手部分に指を引っかけることができず、落としてしまうリスクがあると思いました。手で包み込むように持って歩くので、真夏には熱でメレンゲが溶けてしまうという弱点も感じます。

圧倒的なブランドの世界観「Ritz Paris Le Comptoir」

ホテル「Ritz Paris(リッツ・パリ)」

ホテル「Ritz Paris(リッツ・パリ)」

さて、パリにあるラグジュアリーホテル「Ritz Paris(リッツ・パリ)」には、パティスリーの専門店があることをご存じでしょうか。「Ritz Paris」といえば、ココ・シャネルやマルセル・プルーストといった著名人が通い詰めた場所です。今もなお"一流の象徴"としてその名を輝かせています。

「Ritz Paris Le Comptoir(リッツ・パリ・ル・コントワール)」

「Ritz Paris Le Comptoir(リッツ・パリ・ル・コントワール)」

そのパティスリー「Ritz Paris Le Comptoir(リッツ・パリ・ル・コントワール)」の看板商品が、マルセル・プルーストの小説にも登場する焼き菓子「マドレーヌ」です。

看板商品のマドレーヌ。フランボワーズやチョコレートなどのフレーバーも。

看板商品のマドレーヌ。フランボワーズやチョコレートなどのフレーバーも。

マドレーヌの名店として知られる「Ritz Paris Le Comptoir」ですが、注目すべきはスイーツだけではありません。例えば、マドレーヌ詰め合わせのギフトBOXは、デザイン性が高く、すでに多くの人に「パリ土産」として知られています。つまり「味」だけでなく「見せ方」にも抜かりがないのです。

マドレーヌ詰め合わせ。「Ritz Paris」の創業者(左)と、「Ritz Paris Le Comptoir」のオーナーパティシエ、フランソワ・ペレ(右)のイラスト入り

マドレーヌ詰め合わせ。「Ritz Paris」の創業者(左)と、「Ritz Paris Le Comptoir」のオーナーパティシエ、フランソワ・ペレ(右)のイラスト入り。

キャンドル(販売用)にもマドレーヌのデザインが施されている。

キャンドル(販売用)にもマドレーヌのデザインが施されている。

店先で手にしたコーヒーカップも、大変ユニークでした。そこには「マドレーヌ・マン」と呼びたくなるユーモラスなイラストが描かれています。ここではありふれた紙カップが、「リッツのマドレーヌを思い出させる小道具」になっているわけです。

デザインはカップ本体に。コーヒーの熱を遮る「紙スリーブ」ではありません。

デザインはカップ本体に。コーヒーの熱を遮る「紙スリーブ」ではありません。

カップのデザイン
高級ホテルのラグジュアリーを、こんな身近な形で表現してしまう発想。ブランド体験をテーブルの上だけでなく、街中にも広げる工夫に思わず感心してしまいました。そしてこちらも、先にご紹介した2つの商品と同じように、テイクアウトBOXが「ブランドアイコン」として機能しています。これほどキュートであれば、SNSに投稿したくなるのも当然です。

食べられるフォーク付き、ランチBOX「SODEBO」

食べられるフォーク付きランチBOX「SODEBO」
最後にご紹介したいのが、フランス人なら誰もが知っている「SODEBO(ソデボ)」のランチBOXです。どのスーパーにも並んでいる「SODEBO」のBOXは、サラダランチとして大変有名で、(誇張せずとも)国民的アイテムと言えるでしょう。

忙しい時に、ライトなものを食べたい時に、そしてピクニックの時にと大活躍のサラダランチ。ちなみに「SODEBO」とは、フランスの大手食品メーカーの名前です。

Salade Poulet Pané(チキンカツサラダ)。ドレッシング、クッキー、フォークが一緒に入っている。

Salade Poulet Pané(チキンカツサラダ)。ドレッシング、クッキー、フォークが一緒に入っている。

特徴は、フタを開けると入っているフォークです。しかもこれは食べられるフォーク!食べ終わったあとに一緒にパクッと食べられる仕組みになっています。

食べられるフォーク

食べられるフォーク

一見すると木製のフォークですが、本当に最後まで食べることができます。ただし味はほとんどなく、食感も固めです。美味しいとまでは言えず、歯の弱い方や高齢の方には少し厳しいかもしれません。とはいえ「食べられるカトラリー」という発想は、さすがフランスです。透明なフタから中身が見えるのも購買欲をくすぐる工夫で、軽快に外で食事を楽しむフランスのライフスタイルがよく表れています。

このように、パリのテイクアウト用パッケージは、機能性だけでなくブランド体験や文化背景まで含めてデザインされていました。そんな商品から感じるのは、「軽やかさ」「遊び心」、そして「視覚的な訴求」です。「tanori」のカルチャーミックス、「Aux Merveilleux」のミニケーキ箱、「Ritz Paris」のコーヒーカップ、「SODEBO」の環境配慮といった事例から、いずれもパリらしい発想の豊かさを示す好例であることが分かりました。

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